442.絶対者アウロゴーン
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12時40分までに読まれた方は申し訳ありません。
「神を落とした?」
「ん?聞こえなかったか?その通りだ。余はこの世界を支配する神を落としその座に座った支配者、この世界における絶対者である。分かったら頭を垂れよ」
「断る。仮にも私は王を名乗る存在だ。別世界の存在だからこの世界の絶対者だろうが従う義理も義務も無い」
アウロゴーンと名乗った男は不愉快そうに、しかしその瞳に喜悦の色を滲ませてスイを見つめる。それに対しスイは表情にこそ出ないがかなり不愉快な気持ちだった。
スイは元々かなりプライドが高い。それこそプライドで仲間を殺しかけたベヒモス等よりも余程高い。子は親に似るとは言うが親の方が酷い。
そのプライドの高さからスイは目の前の男に嫌悪感、いやいっそ殺意すら湧いていた。基本的に余程の事が無い限り初対面の相手にそこまでの嫌悪感を抱くのは感情の振れ幅がバグってると評されるスイですらそうは多くない。
「ふむ。まあ良いだろう。余は寛大である。故に少しの不敬も幼き故の傲慢であると理解しておこう。その上で問おう。誰の差し金だ?」
「さあ?幼い……かどうかは置いておいて私をここに送った神の名前なんて知らないよ。正確には名乗られたらしいけど聞こえなかったから」
「そうか。まあ神の名など知る必要も特に無いか。余への刺客というわけでも無さそうであるしな。まあ刺客であろうがこのような幼子に殺される程余は弱くも情に厚くもないのだがな」
「だろうね。初見で幼子とかいう外見の少女に当たらないとはいえ槍投げつけるクズだもの」
ピクリとアウロゴーンの額に青筋が立つ。
「ほう?余に不敬を働いておいてただの脅し程度で済ませてやったこの温情が理解出来ぬか。流石は幼子。頭も回らぬと見える」
今度はスイの瞳に剣呑な色がちらつく。
「ふふ、いい歳した大人の癖に幼子に槍を投げつけ悦に浸るゴミは言うことが違うね。世の中の悪いところ全部纏めて集めたみたいな姿してるだけある」
二人の身体から膨大な魔力が漏れ出し、床に亀裂が入っていく。ゆっくりとグライスを抜いたスイとまたしても何処からか今度は長大な剣を取り出したアウロゴーンが改めて向かい合い
「調子に乗るなよ!小娘!」
「殺すぞクズが!」
ブチ切れた。
互いにプライドが高く互いに技量も高く互いに実力も拮抗した存在が周りも見ずに暴れ回った結果は惨憺たる有様であった。
まず居城と言っていた通り巨大で荘厳であったであろう城は見る影もない程ボロボロになり幾人か居たらしい使用人達は全員手元の物だけ持って逃げだした。
次に地盤は沈んだ。そのせいで物理的に城は傾き、ついでに近くにあった湖の底に沈んだ。残っているのは地面近くの柱や瓦礫だけだ。
更に遠くに見えていた山は何が飛んだのか中腹からどデカい穴が空いている。何故上の方が崩れていないのか不思議な程不自然に削れていた。
そして二人の攻撃に当たったのか幾つもの死体が転がっている。見た目は魔物だがもしかしたら普通にその姿の人かもしれない。だとしたら申し訳ないことをした。
二人の見た目はお互いがびっくりするほど綺麗だった。互いの攻撃がほぼ同威力という意味不明なほどシンクロしたが故の悲劇だった。強いて言うならば服が汚れているのと木に引っ掛けでもしたのか所々に擦り傷がある程度だ。
「はぁ……き、貴様何者だ」
「はぁ……そ、っちこそ何?真似してるの?」
そう言いたくなるほど攻撃の軌道は被り魔法もほぼ通らない。途中からはどうせ被るのならとただ威力重視で叩き込んだにも関わらずほぼノータイムで同じことをされたのだ。真似していると思われてもおかしくない。
「馬鹿にするなよ!余がそのような木っ端な技を使うものか!」
「そっちこそ!私がそんなことする訳ないでしょ!」
お互いが嫌悪感を隠そうともせずに睨み合う。睨み合うだけじゃなく、むしろ攻撃もしたが互いの拳をど付き合う結果となっただけだった。
「貴様、大人しく死ね」
「クズの方こそ死ね。さっさと死ね」
「断る。小娘こそ疾く死ね」
互いが剣を振る。剣と短剣という見た目こそ違うが使われてる素材は近いかそれともそういう概念でも持つのか傷らしい傷は出来ない。
そうしてまた再び互いを殺す為に力を振るおうとした瞬間、目の前に転移してきたかのようにメイド姿の女性が現れると二人の頭をアイアンクローで締め上げた。
「何をしてらっしゃるのかしら?このおバカさん二人は。ふふふ、絞めるぞ」
ボソッと言われたその言葉にアウロゴーンは掴まれたまま姿勢を正す。どうやら相当怖い女性のようだ。そして感じた恐怖のままにスイもピタリと身体を止めてグライスを鞘に直した。
「……ふぅ、まあ、良いでしょう。城、直しておきなさいね」
女性はそう言うだけ言って二人の頭を離すとどこかに消えた。文字通り消えた。
「……あれはこの世界の具象化した存在だ。世界そのものが消えん限り在り続ける」
「なんというか意味の分からない存在だと言うのは分かった」
「ハッ、貴様の方が余程意味の分からぬ存在だ。化け物が」
「そっくりそのままお返しするよ。クズ」
アウロゴーンが再びキレそうになった瞬間、女性がじっと瓦礫の隙間から見つめていた。
「……ッ!抜かすな小娘が!」
何とか抑え込んで瓦礫を片付け始める。
「……(あれは本当に何なのだろう。神ではない。けれも人であるとも言えない。ただただ純粋に化け物だ。私並みの身体能力、魔法に対する耐性、無尽蔵かと思えるほどの体力、グライスに耐え続ける武器。どれをとっても尋常じゃない。本当にあれは何?)」
スイが少し離れた場所で瓦礫を集めているアウロゴーンを見てそう思う。対してアウロゴーンもほぼ同様の事を考えていた。
この世界における絶対者、つまりアウロゴーンはこの世界の具象化した存在ですら支配下に置く比喩でもなんでもない最強である。それが小娘にしか見えない存在に負けた。実際は負けてはいないが勝てていない以上負けと同じだ。
「ちっ、酷く不愉快な話だ」
アウロゴーンは顔を顰めてそう呟く。ほぼ同じようなタイミングで離れた場所にいるスイが嫌そうにしていることからもしかしたら思考まで同じ流れを汲んだのかもしれない。
「……本当に不愉快だ」
そう言いながらもアウロゴーンは自身に匹敵する化け物との邂逅に胸を躍らせていたのであった。
スイ「イライラするなぁ」




