436.分かっていたこと
「ん〜、ベヒモスに変な術式の跡が見えるな。記憶改竄の類かな。これで私からの目を誤魔化してたんだねぇ。私の知らない術式だし色々と他の子もやってそうだなぁ」
気絶させたベヒモスを身体の中に戻した後、何となくベヒモスの事を調べていたら物凄く分かりにくく偽装された術式を発見した。かなり細かく精査しないと見付けられなかったから恐らくこう言った機会でも無ければ一生気付けなかったかもしれない。
「制御の素因持ちの私に制御能力で勝つとなると流石に凹むなぁ」
勿論私自身自分の素因を完全に把握していたとは言いづらい。制御の素因なんてそもそも使う機会が殆ど無いし素因としての力なんて使わずとも大体の事が出来てしまったせいで後回しにしていた所もある。
それに制御の素因を持つと言っても自分で全てを把握した上で手に入れた素因ではなく与えられた素因だというのも原因だ。自分自身が制御も管理も出来ていない力を渡されても碌に力を発揮出来る訳が無い。
「……ちょっと真剣に私自身の素因に向き合ってみようかな」
自分の中の素因に向き合うにはそれなりに時間が掛かるからすぐにどうこうというのは難しいかもしれないが何もしないよりはマシだろう。スイはそう結論を出すと魔力を集め始める。
「まあ今はとりあえずあの子達の方かな……戻って来なさい。強制回収」
スイによる回収に一瞬の抵抗の後全員がスイの目の前に出現する。抵抗の原因は恐らく本来の姿になっていた者が居てスイにそれを晒すのを嫌がっただけだろう。
「ハティ、スコル来なさい」
二人が歩いてスイの目の前に来る。ごく普通の様子に見えるがベヒモスを細かく精査したから二人が隷属呪なるものに侵されているのを知っている。
近付いてきた二人を抱き締めると同時に呪いを引き剥がす。呪いがかなりしつこくてかなり強引に引き剥がしたせいか二人が痛みでも覚えたのか身をよじろうとする。私を傷付けたくないのか抵抗自体はしなかったがかなり辛そうだ。
「ん、剥がせた。良く頑張ったね」
根元までしっかり剥がして大丈夫な事を確認すると二人の頭を抱き締めたまま撫でる。何故か背後に居るヘルが喜ばしいような羨ましそうな目で見ているけどやって欲しいのだろうか。
二人は相当抵抗していたのか剥がした後すぐに力尽きて私の身体の中に戻って行った。ベヒモスも中には居るけれど気絶しているしそもそも部屋のようなもので中が区切られているらしいので会うことも無いだろう。
「さてと、不満がある子って居るのかな?」
私の急な問い掛けに皆が困惑する。そもそもベヒモスの事もあまり理解していないようだしハティとスコルから隷属呪が剥がれていくのを見て驚いていた。ベヒモスが用心深かったのもあるだろうが恐らくそういった力がある事を誰からも隠し通していたのだろう。それがベヒモスだけとは流石に思えない。ほぼ間違いなくここに居る子達は私に力を隠している筈だ。
元々そこまで聞くつもりも無かった。この子達の何が使えるのか大体で理解していれば良かったからだ。全てを理解していても咄嗟にそれが使えるかは別だし使えたとしても把握するのも疲れる。それにそもそもこの子達と私の思考は似ているようで全くの別思考。私から派生した別人格とでも言っていいような状態だ。その状態でこれを使えと言ってもどういう意味で使えと言ったのかをこの子達が把握して適切に使うかは正直微妙だ。
だからこそあくまで私から派生した別人格として、娘としての扱いをしてきたしそれは変えるつもりがなかった。だがベヒモスのように私に対しての叛意に近い感情を抱くのならば話は別だ。
ベヒモスの感情的には私に対しての敬愛やらで埋まってはいたが他の子達に対しては一種の蔑みが入っていた。同格であるレヴィアタンやジズに対しては同胞といった感じだがそれ以外は等しく下扱いと凄かった。
確かに神話的扱いだと大地そのものであるベヒモスがその上で暮らす者達に対しては絶対的な格上感はあるけどまさかそれがそのまま性格として抽出されるとは思わなかったのだ。
困惑していた皆が不満を探しているのか頭を悩ませているが逆にそこまでしないと不満が出ないならある程度は大丈夫かもしれない。とはいえ小さな事から綻びが生まれる可能性を考えると油断は出来ない。
「無いなら無いで構わないよ。ただ……面倒だけど皆を調べても良い?ちょっとトラブルがあったからね」
にっこり笑ってそう言うとその瞬間空気が変わった。いっそ清々しい程に全員からの否定の感情が浮かび上がったのだ。一人二人なら理解はするが全員とは思わなかった。にこにこ後ろで笑っていたヘルからすらもである。勿論私に気付かれないようにか即座に隠されたが見ていなかったならともかく目の前で起きたそれに気付かない程鈍感では無い。
「ん〜、嫌なら嫌で良いよ?別に貴女達が【私以外からの干渉を受けている事ぐらい最初から知っているから】」
私がそう言うと隠し切れない動揺が浮かび上がる。まあそうだろうなと思う。そもそも創り出したその時からこの子達は可笑しい事だらけだ。そもそも私はこの子達の容姿に関しては一切何もしていない。そんなのは有り得ないのだ。創命魔法はその名の通り一から創りあげるものであって決して【文字だけを思い浮かべて出来上がるようなものではない】。それで出来るならば文字の集合体のような命が出来上がらなければおかしい。
記憶には残っていないのではっきりとは言えないが恐らくアルーシアで過ごした時にも私は創命魔法を使って誰かを創っているはずだ。そしてその時から違和感を感じていてそれがこの子達を創る時に身体が覚えていたのか文字だけのような絶対に創れないような命を作ろうとしたのだ。
容姿に性格、能力、自己判断出来るだけの思考、勝手な独立行動、私の知らない知識、過去の記憶らしき発言とおかしな点しか無い。何度も言うが創命魔法は一から命を創りあげるものであってまるでそこにあったものをインプットするようなものじゃない。
「誰かに貴女達が干渉されているのかそれとも私がされていて貴女達に影響したのか。それはどっちでもいいしどうでもいい事だけれど……ね」
そう区切ってから背後に居たヘルの頭を振り向かずに手だけを回して撫でる。ヘルが動揺しつつもそれを受け入れた瞬間振り向いて正面から抱き締めてあげる。そして耳元で囁いた。
「調子に乗ると消すよ?」
ヘルの身体がビクンと硬直する。先程までの笑みは消えた後、はっきりと恐怖を浮かべて咄嗟なのか私から逃げようとしてぐっと力を込める。
「別に貴女達が誰の影響を受けているかなんてどうでもいい。ただ私の不利益になるような事をしてみなさい。ただの道具として使い潰してあげる。これだけは覚えておきなさい。貴女達は決して私にとって愛する愛娘とかじゃない。ただの魔法よ」
私がそう言って抱き締めていた身体を離すとドサッと音を立ててヘルが倒れ込む。
「もうダンジョンについては良いわ。戻りなさい」
無理矢理身体の中に戻した後、少し考えてベヒモスによって消えたらしい街や他の子達の暴走に近いそれで消えたり壊滅したりした街を訪れる事にした。放置した私にも責任はあると思う。せめて少しでも生き残った人達に何かしてあげたいなとほんの少し思った。
スイ「はぁ……」




