432.調査?
「ん〜、不思議だなぁ」
あの後ラウネと少し話した後、 ダンジョンを壊していく話になりとりあえず一番近いという事で魔王城城下町から徒歩で約一時間程度離れたダンジョンにやって来た。
ダンジョンの入口はかなりオーソドックスらしい洞窟型。ぽっかりと空いた穴に入り奥へと進んでいき中でドロップアイテムと呼ばれる魔物を倒して得られる物を持ち帰っているらしい。
元々は魔王軍の軍備増強に役立つと思って近くに街を作ったらしいのだが出てくるアイテムがいずれもガラクタかそれに近い物しか出て来ず更にステータスシステムによるレベルアップも弱い魔物しか出て来ない為にあまり意味が無い。微妙極まりないダンジョンで今では低レベルの人が時折入る位にしか使われていないようだ。
とはいえそれは下手をすればリソースを貯め続けているだけで実は強大な存在を隠しているという可能性が出て来たので調査がてら私が来たのだ。ラウネも来るつもりだったようだが秘書らしき人に止められていた。
調査という事なので一応内部を探索しようと入ってみたのだがこれがまた不思議な光景が広がっているのだ。勿論どんな環境かは聞いていたし資料も貰ってはいるのだがやはり文字や口頭で伝えられるより見た方がインパクトが強い。
ダンジョンは基本的に階段で次のフロアと繋がる形式らしい。偶にいくつものフロアをぶち抜いて作った様な階層もあるらしいが、基本は一フロア同士を階段で繋いでいる。ダンジョンのランクによりフロアの大きさも変わるようで今回のダンジョン、潮風の洞窟はDランク。下から数えて二番目らしくフロアの大きさはかなり小さいとのこと。小さいと言っても入ってすぐの一階と奥のフロアは大きさがだいぶ違うらしい。今回のダンジョンでは一階なら隅から隅を探索するとなると凡そ三時間程度、最終フロアと思われる十三階では探索時間はまる二日はかかるとの事だ。
そして潮風の洞窟というだけありダンジョン内は洞窟みたいな入口の割に入ってすぐに鬱蒼とした森の中に出され奥に進むと海が見えてくるのだ。尚海は見えるけどそこに行く前にフロアの限界らしき壁にぶつかって海には入れない。
「まあ異界も似たような物かな……?あっちは近くの環境を再現だから厳密には違う感じもするけど」
そう呟きながら適当に歩いては襲いかかって来る魔物を適当にあしらっていく。弱い魔物というのは本当のようで先程から適当に手を振るうだけで簡単に弾けていく。移動してきたダンジョンから出て来た魔物がそこそこの力を込めてじゃないと倒せなかったことを考えるとやはり弱い。
「あっ、水枕だ」
どうやらスライムというらしい魔物のようだが最初に水枕のイメージを持ったからかどうもスライムというのが慣れない。何となく捕まえてみるが野生?の魔物と違いダンジョン内の魔物はあまり声を上げない。一応痛みを与えれば叫んだりするらしいが襲い掛かる時に声を上げるのはそれが有効打になる魔物だけらしい。具体的にはドラゴンやオーガなどの肉体的に強く声を上げるだけで戦意を喪失させかねないような魔物だ。つまりスライムは喋らない。
「ぐにゅぐにゅしてる。抵抗しようとしているみたいだけど弱いなぁほんと」
殆ど力を入れていないにも関わらずスライムはぶにぶに動くだけでスイの手から逃れられない。控えめに言って可愛い。
「持ち帰りたいけど……創命魔法の対象外っぽいんだよねぇ。やっぱり理が違うからかな?それとも他に邪魔な理があるのかな?まあ気にしても仕方ないけど」
スイは先程まで可愛いと思っていたはずのスライムをその掌で握り潰すと足踏みをする。
「踏破するまでに大体二時間くらい……かな?」
ぐっと力を込めてダンジョンの地面を砕きながらスイが疾走する。道中出た魔物は残らず殺していく。遠くに見えただけの魔物も魔力の糸で絡め取って切断していく。
はっきり言ってこんなことをせずにダンジョンごと壊した方が手っ取り早いのだがもしかしたらダンジョンの環境その物を理解すれば何か役に立つかもしれないと思ってわざわざ入ったのだ。まあ見付けたとしても今回のこの世界のダンジョン壊しには全くと言っていいほど役には立たないだろうが後々ヴェルデニアを殺した後に異界を自分が作る可能性もある。グライスを使えば魔の森のような環境を作る事が出来るのだ。使いようによっては尽きない資源になる。ダンジョンという資源の宝庫を理解するのはそう悪くはない。
「……(まあ別に今やる必要性は無いんだけど)」
そんな事を考えながらスイは走っていく。時折宝箱も見付けるので開けはしないがそのまま回収していく。殆どの人は宝箱は重いし嵩張るので持ち帰れないで放置するようだが指輪を持つスイにとっては関係無い。見付けた宝箱は全て回収する。別にお金に困っている訳でも無いけれど持ち帰れる物を持ち帰らないというのは何だか損した気分になる。別に前世でも今世でもお金に困った事など過去に無理矢理送られたあの時ぐらいしか無いのだが貧乏性なのだろうか。
スイはそんな事を思いながら走り殴って切り刻み偶に持ち帰る。それを繰り返して二時間半程掛けて最奥に到着した。宝箱分で三十分程オーバーした計算だ。
「それでこれがダンジョンコア?」
最奥の部屋、ボス部屋と呼ばれる場所でミノタウロスを秒殺して指輪にとっとと入れたスイがダンジョンコアと思われる魔力を多量に含んだ鉱石のような宝石のようなそれを見る。ボス部屋の奥の部屋に浮かんでいたそれを掴むと無駄に壮大でありながら無駄に繊細で無駄な術式が大量に刻まれた魔法陣らしきものが頭の中に浮かび上がる。
「これあれだな。大量の術式で触れた人の頭を焼き切る為のダミーだ。私の頭の中にも焼き付けようとして脳が無いからふわふわ浮かぶだけになった感じか」
忘れてはいけないのがスイの身体は魔力生命体。文字通り肉体そのものが無い。脳らしきものはある。だけどあくまでそれは脳代わりの魔力であり脳そのものは無いのだ。
「となると……そこか」
ボス部屋に戻り床の一部を蹴り砕く。随分硬い床ではあったがスイの本気の蹴りに耐えられる訳もなく陥没して下へと続く道を発見した。
「本当のダンジョンはここからだーって事かな?まあ今からはちゃんと攻略するつもりなんて無いんだけど」
そう言うとスイは下の階に向かってスイは本気の魔力を込めた震脚を行い階層ごと崩壊させた。
スイの魔力により空間破壊が行われ至る所が崩壊したせいで一気にダンジョンそのものが砕けていく。わざわざ隠していた地下階層とでも言うべきそこに宝箱の類が置いてあるとも思えないし何よりその地下から漏れ出る腐臭の様なものがスイに足を踏み入れさせたいと思わせなかったのだ。
その結果ダンジョンの恐らく本体であろうコアだけがスイの目の前に転移してくる。多分置いてあったであろう階層が崩壊したせいでやむを得ず転移してきたと言った感じか。
「ん〜、まあ見た感じはダミーに似てるとしか言えないなぁ」
転移してきた瞬間に掴んで内部を捜査したが中身はダミーと同じようなものにダンジョンを操る為の方法が追加されていた程度だった。
「特にリソースがあった訳じゃなくて地下階層の維持と強化に使ってた感じだね。ならもういいか。バイバイ」
ダンジョンコアをダミーと一緒にそのまま握り潰して床に放る。ダンジョンコアの破壊によりダンジョンが崩壊するがスイは入口を思い浮かべて魔法を唱える。
「転移」
本来なら使えないと思っていた魔法ではあるがスイはこの世界でならば転移の概念がある以上使える筈だと思い使ってみたのだ。勿論失敗したとしても崩壊より先に出る事も出られずに巻き込まれたとしても死ぬような事は無いと分かった上でやっている。
「……んぅ?何か今不思議な感じがした」
何処か違う所で同じような魔法を使ったような気がしたがすぐに気のせいだろうと思いスイは考えるのをやめる。そんなスイの前には入る時に見た洞窟入口があった。
「ん〜、ダンジョンも何となく分かったし次からは全部普通に壊していけば良いかな」
そんなスイの目の前で洞窟入口は静かに崩れ落ちやがてただの岩が積み重なっただけの岩山になった。それを見てラウネの所に報告がてら戻ろうとスイは覚えたての魔法で戻ったのだった
スイ「転移!ん〜、楽だなぁ」
ラウネ「いきなり目の前に飛ばれるとびっくりするんだけどね」




