431.アルラウネの魔王
「成程……そうか。私が異物というのは……まあそうだろうね。なら排除されてしまうのかな?」
「それなんだけど異物なのは間違いないんだけど受け入れられてもいる感じで多分貴女一人位なら問題は無さそうな気もするんだよ。だけど私を此処に送った神の目的が異物の全排除なのかいまいち分からないから何とも言えないかな。ある程度の排除さえすれば良いような気もするけど……」
「ふぅん。まあ最悪私は排除されるということだね」
アルラウネの魔王という身も蓋もない名前を持つらしい女性に私は頷く。ステータスシステムとやらのせいで改名がどうやら出来ないようだ。看破とかいうスキルで見た感じでは私にもそのステータスシステムがバグを起こしつつも適用されているらしい。
「変なシステムだね」
「そうかな?ゲームとかでは割とありがちな感じだと思うけど」
「あ、私ゲームとか殆どやった事ないからさ」
「そうなのか。今時の若い子にしては……ってそもそも私と君が同じ時代の同じ世界の子かどうかは分からないか」
「調べようか?今なら貴女の身体の中に手を突っ込む程度で分かるけど」
「いや別に気になることでもないし良いよ」
アルラウネの魔王、長いからラウネと呼ぶ事にした。ラウネに提案するけど本当に興味はないようで首を振られた。
「それより移動しないかい?周りの部下達の目がさっきから辛いんだけど」
「まあ自分達のボスが知らない、寧ろ敵対に近い状態だった者と親しげに話してたらそうなるよね。ましてや私扉自力で開けて勝手に入ってきて跪きもしなかったし」
「それは私にとってはどうでもいいんだけどねぇ。というかそもそも私魔王なんて名乗った覚えないし。いやステータス上に勝手に登録されてるとはいえ載ってるからある意味名乗ってるようなもの……?」
ラウネが首を傾げるがそのステータスシステムとやらが私には見えないし感じられないので良く分からない。多分この世界に来た時に水枕に攻撃された時にノイズみたいなのが走ったような感じがしたけど多分あれがステータスシステムの適用されたタイミングだったのだと思う。知らないけど。
「まあ良いか。あ、そう言えば気になってたんだけどあの剣とネックレスはどうしたんだい?」
「剣とネックレス……あ、あの土台ごと持っていった……あれ、そう言えばどこに置いたっけ?確か……今ダンジョン前に放置されてるのかな?それがどうしたの?」
「いや何、あれは勇者の剣と聖女のネックレスでね。魔王とステータス上に載ってる者に対して特攻能力があるんだよね。今だと私と君、遠く離れた場所に居るらしい竜王と地下帝国を築き上げてるアントの女王、海底で数百年単位で寝起きして動き回るエルダーサーペントかな」
「へぇ、私にも適用されてるんだそれ」
「まあ君称号に異世界の魔王って書いてあるしね。多分適用されると思うよ。適用された所で多分傷一つ負わないと思うけど」
ラウネの言葉に不思議に思い首を傾げると苦笑いされた。
「いやそもそも君と私の間でとんでもない格差が生まれてるからねぇ。参考程度に私の防御力が七千二百程度なんだけど君は万を超えてるからね。というか超えてない数値が無いからね」
「万を超えてるって言われてもそれがどの程度なのか分からないし」
「う〜ん、多分核爆弾位なら耐えるよね君」
「核爆弾喰らったことなんてないから分からないけど多分死なないんじゃない?そもそも純粋な物理攻撃のみで私の身体を散らせるのかは知らないけど」
「散らす?」
「私この身体高密度の魔力で形成されてるから魔力の籠ってない攻撃は大して効果無いよ。核爆弾に魔力が籠ってたら分からないけどもしそうなら結界使うか先に攻撃して砕いちゃうだろうしやっぱり死なないかな」
「うん。凄いね。私なら多分全力の防御か発射されないようにしないとちょっと厳しいかな。まあこの世界に核爆弾なんて無いけど」
「ステータス?だと高いっぽいのに?」
「七千二百ちょいあるとはいえその程度なんだよ。つまり万どころか数百万位の単位でありそうな君の防御力を超える術なんてこの世界の住人には無いって事さ。幾ら特攻能力があろうとそもそも喰らいもしないなら意味が無い」
ラウネはそう言ってから私を促して歩き始めた。そろそろ周りの部下の目に耐えられなくなったかな?いそいそと歩いて謁見の間?から奥に向かうと私室らしい部屋に来た。窓の外には植物園みたいなのがあり直接行けるようになっているようだ。
「気になる?後で一緒に見に行こうか」
ラウネの言葉に頷きながら近くにあったソファに座る。クッションが素晴らしい反発力で横になったら寝られるなと思いながらクッションの心地良さに身を委ねる。
「さてと、改めて自己紹介……と行きたいんだけど私あちらでの生活はどんな生活してたか位しか覚えてなくてね。こちらでの名前しかないんだ。だから気楽にラウネと呼んでくれ」
「奇遇だね。私も元の名前は覚えてないの。だからスイって呼んで」
「分かった。では本題として……異物の排除だったね。ダンジョンが異物というのはまあ理解出来る。何せあれが誕生したのは六千万年前位からだしね」
「……何年生きてるのラウネ」
「一応うら若き乙女のつもりだよスイ。神がこの世界に降りなくなってから十億以上の時が経ってからのダンジョンだ。まあ侵略者と呼ばれても違和感はないね」
「…………いや本当に何年」
「私はピチピチの十八歳だよスイ」
ラウネの突っ込みどころが多い言葉に喉から出かかった言葉を飲み込む。言った所で意味は無いし無駄に好感度を下げる必要も無い。
「まあスイの疑問に一応答えておくと私は誕生してから十八年が経つ頃に不老の能力を得たからね。実際ステータス上では私は十八歳なんだよ」
ラウネはそう言ってステータスの開示をした……らしいが見えないから何とも言えない。ラウネは見えないのは地味に不便だなとか呟きながら対面側にあるソファに深く腰掛ける。
「とりあえずダンジョンが異物で侵略者だというのは分かった。あ、そう言えば君に菓子折を用意してたんだった。ちょっと待っててね」
ラウネってかなりのマイペースなんじゃないだろうか。一向に話が進まないのだけど。まあお菓子は食べたいから黙っておこう。ラウネがお菓子が詰まったバスケットを持って来て私と自分の所に紅茶らしい飲み物を置く。
「やっぱり公式じゃない所で話す時は飲み物と菓子くらいは無いとね。それでえっと、ダンジョンの破壊を目的としてるってことで良いのかな?」
「そうなるね。ダンジョンが撤退するならそれはそれで良いんだけど多分しないだろうし全部壊すことになるかな。ん、お菓子も紅茶も美味しいね」
「そうだろう?お菓子は予約でいっぱいの店の物だし紅茶だって最高級の物を用意したんだから」
ラウネとまったりする。というか実際話し合うことなんて大してないのだ。ダンジョン壊すね、分かった。周りの被害だけ気を付けてね、で終わる話なのだから。
「ラウネって私の事遠くから見てたけどあれってどんな物でも見られるの?」
「ん?一応スキル範囲内で何を見るかを分かっていればある程度は分かるよ。何処にあるかも分からないものを探すとかは出来ないけど」
「それで良く私を見つけられたね」
「君くらいの力の持ち主を探せない程面倒な能力じゃないよ」
そう言って少し笑った後ラウネが少しだけ真剣な表情になる。
「残念だけど君が想像している通りあのダンジョン付近にあった街は壊滅しているよ。ダンジョンの移動で地脈も乱されたせいで転移も碌に出来ずに飲み込まれたようだね。君と関わりがあった人っていう曖昧な条件じゃ調べられないから知り合いが生きているかどうかは分からないけれど多分彼処に居たなら最初の段階で逃げられてないなら死んだと思うよ」
ラウネはそう言ってテーブルの上に置いたバスケットからクッキーを取り出して口に運ぶ。ラウネの言葉に私は少しだけ憂鬱に思う。
「言っては悪いかもだけど君にとって彼処ってそこまで大事だったのかい?」
「ううん、そんなことは無いけど私のせいで被害が起きたのが悔しいだけ。失敗したなぁって」
私の言葉にラウネは成程と頷いてクッキーを更に一つ口に運ぶ。
「まああれに関しては正直君のせいだとは言えないんじゃないかな。切っ掛けはそうかもしれないけど今の今まで動けるのにしない事でそういう固定観念を植え付けていたダンジョン側の戦略にやられちゃっただけ。というか私でも無理だよあんなの。動ける事を知らないとそんな物を考慮する者はいないさ。そもそも建造物に近いダンジョンが動くとかレギュレーション違反だと思わないかい?」
「さあ?まあ動くのが分かった以上次からは気を付けるよ。今この世界を実質支配している私から逃げられるならだけど」
私の言葉にラウネはそれは無理だと苦笑いを浮かべたのだった。
スイ「ラウネって足が木の根っぽいけどどうやって歩いてるの?」
ラウネ「う〜ん、まず根を絡ませて足っぽくしてるのは分かると思うんだけど指先は無いから根を広げる形で放射線上に地面に引っ付けてるんだよ。タコの吸盤みたいな感じかな。これで倒れにくくしてるんだ」
スイ「つまり押しても倒れないってこと?」
ラウネ「そうだね。足が千切れたりしない限りは基本的に立ってる時に倒れることはないよ」
スイ「手押し相撲最強かな?」
ラウネ「そうかもしれない。やってみるかい?」
スイ「私だとラウネの足千切れるからやらない」
ラウネ「……そこはちょっと手加減してよ」




