419.そろそろ街に入りたい
「ん〜、困ったなぁ」
隙を見せてたら漸く隠れてた人達が飛び出してきたので直前で適当に払い除けたのだけど……剣を折るのは予定通りなのだけどまさかの腕や足までもげてしまった。
「まあ一瞬だしあまり痛くなかったよね?気絶してるし大丈夫かな?うん。まあ治したらいける。多分。大丈夫……大丈夫かな?」
少し焦りながらも吹き飛ばしちゃった腕や足を元の持ち主にくっつけてから神癒で治す。幸い皆吹き飛ぶ形で飛んでいたから腕や足の持ち主は比較的分かりやすかった。後間違えて消し飛ばしてなくて良かった。流石に消してたら治せなかった。
「神癒便利。骨折も腕をくっつけるのもこれ一つで良いとか凄く都合よくて楽」
というよりアルーシアの魔法が都合がいい物が多いというべきか。他の異世界の魔法なんてこの世界の氷の鎖と雷の矢しか見た事ないけど。
「とりあえず治したし……引き摺ってもいいかな?この数を街まで運ぶの面倒なんだけど。魔力で浮かすのも出来るけど私の魔力この世界の人達にとって有毒な可能性あるんだよね。あれ?そう考えたら私に叩かれたのも危ない?……まあ大丈夫だよね。うん。何か後遺症あっても襲ってきたのあっちだし別にいいか」
そもそもこの世界を正常に戻すのが目的であって人が全員死んだとしても別に私には関係無い。もしも異物が見付からなかったら全部殺してもいいかな。別に殺すなとは言われてないし。
私がそんな事を考えたのが雰囲気から伝わったのか女の人が怯えたような表情をする。つい虐めたくなるけど今人の脆さを体感したところだ。やりすぎて死ぬ未来しか見えない。流石にやらないでおこう。
「とりあえず……ええと、女の人。私が引き摺っても良いなら足辺り削れそうだけど運ぶよ。それが駄目なら街から人呼んで来て。早くしてね?遅いとこっちから行くから」
一応これでも街の人達に気を遣ってるのだ。スイが行けば兵士は緊張し続けることになるだろうしそもそも街の近くに来ただけであれだけの厳戒態勢を敷いているのだ。街の中に入ろうものならどうなるのか分からない。
「わ、分かった!すぐ呼ぶから待ってくれ!」
女の人は絶対来られてなるものかとばかりに必死な様子でそう叫ぶと全力で走って帰って行く。何とも言えない感情に襲われるがこの世界だと多分何処に行っても同じような感じになるだろうし気にしないことにする。
女の人が帰ってくるまでにどれくらい掛かるか分からないので指輪の中から机と椅子を取り出して座る。何か食べようかとも思ったけど街の中に入れる事になればそこで何か食べられるかもしれない。異世界産の料理も気になるし我慢する事にした。ただずっと待つのも暇なのでグライスとネズラクを剣帯から外して机の上に乗せた。折角なのでコミュニケーションということだ。まあ何を話せばいいのか良く分からないけど。
「ということでグライス、ネズラク何かお話しよう?」
『何がということでなのか分かんねぇけど』
『ネズラクから話してください。私は相槌を打ちます』
『それ話す気ねぇってことじゃねぇ?まあいいけどよ。じゃあマスターに聞きてぇ事があんだけど良いか?』
「ん?私に聞きたい事?」
『あぁ、聞いていいか分かんねぇから黙ってたんだけど大丈夫か?』
「別にいいよ」
『んじゃ、何で記憶を戻さねぇんだ?』
ネズラクからの質問に少し目を細める。
『俺はマスターと出会ったのがちょいと前だしどんな事があったのかは知らねぇ。けどよ、所有者となったマスターの力量とマスターに掛かってる術式ぐらいは分かるんだよ。元々守ることに特化してるから余計にな。今マスターに掛かってる術式は幾つかある。けど二つを除いて他のはマスター自身の力だけで解除出来る筈だ。ましてや俺や先輩もある。解除だけならそう時間も掛かんねぇし負担にすらならねぇ筈だ。何で解除しねぇの?』
ネズラクの言葉に私は驚くと同時に流石だなと思った。解除出来ない一つに関しては何となく知っているけどもう一つは何だろうか。私が一切感知出来ていない何かがまだ私にあるのだろうか。
「ん〜、ちなみにネズラクは幾つの術式を感知したの?」
『あ?ええと、七個だな。うち二つの解除は無理だ。俺や先輩の力を使ってもな』
「七個か……術式の詳細は分かる?」
『分かるぜ。解除出来ない方は分かんねぇけど残りの五つなら。ん?というか解除出来るって知らなかったのか?』
「うん。ちょっと難しいのかなって思って放置してた。後単純に私の身体の中って自分で言うのもなんだけど滅茶苦茶面倒な術式ばかりで読み解くのがしんどい」
恐らくは私が普通の魔族ではなく人工的に造られた魔族だからこその術式なのだろうがそのせいで私自身に掛かっている術式はどれが私を構成する術式なのか分からなかったのだ。天然の魔族なら身体の構成に術式等必要では無いだろうしすぐに解除出来たのだろうが。
『じゃあ折角だし解除するか?術式の内容も教えるぜ』
「ん、お願い」
意外にネズラクが有能だ。いやまあ有能なのは分かっていたから買ったのだけど。グライスが術式解除の提案をしなかったのは恐らくグライス自身には出来ないからだろう。
『まず一つ目、これは記憶の術式だ。解除するか?』
「あ、そっちは置いておいて。今記憶戻ると凄く面倒くさそうだから」
『了解だ。次誘惑の術式だな』
「……ん〜、それはオンオフ出来るよね?」
『まあ魔力さえ流さなきゃ出来るな』
「じゃあそれも置いておいて。それは私の為を思って付けてくれた物だから」
『了解。じゃあ次は……転生時の魂の選別だ』
「……それは……父様を指定していた選定術式でしょ?」
『ウラノリアっていうのが父様ならそうだな』
「それも残しておいて。それは私の罪の証でもあるから」
『そうか。んじゃ次。奴隷の契約だな』
「残して」
『だろうな。最後は制限の術式だな』
「制限?何の?」
『全部』
「……え?」
『だから全部。マスターの身体にも制限があるし魔力運用にも制限。娘と呼ぶ人造魔生物も制限、記憶の制限、感情の制限、制限が掛かってないものがないと言わざるを得ないような術式だ。ただこれは緩めるのは良いと思うが完全解除はオススメしない。制限があるからこそマスターは生きてる。解除したら数十分でマスターは死ぬ』
ネズラクが真剣な声音でそう言う。
『私もネズラクの意見に賛成です。完全解除だけはやめた方が良いと思います。勿論最後に決めるのは私達ではないので止めはしませんが』
「ううん。大丈夫。しないよ。私だって死にたいわけじゃないしね。というかそれだと何も解除出来ないなぁ。記憶の方は解除してもいいかもだけど……街から人が来たしね」
相当急いだのか人が慌てたように門の付近でガヤガヤした後、そこから騎馬に乗ってこちらに駆け寄ってくる三つの影が見えた。
「とりあえずグライスとネズラクを回収して……机と椅子は置きっぱなしで良いか。移動する時に回収しよう」
座ったまま待つ事にした。見えてきた感じ何やら偉そうな人が一人居たけど多分立場的には私の方が上だ。権力的にではなく物理的に。三人のうち一人はあの女の人だ。実はそこそこ偉かったのかな?一人は熊かと思うような大柄な人で額に何かで抉られたような傷跡が見える。もう一人は軍服だが明らかに一人だけ上質な生地でありかなりの階級なのだろうなとすぐに分かった。
「座って?紅茶でいいかな?」
人数分の椅子を机に配置してそう言うと三人は有難くと言いながら飲んだ。毒の警戒はしないのだろうか……いやまあそれをするより私の機嫌が悪くなることを恐れているのだろうなと思った。そこまで怖がらなくても良いのにと思ったけど傍目から考えたら私はどう考えても恐怖の対象だった。
少しショックだ。このショックは異世界産の美味しい料理でもてなされることによって解消される。嘘だ。けどちょっと食ってみたいからそれでも解消されるかもしれない。
くだらない事を考えていると偉そうな人が口を開く。
「要求は何だ?」
まるで犯罪者みたいな言い方である。いやまあそんなつもりは無いのだろうけど。
「お腹減ってきたから美味しい料理と快適な睡眠。後は特に無いかな」
そう言ったら何だこいつみたいな顔をされた。変なことを言ったつもりは無いのだけどね。
スイ「……(最悪砦の中の部屋で寝ようかな)」




