415.追い剥ぎ……?
「…………(どう考えても魔族だよなぁ)」
「…………(何の気まぐれかは分からんが間違いないだろうな)」
高濃度の魔力にそれを造作もなく操る制御能力、魔法も使わず馬車を複数台飛び越える身体能力、魔法名も一切言わずに使用された見えない風?魔法。どれを取っても人間だとは到底言えなかった。
「…………(なぁ、どうするんだよ。あの子から逃げられるのか?)」
「…………(無理に決まってる。恐らく馬を全力で走らせても追い付いてくるぞ)」
「…………(何が目的なんだろな)」
「…………(さあな。助けてきた以上変な要求はされない……と思いたいが)」
青年、ジャンは年端も行かない少女……に見える文字通りの化け物に身震いする。冒険者としてそれなりに活動してきて先日Cランクにまでなったというのにとんだ災難だ。魔族の推定討伐ランクは最低でBランク、最高になると魔王やその四天王等の幹部連中となり勇者や聖女が存在するパーティ以外太刀打ち出来ないとされている。ちなみに勇者達はSランクである。
勿論今会話していた中年、オレグも元騎士の現冒険者Bランクの凄腕ではあるがあの少女に勝てるとは思えない。というか商隊の雇っている傭兵や今は気絶している同じCランクのカザリと協力しても傷を負わせるどころか指一本触れられる気がしない。そしてそんな事態になればあの少女は問答無用で自分達を消しにかかるだろうと思えた。
だから今は本気で神に祈るしか無かった。商人が馬鹿な事を言わないように、傭兵達が調子に乗らないようにと本気で思った。しかしそれもすぐに商隊の背後からとんでもない高さまで打ち上げられた傭兵の姿を見て膝から崩れ落ちそうになった。
「お金と食糧が欲しい。それなりに纏まった量が欲しいな」
丘の向こうにあのよく分からない剣とネックレスを放置しているので早く取りに帰りたいからやってきた商人にそれだけ告げた。別に破滅させたい訳じゃないから全財産寄越せとかは言わないけどそれなりの量が欲しい。具体的にはこの世界でも働かなきゃいけなくなるような事にはなりたくないからある程度多めに。
そう思って商人に言ったのだけど商人は凄い渋っている。どうせ私が助けなかったら死んでいたのは間違いないのだから命を金と食糧で買ったのだと思えば良いのにどうもそれを認められないようだ。もしかしたら何とか勝てると思っていたのかもしれない。実際勝てたのかと言ったら多分無理だろうなと思う。あのオーガ達と戦っていた冒険者がどれ位の実力かは分からないけどオーガ達は明らかに遊んでた。剣を棍棒で防いでいたりしたけど多分そもそも皮膚を通らないんじゃないだろうか。雷の矢を食らった時に全くダメージ通ってなかったし。
まあ仮に倒せたとしても助けられたのは事実なのだからお礼が欲しい。あのままだとウルフ相手に戦ってた人達は何人か死んでたと思うしそうなったら何体かは間違いなく馬車に突撃して商人は死んでたと思う。
「おい嬢ちゃん、ウルフ相手に戦えたからって助けたから金と食糧寄越せはどうなんだ?俺達でも戦えてたし守り切れたのは間違いないんだぞ?」
「……?でもあのままだとそこで肩で息している二人位は死んでたと思うけど?いや別に死んでも何も思わないって言うなら何も言わないけど。それとも蘇生でも出来るの?」
この世界の魔法については何も知らないしもしかしたら蘇生魔法みたいなものがあるのかもしれない。あるなら是非覚えたい。覚えても多分アルーシアや地球では理が違って使えないと思うけど……あれ、じゃあこっちの世界で蘇生させたい人とか居ないから覚える必要ないなこれ。うん、別にいいや。
「いや、蘇生なんざ出来ないが。それに死ぬとは限らねぇだろ」
男の言うことも確かに間違えてはいない。実際死ぬ前に助けたのだから今は死んでない。そしてウルフ相手に死ぬかどうかも今では分からない。目の前で食われそうになるみたいな命の危険が迫っていたならまだしもそうなる前に処理したのだから。
「んん〜、まあそれは一旦置いておく。どちらにせよ苦戦していたのは間違いないでしょう?助力されたならそれに応えるべきじゃない?」
少し折れて話したらその男の人は「それもそうだ」と頷く。難癖付けてくる人かと思ったけど多分この人背後で戦っていた人達のリーダーか何かなのだろう。私への報酬を支払ったらその分自分達が割を食うと思っているから周りの人の為に声を上げたのか。成程、こういう人は嫌いではない。何せ私の力を確実に感じとりながら精神力で覚える心を隠して私に話し掛けてくるのだから。
しかしそれでも商人は折れない。金が無いのかそれとも単にがめついだけか。その辺りが良く分からないけどこれだけの商隊を維持出来るのだから金はある筈だろう。なら私に金や食糧を渡したくないだけだと思う。
「……もう良い。私が適当に貰うね」
商人の言葉は全部流してたけど屁理屈や渋る言葉しか出て来なかったのでもう無視する事にした。実際リーダー?みたいな人は渋い表情しているし周りの人も不快そうだ。唯一普通そうなのは商人とその護衛らしい傭兵?だけだ。傭兵というより用心棒だろうか。それなりに戦えそうだがリーダー?よりは弱そうだ。
「待て!勝手に馬車に入るな!」
その用心棒らしい人が私の腕を掴んで馬車から投げて落とそうとしたので私はしっかり地面に着地した後、そのまま腕を掴んでいた用心棒を思いっきり上に放り投げた。用心棒は一瞬にして視界が切り替わったのに理解出来ていないのか呆然とした後即座に何かを早口で唱えて地面に落ちるほんの少し前に動きが緩やかになってそのまま叩き付けられた。死んではいないだろうがそれなりにダメージは負ったのは間違いない。実際全く動かずに呻いているだけだし。
商人は引き攣った表情のままで動きを止めた。流石に私相手に止めろとは言えなくなったようだ。別にあの程度で怒ったりはしないから安心して欲しい。私が馬車の中に入るのを誰も止めない。まあ止められないだけだろうけど。
馬車の中には結構物が沢山あった。恐らく米ではないだろうが何かの穀物らしい俵が十程、塩の入った壺などもあった。何処に取りに行ったのか岩塩と海水塩があった。塩があるならと思って探したけど残念なことに砂糖は無かった。
肉などもあったがそれらは全て干し肉のようで一欠片だけ齧ってみたけど凄く塩辛くて食べられそうになかった。確かスープに入れるんだったか。そのまま齧るのは失敗だ。ジャーキーみたいかと思ったのだが。
野菜などは無かったけど多分日持ちしないからだろう。代わりに果物はそこそこ多かった。未熟な物も割とあったけど多分運んでいる最中にそれなりに熟すのだろう。まあ食糧関係は基本的に微妙だということだけは分かった。岩塩とか使った事ないから面白そうだし塩だけはそれなりに貰っておいた。胡椒とか唐辛子らしい調味料になる物は多めだったのでそれらも貰っておく。肉は……まあ少しだけ貰っておこう。味微妙だったし。果物も貰ってもいいのだが指輪の中だと熟してくれないし持ち歩くとか怠い。これは無しだ。
後あるのは装飾品の類だ。武器などもあることはあるが多分これらは売り物じゃなくて男の人達の予備武器だと思う。装飾品は綺麗なものや無骨な物もある。硝子細工で出来た雪の結晶みたいな装飾品は凄く綺麗だ。名のある職人の作なのだろう。触れたら壊れそうで手に取るのも躊躇う。保護魔法を掛けながら手に取る。かなり薄く身に付けるタイプの装飾品には見えない。多分家とかで飾る用かな?ん〜、お金とか食糧が欲しかったのだけど食糧は微妙だしお金は貰えそうだけどそれだけだ。ならお金とかの代わりにこれを貰ってもいいのではないだろうか。保護魔法を掛けてネックレス状にして首元から掛けるとか……ああ、いいなぁ。あまり装飾品やら化粧とかみたいなものはしてこなかったけどこれは是非付けてみたい。何ならこの装飾品を作った人だけはこの世界から拉致してでもアルーシアに連れて帰りたい。
魅了でもされているのかと思って状態異常回復魔法も使ってみたけど特に何も変わらない。普通に私が欲しがってただけだった。多分拓辺りが見たら目を疑うことだろう。
「これは貰うとして」
これは貰う。確定事項である。まあそれは置いといて実際食糧も他の馬車を覗いても大して変わらない。果物の種類が違っていたりした程度だ。何なら他の馬車は木材が大量に入っていたりと種類別に分けられているせいで食糧とかほぼ無かった。馬車六台もありながら食糧があったのはうち二台でバリエーションも別に違いは無かった。ちなみに一応遭難対策なのか食糧品がある馬車は二台目と五台目で武器も一台目と六台目だった。真ん中の三、四台目が装飾品やらだ。
「むぅ、商隊なのは間違いないけど……これどちらかというと雑貨店みたいな商隊かなぁ……」
装飾品などは嗜好品の類で高くなるからそれを大量に扱うこの商隊は規模の大きい商隊なのだろうがスイの求めているものはお金と食糧、しかも食糧の方が比率は高い。間違いなく微妙な商隊だった。
「…………はぁ、道だけ聞いたら綺麗な装飾品だけ貰ってさっさと街に行こうっと」
装飾品は貰う。それは確定事項だ。私も綺麗な装飾品は身に付けようとはあまり思わないだけで好きなのである。まあ間違いなくメインの商材であろう装飾品を貰われるこの商隊の人達は大損だろうが素直にお金と食糧を渡さないのが悪いとしておこう。渡しておけば装飾品を物色などされなかったのだから。
結果として私は雪の結晶みたいな装飾品、小さなクリスマスツリーのような不思議な装飾品、剣を持った天使像、小振りだが綺麗な緑の宝石の付いたイヤリング、翼の形の髪留めを貰うことにした。どれも私が一目見て欲しくなったものばかりである。後は調味料の類と岩塩多めの塩。幾らかは知らないけど銀色の硬貨を二十枚程度である。商人の財布には金色の硬貨がまだ十枚以上あったし銀色の硬貨も五十枚以上あるし大丈夫でしょ。ちなみに銀貨と金貨と呼ばないのはこの世界での呼び名を知らないからである。もしこれで呼び名が銀貨じゃなかったら何か突っ込まれそうだし。
「ん、これでいいかな。じゃあ道は聞いたしさっさと行こうっと」
私はそう呟いて道なりに走っていくことにしたのだった。
ある商人の悲嘆
「……有名どころの新作装飾品ばかり取られた……予約が入っていたのもあったのに。何故!他の!装飾品には目もくれんのだぁぁ!!しかも……あぁ、あれ全部魔宝具なんだぞ……!どれだけの損失になると思って……大人しく金を渡せば……」
スイ「〜〜♪」




