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414.理不尽な通り魔



「ん……街道かな?」

バキバキっと木をへし折りながら走っていたらようやく街道まで出たようだ。全力疾走ではないとはいえそこそこ駆け足で一時間は走っていたのでこの森はかなり広かったのだろうなと分かった。

「しかし適当に案内させたとはいえそんな森の奥まで案内したあの魔物達もしかして油断させて殺すつもりだったのかなぁ?襲ってきた時なんかいっぱい居たし」

水枕と緑小人と豚頭にそこまで考える頭があったとは思えないが本能に従って誘い込んだのだろうか。今となってはどういうつもりだったのかは分からないけれど。

「とりあえず街道……どっち向かおうかなぁ。もう一回木の枝で方向決めよう」

指輪から木の枝を出して地面に立てようとした瞬間何かの振動を感じた。

「……大きな揺れ、魔物かな?豚頭よりも大きい位のやつだな。多分足音だから……三、いや二かな?何か叩き付けた感じっぽい?よし、向かってみよう。何かあるかもしれないし」

私は木の枝を回収して揺れを感じた方向へと小走りで駆けていく。人と戦っているなら早めに向かった方が良いのだろうがそもそも別にこの世界の人を助けるつもりなど毛頭ない。この世界の異物を追い出すか殺すかしたら結果的には助ける事になるのだろうがそれは積極的に人を助けたいという意味にはならないのだ。

「出来ればさっさと死んでくれたら死体から記憶奪うだけで楽になるんだけどなぁ」

そんな酷い事を呟きながら私はのんびりと駆けていった。





「クソっ!なんだってこんな所にオーガがいやがるんだよ!」

「私に言われても……!分かるわけないでしょ!アイスチェイン!」

剣と盾を持ち前衛を務める青年の声に青年と同じ位の女性が若干苛立った口調でその右手に持つ杖に魔力を込めると同時に魔法を唱えオーガの足を凍らせる。しかしオーガはそれを嫌がるだけでその強靭な腕で氷を砕いてさっさと脱出する。稼げた時間は僅か十秒といった所だが青年が体勢を整えるだけの時間は得られた。

「油断するな!もう一体居るんだぞ!」

二体目のオーガが青年に向かってその左手に持つ棍棒を投げ付けるがそれは中年の男性が幅広の大剣で叩き落とすように地面へと落とした。

「助かった!おっさん!そのオーガどの程度までなら足止め出来る!?」

「おっさんじゃねぇ!五分だ!それ以上はきつい!」

「上等!カザリ!三分でオーガ一体倒すぞ!」

「無茶ばっかり!アイスチェイン!からのボルトアロー!」



オーガ二体と冒険者三人、その後ろには馬車の御者台に乗った商人らしい小太りの男と背後から狼の魔物達、それを抑えている人達とそれなりに規模の大きそうな商隊を見付けた。オーガ達との戦いの声はほんの少し聞こえていたがどうやら背後からあの大量のウルフ?とやらに襲われて逃げている最中運悪くオーガ二体に遭遇したらしい。

「ん〜、まだ生きているのに助けないのもなぁ。でも面倒そうだし……どうしよっかな」

私は少し離れた丘の上から眺めているのだが正直面倒臭い。助ける義理も無いし放置してもいいだろうか。こういうのを放置したりしたら夢見が悪くなったりするらしいが……いや無いな。別に死んでも特に夢見が悪くはならないだろう。

「あ、そうだよ。この世界のお金無いんだからふんだくればいいんだ。それなら助ける理由にはなるかな」

以前過去の世界でお金が無くて困った経験を思い出してそう呟く。命の恩人になれば流石にある程度の金ぐらいはくれるだろう。そう言えばフナイ達はあの赤ちゃんをちゃんと育ててくれるだろうか。地球に戻ってすぐ交番に寄った時にフナイに実は預けていたのだがどうなっただろう。まあ何だかんだでパパ達が助けてくれると信じよう。

「……地球に戻るタイミングがあんまり時間過ぎてなければ良いなぁ」

今気にしても仕方ないかと私は思って冒険者達の方へと目を向ける。すると中年の男がこちらを見ていた。完全に目が合っているので今更居ないことには出来ないだろう。この状態で助けずに逃げたりしたらまた魔族云々と言われて襲われるのだろうか。だとしたらかなり面倒だ。

「仕方ない……見える位置に居た私が悪いって事で……ん〜、獄炎(ゲヘナ)・槍バージョン」

さっき雷を矢のようにして飛ばす魔法を見たので何となくそれっぽく整えてみた。禍々しい黒い炎が槍の形になって揺らめいている。

「……天雷(ケラウノス)の方が良かったかな?」

物凄く悪役が撃ちそうな魔法である。まあもう形作っているし中年の男の人には見られている。なので禍々しいその槍を二本作ってオーガに向けて放った。

「……っ!逃げろぉ!」

中年の男の人が叫び声を上げてその場から離脱してその声に即座に反応して青年と女性も走った。オーガは私の魔力を感じたのか振り返ってしまいその槍を見た瞬間にその場に立ち尽くした。何をしても助からないと悟ったのだ。

立ち尽くしたオーガ達は槍に触れた瞬間に燃え上がり灰へと変わった。断末魔の声を上げさせないまま焼失したオーガ達を見て女性はへたり込む。なまじ魔法に関わっているが故にその槍に込められた桁外れの魔力とそれを槍の形に押込めるというあまりにも無茶苦茶な制御能力に恐れを生したのだ。

魔法はどれだけの魔力を小規模の魔法に抑えられるかで実力が分かる。百の魔力を使って百の規模の魔法を使っても範囲こそ広くなれど込められた魔力の全てが当たる訳では無い以上それは大した威力にはならない。だが逆に百の魔力を使って五十、三十、十と範囲を絞れば絞るほどその威力は跳ね上がっていく。

その点先程の黒い炎の槍は千の魔力を一の範囲に絞るような理解不能の魔法だった。いや下手をしたら万の魔力で一よりも零に限りなく近い範囲だったかもしれない。

「ん〜?消滅した?そんな威力込めたつもりないんだけどなぁ」

女性の目の前に降りた私はそう呟きながら近寄る。私を見て女性がいきなりビクッと身体を震えさせて失神した。

「……え、気絶した?何で?」

オーガに襲われて怖かったとかは無いだろう。それなら最初から戦ってなどいない。緊張の糸でも切れたのだろうか。良く分からないが別に命の危険がある訳でもないし放置する事にした。というかオーガは居なくなっても背後から未だに戦っている音がしているしウルフとやらがまだ居るのだろう。

「さっさと片付けてこようかな……」

青年と中年の人達が私を見て何か言おうとしていたようだけど私はそれを無視して馬車の背後までひょいっと飛んで回る。

「……五、六、七、八、九……十一匹と」

適当に数えた後馬車の陰から飛び出してウルフの群れの真ん中に入り込んだ。戦っていた傭兵らしき人達が私に気付いて声を上げるよりも前に私は身体のあちこちから魔力の糸を伸ばして切断の属性を込めて振り回す。勿論傭兵らしき人達には当たらない程度に短くはしているが。狙い通りウルフの頭半分だけ吹き飛んだようだ。走ったり跳ねたりしているウルフの頭だけ当てるのは割と難しかったがこれも制御の訓練になるしたまにならやってもいいかもしれない。

「あ、これ食べる()って居る?」

一応私の娘達にも聞いてみたが全員から要らないとだけ言われた。肉食っぽい子達も結構居るのだが生肉食いたがることは無いとだけ言われた。海底で見付けてそのまま連れて来たあの謎の生物だけは欲しがってたけど多分あなたは今出したら息出来ずに死ぬんじゃないかな。

欲しがる子が居たのでとりあえずウルフの身体を指輪に回収していく。傭兵達が倒したと思われるウルフだけは放置だ。奪ったとか言われて難癖つけられたくないし。

「……お金貰えるかなぁ」

何か言いたそうな傭兵達を放って商人の方へと歩いていった。お金と食料が貰えたら嬉しいな。

スイ「お金〜食料〜」

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