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40.帝都へ

ようやく帝都に着きました。



ヒュッと軽い音を立てて矢が飛んでいき空を行く鳥が射抜かれて落ちてくる。落ちてくる鳥を風の魔法でふんわり受け止める。射抜かれて落ちてきた鳥はこれでもう十五匹目だ。エルフといえば弓がうまいイメージだったけどここまでとは思わなかった。

ステラに弓を渡してみたらそれはもう喜んだ。どうやらエルフにとって弓というのは自分の半身のような存在らしい。それなのに今まで何も言わなかったのは元から弓を持っていなかったためらしい。エルフは弓を本来なら親か祖父母に手渡されてそれを壊れないかぎりずっと使い続けるようだ。なのだけどステラはエルフという種族として見ればまだまだ赤ん坊の段階なので渡されなかったみたい。

とにかく渡した弓はかなり頑張って作ったので喜んでくれて嬉しい。だけど幾ら弓が強かろうと接近されたら使い物にならない。ステラにはヴァルトも弓もしっかり使いこなしてほしい。ちなみに渡した弓を見てアルフ達も何か欲しそうにしてたのだけど分からなかったので訊いてみることにした。

「アルフ達も何か欲しいの?」

「えっと……出来たら拳を守るものが欲しい」

「あっ、私も貰えるなら……」

「僕は特に要らないかな。強いて言うなら爪以外に使えそうな暗器があったら教えて欲しい」

「そっか。アルフとフェリノは籠手?グローブ?」

「籠手だな」

「私も籠手がいい。あっ、でもあんまり重くない方が……」

「ん、分かった。ディーンは……暗殺者にでもなりたいの?」

「暗殺者になりたいわけじゃないけどこういうのは僕が一番適任でしょ?毒も使うし一応は短時間であれば消えられるんだからさ」

「まあそうだね。良いよ。後で色々作ってあげる」

そんな会話をしていたらアルフとフェリノがソワソワし始めた。理由は分かってる。あと十分ほどで二人の課題、魔闘術一日持続が成功するからだ。二人にはまだ余裕がありそうだし課題は達成とみて良いと思う。ちなみに一番早く成功したのはステラだ。今ではヴァルトを百本個別に動かすまで成功している。それもステラがヴァルトを制御する魔法を編み出したからだ。ディーンはあと六日である。

とりあえず達成したら二人をお祝いしないとね。あと鍛練の追加と新課題と組手とあと、あと……。

こうして知らない間に鍛練がどんどん激しさを増していくことになったのだが残念なことに?誰もそれに気付くことはなかった。



シェアルの街を出てから六日目になった。道中はたまに魔物が襲ってくる程度であり基本は鍛練の毎日だった。この世界では日が暮れるのが案外早く馬車を一日中走らせる事などはできない。精々六時間程度だ。それでも馬の力がやたらと強いので恐らく元の世界にあった馬車と進む距離は大して変わらないだろう。

馬に関しては調達をデイモス達に頼んだ結果、二日目の朝にあまりに不自然に草原の真ん中で草を食む四頭の馬を発見した。確かに受け渡しの方法は決めてはいなかったがもう少し自然に渡せなかったのかと思う。

とりあえずその四頭の馬を馬車に繋ぎ走らせることになった。馬車の自走機能にはずっと魔力を渡さなければいけなかったので良かった。まあ余剰魔力をそのまま与えてるだけなので大した労力でもないが。

それでまだあと二日程度はかかる筈なのだが既に帝都らしき街の影が見えているのだ。小さな丘から遠目に見るとぼんやりと蜃気楼のようにも見えるが確かにそこにある。かなりの距離がある筈なのに見えるということは恐らく魔導具の類いなのではないかと思う。何故なら明らかに見える距離にないからだ。高層ビルのようなものが並んでいて色が派手なら遠くから見ても可能性はあるがこの世界の建築技術的に高く出来て五階か六階。間違いなく無理だろう。

まあ人族にとっては帝都は魔族達から最も遠い平和な街だ。安全地帯であるという希望としての意味合いもあって魔導具で遠くからも見えるようにしているのかもしれない。私からしたら魔物に襲われそうだなぁとしか思わないけどある程度は撃退できるのだろう。

「ん~、でも魔族の接近には凄く敏感そうだなぁ。魔導具で見えるようにする位だし天の瞳でこの辺りも見られる可能性もある…かな。偽装魔法使っておこう」

この日は全く辿り着かずに野宿することになった。分かっていたけど街に辿り着かなかったアルフ達はベッドが恋しそうにしていた。私も早くベッドでゆったり寝たいから良く分かる。冒険者として野宿に慣れているカレッドさん達は苦笑いしていたけど。ちなみにハルテイア達もベッドとはいかなくても普通に寝られる場所が欲しがっていた。テントだけだと魔物に襲われるかもと思うと深く寝付けないのだ。私達は人数が多いから不寝番がローテーションしやすくて楽なのだけどやはり精神的には少し疲れるのだ。起きてからすぐに馬車を走らせたけど結局七日目も辿り着くことはなかった。



シェアルの街を出てから八日目、遂に帝都が魔導具ではなく実物を見られるようになった。分かってはいたが壁はかなり大きい。百メートルは無いと思うがそう錯覚しそうになるほどだ。かなり厚みもあり壊すのは容易ではないだろう。魔族の襲撃がもしあれば壊されるとは思うが一息に壊せるのはそれこそ魔王クラスかヴェルデニア位だろう。身体が強い竜族でも体当たりではびくともしないと思われる。それくらい頑強なのだ。人族が思っていた以上に弱くなっていると思っていたが実際はそうではないのかもしれない。

帝都や城塞都市、オルディンの近くにあるという異界都市、剣国アルドゥス等の大都市には強者がいるのかもしれない。流石に神代の時代に居た人族程ではないと思うが。ちなみに神代の時代に居た人族は剣を振って山を切り裂き盾で竜族の体当たりを防ぎ弓で魔法を打ち消すような今の時代で考えればただの化け物なので居たら困る。というかそんなのが居たらヴェルデニアはとうに消されているだろう。

そして今は帝都に入ろうとする商人や冒険者達の馬車の列に並んでいる。流石に冒険者カードをパっと見せたらはい通って良しとはならないようだ。当たり前だが。ならばどうするのかと言ったら前に疑問に思った国境線上の魔導具、犯罪歴等が分かる魔導具で調べるらしい。いったいどういう基準で犯罪歴が分かるのか気になるがアーティファクトらしいので調べさせてはくれないだろう。

そして調べるのにおよそ一分程が掛かる。ここに並んでいる人の数は正直数えたくないほど居る。もしかしたら最悪また野宿になる可能性すらある。少しだけ脱力して横になることにした。椅子は多めに作ってるから横になるスペースはある。だけど折角なのでフェリノの膝に頭を乗せる。

「スイ?」

「ん、ちょっと寝る」

そう言ってフェリノの尻尾をもふっとしてから目を瞑る。もふもふが素晴らしく気持ちいい。フェリノが何となく優しげな雰囲気になったのが分かる。精神年齢的には同じ十四歳の筈だけどたまに衝動的に動きたくなるときがある。微妙に身体に精神が引っ張られているのだろうか?それとも本来ならスイではない別の人格がいてそれを押し退ける形で今のスイになったからなのだろうか?その辺りは良く分からないがもし押し退ける形であるならばその分楽しんで生きようと思う。そんなことを考えながらスイは微睡みの中に落ちていった。


「……イ。スイ」

「……んぅ?」

優しく揺らされてスイは起きる。

「もう門前だよ。そろそろ起きないと」

その言葉にスイはん~っと猫のように伸びをしてから起き上がる。その仕草にフェリノは悶えそうだったがなんとか抑える。

「開けてくれ」

兵士らしい人の声が聞こえる。既にアルフは外に出ていたようで扉がノックされて少し経ってから開けられる。

「少々お手間を取らせてしまいますがよければご同行ください」

そう言ってスイに頭を下げる兵士。どうやら貴族か何かだと思われているようだ。ただ思われるだけなら害にはならないのでスイは軽く頭を下げて降りる。中にフェリノ達亜人族が居ても表情には出さないところがスイは気に入った。貴族が亜人族を奴隷として持っているのが多いからなのかはたまた亜人族に大して思うところが無いのかの判断までは出来なかったが。ただ思っていた以上の人数には驚いていたようだ。スイが降りて兵士に付いていくと壁の中の部屋に案内された。

「奴隷の方々は貴女様の所有でしょうか?」

「ん、そう」

「そうですか。では奴隷の方々の身分証明は必要無いので少しの間部屋から出ていてもらっても宜しいでしょうか?」

「良いの?」

「はい。奴隷の身分は所有している者が証明するものでして何か罪を犯せば所有している者が罰を受けます。まあ奴隷の方々は罪を犯すことを禁じられている場合が多いのであまり意味は無いのですが奴隷を使って罪を犯すことはしない方が良いぞという牽制です」

「そっか。分かった。アルフ達は出ていてくれる?」

スイがそう言うとアルフ達は頭を下げて出ていく。

「ではまずはこの珠に手を乗せてもらいます。罪を犯していれば赤に、そうでなければ青になります」

スイは頷くと珠に手を乗せる。珠は青に変わった。スイは間違いなく人を殺しているので赤にならないとおかしい筈だがならないということは割と適当なのだろう。アーティファクトといえどやれることとやれないことがあるということだ。

「はい。ありがとうございます。竜牙の皆さんは既に終えていますのでどうぞお進みください」

「ん、丁寧な対応ありがとう」

「いえいえ、これが仕事ですので」

スイは部屋から出ると馬車の中に戻る。すぐに馬車が進み出し門の中へと入っていく。

「帝都ってどんなところだろう……」

帝都の中を想像してスイは微笑んだ。

スイ「まずは王味亭を探す」キリッ

アルフ「いや宿を探すのは良いけど絶対に食事目当てだよな」

スイ「否定はしない」

アルフ「そっか。それでこそスイだよ」

スイ「……え?」

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