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410.それ

かなり短めです。



「ん〜、能力の核みたいなのは見付けたけど……これじゃ取り出せないなぁ」

私は右手に煙草を吸っていた男の頭を掴みながら指先を男の頭の中に沈ませる。魔力生命体という不可思議種族の魔族だからこそ出来る事だ。本来なら身体を魔力に変換してそのまま内部にすり抜けていく術なのだが、今回は指先だけ魔力に変換して対象を内部から読み取る術に変えたのだ。まあこれは魔族なら比較的簡単に使えるが。

「しかもこれ人間じゃなくなってるなぁ。細胞とか一部魔力みたいな何かに変わってるしこれを与えた奴はなかなかの屑だね。あと多分与えた奴素因か概念かは知らないけどそんな感じのが使えるな。自分に繋がる全てを消して万が一にも言わないように忘れさせた上で『黒幕について話す』という概念を消し去ってる。清々しい程に自己防衛に走ってるね」

スイは感心しながらもその表情は酷い嫌悪感に染まっており心底から嫌なのだろうと誰が見ても分かるだろう。

「人に戻せそうもないし能力も切り離せないとかもう殺すしかないんじゃない?」

そう呟きながらもスイはぐりぐりと指先を男の頭の中で動かす。何かないかと調べるが全くと言っていいほど成果が無い。仕方ないとスイはようやく男から手を離すと白目を向いて気絶していた男が地面に倒れる。

地面には襲ってきた五人組全員が倒れ伏していてその全てが白目を向いている。どうやら頭の中に指先を入れられるというのは想像以上に衝撃が大きいらしく全員入れられた後は痙攣してから白目を向いて意味の無い呻き声を上げるのだ。別に拷問等はしていないのにこうまで激しい反応をされるとスイとしては何とも言えない気持ちになる。

スイがやった事はただ真正面から五人組に近付いて死なない程度に腹パンして倒れた所を頭を掴んで指先を入れて記憶やら何やらを読み取っただけだ。

「記憶の中にも存在しないとは思わなかったけど」

明らかに誰かに力を与えられている筈なのにその者の事が全く出てこない。余りにも不自然なので先程素因か概念を使える者なのだなと思ったのだ。

「それで防御力とか攻撃力に運、速力に魔法力だっけ?これ何の話なんだろう?何となく分からなくもないけど明らかに別の世界の話だよねぇ。それともゲームとかの話?良く分からないなぁ」

調べても良く分からなかったので黒幕?に繋がる何かなのだろうが何がどう繋がるのか分からない。

「まあどうでもいいけど」

能力的にも恐らくこれを渡した存在はスイよりは弱い。見付け次第殺せるだろう。だからこそ正直どうでもいい。来るならば即座に殺すし来ないならば来ないで別に気になることでもない。強いて言うならばこの存在に花奈の殺害を依頼した者が気になるがそれもスイが近くに居れば成功しない。

「とりあえず殺そうかなこいつら」

スイがそう呟きながら再度男の頭へと手を伸ばそうとすると聞き覚えのある声が聞こえて手を止める。どうやら花奈がスイのことを呼び止めたようだ。偶然だろうが止められたことでスイは殺すのを諦める。花奈に死体を見せるのはと思ったのだ。つい忘れていたがそう思っていた筈だ。

【……バチッ…………!】

「……?」

ふと何かが弾けるような感じがして身体の動きを止める。しかしすぐにその違和感のようなものは消えて無くなりスイも特に疑問には思わずに花奈の方へと歩き出した。

「……(どうして今花奈のトラウマなんてどうでもいいなんて思ったんだろう。花奈は大切な家族なのに……)」




同時刻、海の上で不可思議な雷が発生する。それはまるで人を象るかのように雷雲を纏いながら移動して行きやがて一つの小さな船に降り立った。どうやら密輸船のようで男達が忙しなく動いている。

雷はまるで生きた存在のようにバチバチと音を鳴らしながら船の中心部に進むと一際大きな音を鳴らしてそのまま沈み込むように進み船を真っ二つにする。男達が慌てて船から飛び降りたり小舟で逃げようとしたその瞬間、雷は無差別にばら撒かれてその全てに弾けて痕跡すら残さずに消し飛ばした。

それは雷の威力ではない。灰すら残さず消し飛ばすそれはビームか何かかと勘違いしそうな程だ。いや事実それは雷ではないのだ。ただそれを認識する事が不可能な為に近しい存在として雷を幻視していただけなのだから。

それは海上に降り立ち一方向をじっと見つめる。まるでそちらに愛しい何かがあるかのように、あるいは憎々しい相手が居るかのようにじっとそちらを見つめる。

やがてそれは今はまだその時ではないと言わんばかりに見つめるのを止めると先程消し飛ばしたそれらから光を回収する。

光は集まると眩しい程に光り輝く。それを徐に雷は口を開くように巨大な孔を作り上げて飲み込む。

そして雷はまだ足りないと言わんばかりに海上を不自然に漂いながら移動し始めた。それは餌を探すハイエナのようで狙われた者にとっては地獄からの使者のようであった。

まだ、まだ、まだ、まだ、まだ…………………………

それはひたすらに望み続ける。自身の生存を。だからこそ喰らうのだ。自らを捕食する絶対的強者から逃れるために膨大な命と膨大な魂を喰らうのだ。

まだ、まだ、まだ、まだ、まだ…………………………

それはひたすらに喰らう。喰らい続ける。何故喰らうのかも分からなくなるほどに………………

【 】

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