407.花奈
「……それで次のインタビューなんだけど困る内容が来たら私がはぐらかすから貴女は何も言わないでね。基本的には次のドラマの話ばかりになるとは思うけど何処にだって関係の無い質問が飛んでくるものだからね。特に共演相手の俳優関係は間違いなく来るわ。若い男女だからね。だから……」
「分かってますよ。スキャンダルになりそうな事は言いませんって。実際に何かある訳じゃないんだしそこまで心配しなくても」
「甘いわね。友人としての好きか嫌いかとかの質問からでもマスコミは曲解して事実と異なる書き方をしてくるんだから。かなり面倒なのよ?」
「大丈夫ですってば。面倒ならマネージャーに投げますから」
「本当に分かってる?」
「もう〜、大丈夫ですって。心配し過ぎですよ」
心配そうに私にずっと念を押してくるマネージャーに安心させるように笑いかけるがもう長い付き合いだから煙に巻こうとしてるとすぐに分かられてしまってまた念を押されるというある種ループに近い状態になって少し面倒になってきた。
良い人なんだけど私がまだ新米の頃からの付き合いだから若干親目線で見られてるような感じがする。別にそれが嫌という訳じゃないし何だかんだ居心地が良いんだけど……だからといって小言や説教に近い話はあまり聞きたくないのも事実。
言葉から逃げるように車の窓から外を見る。ここ数年で一気に発展した街中はまるで子供の頃に夢見た近未来のようだ。新技術が開発されて一気に街中の様相が変わった時は企業や政府が技術秘匿しているって陰謀論じみたネットの情報が意外に核心を付いていたんだなと思ったものだ。実際新技術として幾つかの技術が世に出た際大手の企業は軒並みそれらを取り入れた製品やらを出したのだから。
まあ実際の所は多分世に出るよりも前に技術提供でもあったのだろうなと思う。というか世に出る時にその技術を使った商品が無ければ出す意味も無いのだし。
様変わりした街を車の中から見る。環境に優しいクリーンなエネルギーの開発、それらを使った飛ぶ車、近未来的な携帯端末、飛行機にだってそれは使われてる。まあ飛行機はさすがにすぐ作り直すとかは出来ないからまだ大半は普通の飛行機だけど。そんな様変わりした街中を見ていて何か変なものが見えた気がした。
「ちょっと!聞いてるの?」
「……今の」
「何?」
チラッとしか見えなかったけど何か物凄い速度で走る何かがあったような……?目の端に見えただけだから何かは分からないけど。
「……気のせいかな?」
私が首を傾げた瞬間車が急に止まる。シートベルトはしていたけど急ブレーキが掛かった衝撃で胸が詰まる。新技術が使われた車ならば若干浮いているので急ブレーキが掛かったところで何も無いらしいが、この車は新技術が使われている訳では無いので急ブレーキが掛かるとかなり辛い。
「げほっ、げほっ、な、何?」
胸が詰まったせいで咳をしつつも何が起きたのかを把握する為運転席の方を見る。すると目の前には誰かが居た。喧嘩でもしていたようでいきなり道路に飛び出してきたのだろう。運転手の方は心臓に手を当てていた。一歩間違えば轢かれて死んでいたかもしれないのにヒートアップしているらしい若者達は気付かずに、いや気付いているかもしれないが無視して殴り合いを始めている。道路のど真ん中というかなり危険な場所での殴り合いなので他の車も立ち往生してしまっている。
まだ夕方だけど休日だしお酒でも飲んで酔っ払っているのかもしれない。そしてこういう時にどう対処するかでも芸能人としての素質が見られる。現場に居ながら対応しなかったとなればパパラッチがどんな反応するか分からない。居るか知らないし女性である私なら特に何も言われないとは思うけど。
私がシートベルトを外したのを見てマネージャーが慌てて私の手を掴もうとするけどお父さん仕込みの護身術でそっと手を外して外に出る。私の名前を呼ぼうとしてドアが開いた状態で呼び掛けると目立って逆に危険だと考えたのか口をパクパクさせている。申し訳ないけどあそこで暴れてる若者達位なら気絶させられると思うから心配しないで欲しい。伊達に警察官の父親を持ってないの。
そう思いながら若者達の方へと近付くと殴り合いをしていた若者達も気付いたようで睨み合いになる。自分で言うのも何だけど私可愛いからね、手を止めちゃうのも分かるよ。なんてそんな事を考えていたら若者の一人が何故か私をナンパしようと声を掛けてきた。……あ、これ私分かられてないやつだわ。もしくは酔い過ぎてあんまり分かってないな?
「えっと、ここで殴り合いをされると迷惑になると思うし危ないでしょ?だから辞めて欲しいんだけど」
「そんなことよりこれから飲みに行かない?美味い店があるんだぜ?」
うわっ、話通じない。こういう手合いは大嫌いなんだよね。今すぐその顔に拳を入れたい。絶対しないけど。
「そんなことよりじゃなくて」
「いいからいいから、な?」
掴もうとしてきた手を振り払う。すると酔っているせいか不機嫌になり無理矢理掴もうと手を伸ばしてきたので仕方なく地面に押し倒す。一応警察官の父親が居るって言うのは公言してあるしある程度の力量があるってのは番組内でも何度か実践しているけどイメージ的にはあまりこういう事をしたくない。
だからこれで終わってくれたらなと思っていたら何故かもう一人の若者が殴り掛かろうとしてきた。殴り合いしていた仲の相手を助ける為なのかそれとも殴り合いを邪魔された腹いせか。それは分からないけど流石に殴られたくはないし同じように投げようと思っていたらその男の横から小さな足が飛び出して横腹を蹴飛ばした。
明らかに小学生か中学生程度にしか見えないその小さな足は男を道路のど真ん中から蹴飛ばした方の歩道まで飛ばし……更に転がって街灯にぶつかって静止した。その馬鹿みたいな威力で蹴飛ばした足はゆっくりと地面に足を下ろして……私が地面に押し倒した男の頭を踏み躙った。
「全く……馬鹿ってのは何処にでも居るものだね?まさか道路で暴れる人が居るなんて思ってもみなかったよ。少し先の歩道で車が通り掛かって私に気付くまでどの位掛かるかなって遊んでたのに待っても来ないからつい来ちゃったよ」
その声を私は知っている。その姿を私は知っている。
「……嘘」
「私の姿は忘れちゃった?」
「ううん、忘れてない。忘れるわけないよ」
「それなら嬉しいな。花奈は大きくなったね。それに可愛くなって美人さんになった」
「そっちは変わらないね。いつまでも可愛いままだ」
「言い忘れてたんだけど私って成長しないんだよね……まあ高校生とか大学生位の姿にはなれるんだけど、大人になるにはまだ長い時間掛かるかなぁ。まあなれるようになったらこっちに戻って来て見せに来るよ。その頃には世界間の時間の調整位なら出来るだろうし」
「ふふ、そっか。それは楽しみだね」
私はそう言いながらその小さな、けど私にとっては大きな女の子。白髪に翠の瞳の可愛い女の子に抱き着く。
「大きくなっても抱き着き癖は変わらないの?」
「みどりちゃんにだけだよこんなの」
「パパやママにもしてあげて」
「ふふ、うん。お帰りみどりちゃん」
私の大好きな女の子。妹でもあり姉でもあり、異世界に生きるそんな不思議で素敵な女の子。
「ただいま花奈」
マネージャー「あ、あの子……公の場で小さな外国人の女の子に抱き着くなんて何考えて……」
運転手「……(あれが尊いってやつか。良いねぇ……)」




