405.上司
中途半端に投稿されている事に気付き修正しました。(13時時点)
先に読まれた方は申し訳ありません。
「……という事で私はこの世界にまた戻ってきちゃったの」
「おー、大冒険ってやつだねぇ」
ざっくりとした簡潔な説明ではあったが小山さんは頻りに感心しっぱなしで話していてかなり楽しかった。偶にしてくる質問や疑問も答えながら話していたので大まかではあるが大体の事情は把握出来ただろう。前から思っていたが小山さんは聞き上手というものなのだろう。そこそこ長い話だったにも関わらず会話が途切れなかったのがその証拠だ。
ちなみに一緒に入って来た堀川さんは最初から最後までずっと表情にはてなマークを浮かべていたのできっと内容の一割もまともに理解していないだろう。まあそれは仕方ない。傍から聞いたら創作物語にしか聞こえないのだから。とはいえ警察官としては話をちゃんと聞いていないのもどうなのかとは思うが。
「あ、それより小山さんあの二人なんだけどね」
私はそう会話を切り出してずっと応接室のお菓子を自由にぱくぱく食べているセラと置いてある本を持って来ては読めない本を見てほえぇっと変な声を上げているフナイを指す。指された二人の内フナイはこちらを見たがセラはチラッと目を向けただけですぐにお菓子を食べ始める。
「彼等の保護を頼みたいって事だよね?」
「うん、勿論対価は払うよ。本当ならフナイとセラが払うべきなんだけど二人はこっちの世界のことを何も知らないから逆に迷惑掛けちゃいそうだし。私が出来ることならやるよ」
「それは嬉しいけど……言っちゃ悪いけど君にとっては二人は殆ど他人だろう?どうしてそこまでしてあげるんだい?」
恐らくそれは本心からの言葉だろう。私が利用されていないかという心配から来る言葉だ。だからつい嬉しくなって頬が緩む。
「確かに他人だけど……私の事情で巻き込んだも同然だからね。これは当然の行為だよ」
私がそう言うと利用はされていないと言外に言った私の言葉を理解したのか小山さんはそうかとだけ言った。
「それより聞きたいことがあるんだよ」
私がそう言って机から少し身を乗り出すようにすると小山さんは分かってるよと言って待っていれば良いと言った。既に連絡はしてあるから来るとも。私はそれを聞いて嬉しくなり小山さんに宝石をプレゼントした。勿論簡易的なものではあるが治癒と結界の魔法が付与されている。以前アルーシアに戻る際にパパ達にプレゼントしたものと同じ物だ。
ササッと作った物だったが目の前で突然出来上がった淡い黄色の宝石に小山さんは驚いて堀川さんは目を剥いていた。小山さんは私が人じゃないと知っているけどやっぱり目の前で宝石が出来上がる光景は驚くようだ。堀川さんはそもそも私の話を多分まともに信じてはいなかっただろうから驚くのは当然だろう。一番目を剥いていたのは座っていたセラだったのは少し笑いそうになったが。
「え、今の……」
「入るぞ」
セラが問い掛けようとした瞬間に応接室がノック無しで開かれる。言葉を強制的に止めさせられたセラが不満そうにそちらを睨む。入って来たのはパパの上司だった人だ。連絡してあるらしいからパパかと思ったがどうやら先に上司の人が来たらしい。名乗られている訳では無いから確証は無いが間違えていなければ斎藤さんだった筈だ。
「……姿が変わらんな」
「貴方は歳が……凄い老けたように見えるね」
「失礼だな。人はこんなものだ。ましてや十二年も経っているのだからな。まだ現役でいた事に感謝して欲しいものだ」
それもそうだ。斎藤さんはあの時既に五十後半程度にはいっていたと思う。
「定年は?」
「断った。とは言っても流石に歳が歳だからあと五年も続けられないだろうが……定年を断って良かったよ。私以外が君を対処するとなれば排除の方向に向かいかねんからな」
そう言いながらもキビキビとした動きで椅子に座る斎藤さん。まあ確かに地球の人にとって私は危険人物である事に間違いは無い。実際適当に手を振るだけで車は吹き飛ばせるし飛行機の高さにも飛べる。本気で殴ればビルも崩せるだろう。魔法を使えば地殻変動も起こせる。そんな存在相手に排除する動きなどすればどうなるか分からない。
まあ流石にこの世界で襲われたからと言って暴れるような事はしないがそんな事は誰にも分かりはしない。実際私は以前の時点でパパを襲った車の人や宗教施設?の人達に仮吸血鬼とでも呼ぶべき人達など何人か殺しているし説得力も無い。それに斎藤さんは私の創命魔法の発動も見ている。あんなものを身体の内に秘めた存在など出来るだけ手の届く所で監視しておきたいだろう。
「排除出来るとは到底思えないがな。まあそれはどうでもいい。それよりその二人の保護で対価をくれると言ったな?」
どうやら斎藤さんは応接室に入るより前に私と小山さんとの会話も多少聞いているようだ。
「うん。あ、あと今は何処に居るか分からないけど実はまだこっちの世界に飛ばされた人達が何人か居ると思うんだ。見付け次第連れて来るからその人達の保護も頼みたい。勿論その分の対価は払う」
私の言葉に少し考えて斎藤さんは首を縦に振りながら分かったと言ってくれた。これである程度の憂いは取り除けたと言ってもいいだろうか。勿論恐らくこっちに来ているであろうシャイラ達を見付けなければいけないのでまだまだやる事はあるが。
シャイラ達の魔力は私からしたら凄く小さいので魔法で探索というのも難しい。後単純にセラ関係で来たと思しき爺?とやらの人の魔力を知らないので普通に探せない。
あの時発生した揺らぎは私とジィジの魔力で生まれた。恐らくそれのせいで私関係とセラ、正確にはジィジ関係の者を引っ張る力が強くなった。その結果がシャイラ達やカーシャ達の引っ張りなのだろう。引っ張られた側はたまったものじゃないだろうが。それを考えれば親とかを引っ張る力が一番強くなりそうだが血縁関係というよりは一番近い人が引っ張られるのだろう。
「ふむ、分かった。取引は成立だ。付いてくるといい。君に頼みたいことがあるからね」
そう言うと斎藤さんはさっさと立ち上がると部屋を出て行ってしまう。慌てた私はフナイとセラを置いて行くから二人を頼むと小山さんにお願いして追いかけて行く。勿論二人にも小山さんと一緒に居るように伝えておいた。
「せっかちだなぁ、もう」
斎藤さんを追い掛けて入った部屋はどうやら会議室か何かだったようで応接室よりも広い部屋だった。とはいえ会議室にしてはそれ程大きくはない。小会議室とでもいうべき大きさだ。その会議室のテーブルにはプロジェクターが置いてありそれと携帯をどうやら連動させているようだった。
「君がこちらに来ていると聞いてね。少しばかり捜査資料を撮って持ってきたんだ。君なら調べられるかもと思ったからな」
そう言ってプロジェクターを操作して映し出されたそれらはどうやら未解決事件の中でも証拠不十分になりそうな事件達らしい。警察も勿論無能という訳では無い。寧ろどちらかと言うと犯人達がより狡猾だったという感じだろう。実際見るだけでもどれ程念入りに計画された犯罪かが所々で感じられる。
「彼等の保護を終わった後でもこういった事件の解決を君がいる間だけでもいいから手助けしてはくれないだろうか」
斎藤さんはそう言って真剣な目で私を見た。
「……まあいる間だけで良いならやるよ。この国が平和になればなるほど生活しやすくなるし……小山さん達やパパ達のためにもなるしね」
私はそう言って笑みを向けた。
スイ「……ん?つまり私は斎藤さんの部下?パパの後輩だ!」
斎藤「……(何で喜んでいるんだ?)」




