404.かつての人
『……もう一度聞くぞ?その子は本当に異世界から来たって言ったんだな?』
「はい。白い髪の女の子で凄く可愛い子が異世界から来た……何だったかな?まお?とかなんとかの娘だって。暫くよろしくとも言ってましたね」
『……そうか。分かった。俺が行くまで絶対にその子に不便なんかさせんなよ。お前の首が飛ぶだけじゃ済まないからな。分かったな』
「不便なんかさせないですよ。それよりあの子一体何なんで……って切れたし。何かめっちゃ焦ってたっぽいなぁ」
電話の受話器を置いて椅子の背もたれにぐったりといった感じに背を預ける。そのままの勢いで行儀悪く顔を後ろに向けると白い髪の女の子が何やらカレンダーを見て何度も目を瞬かせている。その瞳は綺麗な翠色をしていて透き通るような目とはこういう目のことを言うのだなぁなどと思った。
白い髪の女の子には二人の同行者が居て一人は白衣を着た美人という言葉が良く似合う女性だ。少し化粧が濃いめではあるが決して派手でも無ければ下品でも無い。寧ろ少し隠し切れない上品さの様なものすら感じる。もう一人はかなりのイケメンだ。優男というのだろうか。お人好しのような雰囲気が醸し出されている。女の子とは少し歳が離れているようだがもしかしたら彼氏彼女とかなのかもしれない。リア充爆発しろとボソッと呟く。
それにしても不思議な三人組だ。女の子の話を真面目に聞くなら異世界から来たらしいがそれにしたって共通点が無さそうなもんである。というかどういう繋がりなのだろうか。
受付を担当していた愛川さんが困ったような表情を浮かべている。困った表情も可愛いなぁなんて事を考えていたらいつの間にか女の子がこっちを見ていた。それに釣られてか愛川さんが俺の方を向いて手招きする。マジか。遠巻きに見るならまだしも明らかに厄介事にしか見えない女の子達に関わりたくないんだけど。
しかし女の子も愛川さんも明らかに俺を見ているし優男も美女もこっちを見ている。同僚達は見て見ぬ振りをするかほら行けよって背中を押してくる。押したあいつは後で飯奢らせてやる。見えないように溜息を吐きながら女の子達に近付いた。まさかこの出会いがあんな不思議の始まりになるとはこの時の俺は夢にも思っていなかったんだ。知っていたなら全力で断っていたと言える。だけどこの時の俺は「まあ愛川さんとお近付きになれるし可愛い女の子達とも知り合えるしまあ良いか(野郎は除く)」とか呑気に考えてたんだ。僅か一週間で悔やむ事になるとは思ってなかった。
私達の方を見てにこにこしているちょっと軽薄そうな男の人が居たので見ていたら担当していた愛川さんという女性が呼んでいた。男の人の苗字はほりかわさんと言うらしい。
「どうしたの、愛川さん?」
「えっと、この子達の話を聞いてあげて欲しいんですよぉ」
どうでもいいけど愛川さんの声が私と話していた時よりワントーンかツートーン位高いしちょっと媚びてる感がある。男に好かれようとするタイプの女の人らしい。別に悪い事だとは思わないがさっきまで普通に喋っていた私が目の前に居るのにそれをする辺り何と言うか普段からこんな感じなんだろうなぁなんて思った。
「こんにちは、堀川です。えっと、お話聞かせて貰っても良いかな?」
軽薄そうな人なのに割と丁寧な対応で警察官になるような人はやっぱり丁寧さとか礼儀とかをしっかり意識しているのだろうなと思った。ちなみに警察署に入って速攻で伸す羽目になった銃を持った男の人はどうやら取り調べ室から脱走した強姦魔だったようだ。その場で手錠を掛けられた後、追い掛けてきた頬に痣のある警察官の人が私に謝罪と感謝を告げていた。本当ならもっとちゃんとした聴取を取るようだがそれは後日となった。理由は私の名乗りのせいである。
「良いけど愛川さんに話した内容と変わらないよ?」
そう言いつつ先程まで説明していた内容を言う。何度も説明していたお陰でスムーズに言う。異世界アルーシアからこちらの世界にやってきた存在であること、前にも同じような形でこちらに来たことがあること、以前は警察官の人の家族に迎え入れて貰っていたことなど説明した。フナイとセラはただの同行者という事にした。フナイは別に説明してもやましいところは無いので構わないのだが元敵のセラの説明が面倒臭いのでやめておいた。あとジィジの存在は完全に秘匿する。あれは明らかに化け物でしかないし。
「う〜ん、そうかぁ……」
堀川さんが凄い何とも言えない表情を浮かべている。
「えっと、要は保護してもらいにきた……って話で合ってるかな?」
「ん、合ってる」
私が頷くと堀川さんはまた頭を悩ませ始めた。
「最悪何処かの家を私達だけで暫く借りられればそれでいいんだけど難しい?」
「戸籍は当然無いよね?」
「無い。というかあると思う?」
堀川さんの質問に質問を返すとそりゃそうだよねと納得された。
「元々世話になっていたっていう警察官の人の名前は分かるかな?」
「何年経っているか分からないから生きているのかも分からないんだけど。私が見た感じ何十年単位で時間が過ぎてそうだし」
「まあそれでも言って欲しいな。もしかしたら資料として残っているかもしれないし」
「それもそうか。えっと私のパパになってくれたのはね、田崎仁っていう人だよ」
「……ん?」
「それで私の護衛をしてくれていたのは小山晴彦さん、柏木さんとかも居たのかも?流石に多かったし名前を聞いてないから全員は分からないかな。あ、上司の人の名前なら分かるよ。斎藤秀一さんだったかな?病院に行った時のお医者さんの名前も分かる。確かパパの友達で青田昇さんっていうの。カルテはどうなったか分からないからもしかしたら残ってないかもだけど」
「……え?」
「ん?」
「小山さん?」
「ん?うん。小山晴彦さん。なになにっすって感じの話し方をするちょっとチャラそうな、でも凄く優しくて面白くて良い人だよ」
私がそう言うと堀川さんは首を捻る。
「チャラ……そんな感じかなぁ?いやでも……うーん?」
「もしかして小山さんは生きているの?でも、あれから何年が経って……もしかしてカレンダーの元号って変わってからそんなに経ってないのかな……それなら……?」
「そっすね。君が帰ってから十二年くらいっすかね?確かこんな感じで話してた記憶があるんすけど……」
突如として入ってきた声に振り返る。そこに居たのは歳を重ねたからか少し落ち着いた雰囲気になった男性が居た。
「久し振りだね。みどりちゃん。来たと聞いてすぐに飛んできたよ」
そう言って笑みを浮かべた小山さんに私は笑顔を向ける。
「私にとっては久し振りって程じゃないんだけど……随分と歳を取っちゃったね小山さん」
「そうだね。君があちらでどうなったのか凄く気になっていたんだ。少し思い出話でもしないか?」
そう言って茶目っ気を感じさせるウインクをした小山さんは昔から変わらない感じがした。
「ん、いっぱい話しよう。私も話したいことがあるし聞きたいこともあるんだ」
「うん。ああ、すまないが応接室を使うから……堀川お茶とお菓子でも持ってきてくれ」
「え、俺です?」
「さっきまで話してたんだろ?お前も聞きたいだろうしついでに居たらいい。っとみどりちゃんは良いかい?」
「ん、構わない」
「だそうだ。あの人達の分も忘れるなよ。お前が担当になるんだから」
「……はい」
堀川さんが少し面倒そうに歩いていくのを横目に私は小山さんに笑みを向けて話を始めるのだった。
愛川「はぁ……小山さんって格好良いわぁ。あの人になら抱かれたい……」
堀川「……(色んな意味できついわこれ……)」




