402.どうしよっかなぁ……?
「……」
フナイが窓の外を見て呆然としている。その横では同じく目を覚ました王女を名乗っていた女セラがポカーンという表現が似合う程目を見開いている。私はそれを見ながら赤ちゃんの頬をぷにぷにしている。ちょっと現実逃避しているのだ。
「……うわぁ……何この……あの……うわぁ……」
語彙力が完全に低下した様子で意味もない言葉をフナイが呟きセラは目をゴシゴシ擦って外を見てはまた擦るを三度繰り返してから振り返った。
「ねぇ……貴女ならここが何処か分かっててどうしたら良いかも分かるんじゃない?」
「分かるけど敵の貴女に教えるとでも?」
「良いじゃない。今更敵対なんてしても仕方ないしぃ、それにどうも爺も巻き込まれてそうだしねぇ。流石に私も今の状況で調子に乗れないのは分かってるもの。まあ貴女や、えっと、誰?」
「え、あ、フナイです」
「そうそう、フナイが許してくれるなら私は役に立つわよぉ?」
「私はどっちでも良いよ。私自身は貴女に恨みなんてないし敵対したら敵対したで即殺すで良いだけだし。フナイに任せるよ。あ、でも赤ちゃんを人質に取ろうとした罰として私の奴隷にでもなるっていうならフナイの説得しても良いよ?」
「やぁよぉ、こんなんでも私王女様、奴隷なんてなれないわぁ。ならないと死ぬとしてもだぁめ。それは私の矜恃的にも国家的にも許されないわぁ」
フナイは少し悩んでから声を上げる。
「そもそもどうして僕を殺そうと?僕とセラ王女の間には特に何かあった記憶は無いのですが」
「無いわよぉ?それに私が用事があったのは血塗れ幼女さんだもの。暗部に秘密裏に攫って来いって命令したのよぉ。そしたらどう解釈したのか知らないけどフナイを殺そうとしたみたいねぇ。あれじゃない?保護者に見えたのかもねぇ?」
「え、何、むしろ私の敵なの?死ぬ?」
「やぁねぇ、私は攫って来いとは言ったけど殺せなんて言ってないわぁ。私が知りたいのは貴女の馬鹿みたいに多い魔力とその強い身体能力の秘密が知りたかっただけだもの。ほらぁ、ジィジちゃんの研究に役立てたかったのよぉ。そしたら内容的に表向きにでもお誘いするのは厳しいじゃない?だから攫って来てって言ったのよぉ」
「でもそれ私が協力しなかったりしたらそのまま幽閉コースだよね?」
「そうなっちゃうわねぇ」
「やっぱり敵じゃん」
「もうしないから許して欲しいわぁ」
セラが私にしなだれ掛かってきたのでデコピンで弾き飛ばす。
「……っ!?いったぁい!?え、何その威力!?デコピンよねぇ!?本当に!?穴空いてたりしなぁい!?」
「しないよ。力加減は得意な方なんだ。痛みだけ与えるのもね?」
「……さすが血塗れ幼女ねぇ、こわいわぁ」
「それでフナイ許すの?」
「……う〜ん、まあ良いかな」
凄く軽く許しちゃったフナイに少し呆れながらも、だから皆から慕われるのかなぁなどとも考える。
「それより今がどうなっているのか気になるんだけど……スイちゃんは分かってるんだよね?」
「うん。懸念は幾つかあるけど大した事じゃないよ。いや……うん、まあそこそこ大した事はあるけど」
「何それぇ」
「ん〜、まあ良いか」
私は倉庫内部に置いてあったよく分からない器具の上に座ると魔力を練る。私としてはごく普通の魔法だが規模が規模なだけに魔力がそこそこ多く見えるらしくセラがビクッと震えフナイも少し警戒した。ジィジとやらもティルの内側で動こうとして全く動けずにシーンとしている。
「とりあえず……おいで、バロン」
私の呼ぶ声に応えて出て来たのは小学校二年生くらいの女の子。女の子は私以上に無表情、というか表情を出すという事が出来ないらしい。頭にはかなり特徴のある仮面が付けられている。ふさふさした白い毛、人毛で出来た顎髭、金と目打ちされた皮で装飾された不思議な仮面だ。
「………………」
呼び出されたバロンは何も言わずに私を見上げている。私がそっと仮面を被せてあげると先程までの大人しい、いや大人しすぎる態度から一転し跳ね回り始めた。その奇妙な行動に女の子が出現したことに驚いていたフナイやセラもビクッと怯える。
「とりあえず創命魔法が発動したということは私の知る世界でかつパパ達と出会った後の時代ってことか。良かった。発動しなかったら概念そのものが無いから違う似た世界か過去の時代になってたもの」
フナイ達と過ごしているあの時代に創命魔法が発動しなかった理由は見当がついている。というかほぼ間違いない。創命魔法は父様が創り出した新たな概念、新たな魔法だ。つまり父様が生み出すまではあの時代にその痕跡が存在してはいけないという世界の理による強制改変だったのだと思う。
つまり今この子達を生み出せたという事は少なくとも一度私が創命魔法を発動させたことのある世界かつパパ達に出会った後の時代ということだ。これが懸念の一つだったのだ。パパ達と出会っていなくてもその辺りはどうにでもなるが最悪なのが似たような発展を遂げた別世界であった場合だ。そうなると戻るのもかなり困難になる。
「後はこっちの世界の方が赤ちゃんを育てる上では凄く楽ってことかなぁ」
粉ミルク、紙おむつ、幼児服に玩具、とアルーシアと比べるのも馬鹿らしくなるほど簡単だ。お金はそう簡単には手に入らないが最悪質屋にでも行き錬成した宝石でも持って行けば買い叩かれようがお金は手に入る。
バロンが跳ね回るのを途中でピタリと止めるとそっと仮面を外してスイを見つめる。
「ありがとバロン、また用事が出来たら呼ぶね」
私がそう言うとバロンは少し止まった後頷く。バロンは厄災払いの力を持つのでこの場の皆に祝福を授けて貰ったのだ。特に身体能力が上がったり呪いで下がったりとかはしないのでパッと見ても動いてみても分からないが一応運的なものは良くなってるはず……。
「さてと、とりあえず倉庫から出ようか」
私がそう言って扉へと向かうと二人が付いてきて……。
「あ、ちょっと待って。そこのジィジ?はどうしよう?死なないならそのまま海に沈んでおいて貰う事って出来る?」
「ジィジちゃんにそんなことさせられないわぁ」
「え?じゃあ貴女も一緒に沈む?」
「ジィジちゃん海の中で大人しくしていてくれるぅ?」
凄い早い変わり身だった。ジィジはティルに包まれたまま頷いたようなのでティルを回収する。
「その黒い羽の……布?マントかしらぁ。それってなぁに?」
「教えない」
探究心かはたまた好奇心かあるいはその両方かセラは目を輝かせて問い掛けてくる。私はアーティファクトの事を伝えるつもりは無いので適当に言って倉庫の扉を開ける。鍵が掛かっていたようだが魔力を使えば内部から開けることも容易ければ逆に閉めるのも容易だ。特に何てことはなく扉が開いた。
「ん〜外の空気はいいわねぇ。あの中はちょっと埃っぽかったもの」
セラが背伸びをしてそう言いながら周りを見る。その意見には同意するようでフナイも頷いていた。どうでもいいが二人は意図していないとはいえ敵対関係だったのに何でそんなに普通の反応なのだろう。その心境を聞いてみたいけど多分言われても私とは思考が違いすぎて理解出来ないだろうからやめておいた。
「う〜ん、多分、北寄り?北海道とかまでは行かないけど東北っぽいかな?寒いし」
滅茶苦茶適当にそう言うが実際は知らない。というか旅行などもそう頻繁に行っていたとかではないので普通に分からない。パパと離れた時も結構適当に走り回っていたし。
「そう言えば……」
パパ達と会うにしても住所そういえば知らないなと思った。色んな意味で詰んだかもしれないとスイは天を仰いだ。
スイ「やばいなぁ。割と途方に暮れそうだよ?適当に走り回ってもいいけど……絶対二人置いてけぼりになるよねぇ」




