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401.境界の災害



「不死身……?」

血を吐きながらスイはそう呟く。ジィジはギチギチと牙を噛み合わせてスイへと殺気を向ける。

「ええ、そうよぉ。ジィジちゃんはね。私の最高傑作なの。どの種族よりも強い肉体に命という概念のない存在、魔力も地脈から引っ張ってくるから永遠に途切れることは無い……そ、れ、に」

スイが手元で錬成して作った金属製の針を女に対して振り返ると同時に投げ付けると前に居た筈のジィジが即座に女の前に現れてその身体で受け止めた。

「私の危機に対して凄い反応速度で助けに来てくれるの……♪まさに王子様って感じがしない?」

「そんな気色の悪い白タコ王子様なんて誰にも看取られることも無いまま深海に沈んで海溝深くで圧力でペタンコになってマグマで消え去ればいい」

「いや物凄い言葉で攻めてくるわね貴女」

スイの苛立ちと共に放った言葉は切れ味が鋭く女も少し引き気味だ。

「ま、まあ良いわ。それにしても貴女随分と強いのねぇ?やっぱり思っていた通りだったわぁ」

女の言葉にスイは眉を顰める。

「あらぁ?まだ分からないの?私は貴女達を襲うように指示を出した張本人だって事よ」

「え、貴女みたいにちょっと下品な感じのする人がこの国の王女?この国滅ぶ一歩手前だったりしない?」

「失礼過ぎない?」

「というかえっとそれならセラってのが貴女なの?十五歳……?」

「そうよぉ。私がセラ、セラウィム・エクト・ラードラス。この国ラードラスの第三王女」

「そしてフナイを殺そうとした張本人でイカれた変質者」

「最後の言葉要る?」

先程からちょくちょく出るスイの暴言に少し傷付いたのかセラはちょっと涙目だ。とはいえスイからすればいきなり襲い掛かってきた挙句にドヤ顔で自分が襲った人だと名乗られても死にたいのかな?としか思わない。

「えっと、とりあえず殺すね?」

「とりあえずの範囲が凄くない?大体の人は殺されたら死ぬのよぉ?」

「でもそれをフナイにしようとしたでしょ?ならされる覚悟もあるよね?」

「あれは……」

「いや別にどんな理由があろうと私が貴女をさっさと殺して終わらせるのは変わらないから」

そう言うとスイは魔力を溢れさせる。可視化出来るほどに濃密なその魔力によって地面がひび割れ始める。さすがに危険だと思ったのかセラはジィジの影に隠れるように下がる。

ジィジも話の通りなら地脈から魔力を引っ張ってきたのだろう。何処にそれほどの魔力量があったのか不自然な程魔力を全身に漲らせている。どうやら魔法として使用することは出来ないようだ。

「死ね……極天神雷・雷霆の鎚(ミョルニル)

一撃で全てを消しさる為に込められた魔力量はスイが使う魔法としては最大級のものだ。獄炎(ゲヘナ)天雷(ケラウノス)は多段ヒットするがこれはただ一撃に全てを込めている。ただし発動すると凄まじい勢いで着弾するので回避はほぼ不可能だ。というか早すぎてスイですら避けられない。勘で避けようにもそもそも着弾範囲が割と大きいので直撃は避けられたとしても完全には避け切れない。

そんな魔法を放ったスイに対して地脈から魔力を引っ張ったジィジはその膨大な魔力に任せて凄まじいほどの密度の魔力を纏って装甲のようにしてそれを受け切ろうとする。ここでスイもいやこの場にいた全ての者にとって予想外だった出来事が起きた。

原因は勿論スイの魔導師何十人で使うレベルの儀式魔法に近い魔法と同じく魔導師何十人で使う規模の魔力を地脈から無理矢理引っ張り出したジィジのせいである。局地的に発生した凄まじい規模の魔力はぶつかりあったその瞬間に周りに飛散し死んだ魔物化兵士達に宿った。その結果有り得ない規模で唐突に生まれたその揺らぎによって空間が軋み近くにあったものを根こそぎ引っ張ったのだ。

「え?」

「何?」

「ジィ……?」

それは遠くに逃げていた筈のフナイすら引っ張る程の強烈な引力で一瞬にして空間を歪ませた。スイが見たのはまだかなり遠いが今この場に居る筈のないシャイラ達にカーシャが慌てた様子で居たことだ。それはセラの方もそうだったようで小さく爺?と呼んでいた事からそれは理解出来た。

しかしそれ以上を理解するよりも早く揺らぎが一気に膨れ上がりスイ達を飲み込んだ。飲み込まれる寸前に咄嗟にスイは自身の身体を強固に魔力と結界で守った。揺らぎは魔族にとって致命的過ぎる災害だ。飲み込まれたが最後生きて出られるとは到底思えないそんなものだ。本当ならフナイや赤ちゃん、何故か居たシャイラやカーシャ達も守りたかったが流石に余裕が無さ過ぎた。

そして揺らぎに飲み込まれて数秒かあるいは数分、数十分、もしかしたら数日だったかもしれない程の時間感覚がおかしくなるその奇妙な体験を繰り広げた後、唐突にその感覚が失せた。

スイはそれでも暫く魔力で守っていたがそれが削られる感覚が無い事から何故か揺らぎから出られたのだと思いその強固に張った結界と魔力の膜を剥がした。

そして見た景色は薄暗い。同じ場所だとしたらかなりの長時間揺らぎに飲み込まれていたということだろう。それ程の長期間揺らぎに飲み込まれて生きた魔族は居ない。局地的に発生したということからそれほど安定性が無くて助かったのかもしれない。どちらにせよ魔族史上初めての揺らぎからの生還者になったようだ。

「ふぅ……死ぬかと思っ……た?」

そう呟いて周りを見渡して違和感に気付く。正確には気付いていたが理解が追い付いていなかったというべきか。スイ達は四方を何かに囲まれていた。暗いため何に囲まれているのかは分からないが屋根があることから何処かの建物だろう。そして少なくともあの平原ど真ん中に近い場所に屋根付きの建物などない。

「ここ何処?」

スイは仕方なく指輪の中から地球で買った懐中電灯を出して使う。そしてすぐに理解した。理解したくは無かったが。

「いやいやいやいや、そんなのアリなの?」

屋根にはやたらと綺麗な窓が嵌っていた。まだガラスを作る技術が拙いあの異世界アルーシアでは見たことがないほど綺麗でスイには見慣れた物だった。ふらふらと立ち上がり窓から外を眺めた後その場にペタンと座る。そしてスイは呟いた。

「…………後……六十年って所かな……」

それはこの世界と異世界アルーシアが近付く瞬間でそれ以外を逃せば今度は百年単位でズレるだろう。世界間距離というのは本来あまり重ならないのだ。前回は比較的近くに来た時に無理やりこじ開けたが今回は無理だろう。何せ使おうとした瞬間にスイの身体から嫌な音が聞こえて吐血したくらいだ。

「ごほっ……あぁ〜、これは無理だなぁ……」

スイはもうなるようになれーとばかりに吹っ切れたように指輪からアーティファクト類を出すとティルを使って意識が飛んでいるらしい近くで転がっている白タコ、ジィジをぐるぐる巻きにした。そしてスイは恐らくかなりの人数巻き込んだであろう逆召喚された人達に静かに謝罪の念を送っておいた。

「あぁ〜、というか分かったなぁ……シャイラ達がどうして長生きしたのか……こっちで過ごした後戻った時に時間ずれたな?はぁ…………って分かるかぁ!そんなの!!」

スイは久し振りに気力を使い果たし横になったのであった。

スイ「もしかしたら揺らぎに飲まれたうちの何人かはこっちに来てたり……はしないよね。とんでもない圧力だったもんね……よく生きてたな私……」

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