399.極秘情報
「ん〜、フナイ大丈夫?」
「何とか大丈夫だけど……此処は何処なのかな?」
「私は知ってるけど言ってもフナイは知らないかなぁ」
そう答えながら私は周りを見渡す。場所としては何処かの倉庫なのだろう。奇跡的な確率で此処に来たようだ。
「さてと、どうしよっかなぁ……」
私は溜息を吐きながら倉庫の窓から外を見る。そして当然の如く広がる雄大な海の景色とそこを行く船の姿を見て背後を見る。そこに居たのはフナイともう一人意識を失っている白衣の女性、私から離れたティルによってぐるぐる巻きにされた何かだ。
再度窓から外を見てそれを見て私は大きく溜息を吐きフナイ達に向き直った。
「暫くはこっちで過ごさないと行けないかなぁ……はぁ」
ずっと持っていた籠の中から赤ちゃんの頬をつんつんとして癒される。その背後の窓から見える空には銀色に輝く飛行機が飛んでいた。
襲撃が起きてから駆け付けた兵士に事情聴取を受けて襲われただけだと身振りに手振り、魔法まで使いながら思い込ませてその場を去ってから三日が経った頃、次の街への馬車が出せるという事で待っていたらそれは起きた。再び襲撃が起きたのだ。
馬車に乗り込もうとしていた私は結界を張って飛んできた矢を弾いたのだが、御者の一人が敵だったのか乗り込みかけてはいたが中途半端に足を掛けていた私は突如走り出した馬車に引っ掛けられて転んだ。
「いった……」
既に乗り込んでいたフナイを乗せたまま走り出した馬車を追い掛けようとすると私の目の前に黒ずくめの男達が十五人も現れる。背後にも七人居て他の人に見られることにも躊躇していない。
「どうせ私に殺されるなら見られてもいいやって事?舐めてるの?」
私が魔力を溢れさせるとそれだけで黒ずくめの男達の身体が強張った。
「死にたくなければ退きなさい。さもなくば貴方達の家族、縁戚、友人、恋人、上司、仕える主までのその全てを殺すぞ」
言葉と共にこの場一帯を覆い尽くして余りあるほどの魔力を溢れさせる。黒ずくめの男達は最早ただの意地で立っているだけの様になったのを確認して男達の横を素通りする。息も出来ない程の圧を感じているのかピクリとも動かなくなった男達を横目に馬車の方へと走り出す。それと同時に男達の緊張の糸が解けたのか倒れ込む音が聞こえた。
「あれで二度と襲わないだろうし早く追い付かないと」
私は少し走る速度を上げて馬車を追い掛ける。フナイは奇襲や闇討ちに弱そうではあるが流石に敵襲には気付いて警戒しているだろうしそもそも上位の探索者なので即座にやられるようなことは無いだろう。とは言っても急がないと何が起きるか分からないし一応護衛なので守らないといけない。
「……本気出すか」
今までは亜人族なら何とか?というレベルで動いていたが街を離れた以上誰かに見られるようなことはそう無いだろう。なら別に本気で走っても良いだろう。そう思った私は全速力で馬車を追い掛けて僅か一分後に見付けた。
「よいしょっと」
見付けたと同時に御者台にジャンプしてめり込むように蹴りを食らわせると御者台が一瞬地面に当たり次の瞬間弾け飛んだ。御者をしていた男がぎゃあっと悲鳴を出して地面にダイブするのを見てから馬車内を見ると衝撃でこけたのかフナイに襲いかかっていたらしい男がフナイの剣で切り裂かれていた。どうやら私が助けに来ると思っていたからかフナイは衝撃があった瞬間に攻勢に出て倒したようだ。
「やぁ、スイちゃん。来ると思ったよ」
「当然でしょ?護衛なんだから。でも少しの間とはいえ留守にしちゃった。ごめんね?」
「大丈夫だよ。襲ってきたのは一人しか居なかったしね。流石に馬車内で立ち回るのはしんどかったけどそこまで剣の腕は良くなかったし何とかなったからね」
そうフナイは言うが一人で殺せると思われていたのかそれとも一人で十分だと思われるほど襲って来た者が強かったのだと思う。そして国の暗部なんていうものに所属しているであろう人がまさか暗殺対象を見くびったりはしないだろう。まあ暗殺に特化していて正面戦闘が弱い可能性はあるが。というかここまで来ると暗殺じゃないだろう。もうただの殺人集団である。
「御者の人は?」
「さあ?走ってた馬車から落ちたんだから大怪我は負ってると思うけどどうでもいいよ」
私はそう言うとフナイの近くに寄り……飛んできた腕を弾いた。
「え?」
「びっくりしたなぁ。腕が伸びる人とか初めて見たよ?」
私は馬車の外から飛んできた腕の持ち主である御者を見る。その御者の右腕は明らかに五メートルは伸びておりどう考えても人の攻撃には見えない。だが見た目は人族である。魔物ではない。
「どういう理屈で腕を伸ばしたのか気になるなぁ……」
私は御者の方を見ながら馬車に使われている鉄の軸を錬成で鞭のようにしならせて先程フナイに斬られた筈の男の首を引っぱたく。男は明らかな致命傷を受けているのにその手に剣を握り締めて背後からフナイを殺そうとしたのだ。
「不思議な人達だね?どうやって死にかけの状態で動いたり腕を伸ばしたり……羽を出せるんだろうね?」
私が遠くを見るとどう見ても先程見逃してあげた黒ずくめの男達が色とりどりの羽を生やして此方へ向かって来ていた。
「亜人族じゃないし……そもそも羽生やしたり腕伸ばすような亜人族なんて居ないか」
私は考えてよく分からなかったので首を捻った。多分人体改造か何かしたのだろう。というかそれ以外に説明が付かないし。魔物の特性か何かの移植をされたのかもしれない。ただそんな技術が昔存在したとは父様の知識にも無ければテスタリカ達にも聞いた事がない。
「ん〜、生まれるよりも前に出来て失伝した技術ってことかな?それとも元から技術の継承がされなかったか……暗部の人がなっていることを考えたらそもそも技術を残すつもりがなかったのかな」
実際さっきまでの黒ずくめの男達とは桁違いの魔力が溢れている。これだけのパワーアップをするなら技術が漏れる可能性を残すとは思えない。まあその代わりこの魔物化とでも言える変化は魔力的に変質していることを考えれば不可逆っぽいので不用意には使えなさそうだ。だが意識を残した状態で魔物の特性と魔力的な意味でも身体的な意味でも能力向上がされるとは中々凄い技術だと思う。常人の思考ではないがその発想とそれを実用化までこぎ着けたその努力は認めたいと思う。
「まあその程度で私に敵うと考える浅はかさは滑稽だけど、ね」
次の瞬間私が伸ばした魔力の糸に絡まったそいつらは細切れになる。気付いて反応した者も二名程居たが如何せん遅すぎて逃げ切れてなかった。流石に細切れになると復活は出来ないのか動くことはない。万が一を考えて全員を焼き払って灰にしておく。これで間違いなく復活は出来ないだろう。
「ん〜、しっかし誰がこれをしたんだろうね?」
「いやぁ、分からないけど……余計に目を付けられて殺しに来そうな気はするねぇ」
「だねぇ、国の極秘情報っぽいもんねぇ」
魔物化技術なんてどう考えても出しちゃいけない情報だろう。そこまでしてでもフナイを殺したい理由が本当に分からない。
「ねぇ、本当にフナイ何をしたの?何があったらここまでしてでも殺しに来ようとするの?」
「さっぱり……!分からないよ!僕……本当に何したのかなぁ……」
遠くを見始めたフナイが少し可哀想に思えてきた。とにかく王都に早く着いて真相を確かめようと二人で思ったのだった。




