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397.襲撃者



「これは想定してなかったかなぁ」

悪魔の雷雨(デーモントーチャー)でフナイを狙った刺客を仕留めたはいいものの見に来たら路地裏で黒ずくめの男が明らかにスイの魔法以外でその命を散らしていた。

恐らく男が持っていたのであろう黒塗りの短剣が地面に落ちておりそれで男は自分の首を切り裂いたのだろう。その短剣は刃先から紫色の雫を垂らしながら落ちていた。

「毒付きの短剣かぁ。自害用とも思いにくいし相当恨まれてるんだねフナイ」

「困ったなぁ。僕にもどうしてここまでされなきゃいけないのか流石に分からないよ」

色々と狙われる覚えはあっても命まで狙うようなレベルのものは無いと言っていただけにフナイは困惑している。まあ普通に考えて命を狙われる程となると相当やばい何かに首を突っ込んでしまったと見るべきだろう。フナイは実力者ではあるがあくまで普通の探索者。であれば仕事中のトラブルというよりはプライベート、あるいは仕事中に知ってしまった危険な何かが原因と思われる。

「フナイここ最近で何かあった?仕事中でもプライベートでも」

「……スイちゃんの言いたいことは分かるんだけど特に何も無かったと思う。討伐依頼は別としても人と関わる護衛仕事も基本的には街から街へ移動する商人の護衛だったりだしトラブルらしいトラブルも無かった。プライベートは家でゆっくりするか組合でカーシャと話すか身体がなまらないように剣を振るかとかその辺りだよ。恨まれるようなことはしてないと思う」

「ん〜、だとしたら勘違いで襲われてるか……はたまた別の目的があってフナイを離したいかだね」

フナイはこの街では数少ない上級の探索者だ。その実力を危険視した誰かに引き剥がされたい、または死んでいて欲しいのかもしれない。でもだとしたら何の目的があるのかが分からない。

黒ずくめの男の服を引き剥がして持ち物を見るが毒付きの短剣が追加で二本、応急処置用の薬や包帯替わりの布、魔法で見た感じやたらと成分が詰まった携帯食料らしい小さな丸薬が大量に入ったケース等しか無く目的に繋がる何かは発見されなかった。後丸薬はちょっと齧ってみたのだが全く味がしないちょっと粉っぽいものだった。間違えてもこれを好んで食いたいとは思わない。

「とりあえず殺そうとした人は暗殺組織みたいなものを動かせる人ってことかぁ」

スイが居る限り殺させることは無いが居ない時は少しばかり厄介だ。かといって四六時中守るのは不可能だし流石にそこまではしたくない。スイにとってこの今の時代は良くも悪くも既に終わった時代だ。フナイが亡くなればその時は悲しくはなるだろう。だがそもそもスイの居た時代に戻ればフナイは既に亡くなった人物である。故にスイにとって最優先は自分と赤ちゃんだけである。

「とはいえみすみす死なせるのも馬鹿らしいし……」

スイはそう言いながらも既に死んだ男に複雑に編んだ魔力を絡ませていく。そして魔法が完成した。

「私相手に死ねば情報が取られないと思ってるのが哀れだね。死己偽生(フェイクライフ)

突如として跳ね上がるような不自然な動きで黒ずくめの男が立ち上がる。その目には光が点っておらず既に死んでいるのは明白だった。しかも呼吸は止まっているのにまるで息をするように胸が上下する。有り体に言って気持ち悪い状態だった。

フナイには魔法の知識はあまり無いと思われるがどんな魔法なのかは察したのだろう。顔面を蒼白にさせスイを見ている。スイはその視線を無視すると魔力を使い男の手足を操ると地べたに正座の状態で座らせる。

「貴方の主人は?どうしてフナイを襲ったの?味方は?色々と教えて貰えるかな?」

スイの問い掛けに瞳の焦点が合わないままに男が答える。

「セラ様が主人、宰相閣下に殺すよう命じられた。理由は知らない。我ら暗部はただ命令に従うのみだ」

「セラ?」

「この国の第三王女である。齢は先日十五となったばかりだ」

「宰相閣下とやらと第三王女は仲が良いの?」

「無論、良いに決まっている」

「ふうん」

というかフナイを殺そうとしているのはどうやらこの国のかなりお偉い人だった模様。

「どうする?フナイが望むならこの暗部?の奴らも殺して宰相閣下とやらも殺してセラ様とやらも殺して終わらせてあげるけど?」

「いやいやいや流石にそれは……」

フナイが苦笑しながらもスイを見るがスイは本気だった。この国とフナイであればスイは迷いなくフナイを選ぶつもりだった。これがカーシャであってもそれは変わらない。スイにとってこの時代で死なせないと思えるのは先日出会ったシャイラ達かカーシャとフナイだけだった。その他は正直どうでもいい。勿論他の者を率先して死なせるつもりもないが目の前にでも居ない限り助けるつもりもあまり無かった。

その想いが多少は伝わったのだろう。フナイは少し息を呑み身体を強ばらせた。しかしすぐに息を整えるとスイに対して口を開く。

「スイちゃん、面倒かもしれないけど助けてくれるかい?」

フナイはそう言ってスイを真剣に見る。スイはそれに対して頷いた。籠の中の赤ちゃんも良く分かっていないだろうにあいっと元気良く声を上げる。

「ありがとう。それじゃスイちゃん、王都へ向かおうか。敵の本陣だしね」

フナイはそう言うとスイにウインクをする。

「似合ってないから辞めた方が良いよ」

「ここに来て裏切らないでくれるかなぁ!?」



そんなやり取りをしたり街を巡回していた兵士に黒ずくめの男を引き渡したりしてから二日後にスイとフナイは王都行きの乗合馬車に乗っていた。王都はやはり人気なのか馬車が四台もあるにも関わらずほぼ満員だった。

途中の街で降りる者も勿論居るだろうが馬車一台辺りに約二十人程乗っているのだから相当な数がこの馬車に乗っていた。ちなみに馬車と書いたが車体を引っ張るのは馬ではなくどうやら魔物と馬などの間に生まれた半魔物のような存在のようだ。見た目は馬にしか見えないが良く見ると足が五本だったり額にぎょろぎょろ動く目玉が付いていたりとおおよそ普通の馬とは言えなかった。一番見た目が普通の馬は芦毛で全身がぼんやり光っている馬だった。

どうやら馬?達はスイの力量を把握してしまったらしく暴れ回ることこそ無いがとてつもなく緊張しているようで動きが固い。何なら偶に出て来る小型の魔物なら役に立つとでも示したいのか率先して殺しに行きさえしていた。車体が付いた状態でそれをしようとしていたので少し魔力を込めて威圧したらそれ以降は無くなったが。

「今回は馬達が大人しいなぁ。楽で良いが体調でも良くないのかぁ?」

と御者の人が休憩時間に心配の声を上げるほどだ。伝わりはしないだろうが思わず御者の人の背中に向けて小さく頭を下げてしまった。そんな事がありつつも王都へ向けて出発した馬車は王都から二つ手前の街、カザールという街で止まった。

どうやらこの先の道が先日降った雨により泥濘に変わってしまった為少し予定を変えるようだ。二台は少し遠回りしてでも先に出発して王都へ、もう二台は少し待機して通れるようになれば出発というものだ。この辺りは雨が極端な程降らないらしいからどちらでも良いのだろう。折角なので街を見て行こうと残る事にした。

後は単純に先行する馬車を希望する人が多かったので馬車内が窮屈になりそうでそれを嫌ったというのがある。勿論二十人乗ってもぎゅうぎゅう詰めという訳では無いのである程度は追加で乗せられるのは分かっていたがスペースが侵されるのが嫌だったのだ。急ぐ旅でも無いし少し待つくらい大した問題でもない。

「スイちゃん、でもカザールでの待機中のお金って基本的に僕が払うんだよね……?」

「私殆どお金持ってないしそうだよ?依頼をこなしても良いけど……フナイ今私が離れても殺されない自信ある?」

最初の襲撃時点でフナイは全く反応出来ていなかったのだ。まず間違いなく離れれば殺されると見ていいだろう。今のところ敵対者らしき存在は感知していないけど相手はプロだ。通りすがりに殺意も敵意も無く刺し殺すぐらいはしてきてもおかしくない。実際最初の弓矢の襲撃の時も敵意も殺意もまるで感じなかった。

「……うーん、無理かな。仕方ない。スイちゃんを護衛に雇ってるんだから多少の出費は仕方ないとしておこう」

「大丈夫だよ。そこまで無駄な出費はするつもりないから」

カザールの観光に使うお金は残ってるスイのお金でやるつもりだ。あまり持っていないとはいえそれはフナイに比べたらであって並の探索者と比べたら稼いでいる方だった。これくらいは負担でもない。

「いやここは僕が払うよ。代わりに王都では頼らせてもらうから」

フナイはそう言ってウインクをする。

「……やっぱり似合わないね」

「心を折るのはやめてくれないかなぁ!?」

フナイ「僕のウインクそんなに悪いのかなぁ……」

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