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392.近道は許されない



「まあ売れないでしょうね」

カーシャに錬成で作った宝石を見せてみた結果、そう返されて少し驚く。あまり多くを作っても仕方ないのでとりあえずとばかりに三つの小さめの宝石と気持ち大きめな宝石を持ち込んだのだが。

「売れないの?」

「買う人が居ないもの。そもそもそれって光石(ひかりいし)でしょ?何かに使える訳でもないし綺麗なだけの石なら見向きもされないわよ」

「そっかぁ、細工物にしたら売れないかな?」

「凄い安くて良いなら買ってあげてもいいわよ?」

カーシャがニコニコしながらそう言うのでスイはぷいっと顔を背けて作った宝石を回収する。その様子を微笑ましそうに見ているのが非常にイラッとする。世が世なら作り出された宝石達は傷一つ無い最高の宝石になるのだろうが残念な事にこの時代では宝石そのものに価値が無いようだ。精々土産物扱い程度で終わるのだろう。

「もういい、私が凄く綺麗な細工を施して皆が羨ましがるような子達にして私が身に付けるから」

スイは割と丁寧に作った宝石を見てそう宣言する。赤ちゃんも同意しているのかはたまた単に綺麗だからなのか宝石の方へと手を伸ばしてあうあう言っている。可愛い。

「そんな怒らないでよ。私だって買ってあげたくはあるけど需要が無さすぎるのよ」

「別に怒ってない。微笑ましそうに見てきたのはちょっとイラッとしたけど買取出来ないのはカーシャのせいじゃないし」

「いやそれは怒ってるんじゃ……んん!まあ、実際その光石が何かに使えるっていうなら話は別よ?でも例え何かに使えたとしてもそれを周知させないといけない以上最初は買い叩く形になるわ。しかも組合の規則で一度買取したものは後から価値が上がっても差額分は払っちゃいけないのよ」

「変な規則だね」

「前にあったのよそういう事が。ポリピンって前に取ってきたでしょ?あれの価値が一時期上がったんだけど上がる直前に取ってきた人が居て損をしたのよ。そうしたらふざけるなって組合の前で大声で叫び始めてね……」

「うわぁ……ご愁傷様」

「ありがと、そういう事だから光石で何か出来るのだとしても周知させてからじゃないと買い叩いちゃうわよ?」

「ん、まあ……これに何か使い道は無いかな。飾り付けにしか使えない」

宝石の幾つかには魔力を貯めたりする特性があるが貯蔵量は控えめに言ってもゴミとしか言えない。その辺に生えてる薬草の方が余程多く貯められるだろう。

「まあ仕方ない。また暫く魔物退治の依頼受けていくね」

「ええ、ただ少しペースを落としてくれたら嬉しいかなってお姉さん思うんだけど」

「やだ」

「……解体所が常に埋まってるし組合が魔物を捌いてお金にするよりも早く次の魔物が来るから組合が持ってるお金が尽きそうになってるんだけどなぁ」

「あ、そう言えばそろそろ組合証の借金も返しきれてるよね。勿体なかったから何となく受けてなかった高額依頼何個か受けていくね?」

「スイちゃん?」

「えへ、行ってきます」

「あ、ちょ、こらっ!」

カーシャの声を聞きながら組合から抜けて行く。最近はこんな感じのやり取りばかりしている気がする。とは言っても本当にパンクするような状態まではさせていない。そういえば何となく違和感はあったのだが今気付いたのがスイとフナイ以外の探索者を数人しか見掛けていないのだ。いつも同じメンバーでもしかしたらこの街の探索者の数は少ないのかもしれない。そこそこ街の規模としては大きめの筈なのだが。

「魔物少ないからかなぁ?それとも他の街に需要があって必然的にこっちに回ってこないのかな?」

まあどちらでも構わないのだが世間話的にカーシャにでも聞いてみよう。フナイは意外に出会わないので話し掛けるには待ち構えないといけない。どうやら朝のタイミングで組合に行っているようだが、スイは昼になるかならないかのタイミングで行くので全く会わないのだ。偶に帰るタイミングで会う程度である。

「お、また魔物退治の依頼か?気を付けろよ」

「ん、大丈夫だよ門のおじさん」

「いつも思うが俺はまだ三十にもなってないんだが?」

「私から見たら二十代半ばまで行ったら十分おじさんだもの」

「そうかぁ……あ、そうだ。このところ森の中が騒がしい。強い魔物が出たかもしれんから危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」

「普通そこは森が危ないから行くなじゃないの?」

「君なら逃げ切れるだろ」

「まあ逃げ切れるけど」

苦笑した門番のおじさんから小さな飴玉を貰う。毎回話す度に飴玉を貰うのだがどうやら自家製の飴らしい。自家製の飴とかいう余り聞かないフレーズは初めてだった。

「あ、べっこう飴食べたいなぁ……」

作り方は比較的簡単だった筈だ。砂糖や塩などの調味料関係は指輪の中に入れているから作ろうと思えばすぐに作れる。というか時間さえあればホールケーキですら作れる。

「むぅ……想像したら食べたくなってきた。作りながら行こうかな」

傍から聞いたら頭が悪い事を言いながら指輪からオーブンやら何やらを取り出して魔法で浮かせながら作り始める。生クリームとかは作らなければいけないが魔法で並行してそれらも作り始める。結界も張りながらなので虫や埃なども入らない。控えめに言って意味の分からないことをしながらスイは森の中に入っていく。

入ってすぐに違和感に気付いた。いつもと違って何かざわついている。とはいえスイに傷を負わせるのは並大抵の魔物では不可能なので赤ちゃんと作っている料理に何か起きないように気を付ける程度だ。

森の半ばまで行くと複数の視線を感じた。狼系の魔物だとは思うが近寄ってこない。どうやら連日森の中で魔物の虐殺をしていたスイの事を覚えてしまったようで中に入ると全く襲ってこないどころか逃げるようになってしまったのだ。まあ逃がしはしないのだが。

視線を感じた方向へ錬成で作った小さなナイフを投げ付ける。狙い違わず刺さったようで草むらからドサッといった感じに頭にナイフが刺さった狼が倒れて出てきた。あまり狩りすぎても魔物退治の依頼が無くなってしまうので狩るのは五匹かそこらだけだ。やろうと思えば森の中から魔物という魔物を消すことすら可能だが流石に面倒だしやりはしない。

「ぁぅーぁ?ぁぁぅぅ」

赤ちゃんが未だに勝手にボウルの上で踊る泡立て器を見て手を伸ばしている。可愛い。

「……そういえば赤ちゃんにちゃんと名前付けないとなぁ」

ずっと赤ちゃんとしか呼んでいないが何となく母親が生きていたらと思って名付けられなかったのだ。だがそもそもこの赤ちゃんはこの時代で生きていくことが確定してしまっている。スイにこの子を元の時代に戻す術が無い以上それはどうしようもない。である以上スイ以外にこの子の母親になれる人は居ない。勿論探せば養子にしてくれる人も居るかもしれない。だがスイの心がそれは無いと冷静に言うのだ。

「……赤ちゃんの名前か。もう少しだけ待ってくれる?良い名前を考えるから」

「あぅ?ぁぃ!」

赤ちゃんの頬を撫でる。嬉しそうに笑うその顔を見て罪悪感が沸き起こる。

「貴方は私が必ず守る。守り続けるから」

「ぅぁぁ?」

「何でもないよ」

赤ちゃんの額に優しく唇を落とす。キャッキャと笑う赤ちゃんを見て少しだけ許された気がした。そんな事は無いのに。



森から帰ったスイは組合に入るといきなり飛んで来た人影に吹き飛ばされそうになりながら耐える。赤ちゃんを籠の中に入れている以上耐えないといけない。まあ薄めではあるが常に結界の中に入れているので怪我をすることは無いのだが。

「ぐっ……」

飛んできた人影はどうやらフナイだったようだ。腕から血が出ておりそれなりに傷が深そうだ。そして飛んできた方を見ると男が四人程にやにやしながら立っている。うち一人は剣を抜いておりそこから血が滴っている。

「おいおい、ここらで一番強い探索者様が無様だなぁおい!その程度の強さなら王都にゃそこらでドブ掃除してるぞ!」

そういう男の強さは……フナイより弱そうだ。フナイに剣を抜いた形跡が無い以上勝手に武器を抜いて斬りかかったのだろう。組合の中ということで武器を抜くのを躊躇った可能性もあるがどちらにせよフナイから攻撃するつもりは無かったのだと推測出来る。

「大丈夫?」

「ああ、腕を斬られただけだからね……」

そう言うが鎧に幾つか殴られたのか蹴られたのかは知らないが凹んだ跡がある。何をされたのかはすぐに分かる。

「大丈夫。だからスイちゃんは来ないでね」

「そして殴られてくるの?なら行かせない。あんな馬鹿丸出しのゴミとフナイなら私はフナイを守る方を選ぶよ」

「けどあいつらは」

「黙って。良く聞いて。私はあれが何かは知らないし貴族であろうが王族であろうが私の知り合いを傷付けるような存在は決して許さない。国を滅ぼすことになろうとも私は敵対するよ。そしてフナイなら分かるでしょう?私はそれが出来るって」

武力には屈さないし権力にも屈さない。決して何者もこの時代に住む人に私を止めることは出来ない。

「だからフナイ。行くなら私が貴方を殴ってでも止めるよ」

「……はぁ、分かったよ。というか君に殴られた方が危なそうだ」

「よく分かってるね。その鎧ごと潰せるよ」

「それは怖いなぁ」

何なら小指だけで貫通出来る。流石に力が入らないし指先が痛そうだから絶対やらないけど。

「女に介抱されて嬉しそうだなぁ?軟弱な田舎者はこれだから!」

そう言って下品に笑う男達の元へと歩いていく。

「お、何だ?嬢ちゃんはもしかして俺達の機嫌取りに来たのか?それなりに顔も整ってるし成長したらいい女になりそうだな」

男の剣に手を伸ばす。不思議そうにこちらを見た男の目の前でにっこりと笑って指先だけで剣を曲げていく。ぎょっとして剣から手を離した男に近付くと曲げた剣を投げる。ぐにゃぐにゃにして丸めたから刺さりはしないがその異常な光景に男達が黙る。

「……この街から出て行け。さもなくば殺す。その剣みたいには……なりたくないでしょう?」

別に今すぐ殺しても良いのだがその場合犯罪者は私になってしまう。それなら罪を犯したこいつらを捌く、もとい裁くとして殺した方が後腐れがない。是非ともこの脅しに屈せず立ち向かってきて欲しいものだ。

男達は悲鳴をあげて逃げた。解せぬ。

スイ「チッ、へたれが」

フナイ「……(いやあ、あれは立ち向かえないだろうなぁ)」

カーシャ「……(こわっ!?)」

他の探索者達「「「……(流石血塗れ幼女)」」」

スイ「……何か不名誉な二つ名が付いたような?」

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