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390.お仕事は大変



「えぇと……もう一回言って貰えますかフナイさん?」

「ああ、あの子は僕達が思ってた以上に強い。僕の介護なんてまるで必要無かった。何だったら僕の移動に合わせてくれてたくらいで足を引っ張ったとさえと思う」

カーシャは目の前のフナイが誠実な探索者である事を知っているが故に信じられない思いだった。

「えっと、ちょっとは手伝ったんじゃ……」

「いや全く手伝ってない。さっきも言ったが足を引っ張ったと思う。警戒心もかなり高いし普通に一人前としてやっていけるよ。信じられないかもしれないけど」

フナイは森で見た光景を思い出す。余りに圧倒的すぎる実力で森の魔物を問答無用で殺すスイは返り血の一つすら浴びなかった。それどころか森に実った果物を悠々と採取しながら片手間に殺していくあの姿は可憐な見た目からは全く想像出来ない強者の姿だった。

その事をフナイは直接見たからこそスイは一人前、いや探索者としてはフナイよりも遥かに高位の存在だと理解出来た。けれど見ていないカーシャにそれを納得させることが出来ない。フナイが見たものは余す所なく伝えはしたがカーシャの反応は訝しげなもので伝え切れたかは怪しい。その事に少し落胆しながらもフナイはその場を後にした。



「はぁ?なんで認められないの?」

魔物狩りに行った帰り魔物を魔法で浮かしながら帰ってフナイに後を任せて屋台で食事をしていたスイが次の日に組合に行くと特例の昇格は認められず雑用からやり直すように言われたのでキレたのだ。

「私じゃないわよ。フナイさんの言葉は信じてあげたもの。ただ組合は私一人で回してる場所じゃないの。報告を上げたら駄目って帰ってきたのよ。会議するまでもないって位の速さだったわよ」

「……」

私が無言になったのを見たカーシャが気怠げにしている。

「どうにかならないの?それに結局昨日の魔物退治の報酬も受け取ってない」

「あれは……うん、それに関しては本当にほんっとーに申し訳無いんだけど……フナイの報酬金になっちゃったのよ。いやごめん、フナイに言ったら渡してくれると思うわ……」

「…………………………」

「後……うん、これもごめん。ちゃんと言ったのよ?私は。ただお上がズルは認めないって頭の……んんっ!言われて貴女の組合証にペナルティが付きました。具体的には報酬金の減額に受けられる依頼の制限が付いた……わ。ごめん……」

「………………はぁ…………別にいいよ。貴女はちゃんとやったんでしょ。怒ってないから。そのお上とやらには凄い腹が立ってるけど」

カーシャが本気で申し訳なさそうなのと言葉に嘘が無かったことからスイの怒りが落ち着いていく。いやお上に対しては寧ろ怒りの感情が増大したような感じもするが。

「はぁ…………お上潰してやろうかな……」

ボソッと呟いたが実際にする気は無い。やっても恐らく意味は無いしそもそもお上が誰か知らない。街で過ごしづらくなるのも辛い。他にも街はあるだろうが如何せん時代が古すぎて街の場所など全く分からない。スイからしたらこの街で過ごすしかないのだ。騒動は可能な限り起こしたくない。

「でもお金がなぁ……」

結局昨日も野宿になった。勿論出来るだけ快適になるようにしてから寝たが赤ちゃんの環境としてはあまり良いとは言えない。早いところ家が欲しいしミルクなんかも飲ませてあげたい。その為には早急に金が必要。ミルクはそこそこ高いがスイから出る訳では無いのだから買う選択肢しかない。そしてミルクを買うと今の雑用の依頼的に一日をギリギリで過ごす事になる。何せ探索者の証明書の返済もあるのだ。

「どうしよっかなぁ」

スイは途方に暮れながら依頼書を一枚剥がす。迷子のペット探し(斑色の蛇)……斑色の蛇というと普通に毒があるタイプだったはずだがそんなものを飼うなと怒りたい。ただスイからしたら魔法でさっさと探せるので楽な依頼ではある。報酬金も高いし。出来たら一日一回は逃げ出して欲しいと思う。

路地を這っていた蛇を手で鷲掴みにして依頼人の所まで持っていく。ちなみに蛇は逃げ出そうとはせずスイの腕に巻き付いてご満悦のようだった。

「……でもこれでミルク代になるかどうかってくらいかな。はぁ……お上死ねばいいのに」

そこそこ高い筈の報酬金が減額されたせいでミルク代程度にしかならない。本当ならスイの食事分もあるのだが。



「ということで勝手に森に入るね」

「何がということで、なのよ」

「私もお腹減るしこの子にも十分な食事させてあげたいし宿でも家でもいいけど野宿したくない。だけど依頼が受けられない。なら仕方ないから勝手に行って魔物の売却金だけでも貰うしかないでしょ?」

「色々言いたいけど……宿、というか組合が持ってる職員用の寮なら貸せるわよ?但し条件として掃除とか色々してもらうけど」

「却下。お金も貰えない労働をするつもりは無い。それでお金が貰えるならしてあげてもいいけど?」

「無理ね。あくまで住むことに対しての掃除だもの」

「時間だけ取られるから駄目」

スイはそう言いながら依頼の方へと目を向ける。

「ねえ、魔物の売却金と依頼の報酬金は別だよね?」

「そりゃそうよ。じゃないと魔物を持って帰ってくれないじゃない」

「なら私の報酬金減額とかとも関係無いよね?」

「……まあ、そうね」

「ん、魔物の売却金が高いやつ教えて」

「断りたいわ」

「断ったら森を消滅させる」

「なんて恐ろしいことを言うのよこの子」

カーシャはスイが本気で言っているのが理解出来たせいで身体を少し震えさせる。出来る出来ないの話ではなくするかしないか、つまりやれることが前提の言葉だったからが故にカーシャはフナイの言葉を思い出す。フナイはスイの事を自分よりも遥かに高位の存在だと言っていた。フナイはこの組合で最上位の探索者であるにも関わらずだ。

「あの森が無くなったら困るでしょ?だから早く教えて」

「……はぁ、死んでも知らないわよ?」

「……?死ぬ……あ、私がか。死なない死なない。ただの魔物程度に私が負けるなんて有り得ないから。凶……いや今は居ないのか。なら余計に有り得ないな。うん。大丈夫大丈夫。何だったらこの辺り一帯の魔物と一度に戦うことになっても無傷で殺し切れるよ」

スイは事実を言ったのだがカーシャには冗談と思われたみたいで笑われる。少し不満ではあるがこの時代に魔族と呼ばれる種族が居ない以上仕方ないだろう。

「まあいいわ。本当に死んでも知らないからね?」

「うん」

「……はぁ。ここから北西に進んでいくと大きな岩があるの。その岩の所で左に曲がるとペッステと呼ばれる蜘蛛の巣があるわ。その蜘蛛の巣を潜り抜けてから暫くしたら洞窟があるわ。その洞窟の中にポリピンっていうキノコが生えてるの。そのキノコの変異種として奥には白い斑点が付いたフリポリピンっていうのがあるわ。それを持って来たら迷子のペット探しの五倍の値段で買い取るわ。後その奥にはベレルっていう巨大な蝙蝠の魔物が居てこっちもそれなりに高く買い取るわ。魔法を使ってくるから気を付けなさい」

「ありがと、カーシャ。ちにみにそのポリピンとかフリポリピンって美味しいの?」

「ポリピンはそれなりに美味しいキノコね。フリポリピンは……それなりに高く買い取るけどポリピンよりかは美味しくないわ。どちらかと言うと香りを楽しむの。ベレルは後ろ足が美味しいわ。でも高いのはどちらかと言うと羽とか牙だから」

「分かった。じゃあいっぱい取ってくる。他にも面白そうなのあったら持ち帰ってくるからそっちの査定とかもよろしくね」

「ええ、帰って来れたらね」

「いっぱい稼がせてもらうからポリピンとか以外のお金稼ぎにいい物も帰ってきたら教えてね」

スイはそれだけを言うと赤ちゃんの籠を持ち組合を出ていく。それを見てカーシャは溜息を吐いた。

「……本当、無事に帰ってきなさいよ」

スイ「美味しいならある程度取っておいて調理器具を買った方が安上がりかなぁ……私の食事は暫く作るか」

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