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383.ドヴァーグ

前話で途中段階のものが誤って投稿されていました。

現在は修正しています。

修正前に読まれた方は申し訳ありません。



遥か昔に生まれた境の王、灰の帽子、三界越獄(さんかいえつごく)煉道(れんどう)。そう呼ばれる御伽噺の島がある。

曰くそこは地と天を繋ぐ境界の島である、曰くその地は灰が高く積み上げられた何者も育たぬ死の土地である、曰く全ての生命の主である三神の最初に居た原初の土地である。曰く異なる世界を繋ぐ道の島である等、様々な言葉で語り継がれる島である。

共通しているのは島であるということ、島が転移を思わせる様な言葉で修飾された場所だということか。実際に見た感想としては恐らくそこまで凄い島ではない。勿論神話に出るような島なので歴史もあるし魔族と魔物の混合体という中々見ない物なので凄いことは間違いないのだが。

「……御伽噺は御伽噺だったってことかな?」

スイは目の前の巨大な島を見てそう呟く。ゼブルは来ていない。島を助けろと言われたがどうするのかは分からずまた助けて欲しいと頼んできた魔族達も羽の生えた魔族なら助けられるというのは伝えられているが肝心のどうやって助けるかまでは知らなかったのだ。

「ん〜、助けるって何をって感じだけど……」

魔法で探査を掛けた感じでは島は沈む少し前と言ったように感じる。海底とくっついている岩が長年の水の浸食と恐らく魔物や海洋生物達によって削られていき島を支えるのが限界に近いのだろう。実際スイが島に足を下ろした感覚ではまるで船に乗っているかのような変な感覚が襲って来た。もしかして揺れているのかもしれない。島が揺れるとかなり危険、というか既に沈んでもおかしくないが島自体が生物だから耐えているのだろう。まあ意思を持った生物なのかと言われたら疑問に感じるが。

「ただ支えるだけならそれこそ海底に岩柱でも立てたら良さそうだけど……それじゃないって言われたしなぁ」

スイが島を支えるように岩の柱を作ると魔族達がそれじゃ意味が無いと消させたのだ。まあこれで済むなら魔族達がとっくに試しているだろう。

「でも別に素因がある訳でも無いし生きているとも言いにくいしこの島なんなんだろう」

魔族と魔物の混合体というのは間違いない。だがそこにあるべき筈の素因の存在が感じられないし生きた存在として鼓動やら内臓やらがある訳でもない。文字通りただの島にしか見えないのだ。

スイは何となく羽を思いっきり出すがそれでどうにかなる訳でもない。頭を抱えていると島が動いた。恐らく沈みそうになったのを身動ぎで戻したのだろう。そういう所は生物らしい。

「ねえ、どうやったら助けられるの?」

島に向かってというより地面にしゃがみ込みながらそう声を掛けるが島からは返事がない。当たり前……なのかは分からなくなってくるが島に口など無いし返事は帰ってこない。まあ生物らしい?からもしかしたら何処かに口があるかもしれないが少なくとも海面より上には口は無い。

「……面倒臭いなぁ」

ぶっちゃけスイがこの島を助けるメリットは全く無い。助けた後に魔族達から何らかの物を貰えるかもしれないが大半の物は別に要らないとなるのが目に見えている。食糧関係はかなりの量を指輪に詰め込んでいるしアーティファクト関係で役に立ちそうな物がこの島にあるとは到底思えないし恐らく助けたとしてもそれらを貰えることは無いだろう。

「ふぅ……」

スイは一応島の全域を見たあとにゼブル達の所に戻る。そしてどうなったかを聞いてくる魔族達を尻目に一言ゼブルに対して告げる。

「拓達少し心配だから帰るね。ゼブルはどうする?」

「ぬ?島は良いのか?」

「羽持ちの魔族が助けるとか意味が分からないとしか言えないね。だってあれ別に島を支える岩が無くても浮くでしょ。生きているんだもん。どっちかと言うと支えが無い方がよっぽど安定すると思うよ。船の錨とかそのあたりに近いからあの岩」

スイが見た感想としてはそうとしか言えない。羽を手に入れたからと言ってもスイに出来る事が増えた訳では無い。いやもしかしたら本来普通に生まれた魔族ならば羽が生えた時点で何か出来るようになるのかもしれないが造られた魔族であるスイには特に何も感じない。そもそもなぜ羽が生えたかも理解していないし。

スイの出した結論を聞くと魔族達がポカンとした後安心したような表情を浮かべる。羽を持つ魔族の言葉がそれ程までに重たいのだろうか。恐らく魔族達もあの程度の内容なら調べただけで分かった筈なのに。

スイが疑問に思って魔族達を眺めているとスイの調査が原因かはたまた元から動くつもりだったのか分からないが島が急に荒々しく動き始めた。それはもう島というより鯨か何かにしか見えない程身体をくねらせると支えていた岩を粉々に砕いた。海の中なので良く見えなかったのだがあの岩はどうやら支えていたというよりも刺さっていたの方が正しいようだ。赤い血のようなものが島から流れ出している。

島は自由になったのを確認するようにぐるぐると回った後浅瀬まで泳いで来た。かなりの質量のものが浅瀬だろうが何なら水が無くなった浜辺すら普通に乗り越えてくると割と恐怖ではある。とはいえ感じられる力は殆ど無くそこらの魔物にも負けそうだ。

島?は浜辺から陸まで乗り上げると魔族達を乗せるためか実はかなり小さかったらしい足をペちペちとさせている。こう見ると鯨というよりは亀の方が近いかもしれない。両方混じった生物かもしれないが。だって尾鰭っぽいものあるし。

魔族達がスイに口々にお礼を言って島に乗り込んで行く。最後の一人が乗ると島がスイに小さな手を伸ばしてくる。小さ過ぎて全然届いていなかったのでスイから近寄る事になったが。

《……イラ・ラヴァ・ノク・ミュ・ジャ》

「え?」

スイが何を言ったのかをさっぱり理解出来ず聞き返そうとした瞬間目の前から島が消えた。先程まで居た筈の島が魔族達を引連れて一瞬の内に消失したのだ。魔力の痕跡も無く何なら島が浜辺に上がる際に付いた筈の身体を引き摺った後も魔族達に暇なら飲んでおけばと渡しておいた筈の飲み物の入れ物も何もかもの痕跡が消えた。それはまるで元からそんなもの居なかったと言わんばかりでスイの顔が青褪めてゆく。

「ゼ、ゼブル。居たよね?さっきまで島と魔族達居たよね?」

「……?何の話だ?」

ゼブルがからかっているのかと思わず睨むがゼブルは本気で分かっていないようで首を傾げている。帝都で会ったおじいちゃん三人組は魔法だとあの後分かったから幽霊というのは居ないのだと思っていた。幽霊っぽい魔物としてレイスやスケルトン、ゾンビ等は居るがあくまでそれだけだと思っていた。

「幽霊……?いやいやそんな筈……無いよね」

「どうした?顔色が悪いが」

「ゼブル!」

「な、なんだ?」

「灰の帽子!三界越獄の煉道!あったよね!?」

「……?灰の……?三界……何と?」

ゼブルが本気で困惑している。御伽噺自体は知っていたのに。

「……待って、そもそもあの魔族達……」

あの魔族達の種族は何だった?吸血鬼族?鬼族?悪魔族?いやそのどれでもない。そもそもあれらは本当に魔族だったのか?

それに気付いた瞬間スイはふらつくと海に向かって歩いて行く。

「居た筈、うん、居たのは間違いない……よね?」

スイが何かに躓く。転けそうになった原因の方へと目を向けるとそこにあったのは一つの指輪、しかしその指輪がある筈の無いものでスイの表情が無表情になる。そっとその指輪を掴むと魔力を流す。

「……次元の指輪」

一つしか無い筈のアーティファクトの二個目。作った存在は三神なので誰かによって二個目が作られる事は無い。しかもこの指輪の中には既に何か色々と入っている。しかも最も意味不明な物があってスイの頭を混乱させる。

「…………待って、待って待って待って。意味が分からない。本当に意味が分からない。どういう事。なん、はぁ?いやいやいやいや……えっ?」

スイが意味の無い言葉を漏らしてから少し落ち着くとその指輪から一つの有り得ないそれを掴む。それは黒い羽で出来たマント。そして今も尚スイが付けているアーティファクトだ。

「黒羽ティル……?」

呆然としたスイの声だけが海に溶けるように消えていった。

スイ「……………………」

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