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380.何が起きたの……?



「どうしてだ。どうしてそんな愚行を犯してしまったのだ」

私の目の前で涙を流しながら抑揚の無い声で血塗れの斧を振り被り続ける褐鼠族の娘を見て私は久し振りに冷や汗を流していた。この娘正真正銘の化け物だ、と。



褐鼠族の娘と離れてから翌日に朝言われた場所にゼブルと共に行くと娘は一瞬だけ警戒してすぐに警戒を解いた。恐らく私の姿を見て警戒を解いたのだろう。ゼブルの見た目は多少強面ではあるから警戒されるのも仕方ない。ゼブル本人は多少不服そうではあったが。

「お前は誰だ」

「ゼブルという。この娘の連れだ」

「……そうか。分かった。お前も敵なのか?」

「この里に住んでいるであろう人族狩りを行った褐鼠族であれば明確に敵と言える。だがそれに関わってもいないであろう君に対しては敵意も害意も持ちはしない」

「分かった。では確かめに行こう。人族狩り等という愚行が本当に行われていたかどうかを」

そう言うと褐鼠族の娘は昨日見た斧を無造作に担ぐとスタスタと歩き始める。どうでもいい事だが斧を主武器にしている人を初めて見たかもしれない。しかもどう見てもアーティファクト等でも無いただの鉄斧だ。後小柄という訳では無いがそれほど身長があるわけでもないこの子がそれなりの大きさの斧を担ぐと違和感がある。

少し下らない事を考えていたら歩くのがそれなりに早いようで置いて行かれそうになったから慌てて後ろをついて行く。褐鼠族の娘はこちらを振り向きもせずに里の方へと向かい結界の目の前までやって来ると懐から小さな玉を取り出す。玉の周りは輪っかが複数回っていてスイでも感じ取れない程の途轍も無い量の魔力が内包されていることが分かった。しかも直接目にするまでそれを感じなかった事を思うと相当高位の隠匿術式が掛けられている事が分かる。

この時点で褐鼠族の娘にしてはおかしいなとか思っていたのだが続けて持ち上げられた斧から先程まで一切感じていなかった魔力が溢れ出して周りを一瞬の内に歪みが発生しかねない程の魔力で満たした事で私とゼブルの顔が引き攣った。

「人族を狩るなどという畜生に墜ちてしまったのを確認した以上、今この時よりボクとの盟約は破棄された。罪を犯せし者達に裁きの執行を行う」

抑揚の無い声でそう唄うように声を上げた褐鼠族の娘?は斧を振ると結界が豆腐でも切ったかのように全く抵抗を許されずに寸断されてその下にあった筈の里の一部が消し飛んだ。

「……え?」

「……何?」

私とゼブルの呆然とした声が響く中褐鼠族の娘?は更に斧を持ち上げると先程と全く同じ動作で遮るものが消え去った里の方へと振り下ろす。魔力も殆ど使用していないただ振り下ろすという行為で膨大な圧力を発生させて里を消し飛ばした。それと同時に私の身体の中から娘達が全員出てきて褐鼠族の娘?から私の身を守るかのように壁となる。

「生き残りが居たか」

しかしそれに対して何の反応も見せること無く褐鼠族の娘?は走り出すとあの斧の一撃から奇跡的に助かったらしい女性に近付き……その身体を斧で断ち割った。何人かは余波で吹き飛ばされただけらしく呻いている人達に近付いてはその身体を断ち割り続けるその娘を見て冷や汗を流した。

「やばい。思っていた数倍やばい。語彙が無くなるくらいえげつない」

今すぐに逃げろと頭は訴えるが逃げた所で追い付かれるだろう。まさか力だけで足はそんなに早くないだろう等とは思えないし。

その娘は涙を流しては斧を振るが控えめに言って怖い。しかもとんでもない量の魔力を斧が纏っているせいで斧に付いた血が弾丸のようになって周りに飛び散っている。ただの血が地面を抉り飛ばす威力となって周りに飛散するなど誰が想像出来るだろうか。というかここまで来たら断言していいだろう。この娘は褐鼠族の見た目をしているだけで別の存在だと。

「ゼ、ゼブル。この子って一体……」

「わ、分からん。だが少なくとも褐鼠族ではない!」

ゼブルも断言したその娘は最後に生き残っていた老人に斧を叩き付けて地面ごとぶち壊した後にスイ達の方へと向き直る。

「お前達の言う通りだった。褐鼠族は人族狩りという愚行を犯していた。それにボクが知らないだけで昔にも盟約を破っていたようだ。既に無い褐鼠族達に代わって詫びよう」

そう言った娘の瞳からは既に涙の跡は見受けられない。頭を小さく下げた娘にスイは内心ビクビクしながら「大丈夫だよ」と小さく返した。というかそれしか出来なかった。まず戦闘になればこの娘に何も出来ずに殺される未来しか思い浮かべられなかったからだ。ほぼ間違いなく三神の関係者だろう。盟約とか執行とか何とか言っていたし。

「そうか。そう言って貰えると助かる。それと……旅に出ないかと誘っていたな」

その言葉にスイは一瞬ビクッと身体を動かす。ゼブルはスイに目線だけで「何を言っているんだ!?」と信じられないものを見るような目で見る。

「ボクで良ければ付いていきたいなと思うんだがどうだろうか。世間知らずで役に立つかは分からないが力だけはそれなりだと思っている。魔物避けぐらいにはなるだろう」

「あ……あはは。うん、勿論良いよ……」

スイにこれ以外の何の答えを返せと言うのだろうか。ゼブルがもはや睨み付けると言っても過言では無いほどスイを見つめているがスイだって困っているのだ。スイの了承の答えを聞いて初めて少し笑顔を見せた娘は斧を地面に刺した後、スイに対して手を伸ばす。

「じゃあこれから宜しく頼む」

「あ……うん」

「ボクの事は適当に呼んでくれれば良いが困るだろうし……代行者(エポナ)と呼んでくれ。かつてボクはそう呼ばれていたから」

スイとゼブルの背筋を嫌な汗が伝う。代行者(エポナ)。この名前は神々の大戦時に一部地域でのみ流行ったあまり知られていない名前だ。だがスイはウラノリアの記憶どころか幾つか受け継いだ素因達から記憶を参照した事で知っているしゼブルは恐らくその地域での活動の経験があるのだろう。目が少し泳いでいる。

代行者(エポナ)とは文字通り代行する存在の事だ。そしてこの場合の代行者とは三神の代行者に他ならない。しかもこの戦闘能力の異常過ぎる程の高さからほぼ間違いなく戦闘をメインにしていた存在だろう。しかし代行者は三神の関係者とはいえ魔族のように寿命が無い存在という訳では無い。どういう事なのだろうか。

「さあ、行こう。暴れたから魔物がこの辺りに溢れてくる。早めに撤収しないと延々と狩らないといけなくなる」

娘の言う通りのようで遠くから血の匂いでも感じたのか魔物の気配が集まってきている。その内の幾つかから感じる力はかなりのものでスイも万全な状態でなければ多少怪我をしてもおかしくない程の力だ。勿論万全で無かろうが不意をつかれない限りは怪我をすることなどありえないが少なくともそう感じられる程度には強い。

「えっと、じゃあ……行こっか?」

色々あるがとりあえずスイは考えるのを一旦やめると娘の手を掴んでその場を離れた。だって考えても分からないし。スイはそう開き直る事にしたのだった。ちなみにゼブルは額に手を当てて天を仰いでいた。私もそれをしたいと切実にそう思った。

スイ「……なんでこんな所に代行者(エポナ)なんているの……?」

ゼブル「分からん……!」

エポナ「何の話をしているのですか?」

スイ「な、なんでもないよぉ〜?」

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