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376.これ何?



火人族の村を越えた先は山岳地帯になっているようでかなり足場が悪い。登山道が欲しくなる。そんなものを作る人はこの世界だと軍人とかだけだろうしこの場所には絶対に来ないとは思うが。

ちなみにゼブルは私の後ろを歩いているのだがずっと私の背中を見ている。そして思い出したかのように偶にうっとりするのだ。控えめに言っても気持ち悪い。しかも私の背中、正確には背中に何故か生えた羽?翼?どう呼ぶべきかは分からないが生えてきたそれに触ろうとするのだ。一度触れられた時は感触があったので触れるのを禁じたのだが忘れるのか触ろうとする。ゼブルの何がそうさせるのかは分からないが普通にやめて欲しい。

ゼブルを地味に警戒しながら歩いて行くと前方で岩雪崩が起きたのが見えた。この場所にはごろごろと巨石、巨岩と言われるレベルのが大量にあるので時折発生しているのだ。岩雪崩を見たのもこれで三回目である。

「この辺りは本当に危ないね。拓達を連れて来なくて良かった」

「そうだな。巻き込まれても死にはしないだろうが怪我はしていたかもしれん」

「怪我で済むあたり割と人を辞めてるよね」

「む?確かにあれ程魔力を持った存在はそうそう居ないだろうが人族を辞めていたのか?スイの眷属かそれとももう一人のルーレという者の眷属だったか?」

「あれ?私ゼブルに言ってなかったっけ?」

私はゼブルに拓達との関係性を伝える。勇者の存在や私達三人が全員異世界関係であるとは思っていなかったようでかなり驚かれた。まあ普通に考えてそんな関係あるとは思わないよね。

ゼブルは異世界についてかなり興味を持ったようで私にどんな世界なのかを聞いてくる。私は私で話を聞いては良いリアクションを返すゼブルに気を良くしてどんどん詳しい話をしていく。

「という事は人族は空を自らのものとしたということか?」

「自分たちの物って事になるのかなぁ?一応国ごとに領空とか決めてたと思うけど」

「……撃墜されたりはしないのか?」

「しないよ。自然災害とか事故とかで落ちることはあっても基本的には撃墜とかはされない。あ、テロは除くけどね」

「興味深いものだな。話を聞く限りでは信じられない事ばかりのようだ。まるで空想上の話を聞いているみたいだ」

「私達からしたらこっちの世界の方が空想上の世界なんだけどね。魔法もあるし魔物も居るし」

「そのどちらもチキュウとやらには無いのだったな」

「ん、ゲームとかにはあったけどそれだって想像上のものだしね」

どんな世界なのかゼブルは思い浮かばないのだろう。頻りに首を傾げては唸っている。

「まあ機会があればもしかしたらゼブルを私達の世界に連れて行ける日が来るかもね」

「本当か?少し期待してしまうな……」

ゼブルが少し嬉しそうに笑みを浮かべる。その瞬間凄まじい悪寒が背筋をなぞった。それはゼブルもだったみたいで咄嗟にその場から離れようとする。しかしそれよりも早くゼブルの身体を何かが貫いた。

「ッ!?」

ゼブルは何かに貫かれた瞬間に貫いた何かの方へと魔法を放つ。苦し紛れに放たれたそれは当たるよりも前に避けられてしまう。スイがそちらを見るとそこに居たのは街で見かけたあの目玉だった。殺気を無尽蔵に垂れ流すその目玉はスイとゼブルに狙いを定めているようでじっとこちらを見ている。

「大丈夫?」

「あ、あぁ。腹を貫かれはしたがそれだけだ。少し待てば治る。それよりあの目玉は何なんだ本当に」

スイに聞かれても分かる訳が無い。ゼブルの問いに首を振ることで答える。あの目玉から感じるのはとてつもない殺気ととんでもない量の魔力だけだ。知性があるのかも怪しい。ただ一つ言えるとするならばあれは魔族ではないということだけだ。

「真の魔族があれっていうオチじゃないよね?」

「違うだろう。少なくともエルフ達の野営地に居た魔族は普通の人型に見えたぞ」

「だったらあれ何?魔物なの?」

「……分からん。が、魔物の可能性は高いんじゃないか?」

「どういう魔物だと思う?少なくとも私はあれが魔物かどうか分からないけど」

「知らん」

ゼブルのコメントに苦笑いを浮かべる。確かにそれしか答えようがない。だって私もあれが何か分からないのだから。

「凶獣かな?」

「無難に考えるならばそうだろうな」

かなり凶悪な凶獣だが人が嫌いな凶獣も居るし魔族嫌いな凶獣が居てもおかしくない。それにしては随分と殺意が籠った視線を向けてくるが。そう思ってスイが改めて睨み付けた瞬間、目玉の瞼が一瞬だけ落ちた。スイは反射的にその場から飛び退くと目玉からレーザーが飛び出して来た。レーザーは早く飛び退いた筈のスイの腕を掠っていた。

「ッ!!いったぁ!もう!」

速度が尋常じゃない。先んじて避けた筈のスイの腕に当たるなど訳が分からない。それはつまりレーザーが放たれた瞬間にはその場から離れていなければ当たるという事だ。予兆が始まるより前に逃げなければいけないなど無理に決まっている。ましてやあの目玉から放たれたレーザーはスイを追うかのように目玉から一直線ではなく少し曲がったのだ。

曲がるのには限界があるのだとしても避ける事がかなり難しくなる。しかもそのレーザーを放った目玉から感じる魔力量はまるで減った気がしない。恐らく単発で放っているだけで連射することは可能だろう。一か八か単発でしか放てないと腹を括って突撃しても構わないが連射出来た場合蜂の巣になるのは目に見えている。

しかも多少避けた事で腹を立てたのか目玉は先程よりも濃厚な殺意と魔力を溜めている。一か八かで突撃するにはリスクが高過ぎる。混沌で消して突っ込むというのも考えたがあの速度だ。恐らく混沌が消し切るよりも早くスイの身体を貫くと思われる。

「厄介過ぎるなぁ……」

仕方ないので遠回しに魔法を放つ。獄炎(ゲヘナ)暴禍(メイルシュトローム)天雷(ケラウノス)など放つが目玉は器用に避けたりその膨大な魔力で防ぎきって見せた。幸いなのが攻撃と防御を同時にする程魔力操作には長けていないのか溜めていた魔力が霧散したことか。とはいえ最初に放ったレーザーは殆ど魔力を溜めていなかった。撃てないと高を括るのはやめた方が良いだろう。

ゼブルが治ったのか魔法を撃つのに参加してきた。目玉からは凄まじい程の殺意が感じられる。目玉の瞼が落ちそうになった瞬間スイはその場から飛び退く。スイの立っていた場所とゼブルの立っていた場所をレーザーが貫く。スイは何とか当たらなかったが同じタイミングで避けた筈のゼブルは当たったようだ。痛そうに脇腹を押さえている。

「チッ、このままだとジリ貧ってやつだね。どうにか出来ないかな……」

スイの中に眠る娘達を出しても良いがそれでどうにかなるのかいまいち予想が付かない。けど出さずに事態が好転することはまず無いだろう。

「仕方ない。あれに対抗出来ると思う子達は出て来なさい」

スイがそう呼び掛けるとなんかいっぱい出てきた。確かに対抗するだけならば殆どが神話生物を模した子達はいけるだろう。スイだってあれに対抗するだけならば出来る。ただ何を持っているか分からないし下手を打てないからいけないだけだ。

「……珍しい子が居るね」

スイが目を付けたのはオドオドしつつもあれに負けるなど考えても居ないのか割と堂々としている……ように見えるマナの姿だ。

「いけるの?」

「あ、あの位の速度……なら避けれ…ます。それに……あの、ま、ママが痛い思いを……したの許せ…ないです。殺りたいです」

マナが眼鏡の奥の瞳を輝かせながらそう言う。私が傷付いたのが余程腹に立ったのだろう。傷が付いたのは私の油断が招いた事であるとは分かっている筈なのに。そしてそれはマナだけでなく他の娘達もそうらしく基本面倒臭がりのベヒモスですらここに居ることで分かる。

「ふふ、分かった。じゃあ今回はマナ。貴女に頼んでも良い?」

私が頼むとマナは喜びを隠し切れないのか少しにまぁっと笑みを浮かべてから慌ててはいっ!っと返事をする。ちなみにこの間目玉はいきなり出てきた娘達に警戒したのか動きを止めていた。

マナの返事と共に娘達が私の身体の中に戻っていく。レヴィアタン等はマナの肩をポンッと叩いてぶちのめせと手振りだけで言っていた。これは相当腹が立ったのだと凄く良く分かった。

「で、でででは!行く!行き、行きます!」

マナがそう叫ぶと同時にマナの身体から余計な力が抜け瞳がまるで暗殺者かのように鋭利なものになったと思った瞬間、マナの姿が消えた。目玉はそれでも何とか追えたのかマナに向かってとてつもない量かつ早いレーザーを乱射し……その身体を背後まで走り抜けたマナによって食い散らかされた。ほぼ一瞬のうちに食い散らかされた事によって身体が空中で四散する。

「クソ不味いですね。生きている価値無いんじゃないですか?」

普段のマナとはまるで違うそんな口調で口から目玉の身体と思わしきものを吐く。その目玉の身体はどうやらまだ生きているようで動き出そうとしてマナによって踏み潰された。念入りに踏み潰されたそれは核か何かだったようで目玉の身体が完全に溶けて消えていった。

「……あ、マ、ママ私、が、頑張りました!」

「……あはは、うん。ありがとうマナ。凄かったよ」

何と言うかスイが作り出した娘達は割とやばめな強さを持っているのだなと改めて再認識させられたのだった。

北欧神話、マーナガルム

スノッリのエッダ第一部、ギュルヴィたぶらかしで紹介されている狼。その名前は月の犬を意味する。

人間の国ミズガルズの東にある森イアールンヴィズに一人の女巨人が住んでおり、他にイアールンヴィジュルという魔女たちも住んでいる。女巨人がたくさんの巨人を産んだが、それはみな狼の姿であった。天空で太陽を追う狼スコル、月を追う狼ハティも、これらの狼から由来している。

この一族中で最強の狼がマーナガルムである。すべての死者の肉を腹に満たし、月を捕獲して、天と空に血を塗る。そのために太陽が光を失ってしまうとされている。

マーナガルムはしばしばハティと同一視され、ハティの別名がマーナガルムだとも言われている。しかしアクセル・オルリックという民俗学者・神話学者は古エッダのグリームニルの言葉第三十九節にある「森に太陽が沈むまで追いかける狼はスコル、ハティは天の花嫁(太陽)の前を走る」という節について、太陽の前を走ることと月を追いかけることは同じではないと指摘されている。

スイはこの指摘があるならばハティとマーナガルムは一緒じゃないんだなと勝手に思い込みマーナガルムを一人の個体として生み出した。ハティとスコルもそれなりに力を込めた筈だがマーナガルムが最強というのに引っ張られたのかハティとスコルがマーナガルムのマナの部下のようになっている。

マナはそもそも生み出された事そのものに感謝している為スイの為ならば恐らく何でもすることだろう。ちなみに人見知り……という事になっているし事実マナは人と喋るのが苦手ではあるが本当の理由は人を普通に見たら餌にしか見えないためという割と怖い理由がある。ハティとスコルはもっと酷く人を餌としか見ていない。

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