372.葬
間違えて途中段階の物を投稿してしまいました。
現在12時52分頃修正済み
ご迷惑をお掛けしましたm(_ _)m
「よいしょっと」
私は引き摺っていたエルフを床へと落とす。先程までは活きがよかったのに今では呼吸するのが精一杯といった状態だ。偶に振り回して地面や壁にぶつけたりしただけなのに情けない。ちゃんと致命傷だけは避けたから死にはしないのに。
「あっ、ゼブル。そっちはどう?」
「む?ああ、それなりに聞き出せたぞ。そっちは……楽しかったみたいだな?」
「うん。まあ脆すぎて全力で遊べなかったのが少しだけ心残りと言えば心残りだけど」
「ふむ。人の趣味をとやかく言うつもりは無いがその趣味は悪趣味だしあまり褒められたことではないぞ?見せるのは限られた人だけにしておくといい」
「分かってるよ。でもゼブルが私の趣味を肯定するとは思わなかったよ」
このエルフの里に着いた時私達は酷く怒っていた。それもあって思わず隠しもせずにエルフ達を甚振ったのだがゼブルはそれを見ても少し眉を動かしただけで終わったのが気になって話し掛けたのだ。そうしたらゼブルは「人の趣味に口出しはせん」とだけ言ってエルフの尋問を始めたのだ。
「別に肯定まではしてない。ただ否定しないだけだ。あと私にも似たような経験はあるしな。悪魔族である私は人の嫌がる事をして衝動を治めるからな。私にそれを止める権利はない」
「ふうん、まあ良いけど。ねえ、そのエルフからどの程度聞けた?」
私の問いにゼブルは少し考える素振りを見せる。
「うむ、他の亜人族の集落に関してはほぼ分かったと見ていいと思う。ただ魔族達の住んでいるであろう場所が分からん。どうやら魔族達もそこまでは教えはしなかったのだろうな」
「だろうね。でもどの方向からやって来てるかとかは分かるんじゃない?」
「ああ、それによるとあちらの方角、褐鼠族の集落方面だそうだ」
「……また褐鼠族か」
「スイにどんな因縁があるのかは知らんが無関係の他人にまでそれを適応するなよ?流石にそうなるならば私も止めに走るぞ」
「大丈夫、分かってるよ。ゼブルは真面目だね。どうせ全部殺すのに」
「その通りだが……まあ良いか。さてどうする?集落は幾つかある。別れて潰すか?それとも一緒に行動するか?」
「集落の亜人族だけなら別れても良いけどいつ魔族達が現れるか分からないし一緒で。別に一人でも遅れを取るつもりは無いけど数が多くて取り逃したら腹が立つ」
「まあそうだな。亜人族に灸を添えた後は本格的に真の魔族を名乗る阿呆共にあの世の門を叩かせてやろう」
エルフ以外の亜人族の集落はそれなりに大きいが人口自体はそれほど多くないらしい。とはいえ集落なだけあってそこそこの数が住んでいる。一人で何もかもをやろうとすると逃がす者も居るかもしれない。いや、というか居たのだろう。集落の外へと逃げ出したらしい鼬族の女をゼブルが放り捨てる。鼬族の女は泣きながら謝罪をしているが私達はそれを無視すると炎に包まれた家の中にその女を投げ入れた。
私もゼブルも喋ることも無く淡々と始末していく。本来なら私にとっては楽しい趣味の時間になるのだが正直この鼬族の集落を舐めていたと言わざるを得ない。エルフ達も大概酷いとは思っていたが鼬族も酷かった。
エルフ達はあくまで人族に対しては狩りの延長線上だったがそれを更に発展化させたのが鼬族だった。具体的には人族の女性の皮膚でカーペットを作っていた。もうそれだけで気持ち悪いがそれが常態化していた事の方がもっと気持ち悪かった。
皮膚のカーペット、骨の家具、肉は家畜の飼料とおおよそ人の尊厳を悉く殺しに来ているとしか言いようがない程徹底的に人族を貶めていた。見た目にも精神性にもどうしようも無いと言うしかない。
流石に気持ち悪いし残すどころか跡形もなく消滅させてあげたいがそれはそれで犠牲者が可哀想だ。せめて墓ぐらいは作ってあげたいと思う。
そしてそんな光景はこの集落では常に見えてくるので一分一秒でもこの場所に居たくない。なので趣味に時間を割くことなく淡々と始末しているのだ。まあそれも今の女で終わったようだが。
「ゼブル、墓はどうしようか?」
私の問い掛けにゼブルは少し考えてから答える。
「無くてもいいだろう。魔族に墓を作られると言うだけで作られる者はいい顔をしないだろう。精々私達に出来ることは死後の世界が安らぎに満ちた世界だと信じて冥福を祈るだけだ」
「そっか……分かった」
鼬族の家屋の中にあったカーペットやらの被害者達を集めるとヘルを呼び出す。ヘルがこの人達に出来ることは無いけれどせめて冥界の女神に冥福を祈られて安らいで欲しい。勿論勝手な行為だしこれで安らぐどころか腹を立てる者も居るかもしれないが居たとしてもそれはもう人の姿をしていないだろう。
「……」
「……」
私とゼブルは黙祷をする。もう少し早く来ていたらもしかしたら助かったかもしれない。当然そんな事は仮定の話であって実際はそんな事はないと分かってはいるけれどそう思いたくもなる。まあ思った所で助けられたかは別なのでやはり意味は無いのだが。
「ゼブル、次は?」
「一番近いのは火人族だ。集落付近は火山だから暑さ対策だけはしっかりな。まあ魔族である私達に温度調整の必要などは無いが」
「ならどうして言ったし」
「何となくだ。和む雰囲気にでもなればなと」
「……せめて集落の外に行ってからなら反応出来たかも。流石にこんな気持ち悪い光景が広がっている中だと……ね?」
「そうだな。失敗した」
ゼブルなりに私の気を紛らわせたかったのだろう。完全に空回りだがその気持ちは嬉しい。だから私は指輪から適当な果物を取り出してゼブルに投げ渡す。
「まあ、ありがとね」
そう言いながら林檎のような果物に齧り付く。爽やかな酸味と甘みが広がり瑞々しさもあって美味しい。というか味的にはほぼほぼ林檎である。色合いは黄色で梨っぽいけど。
「火人族って確か身体が真っ赤なんだよね?」
「む?見たことは無いか?」
「うん。あまり多い種族じゃないし私の本来居た場所だと火人族は居ないからね。火で出来た種族って訳じゃないんでしょ?」
「勿論だ。火人族は見た目は人族とあまり変わらん。身体が真っ赤で常に湯気が出ている事ぐらいか?体表の温度が高くてな。常に湯気が出るのだ。複数人が集まればそれだけで火がおこせるぞ」
「……本当に火で身体出来てないんだよね?」
「出来ていない。見た目的には火と変わらないようにしか見えないがちゃんとした肉体がある」
溶岩か何かで身体が出来ているのだろうかと思ったが見たら分かるとのことなので今は気にしないでおくことにした。
「まあ良いや。着いてからのお楽しみ?にしておくよ」
私はそう言うと魔力を練り上げて鼬族の集落に幾つも魔力の塊を落とす。
「……灰葬」
その魔力の塊は一瞬キラッと輝くと極小規模の爆発を起こして周りにあるものを消滅させていく。
「安らかな死を……」
私とゼブルは改めて黙祷を捧げたのだった。
スイ「…………」




