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370.死と再生の炎



「……」

屋敷、街の中、生き残った人からの聞き込み、地下や空間歪曲された隠し場所の捜索、全てを完全に出来たのかと言われたら自信は無い。街の中に無くて外にある可能性もある。だけど少なくとも街の中に奴隷の痕跡は見付からなかった。そもそも奴隷という言葉自体が忘れ去られかけてさえいた。

「……………………」

じゃあ何のためにあの人達は死んだの?エルフ達はどうして襲って来たの?魔族は?殺された人達に何の罪があったの?

エルフ達との戦争はここ数年の話ではなくもう長い事戦っているのだと街の人達からの話で分かった。最低でも百年以上の戦争だ。当時の人族が何かしたのかもしれないがその痕跡は跡形もなく無くなるほど昔の話だ。

「……私も過去に犯した罪を精算させる為に街を攻撃したりとかしていたから否定は出来ないけど……こんな気持ちになるんだね」

ケルクの街を滅ぼした事に後悔はない。けれどあの時殺した人達には何の罪もなかった。もしかしたら正しい過去の真実を知れば謝罪も得られたかもしれない。けど私はそれを許さなかった。だからこのエルフ達の襲撃に何らかの正当な理由があるのならば私に彼等を責めることは出来ない。

「…………ああ、エルフ達を見付けた?そう……会いに行ってみようか。彼等がどういう理由で行動していたか知らないとね」

私は破壊された店の椅子から立ち上がると歩き始める。その後ろを拓達が心配そうに追い掛けてくる。

「ゼブル、拓達を守ってくれる?」

「良かろう。彼等には傷一つ付けさせないと約束しよう」

「ありがとう」

拓達は何とも言えない表情を浮かべているけど仕方ない。拓達の力ではエルフはいけてもあの魔族達が出ると恐らく殺される。現状ではあの魔族達に対抗出来るのが私かゼブルだけなのだから。勿論それ以外に私の娘達も出してはおくがそれだけで足りるかはいまいち分からない。

「じゃあ行くよ。案内してマナ」

「はは、は、はいぃ……!人が……いっぱい居るよぅ……怖い」

そう言えばマーナガルムのマナは極度の人見知りだったか。眼鏡を付けているけど実はぼやけさせている眼鏡で人を直接見ないようにしているとか言っていたような……まあ良いか。案内だけに集中させていたら大丈夫だと思う。

「こ、こここ、こっち、ですぅ…………!?」

流石に可哀想になってくるけどこれもまたあの、試練か何かだと思って諦めて欲しいと思う。

そう思いながらマナに付いていこうとして凄い速度で走って行ったマナをとりあえず強制的に戻した。いや早すぎて見失ったんだもん。マーナガルムってこんなに早いの?吃驚して私とぜルムがポカンってしちゃったんだけど。

「ご、ごご、ごめんなさいぃぃ……!!」

「いや……うん。大丈夫だから次は歩いて貰っても良い?」

「そ、それは大丈夫ですけど……その、此処からだと三日は掛かりますよ……?」

マナが言うには襲撃してきたエルフ達は自分達の里に戻っている最中なのでまだ道中に居るようだがその先に里があると思ったマナはハティとスコルに襲撃してきたエルフの監視を頼んで里の方へ単独で偵察をしてきたようだ。里には結界が張ってあったようだがマナは自分の身体を魔力に変換してすり抜ける形で潜入、里の内部を把握してきたのだという。

「さ、里には……老人や女性が多く居ました……けど男性の戦士のエルフもいました……あの、家の中までは見れなかったので概算では……ありますけど女性が五百程度、老人や子供が合わせて二百程度。の、残っていた兵士と……思われるエルフ達が三百程度、です。襲撃してきたエルフは……その、減ってはいましたがそれでも三百以上……です。あと……魔族の姿もありました。五人程……ですけど」

「そう。ありがとうマナ。五人か……」

ゼブルも考え込む。あの黒い影は魔導具だろうがそれでもあの数を操れる真の魔族とやらが五人は居る。一人一人の魔力量は魔王と同等程度と見るべきだろう。戦闘経験は分からないが例え拙くはあっても拓達では相手にならない。

「……スイ、流石に厳しい。真の魔族?が二人三人程度ならば凌ぐだけならば可能だろう。だが五人となると幾ら私達の方が強くても押し切られかねん」

ゼブルの言葉に頷く。その五人に加えてエルフからのちょっかいも来るのだ。手が回らなくなるのは目に見えている。娘達と拓達でエルフを抑え込めたとしてもやはりそれで終わる。魔族の数が多いのが厄介なのだ。リーリアやリロイを呼んでもいいが流石に生まれたばかりの魔族である二人には勝てないだろう。

「…………ん〜」

考えるが良い案が思い浮かばない。エルフは最悪放置しても里の場所が分かっている以上無視しても構わない。問題は魔族だ。しかもエルフ達と一緒に行動しているというのが厄介過ぎる。

「…………良いか。事情を聞くのは里のエルフ達だけで」

「何か思い浮かんだのか?」

「うん。連続で奇襲を仕掛けようかなって」

「は?」

「襲撃してきたエルフ達にも事情があるかもって思って少し遠慮してたけどもういいや。どうせ人族を殺して良い気分になっているんだろうし全員殺しても問題無いかなって」

「いやいや待て待て。魔族が居るんだぞ?そいつらはどうする?」

「エルフが居なくて魔族だけなら私と貴方でどうにでもなるでしょう?」

「…………そう、だな」

「それにゼブルが本気を出してないことぐらいは分かるよ?どうせ指輪かそれに近い魔導具の中に素因を隠し持ってるでしょ?」

「…………何故そう思う?」

「その返答が答えな感じはあるけど……まあその素因の数であの実力はおかしいかなって」

「……ふぅ、そんな事でよく分かる物だ」

「後は襲われてもどうにかなるっていうゼブルから感じる余裕と自信かな?魔王なんでしょ?」

「ああ、とはいえそれは私にとって隠し球でもある。余程の事がなければ使わんからな」

「別にそれは構わないよ。それでこっちが不利益を被らなければだけど」

ゼブルにそう返すと苦笑いされた。

「まあそれは良い。どうやってエルフを全滅させる気だ?」

「ん?ああ、それは……」

ゼブルと拓達にその作戦とも呼べない作戦を言うと全員漏れなく何とも言えない表情を浮かべた。良い案だと思うんだけどなぁ。



少し離れた所にエルフ達が固まって野営の準備をしているのが分かる。魔族達の姿は見えないが何処かの天幕の中で眠っているのだろう。どうやら賓客扱いの様だし。

「行ってきてニクス」

「はいであります上官殿!このフェニックス、粉骨砕身、肉を切らせて骨を断つ!身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ!この身を炎に焚べる覚悟で行ってきます!上官殿に栄光あれ!」

フェニックスの姿はどう見ても中学生と高校生の間くらいの女の子なのだが何故か軍服姿で私の事を上官殿だなんて呼ぶので反応しづらい。

「えっと、んん、頑張ってきてね。期待してる」

「はわわ!?イ、イ、イッテキマス!」

フェニックスはその姿の輪郭がぼやけると次の瞬間に炎で出来た鳥へと変化する。良く見ると瞳だけは青い炎で出来ていて尾羽が二股に分かれていて身体の至る所から火の粉が飛び散っている。

『キュエェェ……!(行ってきます!)』

フェニックスが勢いよく空へと上がっていく。遠目から見ればもう一つの太陽かと見間違うほど燃え上がっている。

『キュエェ……!キュエェェェ!!(我は死と再生の炎!汝らに輪廻の旅路を贈ろう!)』

うん、多分鳥状態で話し掛けても彼等には伝わらないのではないだろうか。話し?掛けられたエルフ達は凄い慌てているのが良く分かる。男の魔族が天幕の中から出て来てフェニックスを見上げて表情が引き攣った。

『キュエェ……!キュエェキュエェキュエェェェ!!!!(ただ燃え上がる炎、絶えず消えぬ焱よ、創世の時より在りし焔よ、その在り方を示せ)』

フェニックスの身体が更なる炎で包まれると太陽が堕ちたかと思う程の速度で野営場所のど真ん中に落ちて……爆発した。遠く離れたこの場所にすら凄まじい熱波が押し寄せてくる。

「おい、あのフェニックスとやらは死んだのか?爆発したんだが」

ゼブルが思わず問い掛けてくる。

「死んだよ。フェニックスに出来ることって再生の炎か死の炎の二つだけだもん」

「つまり?」

「フェニックスの攻撃方法はあれだけ。自爆特攻しかない」

その代わり凄まじい威力が確約される。何せ私の全魔力の塊であるフェニックスがその全てをただ一撃の爆発に掛けるのだ。そりゃ強い。多分イルナ当たりが食らっても充分過ぎるほどの火力となるだろう。今回は爆発範囲を弄ってもらっているがそれでもこれだけの威力である。ちなみに私があれを食らうともれなく半身以上が確実に消え去る。

「あ、生まれるよ」

私の言葉にゼブルが再度野営地を見ると燃え上がっていた炎が全て一塊になるように集まっていく。するとその炎はフェニックスの輪郭を取り始める。

「まさか……」

「フェニックスって自分の攻撃で付いた炎を集めてもう一回再生するんだよね。炎が多くなればなるほど強くなるの。天幕みたいに燃えやすいものがあったからさっきの……二倍くらいにはなりそうかな?」

そして再生が完了する。本家のフェニックスは三日ぐらい掛けて再生するそうだがそんなに待てないので適当に三分位としている。こう考えると三分間のクールタイムがある爆弾にしか見えなくなってきた。

「あと二回位突っ込ませたらエルフ壊滅しそうだしレッツゴーニクス」

『キュエェ……!!(頑張ります!)』

とりあえず魔族ら逃げたようだしエルフをとりあえず全滅させてしまおうと思う。逃げた魔族はマナに追い掛けさせたし大丈夫でしょう。

「……?どうしてそんなに引き攣った顔をしているの?」

私の問いにゼブルは私から視線を逸らした。

古代エジプト神話、フェニックス

諸説あるが共通する内容として五百年の寿命を持ち、寿命を迎えると自ら香料等を集め薪をしてその中に飛び込むというもの。するとその灰の中から虫が出てきて三日目に羽が生えてフェニックスと化し飛び去る。つまり永遠に生きる鳥というものである。

スイはその内容から色々考えたが面倒臭くなって炎になって飛び込んで敵を爆殺、その炎から復活するという悪魔の爆弾みたいなものを作り出してしまった。自爆特攻という点かはたまたスイ本人の無意識下のものかは分からないが軍服姿でスイのことを上官扱いする女の子が出来てしまった。

フェニックスは結構ノリノリなのでわざとかもしれないがスイはその事は知らない。

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