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348.下らない結末



スイはかつてない程の苛立ちを感じながら歩いていた。馬車は壊れたという設定なので指輪の中には入れず街壁に突き刺したままだ。宝石やら鉱石やらで割と飾っている物なので盗む者が出てくる可能性がある。その為馬車にはジズとカーバンクルと白面金毛九尾を置いておいた。

カーバンクルはリスのような姿で額に赤い宝石が嵌め込まれている不思議な生き物だ。白面金毛九尾は漢字そのままに九つの尾を持ち金色の毛並みと白い顔の五メートルはある大きな狐だ。二人ともというか私の生み出した子達は全員人型にはなれる筈なのだがカーバンクルはあまり人型にはなりたがらず、白面金毛九尾は逆に狐型になりたがらない。白面金毛九尾は何故かフルネームで呼ばれるのが嫌いなようで次からはハクちゃんと呼ぶように言ってきた。妲己や玉藻の前は嫌らしい。拓が少し残念がってたのが印象的だった。

そんな三人を見張りに置いてからケルクの街を見て回っているのだがその街中の至る所にあるものがスイの神経をかなり逆撫でていた。魔導具らしいテレビのようなものに映る男や女の姿、看板に描かれた絵、売られている物、人々の会話、それら全てがスイを苛立たせる。

スイの苛立ちを感じてかシェスですら今のスイの近くに寄ろうとしない。それでいい。近くに寄ってくると何をしてしまうか分からない。その位にはスイは自制が上手く出来そうに無かった。

夜になってきていることもありスイ達は無言で宿に泊まることにした。拓が見つけたその宿はそれなりの高級宿らしいのだが値段を見て拓が渋い顔をしている。

「……何?」

私の問いに拓は渋い顔のまま答える。

「全員で泊まるなら一泊銀貨二枚だって。二部屋借りるなら四枚、朝夕の食事込みなら銅貨を五枚追加だって」

「え、高っ!?ぼったくり?」

ルーレちゃんがそれを聞いて驚いている。けど恐らくこの値段は実際には高くない筈だ。そもそも悠久大陸での貨幣が高騰しているだけでこちらの大陸にまでそれは影響していないだろう。

「はい」

私があっさりと銀貨を五枚出したので拓達が慌てている。

「ね、姉さん」

「悠久大陸では高騰していてもこちらでは違うよ。日本円で二万五千円だったら高めのホテル程度でしょ。別にこの位惜しくもないからさっさと払ってきて」

何せまだまだ金自体に余裕があるし流石にこちらに冒険者ギルドは無いだろうが悠久大陸に戻って狩った魔物を売ればまた手に入る。ケチケチする必要も特に感じはしなかった。

「……あっちの大陸ってそんなに高騰してるの?」

ルーレちゃんが呆然としながら言ったので頷きだけを返しておいた。ちなみに貨幣とあまりに無縁な生活を送っていたせいかシェスはあまり理解していなかったようでまた拓から貰った串焼きを食べていた。美味しそうに食べているのを見ていたらシェスが渡してきたので一口だけ貰った。何処で売っていたのだろう。悠久大陸の人だと思うから何とか雇いたいと思う程度には美味しかった。


宿に泊まって翌日になると外がガヤガヤと騒がしかった。窓から外を見ると祭りのようだ。今日が祭りの日というより祭りの日の真っ最中に私達が突撃したのだろう。それほど広くない街なのに一時間も兵士が来なかったのはそれが理由だろう。昨日気付かなかったのは多分相当苛立っていたからだろう。

外に出る気も起きないが拓達はどうやら外にいるようだ。触らぬ神に祟りなしとでも言うつもりだろうか。まあ確かに今の私には近寄りたくないだろうけど。

窓から見える光景はそれだけで苛立つ。外に出れば更なる苛立ちが募るのは間違いない。けれどこういう祭りの時ほど羽目を外しやすいのが人というものだ。つまりそれだけこの街がどういう街か分かりやすい。拓達も今の私に近寄りたくはないだろうから私一人で少し街を巡ってみることにしよう。

魔導具らしいテレビのようなものには男性の姿が映し出されている。男性の名前はエデル、この街の救世主らしい。かつての大戦の時にこの街を守りきった魔族で今もまだ生きているようだ。その後に映し出された女性もまた魔族だ。名前はアウラリア、エデルと共に街を守った救世主で二人は夫婦だそうだ。

看板に描かれている絵には亜人族の男性の姿、救世主の一族の末裔らしくこの街の重役の一人だそうで名前はクデ。売られている物もエデル印の饅頭だのクデが絶賛しただのがキャッチコピーとして書かれている。

「今日は俺がエデル役でお前が悪魔役な!」

「えー、やだよ!昨日も僕が悪魔役じゃないか!今日は僕がエデル役だよ!」

「黙れ!悪魔め!このエデル様が悪魔を成敗してくれる!」

「いたっ、痛いよぉ!」

「この!このっ!」

「痛っ……」

ドンッとぶつかってきた小さな子供は私に当たると転けてしまう。ぶつかった子供を追い回していた子も私を見ると頭を下げる。

「ご、ごめんなさい」

「ごめんなさい」

私に頭を下げる子達を見て街を見て回ってそうして決めた。

「……ねえ、悪魔って誰の事?」

「悪魔?あ、さっきの?悪魔っていうのはウラノリアっていう悪魔とアガンタっていう悪魔の二人がいるんだよ」

「そう……」

私は転けたままの子供を引っ張り上げるとそのまま壁に叩き付けた。グチャっと嫌な音を立てて壁の染みへと即座に変わった。呆然としているもう一人の男の子の首を掴むとそのまま上に持ち上げる。

「……がっ!?あっ……!…………!」

「そうだよね。昨日の時点でしておくべきだったね。でも寝る前に血の匂いがしたら寝づらいから仕方ないかなぁ?まあいいや。うん、皆殺そう。こんな小さな子にまであいつらの教育が行き届いているとは思っていなかったけど逆にそれで踏ん切りが付いちゃった。君達がいけないんだよ?小さな子に罪は無いし知らない子の方が多いだろうと思ったのにまさかチャンバラごっこに使われるほど浸透してるなんて……仕方ないよ、全員殺して街を殺そう。そうじゃないといつまでも残り続ける。こんな街は今すぐにでも消してあげないと……あ、もう死んだ?」

窒息死かそれとも首の骨でも折れたのかぐったりした子供をその辺の家屋に投げ付けておく。既に周りに居た人達は私の所業に気が付いていてずっと子供を離せとかうるさかった。兵士達もすぐに駆け付けたがその時には子供は死んでいたので安易な攻撃はやめたのだろう。

「……レヴィアタン、ジズ達に知らせてきて。この街を囲みなさいと。他の子も出すから誰一人として外に出さないように。それと中に入ろうとするやつもちゃんと捕らえておいてね」

「出さぬようにだな。分かった。殺してはいけないのか?」

「私が殺すから殺しちゃだめ。怪我くらいなら良いけど」

「うむ。我らが創造主殿の為に」

レヴィアタンはそう言うとその身を元の姿に変化させると凄まじい速度で街壁の方まで向かって行った。街の一部を崩壊させていたがあれで死者は出していないだろう。巨体なのに案外繊細な動きが出来るのがレヴィアタンだ。

「ん……ああ、何時でも攻撃を仕掛けて来ていいよ?どうせ全員死ぬのだし抗ってから死にたいでしょう?」

私はそこまで言うと店の在庫でも入れているらしい木箱の上に座る。どれだけ頑張った所で私に傷の一つも負わせられないのだから。

「あ、でもどうしてこんな事をするか位は知りたいかな?なら教えてあげても良いよ。私の名前はスイ、貴方達が悪魔と呼ぶウラノリアの娘。正しい歴史を改竄して自らの都合のいい様に解釈させた裏切り者達を殺しに来た。謝罪は要らない、改心も要らない、逃亡は許さない、自害も許さない、貴方達は全て私がこの手で殺してあげる。安心してね。生温い死なんて与えてあげないから」

シェス「始まったよ」

拓也「あぁ〜、まあそうだよねぇ。仕方ない。馬車の方まで戻ろうか」

ルーレ「そうね」

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