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322.愉快な家族

二話前の後書きからお読みください。



「あらぁ、可愛らしい子ね。お名前は何かしら?」

「リアル外国美少女がうちに来たー!!これは勝つる!何に!?知らん!」

「えへへぇ、私の名前はね、花奈(はな)って言うんだよ!よろしくね!」

「……あ、うん」

ほわほわとした外見と実際にほわほわとしている言動の千恵子、俺の妻が名前を聞き、奇声を発して喜びの舞をし始めた馬鹿が俺の息子の幸太(こうた)でそれらの全てを無視して少女に話し掛けて名前を言ったのが俺の娘の花奈だ。

ちなみに白髪少女だが此処に来るまでに簡単な会話とある程度の文字を覚えた。まあ覚えたと言っても実際は覚えていたものを思い出したなのかもしれないがどっちかは分からん。

「貴方、この子の名前は何ちゃんかしら?」

「……分からない。何も覚えてないから」

そう言えば結局名前は分かってないな。記憶喪失らしいから覚えている筈無いよな。いやまあ記憶喪失にも名前を覚えているパターン位はありそうだが少なくともこの子は何も覚えていないのだろう。自己申告ではあるから確定した訳では無いが。

「そうなの?それは大変ね。あ、そうだわ。なら貴女に名前を付けても良いかしら?」

「……ん」

千恵子の問いに少女が頷く。千恵子は少しの間考えてから言葉を口にする。

「貴女の名前はみどりって言うのはどうかしら?貴女の目が凄く綺麗だったから」

「それで良い」

少女の名前決めが凄い早いな。というか名前とかどうでも良いと言わんばかりの速度だったぞ。まあそれでも千恵子は満足そうだから良いけど。

「えぇ!そりゃ無いぜ!もっと外国美少女風な名前とかにしようぜ!こんな可愛い子なんだぜ!もっとこう!」

「お兄煩い!近くで叫ばないで!」

「ぐふぉ!」

何やってるんだアイツは。悶絶してる馬鹿とそれを作り出した娘を見て少女、みどりは少し笑っていたのが印象に残った。



そんな出会いから三ヶ月も経った。ぶっちゃけ何も起きなかった。いや正確には起きていたみたいなんだがこっちにまで被害が来なかったというのが正しい。あの化け物蜘蛛みたいな巨大化した何らかの生物が発生していたみたいだが護衛として派遣されている同僚達によって倒されているみたいだ。

生物としての共通点は無し。強いて言うなら巨大化した生物達はいきなり発生する事、蜘蛛の時みたいに何らかの特殊な能力を持ち合わせている事。後はみどりを狙っているのか基本的に一般人や同僚達に向けて何かをしてこないこと。勿論攻撃すれば話は変わるが逆に言えばしなければ何もせず素通りする。それとみどりの近くでしか発生しない事。

これらが共通点と言えるが何故その生物が巨大化するのかということまでは分からないということだ。まあ分かれば先んじて殺すことも出来るからそこが残念な事だ。そして巨大生物達が全て例外無くみどりの方に向かっている事と最初の化け物蜘蛛の様に殺そうとする行動を考えるとどう見てもみどりは狙われている側であり地球に逃げ込んだのでは無いかという説が上がっている。

そしてそれがかなり有力になってきている。その理由がここ三ヶ月のみどりの行動だ。特に何らかの危険行為を行うことも無くそれどころか穏やかに過ごしている。性格は至って普通だ。むしろ穏やかだとすら言える。みどりが誰かを意図的に傷付けるとは思えない程に。

俺も最初の方は警戒していたが今では殆ど警戒していない。まあそもそも警戒したら駄目なんだが。刺激する可能性があるからな。まあそれもあるがそもそも三ヶ月も一緒過ごしていたら情の一つや二つは湧くってもんだ。

そんな事を考えながら報告書を書いていると部屋の扉が控えめにノックされる。なので報告書を引き出しに直す。直して少ししてから扉が開けられる。

「……パパ?ご飯だよ?」

ましてやそれが父親として慕ってくれるなら尚更だ。

「もうそんな時間か。分かったよ」

「お仕事は終わったの?」

「ああ」

「そっか。なら一緒に降りよ?今日のご飯は私も手伝ったの」

「それは楽しみだな」

差し出される小さな手を握って階下に降りる。すると降りてくる音が聞こえたのだろう。パタパタと可愛い音を立てて娘の花奈が目の前に現れた。

「あぁー!パパ狡い!私もみどりちゃんと手を繋ぐの!」

そんな事を叫んでとりゃぁっと花奈が飛び掛かってくる。それをみどりは全く動じることなく更に言えば一切その場から動くこと無く花奈を捕まえるとくるくるとその場で一回転して床に下ろした。花奈の方がみどりより身体も大きいしどう見てもそんな動きが出来るようには全く見えないのだがそこはもう気にしないことにしている。日に二回も三回も同じ光景を見たら慣れる。

「もう、また危ない事して。駄目だよって言ったのに」

「えへへぇ♪みどりちゃんが受け止めてくれるって信じてたから!」

「むぅ、危ないから私以外にしちゃ駄目だからね」

「はぁーい♪」

みどりがそう言ってからしょうがないなぁと笑って花奈の左手を握る。花奈が蕩けたような表情を浮かべる。親としてはその表情はやめて欲しいと言わざるを得ないが外ではしっかりしてるから何も言えない。

もう分かっていると思うがみどりは言葉も文字も完璧に覚えたようだ。家にあった英和辞典と漢字辞典、追加で買ってきた広辞苑を読ませたら僅か四日で全て覚えたようだ。四日で覚えるって何だって思った記憶がある。

ちなみに英和辞典は幸太の物で漢字辞典は花奈の物だ。馬鹿っぽい言動と行動ばかり取る息子、娘だが頭の出来自体はかなり良いらしい。高三の幸太は学年一位の成績を三年間ぶっちぎりで取り続けているし花奈も幸太程ではないが上位十位以内に常に入っている程度には賢い。普段の態度もそれを感じさせて欲しいと思うのだがそれはそれで物足りなくなりそうだから言ってはいない。子供達にはのびのびと過ごして欲しいからな。させ過ぎたような感じもするけど。



そうして当初からは考えられない程穏やかな毎日を過ごしていたんだがそれも限界が近いのかもしれない。同僚や上司から送られてくる資料は少しずつだが巨大化生物達が強くなってきていて少し前に出た巨大蛞蝓に至っては銃が通らなかったらしい。塩掛けたら死んだらしいが。とは言えそんな弱点持ちの生物はそう居ないだろうし厳しくなるだろう。

そんな事を考えていたのが悪かったのかもしれない。机の上の携帯が夜中だと言うのに鳴り始める。その着信相手は後輩の小山。嫌な予感がしつつも電話に出る。

「……出た!先輩!まずいっす。そっちに巨大化生物が向かいました!生物はコマドリっす!」

「分かった。推測で良い。到着予定時刻は何時だ」

「飛行速度から見て十五分もあれば先輩の家まで到着するかと」

「分かった」

電話を切ると鍵付きの引き出しから銃を取り出し弾を込める。もちろんサプレッサーは付けた。住宅地が近くにそれ程無いと言っても完全に無いわけじゃないからな。

部屋を出て即座に玄関まで降りると靴を履いて外に出る。出来るなら家族を巻き込みたくはないが家族には最初にこういった事態の可能性は伝えてある。それに対しての反応だが基本的に俺の家族はおかしいと思う。千恵子は分かりましたって一言で終わったし幸太はリアルファンタジーとか最高じゃね?とか言い出すし花奈は良く分かんない!って言ってた。とりあえず花奈は馬鹿なのか賢いのか良く分からん。

「さて、あれだな?阿呆みたいな大きさしやがってコマドリは小さい鳥なんだぞ」

俺の目の前に着地したのは確かにコマドリだ。但し体長が三メートル以上ある化け物だが。その癖無駄につぶらな瞳で俺を見る。

「キチュチュ」

コマドリは俺を見た後に馬鹿にしたように鼻で笑う。クソ腹立つが冷静にならなければこいつの体当たり一発で俺は死ぬのだ。怒りは鎮める。しかしそれを嘲笑うかのようにコマドリはゆっくりとこちらに歩いてくる。俺はそんなコマドリに向けて銃を撃つ。パスっと軽い音を立てて放たれた銃弾はコマドリの目に当たって……カンッと高い音を立てて地面に落ちる。

「は?」

「キチュチュ」

一瞬動揺した俺は凄まじい速度で近付いてきたコマドリに跳ね飛ばされる。

「ぐふっ!?」

何が起きたか分からない。ただ分かるのはこのまま倒れていたらみどりは恐らく殺されるということだ。

「……父親としてはそんなの認められる訳ねぇよなぁ」

痛みを堪えて立ち上がる。コマドリがそれを見て器用に口元を笑みの形に変える。無駄に表情豊かだ。

「ぶち殺すぞクソ鳥が!」

目が無理なら口の中、羽の間、関節等色々な所を撃ったがその全てが弾かれた。コマドリは動く様子すらない。

「くそ、どうすれば」

弾を交換して狙うがコマドリはどうでもいいと言わんばかりに俺から顔を逸らして二階を見る。その部屋はみどりの部屋だ。どうすればあいつの気を逸らせる。考えろ!

「……あら?可愛らしい鳥さんね。でもパパを傷付けたのは許せないわ。死になさい」

突如として聞こえてきたその声はみどり!?二階の窓からみどりが……みどり?あの特徴的だった名前の由来にした翠の瞳はまるで血の赤のように真っ赤に染まっていた。そしてそれを見たコマドリは先程までとは違い逃げようとする。しかしみどり?は窓からふわっとした感じで飛ぶとコマドリの背中に乗る。

「ふふ、鳥の背中に乗るなんてきっと初めての経験ね。まあどうでもいいけど」

みどりは少し笑ってから右手を貫手の形にするとコマドリの背中を貫く。コマドリは悲鳴を上げようとしたのだろうがその前にみどりのもう片方の手がコマドリの首を捻りあげて引きちぎっていた。

「……血だらけになっちゃったわ。パパ?私寝ちゃうから身体を洗っておいてくれる?また私が起きた時時間があれば話してあげるから……ね?あ、でもこれだけは言っておくわ。私はパパの味方だから。安心してね」

みどり?はそう言うとコマドリの身体の上に倒れ込むように意識を失った。

「……情報量が多すぎて頭痛くなってきた」

とりあえず柏木呼んでみどりを風呂に入れてもらおう。



ついに来てしまった。

他の個体よりも少し強くなったそれは家の前に着地した。

パパが相対しているみたいだが銃弾は全く効いていない。

そうしていたらパパが跳ね飛ばされた。

私は何をしているのだろう。

あのままだとパパは死ぬのは間違いないだろう。

けど動く事を躊躇してしまう。

私を見るパパの目が酷く怖い。

けど……私は後悔したくない。

もう二度と家族を失いたくない。

二度と?きっと私の知らない記憶だ。

この子のほんの少し残った記憶なのかもしれない。

それはどうでも良い。

そのほんの少しの記憶は私と同化してその分私とこの子が同化した。

そして分かった。私は確かにこの子の事が嫌いだ。

けどきっと記憶を取り戻して行けば行くほど私はこの子を守りたくなってしまう。

それが分かった。そしてこの子の守りたいものを守りたくもなった。

もう怖くない。

例えどんな目で見られようとも私は私の思うままに行動しよう。

その先に何があろうとも。

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