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270.その身に宿るは果てなき悪意



神癒(コールヒール)

白髪の少女はアルシェに対して治癒魔法を掛ける。だが思っていたよりダメージが大きかったのかそれとも白髪の少女が意図したのか身体をほんの少し動かす程度にしか回復しなかった。アルシェが回復している最中幾度となく槍が飛来し虎人族の男が攻撃を仕掛けてきたがその全てを白髪の少女は一切その場から動くことなく迎撃してみせた。

「……(我と戦っている時も本気ではなかったというのか)」

アルシェが戦慄を覚えている時、虎人族の男は幾度となく交えた拳によって白髪の少女の出鱈目なまでの身体能力を理解していた。

「……(俺より力も速度も上で魔法の腕前は考えるまでもない。ついでにそれでも本気じゃないってか。ここまで強い魔族は初めてだな。まずいかもしれねぇ)」

虎人族の男、ガゼットが冷や汗を流す。しかしそれをおくびにも出さずに白髪の少女を睨み付ける。

「あれ?どうしたの?攻撃が止んだよ?もしかして気付いちゃったのかな?手加減されてることに。大丈夫だよ、私はすぐに貴方達を殺したりなんてしないから遠慮なく挑んできて、貴方達の全てを見せて、それからぐちゃぐちゃにしてどろどろに溶かして殺してあげる」

しかし白髪の少女は不思議そうに首を傾げながらそんな事を言う。ガゼットの睨み付けなど何一つ効いていない。いや事実効く要素などまるで無いのだろう。白髪の少女にとってガゼットは弱者でありどんな手を使われようがその一切合切を灰燼に変えるだけの力があるのだから。

「……ぐぃ、盲目空間(ブラインドエリア)

その時倒れ伏していた茶髪の少女から魔力が溢れ周囲一帯に不可思議な空間が生まれる。見た目への変化などは起きていないのに白髪の少女どころか地形以外何も見えず何も感じない。風の動きすら判断出来ない。

しかし次の瞬間ガゼットは何故かオルディンの中に居た。目の前には茶髪の少女が居て少しだけ身体を起き上がらせているが動けそうにはない。恐らく茶髪の少女がガゼットと共に移動したのだろう。

「お前さん、何のつもりだ」

「お主に死なれると…困るのじゃよ。お主も…分かっておろう?あの者は生半可な力では対抗する事すら容易ではない。いや我もお主も槍を投げていた者も単体で挑めば瞬殺される。間違えても馬鹿正直に挑める相手ではない。故に一旦共同で動きたい。我が魔族と思うておるお主からすれば納得はしにくいじゃろうがな」

茶髪の少女は話しながらも回復していたのか最初は言葉に詰まっていたがすぐに流暢に話し始める。一瞬言われた事に反発しかけたが確かに茶髪の少女の言う通りだ。白髪の少女に自らが再び挑んで勝てるとは到底思えなかった。大抵の相手には勝てると思っていたがその鼻っ柱をへし折られた気分だ。

「……分かった。つうかお前さん魔族じゃねぇのか?」

「我は人族じゃよ。多少おかしくはなっておるが魔族ではない。それとお前さんなどと呼ぶでない。お主よりも長生きしておるわ」

「あ?明らかに俺より若いだろ?」

「六百を超える我がお主より若いか?」

「は?」

「まあ見てくれで分からんのも仕方ない。我は宝魔殿、アルシェ・エストフィールドじゃ。呼び方は……まあ何でも良いか」

「……宝魔殿、爺だって聞いたんだが……いや、いいか。聞ける時にまた聞くことにする。俺は壊拳、ガゼットだ」

「となると、もう一人は槍聖か?」

「そうだ。移動したのが分かっただろうからすぐにこっちまで来るはずだ。俺とあいつは対となる魔導具を持ってるからな」

「……だからこんな簡単に見付かったんだ?お馬鹿さんだったりする?」

二人が突然聞こえてきた声に即座にバックステップで退避する。しかし声の主である白髪の少女は攻撃をするでもなく二人を少し呆れたような目で見ている。

「ふぅ……何と言うか残念な気持ちだなぁ。もう少し楽しめそうなのにすぐ終わっちゃいそうなんだもの」

白髪の少女は憂い顔で二人を見つめる。その目から二人を脅威に感じるどころか路傍の石を見るかのようにつまらなさそうな雰囲気すら感じる。そんな少女へとどこからともなく飛来する槍だが白髪の少女は見もせずに片手でその槍を掴むと握り潰す。

「そろそろ鬱陶しいよ?隠れてないで出てきなさいな。転移(テレポート)

その魔法を見た瞬間アルシェは愕然とする。そんな簡単に発動出来る魔法では無いのだ。だが事実その魔法は発動しアルシェ達の隣に人族の老人が立っていた。その老人は鋭い目でアルシェを一瞥すると即座に白髪の少女へとその鋭い目を向ける。

「ん〜?貴方何処かで会ったことあるよね?何処だったかなぁ?」

「……ノスタークへと向かう馬車の中だ魔族よ」

「ノスタークへと向かう馬車?あぁ、あはは、思い出した。ウォルやレフェア達と一緒に乗ってたグイードって人か。あはははは!あの時は気付かなかったけど成程、貴方なら確かに人災と呼ばれるだけの力はあるはずだよ!」

白髪の少女は少しだけテンションが上がったようだがすぐに冷めたのか三人を冷たい目で見つめる。その後少し首を傾げてから何か思い付いたのか笑う。

「あはっ、いい事思い付いた!三人じゃ物足りないなら増やせば良いんだよ!そうしたら丁度良くなる!」

白髪の少女の言葉にガゼットとグイードから殺気が漏れるがその殺気すら心地良いのか気持ち良さげに笑う白髪の少女。その異常過ぎる精神にアルシェはほんの少し身体が震える。怯えた身体に鞭を打とうとするがどんどん身体の震えは大きくなっていく。その時隣に立っていたガゼットがアルシェの背中をバシッと叩く。アルシェはそれに驚くがガゼットの不器用な意図を理解して笑う。身体の震えは無くなっていた。

「丁度人災は私が一人確保してるし解放しちゃえば四人になる。それと試運転?もしとかなきゃね」

白髪の少女がそう呟くと少し右腕を浮かすとそこから泥のようなものがボトボトと落ちていく。その気持ちの悪い光景に三人が少し身構えるが特に何かが起きる訳でもなく泥のようなものをひたすら落としていく。そして大量の泥を落とし終わったらしく白髪の少女が面白そうな目でその泥を見つめるとそれ等が少しずつ動き始めやがて一人の男の姿を作る。その姿を見て三人が唖然とする。

「教授……?」

誰かの呟いたその言葉を切っ掛けに教授、アスタールが頭を抱えてその場に(うずくま)る。そして恐る恐る顔を上げて目の前に白髪の少女が立っているのを見て恐怖が決壊したのか慌てて立ち上がりアルシェ達の方へと走ってくる。ガゼットが拳を構えたのを見てアスタールも止まる。流石に味方とは思いづらいアスタールを無防備に近付けたくはない。

「あははははは!大丈夫だよ、それは確かに正真正銘アスタールだよ。ちょっと前まではその身体を使わせて貰っていたけど今じゃもう要らないからね」

白髪の少女が心底楽しそうにそう笑う。言葉の意味は良く分からないが例えアスタールが本当は白髪の少女の味方であったとしても三人で白髪の少女に挑んだ所で勝てはしない。そう考えたのかガゼットは拳を下ろす。アスタールはほっとしたようにガゼットの隣まで来ると白髪の少女を睨み付ける。だがその目の奥では恐怖が浮かんでいる。

「酷い目だなぁ。私が貴方にした事なんてそう大したことじゃないでしょう?まあ別に構わないけど。とりあえずこれで四人の人災が揃った!これで楽しめるかな?でも私と戦うには役不足?だからね?今日は初めての身体でウキウキしてる私の子供と戦って欲しいの!アスタール、貴方の身体を使ってた子だよ?」

白髪の少女がそう言ってから再び右腕を浮かすとそこから透明な雫のような物が溢れ足元に落ちていく。それは少しづつ形を整えていくと白髪の少女と瓜二つの少女が生まれた。違いがあるとすれば白髪の少女とは違いその髪色は黒であり短剣を持っていないことだろうか。その顔が浮かべている笑みも質が違うからそれを見ればすぐに別人だと分かる。

「ヒャハハハハ!!ご紹介に与りましたマザーの子供ことこのワタクシ!イル・グ・ルーで御座います!皆様盛大な拍手で出迎えやがれ!クヒャハヒャヒャ!」

「ちょっとテンションが高いし私の身体に似た身体でやって欲しくないけどまあこれが私の子だよ。この子と遊んでくれるかな?」

白髪の少女が笑い黒髪の少女が嗤う。しかしそれを見た四人は恐怖を浮かべるしか無かった。その桁違いなまでの暴力的な気配は死を予感させるには十分過ぎた。

「クハハヒャヒャ!さあ!タノシモウゼ!?マザーの為に、な?」

イル・グ・ルー「アヒャヒャ!ケヒャグヒャ!ヒヒハハハハ!!!」

白髪の少女「うん、ちょっとうるさい」

イル・グ・ルー「おお!申し訳ねえマザー。つい気分が高揚してさぁ!」

白髪の少女「大丈夫だよ。終わったあとにでも落ち着いてくれたらね」

イル・グ・ルー「勿論!最高のショーをマザーにお届け出来るように精一杯頑張らせてもらうぜ!こんな事ケル姉やヒーちゃん、メアちゃんにはやらせられないだろうからな!」

白髪の少女「そう言えばイルの性別って何だろう?精神生命体なんだよね」

イル・グ・ルー「……分かんね、今は女で良いんじゃね?」

白髪の少女「雑だね、まあ分かった」

イル・グ・ルー「そんなもんでいいのさマザー。さあそろそろショーの開催と行こうぜ?」

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