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248.アザマ

ぐはぁ。またしても完結済みボタン押していたようです。

申し訳ありません……。

まだまだ続きますのでどうかよろしくお願いしますm(__)m

というか何で押したのに気づかないかなぁ私……



「こん…っの……!いい加減に……止まれ馬鹿蛇!!!!」

「キィシャアアァァァァァァァァ!?!!?」

スイの繰り出した拳が目の前を凄まじい速度で通り過ぎようとした壁、いや鱗を持つ蛇の身体を打つ。それが想像以上に痛かったのか転げ回る壁と思わず見間違えかねないほどの巨体を持つ蛇。陸地を暴走するかの如く走り続けていた蛇、通称アザマだ。

このアザマ実は色々と特殊な個体である。言葉こそ喋れないが人の言葉を理解するだけの知能がありそれでいて別に知性ある凶獣ではないのだ。しかも魔物であるにも関わらず魔力だけで生きる事が出来る上人を襲われない限り積極的に襲ったりはしない。何故か生まれた特異個体の蛇の魔物、それがアザマだ。

そんなアザマだが困った趣味が走る事なのだ。いやそれだけなら別に構わないのだがスピード狂とでも言うべきか暴走癖がありいざ走り始めたら人の言葉は無視するわ止まらないわで延々と走り続けるのだ。だが人は襲わない為かある一定の土地から全く動かずその敷地内をぐるぐる走り続けるのだ。まあその巨体故か範囲は馬鹿みたいに広いのだが。

「キシャアァァ?」

殴られた時は痛かったのだろうが我に返ったのだろう。特に痛みを堪える様子もなくスイに近寄ってくる。そのつぶらな瞳は意外と可愛いかもしれない。暴走癖が無ければスイは間違いなく撫で回していただろう。ただそのスイは今は滅多に出ない苛立った表情でアザマを睨み付ける。

「……五時間……アザマ?」

そうスイは言葉通りアザマの暴走を五時間も辛抱強く待っていたのだ。最初の一時間は呼び掛けた。二時間目にはそのうち気付くだろうと少し離れた場所で時折声を掛けていた。三時間目にはこれ無理かなと諦め始めていた。四時間目には遂に切れてアザマを追いかけ始めて五時間目にようやく追い付いて殴り飛ばしたのだった。

アザマも自分の悪い癖である暴走癖は自覚している。それ故か巨体にも関わらず怒られているのを理解しているのか縮こまっているようにも見えた。その様子にスイは何か言おうとして溜息を吐くとすぐに意識を切り替えた。

「まあ良いや。アザマ貴方の鱗が少し欲しいんだけど良いかな?痛くならないようにはするつもりだけど」

「キシャアァ」

スイが言うとアザマはゆっくり頷く。早く頷くと風圧が凄いことになるからだろう。とにかく了承の意を込めて頷いたのは間違いなかった。そのままアザマはゆっくり進み始めそれにスイも続く。アザマも理解しているのだ。自分の鱗が色々な素材に使われている事を。だからこそ走っている最中に剥がれた鱗や時折行う脱皮した皮などは走るのに疲れたら集めて一箇所に置いておくのだ。そういった鱗や皮などをアザマは時折適当な街や村に持って行くと自らの嗜好品として食事を貰うのだ。飲み物は難しいのでその場で飲んでしまうのだが。

つまり今向かっているのはアザマの集めた鱗等の集積所なのだろう。スイは集めて嗜好品と交換しているのは全く知らなかったが何となく集めているのだろうなとは察していた。そうして着いた場所は大きな窪地だ。洞窟等には入れるのは難しいだろうし何よりアザマ自身が入れない。だからこその窪地なのだろう。そしてそんな窪地に先客が居た。アザマやスイの感覚は誤魔化しきれなかったがどう考えても盗賊だろう。

「キシャ」

小さく鳴くとアザマはどうしようか迷う。自らの鱗などを奪いに来た盗人と思われるがだからといって殺すのもどうかとは思う。だが見逃して他の人に害が及ぶというのは面白くない。盗人と時折向かう街の住人達では住人の方が優先度は高いのだから。

「私がやるよ」

アザマのその苦悩を見抜いたのかスイがそう言う。しかしアザマは少し考えた後にスイの前に出る。殺すのは別に初めてではないというのもあるし少女にしか見えないスイに手を下させるのもどうかと思ったからだ。まあどう考えてもスイの方が強いので要らぬ心配かもしれないが長く生きているのは間違いなく自分の方なのだ。ならば出るのは自分であるべきだろうとアザマはそう思う。

「キィシャアァァァァァァ!!!!」

アザマが吼えたそれは盗賊達に恐怖を抱かせるには十分過ぎた。気付かれているとすぐに悟った盗賊達は一目散にバラバラに逃げていく。死にたくないと思い仲間を見捨てているのは明白だった。それにアザマは酷く悲しい物を見た気になり次の瞬間には意識を切り替えていた。

「キィィシャァァァァ!!!!!」

アザマの口から見えない不可視の何かが出る。それを首を振り回す事で逃げて行った盗賊達にぶつける。何かをぶつけられた盗賊達は声を上げることも出来ずにゴトっと重たい音を鳴らして地面にくずおれる。その身体は水晶になっていた。これがアザマの特殊能力の一つである。アザマの吐く息は当たった物を水晶へと変換させる。レギオンゲイザーの呪詛のように対抗する術は殆ど無くだからこそアザマの鱗が依代に使えるのだろう。

アザマは少し悲しげな表情を浮かべるがすぐにそれは無くなりスイに窪地を覗くように身体を少し退ける。スイが中を覗くと想像以上にある素材の数々に目を剥いて驚く。アザマ自身の素材もそうだがこれ迄に轢き殺したり殺した魔物達の素材も大量にあったのだ。肉の類がないのは恐らく食べたからだろう。だがそれ以外の皮や鱗、持っていたであろう武器等はかなり丁寧に管理されている。皮などに肉が全く付いていないので食べてから吐いたのかとも思ったが特にそういう訳でも無さそうである。

「凄いね」

「キィシャア……!」

照れているのか少しくねって動き近くにあった岩を粉々に砕いたアザマを見て迂闊に褒めるのは辞めておこうとスイは思った。そう思われているとは思っていないアザマはスイを自分の頭で少し押し出す。窪地に落とそうとしている訳ではなく何か見せたい物があるのだろうと判断したスイは大人しくそちらへと向かう。

「……」

そしてそれを見たスイは頬を引き攣らせた。見た目はただの小瓶である。いや小瓶自体はどこにでもある特に変哲も無い小瓶なのだ。だがそれに入った赤い液体を見てスイは理解してしまった。この鮮烈な赤色の液体は間違いなくジーラスの血だろう。何故持っているのかどうやって小瓶に入れたのか等色々と聞きたいが残念な事にアザマは言葉は理解出来ても話すことは出来ない。

「えっと、ジーラスの?」

「キシャ」

間違えていないか一応訊いておこうとアザマに問い掛けるもすぐに頷きを返される。特に嘘を付く必要も無いアザマが嘘を付くとも思わずスイは再度その小瓶を見る。

「もしかして何の為に私が来たのか分かったの?」

「キシャ」

アザマも馬鹿ではない。かつて居た言葉の通じぬ友人の面影を少し残すその少女が自らの鱗を貰いに来たのだ。その用件ぐらい察するのは容易だった。何処に残っていたのかとアザマは考えるがどう考えてもこの辺りの大陸の物ではないだろうと結論を出す。アザマの凄まじいまでの感覚器官は遥か遠く離れた場所に土地があることをしっかりと理解していた。

そんな事を知らないスイはアザマが用件を理解していた事に驚くがそれが表情に出ることは無い。ただアザマの艶々とした身体を撫でる。それが気持ち良かったのかアザマは目を細めて成すがままな状態になる。

暫く撫でた後スイは素材として集められていた鱗を五枚とジーラスの血が入った小瓶を指輪の中に入れる。それを見てもう行くのだと察したアザマが少し寂しそうにするがスイの前に身体を横たわらせる。それに少し嬉しそうにスイは笑うとアザマの背中に乗る。アザマはスイをゆっくり落とさぬように身体を起こすとそこそこの速度で走り始める。そこそこと言ってもアザマは早い。十五分もしない内にアザマの居住?範囲から出てしまう。

「キシャアァ」

「ん、ありがとアザマ。また会いに来るね」

名残惜しそうにスイはアザマの額の辺りを撫でると歩き始める。アザマはそれを見て一言鳴くと振り返り戻って行ったのだった。どうかあの少女に不幸が訪れませんようにとそんな事を考えながら。

スイ「ちなみにアザマは凶獣ではないけど凶獣より弱いとは言ってないよ。むしろ何だったらイルナのような三匹以外の凶獣、例えばヒヒあたりなら普通に殺せるよ」

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