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239.世界の違う生き写し

四連続投稿三日目です。



「しかし思っていたよりも大物でしたね。魔王の娘ですか」

「アーシュこそ現役の王女じゃない。ん?いや王妹になるのかな?」

「王妹の方ですね。つい最近までは王女だったのですけれど」

「爵位は無い感じ?」

「ありませんね。そんな時間的余裕も特に無かったですし」

「アーシュ殿下って呼んだ方が良い?」

「公式でも無いのにそんな呼び方されたら不敬罪で殺してやりたくなります」

二人してにこやかにけれど聞く者が居れば顔を引き攣らせそうな会話をしながら料理を一緒に食べる。

「そちらこそスイ王女とでも呼んだら良いのでしょうか?」

「やめて、今だとあのクソ野郎の娘みたいになるし殺したくなる」

「ふふ、つまりそういう事ですよ」

「王様嫌いなの?貴女の兄でしょ?」

「好きではないですね。愚鈍で愚劣で愚昧であれが国を統べる王だなんて信じたくもない事実です」

「想像以上に嫌いなんだね」

「私の事を明るく元気で儚い……そんな存在だと信じているようなお馬鹿さんですよ?」

「あぁ、それは嫌いになる。それを考えたら私はまだ恵まれていたのかもね」

「あら、それはどうして?」

スイが食事の手を少し止めるとアーシュもまたその手を止めて話を聞く体勢になる。大した事じゃないけどと前置きを入れてからスイは話し始める。

「私には前世があるんだ。此処とは違う全く異なる世界での記憶を持ってる」

そうして語ったのは前世での生まれから死までの簡潔な流れだ。生まれた時から自分がそうだったこと、弟が居てそれもまた自分には劣るが似たような存在だった事、幼馴染が居て壊した事、そして両親の死からすぐに死んだ事、こちらの世界で幼馴染と再会した事。

「まあこんな生い立ちだから多少しか理解してくれないとはいえまだ似たようなのが居ただけ私はマシだったのかなって」

「……そうですか」

スイの話を聞いたアーシュが自分の中の記憶を引っ張り出す。何処かで似たような話を聞いた気がする。あれは確か拓也の話だったような。

「もしかしたら……」

アーシュが何かを言おうとした瞬間街全体が震えるぐらいの大きな鐘の音が響き渡る。

「……っ!これは!」

「何?」

「魔族の侵入を許した時の音です!」

その言葉にスイもまた驚く。しかし他の者とは完全に驚くポイントが違うだろう。

「……(私の時は鳴らなかった癖に!?)」

その驚愕にアーシュは気付いたのか少し苦笑する。魔王の娘では鳴らないのに他の魔族で鳴るとはどうなのかと今更アーシュも思ったのだろう。

「アーシュ様……」

「下がりなさい」

護衛が鐘の音を聞いた瞬間アーシュの元に駆け寄ってきたが当のアーシュがすげなく断る。護衛の女性が渋い表情を浮かべる。そしてスイの方を見る。しかし残念だがスイはマイペースに煮込み料理を食べている。

「此処は危険です。急いで城の方まで」

「聞こえませんでしたか?」

「アーシュ、少し剥がれてる」

スイと会話していたからかアーシュの本性が出てきていたのでスイが小さく警告する。その言葉を聞こえたのかすぐにアーシュは笑顔の仮面を貼り付ける。

「大丈夫です。貴女達が居て私が傷付いたりするのですか?」

「いえ、我々も死力を尽くして抵抗致します」

「なら大丈夫でしょう。私は貴女達を信用していますから」

「……どの口が」

アーシュがそう言ったのにスイが一瞬で嘘だと看破する。するとテーブルを挟んだアーシュの足がスイの爪先を軽く踏む。スイは無言で踏まれていない足を伸ばすとアーシュの足を踏む。互いに足を踏みながら会話をするという不思議な状況となっているが護衛の立ち位置的には見えないので安心して踏める?

「分かりました。我々が身命を賭してアーシュ様をお守りします」

そう言って護衛の女性が離れて行く。付かず離れずの距離だがこれは仕方ないだろう。鐘の音が鳴った時点で客は一目散に逃げていたがお金を払った料理を置いていってまで逃げるとは勿体無い。

「そう思わない?」

「流石にいきなりそう聞かれても何の話か分からないのですけど?」

「いや、料理を捨てるなんてって」

「あぁ、そういう事ですか。まあ魔族の強さは誰もが理解していますからね。幾度かこの街まで侵入された事はあるのです。その度に武聖が出たりして街が壊滅的な被害を負いますのでただの人なら一目散に逃げるでしょうね」

「武聖か。強いの?」

「さあ?人族の間では強いのでは?私とは強さの方向性が違い過ぎて分かりません」

「アーシュどう見ても殴り合ったりは得意じゃなさそうだもんね」

「代わりに魔法はそれなりだと自負していますけれど」

「ふふ、アーシュでそれなりだったら相対する者は相当な化け物になりそうだね。そこまで膨大な魔力を良く外側に出さずに押し込められるね。素直に凄いと思うよ」

「その化け物さんが目の前に居ますけれどね」

「アーシュって本当に人族?」

「その筈ですよ?流石に別種族という訳では無いかと」

「特異個体かなぁ?」

「さあ?そこまでは分かりません」

二人でにこやかに笑いながら料理に舌鼓を打つ。護衛の人達は気が気じゃなさそうだけど。あっ、足踏みは流石にもう辞めた。食いづらいし。

「ん、面倒くさ」

「はぁ、これだから被害も考えない馬鹿は嫌いなんです。復興にどれだけの金と時間と資材が必要だと思っているのやら」

スイが煮込み料理を引き寄せると次の瞬間スイが展開した結界が二枚展開される。同瞬結界に何かがぶつかる音と共に店が一気に地面から引き剥がされる。凄まじい威力の何かがぶつかったことだけは良く分かった。

「どうせなら店も守ってくだされば良かったのに」

「やだよ、面倒。被害無しなんかにしたら私絶対に招集するでしょ?」

「……しますね」

「やだ」

「一緒に城に行きません?」

「やだよ、面倒。そんな王様と会いたくない。個人的にアーシュに会うならまだしも公式に会ったりなんてしたくない」

「振られてしまいました」

「……アーシュ殿下!?」

二人で会話していたら入って来たのは初老の男性だ。その手には何も握られておらず拳を保護する為のグローブのみ着けられている。そして結界にぶつかった事で半死人の状態になっている魔族。結界の形を横向きの円錐の形にしたから結界が突き刺さる状態になっている。

結界を解くと魔族がドシャッと音を立てて倒れ伏す。その音に気を取られた初老の男性が目線をそちらに動かした瞬間にスイはフードに掛けていた偽装の魔法を全体に再度掛け直す。これで顔が見られる心配はない。それにいち早く気付いたアーシュが不満そうな表情を浮かべていたがそれは流す。

「これは……」

「私がやりました」

アーシュが一切目を逸らさずにそう答える。軽口を叩きそうになったけれど流石に私を庇おうとしていることは分かるので何も言わない。実際スイがやらなければアーシュがやっていたであろう。その為説明は淀みなく行われる。アーシュがそれなりの魔導士だとは知られているのだろう。初老の男性も信じたようだ。

「そうでしたか。申し訳ありません。アーシュ殿下の身に危険を送る様な真似をしてしまいました」

「偶然でしょうし私が此処に居たのが悪いのです。イーグ様がお気に病む事ではありません」

「しかし……いや、あまり自分を責めても心優しいアーシュ殿下が心苦しくなるだけですか。今は自らの内にのみその思いは秘めておきます。所でそちらの方は?」

「……相席者」

「はぁ……そうですか」

初老の男性、イーグは納得していない表情ではあったが特に追求することもないと思ったのかすぐにアーシュに向き直る。

「アーシュ殿下未だこの場所は危険です。早く城にお戻りを。侵入した魔族はこの一体だけではありません」

流石に兵士の時のようにはいかないのかアーシュがそれに頷く。

「……」

アーシュが此方を見るがそれに対して首を小さく振るとアーシュが少し落ち込む。流石に城には行けない。

「そちらの方も早めに移動するのです。良ければ私がお送りしましょうか?」

イーグがそう声を掛けてくるが首を振ってそれを断る。

「大丈夫。一人で行ける。それよりそのお姫様をしっかり守ってあげて」

それだけを言うと煮込み料理を食べ切る。頑張った。

「じゃあね。また会えたら良いね」

スイがそう言うとアーシュが寂しそうにけれど笑顔で頷く。

<大丈夫。会いに行くよ>

魔法による念話をアーシュにだけ送ると店を出る。

<待っていますね>

返ってきた返事に思わず口元が緩む。

「一回やっただけの魔法を解析して使用するかぁ……ふふ、流石だ。暫くさよならだね。アーシュ」

一人呟くとスイは門へと向かって歩いて行く。ここには多分暫く来れないんだろうなと考えながらも次に来る時を楽しみに少しだけ軽くなった足を動かしていく。

アーシュ「また会いましょうね。スイ。それまでに貴女が楽に過ごせるように変えておくわ」

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