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235.どうして



何が起きたのかは正確には分からない。ただ分かるのは私を助ける為に目の前でまるで糸が解ける様にイルゥの命が喪われたという事実だけだ。

私を殺した者が誰かは分からない。素因の数も分からなかったがそんな事はどうでもいい。ヴェルデニアの関係者であることは間違いないのだから敵対すればいずれ会うだろう。

「……殺す。絶対に殺す」

村としての外観を一切留めていない村で起き上がる事もせずただ怨嗟の声を上げる。

「決して逃がしはしない。どれだけの犠牲を払う事になろうとも殺してやる」

一通り怨嗟の声を上げたあとふと思う。そこまでして皆が生かす価値が私にあるのだろうかと。はっきり言って恐らく自分がスイとして転生するのは誰も望んでいなかったと思う。スイとしての身体をウラノリアが使う事を望まれていたのではないかと。ほぼ間違いなくウラノリアがスイとして転生していたならばもっと早くヴェルデニアを倒していたのではないだろうか。

「どうして私なの……?」

怨嗟の声で無理矢理押し隠そうとしていた心が時間と共に曝け出されていく。元々絶望して自死を選んだ自分だ。二度目の人生を歩むつもりなど毛頭無かった。だが自分の父親と思われる存在に願われ少しして母親と思われる存在に出会った。

はっきり言ってウラノリアとウルドゥアの二人を父と母とは思うが何処か距離感がある事は否めない。元のスイはそれこそ両親にはベッタリくっついていたのだ。だが今はどうだろうか?

「あの世界なら私よりも異世界に行きたがった人が居る筈なのにどうしてよりにもよって私なの?」

苛立ちを感じて間近にあった何かを壊す。壊した何かは地面に転がる。家の支柱か何かなのか壊した瞬間ギシギシと嫌な音を立てる。その音が不快で更に壊す。二度ほど追加で殴った瞬間耐えられなかったのか大きな音を立てて家が倒壊する。

「……どうして!私が!こんな目に!遭わないといけないの!」

倒壊した家に向かって拳を、蹴りを繰り出して苛立ちを露わにする。その度に家は吹き飛び辺りを巻き込んで壊れていく。他の家も巻き込み、死体すら巻き込み激しく暴れ回る。

「意味分からない!わざわざ死んだ人間を拾うな!戦いの日々に明け暮れたいなんて思った事ない!期待されても応えたくもない!私の人生を縛るな!私は私だ!願われ作られた存在だろうとそれに答える義務なんてないだろう!戦いなんて大嫌いだ!痛いのなんて大嫌いだ!願われても不快だ!期待されても不快だ!託されても不快だ!お前達の願いを勝手に人様に渡すな!自分達で勝手に叶えてろ!」

激情に身を任せ手当たり次第に見えている全てを壊していく。それは今までに少しづつ溜まっていった澱のようなもの。それが自分の二度目の死と二度目の蘇生というもう味わいたくもなかった不快なそれによって引き起こされる。

「何で私がそこまでしてやらなきゃいけない!何で私が立ち向かってやらなきゃいけない!自分達で出来ないのならそのままくたばってしまえ!後世に未来を託す!?それがどれほどの重荷か考えた事があるの!?ふざけるな!死ね!死んでしまえ!」

壊す物が無くなってもスイの苛立ちは治まらない。

「はぁ……はぁ……死なないでよ……死んだら託した物も願った物もどうなったか分からないでしょ……死ぬのは全てが終わってからにしてよ……」

力が抜けてぺたんとその場に座り込む。そして顔を手で覆い隠す。

「……うぅああぁぁん!死なないでよ……!置いて行かないで!生きていてよ……!」

激しく溢れる涙を両手で拭うが涙が止まらない。

「もっと私と一緒に居てよ……!」

スイの悲痛な叫びが何も動く物の居ない荒野に響く。



「…………」

荒野の異界を抜けて当てもなく適当に歩いていく。ハーディスからは離れる方に向かっている筈なので誰かに見付かることもないだろう。先程からやたらと好戦的な魔物達に絡まれている。

「……うざい」

襲い掛かって来た鷲のような魔物の突進を避けると手を伸ばして翼を掴むと地面に叩き付けた。叩き付けられても流石は魔物というべきか元気に翼を振り回して逃げようとしていたので首に向かって蹴りを加えてへし折る。

その瞬間に地面を砕きながら蛇のような魔物が襲い掛かって来る。蛇の噛み付きを上顎と下顎を掴んで止める。そしてそのまま力任せに引き裂く。透明な何かの魔物が背後から迫ったのが分かったので引き付けて襲い掛かって来た瞬間に反転して顔があると思わしき場所に裏拳を入れる。

「……魔物が連携してる?」

気付かぬ内に異界にでも入っていたのだろうか?流石に入れば気付くと思うのだが。良く分からないまま進むと何かがいた。ぐちゃぐちゃの魔物達の間に何かが居る。それはスイに気付くと立ち上がる。その姿はかつて見たリザードマンのような凶獣の姿に酷似していた。

猫のような形の目は飛び出してはおらずしっかりと収まっていて舌は三つに別れそれぞれが蛇の頭と化している。腕は鋭く尖った針金のような白い体毛で出来ており中身が存在しない。足はごく普通ではあるがどこか人の脚のように見える。腹には肉食獣のような口が付いていて背中からは複数の骨が刀のように突き出している。それはスイの姿を見るとにやっと笑う。

「……ぐぎぃ、がぁぁ!さが!さかした!おんなぁぁ!?ら!?」

その声を聞いた瞬間スイは動き出してその顔を蹴り飛ばす。本気で繰り出した蹴りは命中こそしたもののそれは痛痒に感じて居ないらしく反撃に振るわれた腕でスイの脚が抉られる。

「……っ!」

「アヒャギャダヂャハ、ハ!?!!き、きかな!い!!その程度!つよくなた!きかないぃぃぃ!?!」

嘲笑の笑みを浮かべてそれは笑う。間違いなくあの時殺した筈の凶獣なのだろう。それはスイの事を覚えているようでひたすらに笑う。

「よわい?よわい、つよい!だから喰う!喰う喰う喰う喰う喰う!?たべさせろぉぉ!!?」

凄まじい速度で迫ってくるそれにスイは防御の為に腕を翳した瞬間、悪寒に身を震わせる。その身体の警告に従い全力で背後に飛ぶ。その瞬間そこに何かが降り立った。

『死んだか……念の為消しておくか』

その何かはそう呟くと先程まで居た筈のリザードマンの死骸に何かをした。何をしたのかを理解することすら許さぬそれに思わずへたり込む。これは逃げることすら、いや逃げる事を考えることすら許さない絶対の支配者だ。

『か弱き少女よ。もう大丈夫だ。安心せよ』

素因の大部分が壊れているとはいえ仮にも魔王のスイに向かってか弱きというのは似合わないのだがこれが相手ならば仕方ないとすら言える。

「……あ、貴女は」

そう言ってスイは首を上に向ける。リザードマンを潰したのは余りに巨大な脚だ。つまり話しているように感じたそれは上から降り注いでいたという事だ。見上げたその先にあったのは上から見下ろす知性ある瞳。

『私か?私は空の支配者、三匹が一、自由の象徴、とまあ色々と呼ばれてはいるが一言で言うならば凶獣だな』

スイの瞳を見てそれは笑う。

『白の竜ラグランドドラゴン、アウラスだ。取って食いはしないから硬くならず気軽に接してくれると助かるな』

そう言って巨大な白竜が笑う。目算で二百メートルは超えるだろうその巨体からは可愛らしい女性の声が聞こえてきた。

「アウラス……」

三匹の中で最も強く最も優しいその存在がまるで孫でも見るかのような目でスイのことを見つめていた。

『貴女の名前を訊かせてくれるだろうか?』

「私の名前はスイです。魔王ウラノリアと北の魔王ウルドゥアの間の娘です」

『ほう、あの二人の娘か……色々と話をしたい所だがここだと魔物が寄ってきそうだな。少し移動するとしようか』

そう言うとアウラスはゆっくりと指先を動かすとスイの前に寄せる。

『さあ、乗るといい。空の景色を楽しませてやろう』

楽しげな声でそうアウラスは言うのだった。

アウラス『さあ、行こうか!』

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