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181.予想外な事



「貴様ぁ…!よくもこの私に恥をかかせたな!」

フェリノを撫で回した後ディーンとフェリノと私の三人で体育祭を見て回ることにした。体育祭自体の規模がかなり大きいのでまだ全然見て回れていないのだ。そして全員で果物を冷やして熱い飴のようなものを纏わせた不思議な食べ物を食べていたら誰かに怒られた。

「……?誰?」

振り返るが誰か分からない。貴族なのは分かるけどそれ以外がさっぱりだ。会ったことあった?そう思っていたらディーンにフェリノが剣技大会をやる前に絡んできた人だと言われた。パンを盗もうとした人か。

「パンを盗もうとした人が悪い」

「は?パン?」

何故か素で聞き返された。ディーンが席を譲るように言っていたとついでに侍ることを許すとかも言ったらしい。そんなこと言われたの?

「と、とにかくふざけた真似をしおって!私がレジェス伯爵の息子だと知らなかったとしても許される事ではない!」

「ああ、あの豚の子供か。確かに似ているね」

「ぶ、豚?」

ふむ、じゃあ良いかな?フェリノを見ると今にも斬りかかりそうだ。ディーンの方を見ると何処から調べたのか何時調べたのかさっぱり分からないが目の前の男の悪行が書かれた紙を渡してくれた。一番目に強姦がある時点でアウト。結界を貼って逃げられないようにだけしよう。

「ん、イルゥ呼んできてくれる?」

「居るですよ」

ディーンに頼んだ瞬間背後から声が聞こえた。

「何時から居たの?」

「結界が貼られたのが分かったのですぐ飛んできただけなのです。ついさっきなのです」

結界を貼ったの今さっきなんだけど。随分近くに居たんだね。監視でもしてたの?

「まあ良いか。とりあえず殺すから後始末お願いね」

「出来たら色々使いたい感じもするのですけどまあ良いです。準備は出来たのですよ」

「ま、待て!私を殺す……つも…」

フェリノ早いなぁ。何か言おうとした豚の子が一瞬にして細切れになった。しっかり護衛らしいものも始末したね。獄炎(ゲヘナ)をぶつけて焼き払うとイルゥに適当に改竄してもらう。

「ん、ありがと」

「どう致しましてなのです。じゃあ私はまた適当に祭りを楽しんでくるのです」

そう言うとイルゥはさっさと居なくなってしまう。私もフェリノとディーンと一緒に遊ぼうか。結界を解除したら二人を連れてぶらぶらと見て回る。遠くに真達を見付けたけど無視をした。まあ関係が無い振りをしたいから仕方ない。関わりたいと思っている訳でもないからだけど。

というかセイリオスの貴族って案外面倒なのが多いのかな?国柄は信用出来るけど貴族は信用出来ないって不思議だ。まあイルミアよりかはマシかもしれない。平民ですら奴隷や亜人族に対して酷いからね。

ちなみにセイリオスには奴隷は殆ど居ない代わりに重罪人という立場がある。奴隷と違うのは主導するのは国のみで名前の通り重罪を犯した者だけがなる。所謂犯罪奴隷というものだ。この人達は最低限の食事などを渡されて重労働に死ぬまで付かされる。それでも最低限とはいえ食事があるだけ実は他国よりマシだったりする。

ちなみにセイリオスより良い所となると剣国アルドゥスだ。あそこでは奴隷自体が存在しない。重罪人のように名前を変えた奴隷の立場がある訳でもない。そもそも犯罪そのものが殆ど起きない。理由は簡単で剣国アルドゥスの住人はそこらの兵士より遥かに強いからだ。魔族と戦い続ける国の住人を舐めてはいけない。子供ですら冒険者ならB級冒険者程度にはなれるかもしれない程強いのだ。まああくまでその程度でしかないが一般のこそ泥程度であれば子供に制圧されてしまう。よってアルドゥスでは犯罪者が出てこないのだ。物理的に犯罪を未然に防ぐのはある意味凄いとしか言い様がない。まあその代わりに魔族との激しい戦闘が待っているのだから一概に良いとは言えないが。

「ん、何だろあれ」

妙な人集りを見付けたのでディーンとフェリノを連れてそちらの方に向かう。人混みが酷くて中に何があるか分からない。仕方ないので周りの人に聞いてみることにした。

「あの、何を見ているんですか?」

「お?ああ、いや今勇者様が来ていらっしゃるらしいんだが俺も見えないんだ。もうちょい前に行かないと見えないんだろうがこの人混みじゃ前に進むのも無理だろうな。嬢ちゃんも無理に見ようとして押し潰されないようにな」

勇者!?剣国アルドゥスに居るはずの勇者がこんな所にいるの?それとも前勇者の未央の可能性もある?どちらにせよなんでこんな所に?体育祭を見に来たの?それとも国王が亡くなったから?出来たら顔だけでも見たいけど難しいかな?

「俺が押し退けてやろうか?そうしたら嬢ちゃん一人くらいなら見れるだろう」

話し掛けた男性がそう提案してくれる。こういう時は幼い外見が役に立つものだ。それ以外の具体的にはアルフの誘惑などには微妙にマイナス判定が入るようだが。

「本当?」

「おう、任せな」

そう言うと男性は少し無理矢理気味に周りから苦情を貰いながらも道を広げて通してくれる。それにありがとうと声を掛けながら中に入る。ようやく見えたその姿はいつか見た男の子の姿だった。影の衣の効果で顔こそ見えないが間違いなくあの男の子だ。自分の名付けでも繋がりを感じる。

一緒に行動している人は大柄な男性でアルドゥスの正規の騎士であるのが分かる鎧を着ている。伝聞でしか聞いていないからはっきりとは分からないが近衛騎士の鎧だと思われる。無骨な剣と大きな盾を持っているので完全に前衛タイプだ。魔力もそう多くは感じない。

もう一人は明らかに高貴な服装をしている。王族か上位貴族の娘だろう。持っている杖はトレント材の杖のようでかなり高品質だ。まあその材質にしては高品質というだけなのでもっと良い杖もあるだろうが今あるのはその杖だけだ。

そして最後が場違いにしか見えないメイドだ。けどスイはそれが何かを知っている。あれは天楽(てんらく)群命(ぐんめい)アイリスという総計二百体からなるメイド集団(アーティファクト)だ。勇者についで二番目に危険な存在である。

「やっぱり貴方が勇者だったんだね……」

何となくそうではないかとは感じていた。でも出来たら違っていて欲しかったというのが本音だ。危ない目に遭って欲しくない、そういう思いから彼の言葉を拒否したのにその立場がそれを許さない。

スイはそれを確認すると男性にお礼を言ってその場を後にする。このまま会うのは好ましくはない。理由までは分からないが体育祭の間は居る可能性を考えると暫く顔を見せない方が良いかもしれない。

「スイ姉どうしたの?」

「ん、ごめん。私寮に戻るよ。体育祭の間私出ないから後はよろしくね」

スイはそれだけを言うとさっさと寮に向かってしまう。残される形になったフェリノ達は少しの間呆然としてしまう。いきなりの宣言に理解が追い付かなかったのだ。そしてそんな二人の背後からどよめきが起きて意識をそちらに向けると勇者が人混みを飛び越えて此方に着地したのだ。

あまりの急展開に二人は動けない。何故いきなりこの勇者は目の前に現れたのだ。しかもかなり焦っているようである。

「こっちに居たような……さっき感じたのに」

名前の繋がりは当然拓也にも感じられる。それのせいでスイが近くに居たことを理解したのだ。まあそれで人混みを飛び越えるのはスイも想定していないだろうが。

そして更に予想外な事がディーンに起きる。隣に居たフェリノの顔が真っ赤に染まっているのだ。勇者の方を見ると飛び越える際にフード部分がめくれたのかその端正な顔立ちが露わになっていた。そしてその勇者の方もフェリノの事を見て硬直していた。フェリノの耳を見て尻尾を見て最後に顔を見てやはり硬直する。

「……(あっ、これ面倒くさいやつだ)」

ディーンはどうしようかなぁと本気で頭を悩ませた結果、とりあえずフェリノを連れて逃げることにした。フェリノの腰に抱き着くようにして身体強化を施すと全力で肩に担いで逃げた。夢幻(ファンタジア)すら使っての全力逃走に呆気に取られた勇者は呆然としたまま立ち竦む結果となった。


逃げながらディーンは思った。とりあえず自分は誰にこれを相談したら良いのかなぁと。

ディーン「ステラ姉とアルフ兄には伝えておこう。スイ姉は……役に立つか分からないけど」

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