170.体育祭一日目終了
少し疲れたなぁ。思った以上に粘った。最後には何とかある程度は墜としたけども。
部屋を出て身体を伸ばす。今部屋の中ではリンが痙攣している。ちょっとやり過ぎたかもしれない。ただ魔法を三つほど使って調教しただけなのだが思った以上に効果があった。変に相乗してしまったのかもしれない。発情と感覚強化、悪夢の逆バージョンの優夢がうまく噛み合いすぎた。
リンは途中からどんな事をしても身体をガクガクさせるくらい快楽に溺れてしまって逆に調教しづらかった。次からやる時はもう少しやり方を考えよう。毎回あれじゃしんどいもの。
とりあえず宿でやる事は終わったかな。ディーンを回収して帰ろう。リーシャと一緒に何やら特訓していたが手招きすると走って寄ってきた。何故かリーシャが項垂れているのだがどうしたのだろうか。
「帰るよ」
「分かりました。リーシャ後は自分で更に磨いて」
「……はい。分かりました……」
あれ?リーシャに教えて貰っていた側だよねディーン?何で逆の立場になってるの?もしかして項垂れているのってディーンに上回られたの?だとするとディーンに隠れられたらすぐに見付けるのは難しくなったかも。
ディーンを連れて宿から出て歩く。リンの調教に思った以上に時間が掛かったからかもう結構暗くなっている。夜道を歩いていたら嫌な視線を感じた。ルゥイと一緒に歩いていた時と一緒だ。つまり誰かに狙われている。
「ん、ディーン気付いてる?」
「あぁ、居るね。十一人かな。どうするの?」
「……ん、ディーン」
「分かった。そうだね。僕はスイ姉の影だ。行ってくるよ」
少し悩んだがディーンを呼ぶ。それだけで意図が理解出来たのか頷いた後ディーンの姿が溶けるように消える。その数瞬後に左に居た男の首が人知れず飛ぶ。更に数瞬後には隣に居た男の首も飛んでいく。音もなく近付く見えない襲撃者に男達は気付くことも出来ずにその命を散らす。最後の男だけは仲間の首が飛ぶ瞬間が見えたのか逃げようとした瞬間ディーンの爪が男の頭を突き刺した。
「ごめん。一人気付かれちゃった。まだ僕も未熟だね」
「今の時点で十人に気付かれずに立ち回れるだけ十分だよ。ご苦労様」
「ありがとう。でももっと頑張るよ」
そう言って血が滴る爪を振って地面にその血痕を飛び散らせる。証拠隠滅の為の魔導具か専用の魔法を作ってあげようかな。ディーンなら教えたら使えるようになりそう。魔法より魔導具の方が良いかな?
「ディーン魔法と魔導具どっちが良い?」
「何の話?」
「証拠」
「あぁ、出来たら両方お願いしたいな。魔法の方は僕も頑張るけど多分スイ姉の方が良い魔法出来そうだし」
「分かった。早めに作るよ」
そう言うとディーンは嬉しそうに笑った。可愛いなぁ。拓はこういう普通の可愛さは持ってなかったから新鮮だ。だからといって拓が可愛くなかった訳では無いけども。ふと思った。ディーンとしっかり向き合って話し合ったことが少ないなと。だから気になっていた事を訊くことにした。
「ディーン……ステラの事好き?」
「え?あぁうん。好きだよ」
「……異性として?」
「えっ……あぁ、うん。好きだよ」
少し照れながらもディーンはしっかり言った。何だか可愛かったのでディーンの頭を撫でる。ディーンは少し驚いたようだがすぐに切り替えて頭を撫でやすいように少し首を傾げる。二人でほんわかしていたら本命がやってきたようだ。
「な、なんだこれは……」
後からやってきた男は数人の男を連れていた。その男は周りで死んでいる男達を見て愕然としている。やっぱりやって来たか。まさか来るわけないだろうと思っていたのだが来るとは。馬鹿なのかな?
最初に見付けたのは十二人だったのだがその内の一人が何処かに行ったので気になって待っていたのだ。多分だけど私の事を貴族だと思ったのかもしれない。そして助ける事で恩を売ろうとしたのかもしれない。
貴族のコネがあったら楽に動きやすくなるだろうからね。私以外だったら成功したのかもしれない。まあ今更そんな事を気にしても仕方無いけどね。
「何が……一体何があったというのだ?」
「こんばんは。とりあえず死にましょうか?」
笑顔で男に近付く。ジリっと男が下がると連れてきていた男にぶつかる。そしてぶつかられた男の身体が傾き仰向けに倒れる。その音に男が振り返ると倒れた男の首がゴロンと転がる。
「ひ、ひぃっ!?た、助けてくれ!?私はこんなことしたくなかったんだ!!脅されただけなんだ!!頼む!!死にたくない!」
「誰に脅されたの?」
「わ、分からない。名前は教えられてないんだ。ただ不思議な男だった。恐ろしく不気味な男でおかしいと思うかもしれないが生きている気配が感じられなかった」
「ん……」
少し考える。この男の言葉が嘘である可能性は勿論ある。むしろ高いと言っても良い。ただ人というものは極限状態であれば咄嗟に嘘をつくのは案外難しい。それを考えるとあながち嘘であるとも断定しづらい。
「仕方ないなぁ。貴方の記憶貰うね?」
「へ?」
まあ嘘だろうが本当だろうが記憶を抜き取れば関係はない。男の頭に右手を突き刺す。ずぶっと入った手で男の記憶を抜き取る。別に殺してはいないがこれ見た目的にはどう見ても殺人現場だ。
男の記憶を見ようとした瞬間私は前方に飛び退く。瞬間寸前まで立っていた場所に強大な魔力による攻撃が飛来する。ディーンは既に離れていたので無事だ。
「……誰?」
「お初にお目に掛かります。私の名前はルーラー。魔神王ヴェルデニア様の忠実な僕にして九凶星が六、月纏のルーラーです。以後お見知り置きを」
にぃっと厭らしい笑みを浮かべた男にスイは警戒しようとして身体から力が抜けてふらっと倒れてしまう。
「え?」
「あぁ、中々長く持ちこたえましたね。流石は魔王といった所でしょうか。お仲間の小さいのも倒れましたし邪魔は入りそうにありませんね」
まさか毒か。それともそういう魔法か魔導具か。どちらにせよ迂闊だった。身体が全く動かない。魔力を動かすことも出来ない上口すら動かなくなってきた。不味い。このままだと殺される。こんな場所で終わるのだろうか。嫌だ。死にたくない。まだ何も出来ていない。何も成せていない。こんな場所で死ぬのは許される事ではない。
しかし現実は無情で潜在能力だったり秘められた力が解放されることも無い。都合良く味方がやってきて助けられることも無い。むしろこの場所に来れば原因不明の能力によってその味方も殺される事だろう。
そして男がゆっくり近付いてくる。身体は動かない。涙が零れてくる。悔しい。何も出来ない自分に歯噛みする。せめて死ぬ寸前まで睨み付けてやる。そう思って睨んでいると男が近くまでやって来る。そして私の目の前に跪くと私の身体を起こす。何処かに連れて行くつもりだろうか。声も上げれない私には何も出来ない。
すると男は私の髪をほんの少し梳くとゆっくりと髪を切り始めた。…………え?
疑問の声を上げることも出来ない私はなすがままにされている。少し伸びてきていた私の髪は綺麗に整えられた。更に髪に何らかの薬剤を塗られる。どうやらトリートメントに近い何かだ。髪が艶々にされているのが良く分かる。その間私の頭の中はかなり混乱しているが。
「さて、綺麗になりましたね。幼いとはいえ女性なのですから身嗜みはしっかりせねばなりませんよ。いつだって私が近くに居る訳では無いのですから」
そう言って男は切った髪を掴むと紐で結ぶ。
「これで私の要件は終了です。貴女の髪を持っていきルルグス、あぁ、人形遣いを撃退した少女を倒したという事にします。良いですね?二度も同じ策は通用しないので気を付けてくださいね?」
「……ぁ」
「あぁ、今は言葉を喋るのは辛い筈なので無理に話さなくて結構です。ついでに私が味方だと思わなくても結構です。私は私の為に行動しています。だから敵対することもあるでしょう。その時は遠慮無く殺しに来なさい」
男はそれだけを言うと私に変な薬を嗅がせた。恐らく解毒薬の類だ。ディーンにも何かを嗅がせた。
「ではまた。あぁ、貴女の事はヴェルデニア様には報告しないのでご安心を。血の誓約に誓いましょう」
男が血の誓約を使ってその後さっさと居なくなってしまう。それから三十分後に私の身体が動けるようになった。……結局何だったんだろうか。良く分からないままディーンを抱えてとりあえず学園に戻った。
……ふぅ。とりあえず……グルムスにでも伝えよう。意味が分からなかったや。こうして体育祭一日目が終了した。
スイ「あの人結局何?」




