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158.面倒



「私達の静止を振り切って彼等は前に突出していったんです。止めようとはしたんですが魔物が多く上手く進めず辿り着いた先では彼らはもう……」

唇を噛み締め遣り切れなさの残る表情で淡々と報告していく。報告を聞いた先生も頭に手をやり深く椅子に座る。

「私が悪いんです。彼等と仲良く出来なくてそれで折り合いが付かなかったから彼等は私の言葉に反発してしまったんでしょう。責任は私にあります」

そう言い切った後にほんの少し涙を浮かべる。しかし流しはしない。しっかり目の前の先生の顔を見る。

「……ふぅ、いやお前は悪くない。ジアからの報告でも静止を振り切ったというのは聞いているし最初の挨拶の時には俺も居たんだ。お前達の仲がそれほど良くなかったのは分かっていた。だからこれで仲良くなるかせめて普通になればと思ったんだが」

そう言うと深く座った椅子から立ち上がる。

「クザとルンの親には俺から伝えておく。状況の説明時にはもしかしたらお前達も呼ぶかもしれん。その時は同伴してくれ」

「はい。分かりました」

拳を握り締め自分の至らなさを自覚しているかのように振る舞ってからそれを表情には出さず職員室から出る。心配そうに外で待っていたアルフ達の方を見て何も言わず歩き出す。その後をアルフ達は付いてくるよう指示を出しているので静かに付いてくる。寮に戻ってから私はベッドに乗って息を吐く。煮え滾るような憎悪で苛立ちが治まらない。

「早く……殺したい」

天井に向けて手を向け握り締める。その先に見えているのはまだ見ぬルンの家族だ。指輪からペンダントを取り出す。ペンダントトップに付いているのは小さな青の宝石だ。残念なことにこの世界には宝石などの石言葉や花言葉が存在しないようなのでただの綺麗な宝石だ。

だけど込められたものは違う。中に刻まれた力ある言葉は〈君を守る〉。親友として守りたいという願いの言葉だ。それをルンの先祖は踏み躙った。ならば私が父様の代わりにやり返しても構わないだろう。

「あぁ、早く逢いたいなぁ。全部ぐちゃぐちゃにしてあげたい」

「スイ、やっぱり二人を殺したの?」

「ん、殺したよ」

フェリノの問いに気負いも無く答える。そこに先程までの少女はいない。どこまでも冷徹で残酷な何かが居た。

「ふぅん、まあ良いけどあの二人何かあったの?」

そしてそれに一切の反応も見せず理由を聞くフェリノにスイはペンダントを投げ渡す。

「それ父様がフェッツェっていう亜人族に渡した物」

「あぁ、何となく分かった。じゃあ良いや。家ごと潰すの?」

「そのつもり。フェリノ達には来て欲しくないから待っていてくれる?その時私がここで寝ていたと報告して欲しいの」

「分かった。でも油断しちゃダメだよ。攫われちゃったこともあるんだから」

フェリノにそう言われうっと唸るスイ。アルマとの遭遇時は気分が悪くてダウンしていたというのもあるのでまた別だと思うが一度ある事は二度あるという可能性は否定出来ない。

その後は他愛無い話をして時間を潰していると寮に女性の先生がやってきた。話を聞くと既にクザとルンの家には話を通したらしい。私は状況説明のために呼ばれたという訳だ。まあ呼ばれると思ってはいたがその日中だとは思わなかった。普通翌日じゃないかな。

寮を出るとジアもまたそこに居て待っていた。言葉は交わさない。二人して少し雰囲気を悪くしておく。というか普通目の前で二人も人が死んだのを見た子供にその日中に状況説明しろって中々酷じゃない?先生達には仕方ないとしても親は少しだけでも我慢して欲しい。先生から事情は聞いているだろうから余計にそう思う。



先生に連れられていくと馬車が一台停まっていた。この馬車で家まで向かうようだ。どうでも良いけど既に辺りは暗くなっている。こんな夜中に出歩かすなと本気で思う。

「……先生何か周りにやって来ましたけど帝都の夜ってこんなに治安悪いんですか?」

以前夜に出掛けた時みたいに人が明らかにやって来ている。馬車だろうが関係なく襲うのだろうか。逆に凄いと言わざるを得ない。

「あぁ、来ているな。まさかこれが狙いか」

先生は頭を抱えている。まあ普通に考えたら馬車を襲うのは危険がかなり伴う。ならば襲わないのが通常だがそれでも襲おうとするということはほぼ間違い無いだろう。

「クザかルンの家の人が私達を襲う様指示を出したと思いますか?」

「あんまり認めたくないが状況が状況だしな。可能性はそれなりにあるな。俺が出るが危なくなりそうだったら最悪一人ででも逃げろ」

そう言って先生は御者台の方に移動した。

「どうする?」

「下らない。無視する」

正直どうでも良い。どうせ後で殺しに行くのだ。そいつらが何かしてこようがただの悪足掻きと変わらない。ならば気にもしない。

「そっか。なら僕も気にしないでおくよ」

そうして待っていたら先生と御者が馬車から離れたのが分かった。その数秒後に馬車の幌が開かれる。中に入ってきたのは盗賊の親玉と言っても過言ではなさそうな明らかに堅気ではない人相の男だ。

「へぇ、こいつは中々上玉だな。男も女も高く売れそうだ。抵抗すんなよ?怪我が残らなきゃ骨の一本や二本折っても構わねぇんだ。痛いのは嫌いだろう?」

開かれた幌の奥に居た先生と御者の男はどうやら私達を売ったようだ。私達の目の前に居る親玉っぽい男を見て顔を青褪めさせている。

格好良い感じの事を言ったが実際死ぬかもしれないと思ったら即座に売るのか。人というものの姿に幻滅しそうだ。元人間の私が言うのもなんだが。

「スイ、こいつ裏の世界ではかなり有名なやつだ。話ではSランク冒険者と同等でもおかしくない」

私はその男を見た後先生と御者を見て周りを囲む男達の顔を見る。

「……イルゥ居るよね。後始末よろしくね」

「何で気付いたのかは分からないですけどまあ分かったのですよ」

その声が聞こえた瞬間まずは目の前に居た男の顔を吹き飛ばす。私に触れようとしていた男の顔は一瞬にして無くなり身体はその衝撃で馬車から転がり落ちる。

「は?」

間抜けな顔をしている先生と御者の方を見てカーテシーを行う。

「えっと、改めてご挨拶をしようかと?まあこの後生きて帰る事は許しませんが」

そして周りを見渡すと御者台に立つ。

「では私の名前はスイ。魔王ウラノリアと北の魔王ウルドゥアとの子供です。覚えておかなくて結構です。もう死にますから」

私の身体から伸びた魔力の糸は簡単に周りにいた人の体を貫通した。刺さりどころが悪かったのかまだ死んでない者もいる。

「じゃあね、先生?裏切らなければ殺す気は無かったよ。これは本当だからね」

そう言った後刺さった人を全員纏めると引き裂く。肉の塊へと変わった人達を燃やしておく。最初から燃やせば良いのだがやはり苦痛を味わせてから殺さなければ意味が無い気がするのだ。来世では是非とも真っ当な人生を送って欲しいものだ。

「じゃあイルゥ適当によろしくね」

「分かったですよ。まあまた後できっと呼びに来るとは思うけどその時には問題ないようにするですよ?」

「ん、次はこんな事がないように気を付ける」

「それよりこの子は何なのです?」

「ジアはテスタリカの息子みたいなもの?立ち位置は未だに良く分からないけど味方だよ」

「え、いやそれよりテスタリカ様が生きてらっしゃるのです?」

「あれ?言ってなかった?まあ良いや。後でグルムスも交えて言っておくよ。とりあえずありがと」

「むぅ、後でちゃんと聞かせて貰うですよ」

少しむくれたイルゥの頭を撫でる。あぁ、というか本当に面倒だなぁ。先に潰してやろうかな。

スイ「……」

ジア「苛ついてるね。そんな時には飴でも舐めると良いよ。はい」

スイ「……」ガリッ

スイ「!?!?」

ジア「あれ、気に入らなかった?チョコと肉の飴」

スイ「……!?とりあえずこれを作ったやつは死ねば良いと思う……!!」

ジア「結構人気の飴なんだけどね」ガリッ

スイ「!?!?」

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