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143.ジアの屋敷にて



「それでスイ、お前はどこに行くつもりなんだ?」

友達となったらティモ君は当然の様に私達と一緒に行動するようになった。ジアの家に向かって場合によっては聞かせられない話をするからかそれとも自然と隣に行こうとするティモ君を警戒してかアルフがすっとティモ君の左腕を持ってぷらぷらさせている。ティモ君は無反応だがそのせいで余計にシュールである。

「ジアの家に行くんだよ。ちょっと遊びにね」

正直言って別にティモ君にバレたからと言って何かある事はない。むしろ伯爵の息子でイルミアの王と面識があるティモ君は巻き込んでしまった方が楽といえば楽である。まあ敵対することになっても最悪捕まえて血の誓約を使えば良いだけだしそこまで気負いはない。

「ジアの父君は一番隊の隊長だったか?王騎士と呼ばれる程に揺るぎない忠誠心を持ちそれに伴う実力を持つ素晴らしい人物だと聞いている。今はまだ王城の方に居ると思うがいつか会えたら喜ばしいものだな」

ティモ君の言葉にジアは少し喜んだのか頷いている。

「いえティモ殿、実は父は現在屋敷に戻って居るのです。何でも部下達に働き過ぎだと言われたらしく数日程ゆっくりしてくれと」

「おぉ!それは楽しみだな!あの王騎士に会えるかもしれぬとは夢のようだ!失礼の無いようにせねばな」

ティモ君が会ったことがないというのは意外だったが考えてみればこの帝都は途轍もなく広い。帝都にいる者同士であっても会えないのはおかしくないか。何せ端同士になるとノスタークが優に三つか四つは入る。幾らお互い中央付近に住んでいたとしてもそう会えないだろう。ましてやティモ君は意図的とはいえ悪評を流していた。地位的には会ってもおかしくなくとも実際にはかなり難しいだろう。

「スイ、良いのか?」

言葉こそ少ないがアルフが心配そうに問い掛けてくる。それに対して私は小さく頷く。それで満足したのかアルフは私を掴む手をぎゅっと握った。私は少しむずっとしたので身体を寄せて腕を組む。アルフが驚いたみたいだがすぐに笑顔を浮かべる。

「お兄ちゃんがスイとあんな風に笑ってると凄い違和感が……何か気分悪い?」

「実の兄のイチャイチャ見せられたら仕方ないと思うよフェリノ姉」

「まあまあ、二人とも。ようやく焦ったいのが無くなったんだから良いじゃない。祝福してあげないと」

フェリノ達が後ろで何か言っているみたいだが今はアルフとイチャつくのが先決だ。

「……いつの間にあんな風になったのだあいつらは」

「どうやら今日らしいですよ」

「気付いたらああなってたにゃ」

二人でイチャついていたらいつの間にかジアの家まで到着したようだ。時間が掛かったような気がするがどれくらい掛かったかいまいち覚えていない。次からはもう少し周りを見ることにしよう。少し反省する。

「お帰りなさいませ、ジア様」

「ああ、今戻った。トラン伯爵の息子ティモ殿が来たと父と母に知らせてくれるか」

「畏まりました。お部屋にご案内致します」

「頼んだ」

私達は執事の人に部屋に案内される。少ししてからジアの父と母がやってきたのだが少しそこでトラブルが起きた。そのせいで何故か今私は中庭で模擬剣を持ってジアの父と向かい合っているのだが何でこうなったのか詳しく問い詰めたい。



「おぉ、これはよくお越し下さいました。トラン伯爵殿の屋敷に比べたら小さいでしょうがゆっくりしてください」

やってきたのは何というか……丸っ子状態だったティモ君をそのまま大きくして老けさせ爽やかにした男性といった感じか。ぶっちゃけ王騎士という名前が嘘に感じてしまう。だって騎士というからには鍛え上げたムキムキな人が来ると思うではないか。

あとは爽やかではあるがジアのように特別イケメンというわけでもない。人好きのする笑顔を浮かべた優しい文官にしか見えない。間違えても戦闘する人には見えないだろう。

そしてそれに続いて入ってきた女性は妻なのだろうか。どうもテスタリカには見えないのだが。静々と入ってきたその女性はテスタリカと名乗りはしたが同名の別人にしか見えない。ついでに魔族ですらない。誰なのだこの女性は。ちなみに父親の方も名乗ったのだが見た目のインパクトが強すぎて聞き逃してしまった。ティモ君は元から知っているのか特に驚きはなかったようで興奮していた。

「スイちゃんだったか」

テスタリカの方を見ていると父親が話し掛けてきた。小さくフェリノが「リードさんだよ」と教えてくれた。

「はい。スイと言います。ジアさんとは仲良くさせてもらっています」

「そうかそうか。しかし私が聞きたいのはそこではないのだ」

「何でしょう?」

「学園で教師含め二十人以上を倒したというのは本当なのかな?」

つい最近の筈だがもう耳にしているのか。いやジアが言ったと思うべきか。私はそれに対し肯く。少し調べたら分かることだし別に隠す事でもない。

「ふむ。君さえ良ければ私と少し手合わせはどうかな?ジアの良い刺激になると思うのだ。教師達ははっきり言って弱かっただろう?」

仮にも一軍を率いる者がそんな事を言っても良いのだろうかと思ったが学園と軍は基本不可侵であったことを思い出した。もしかしたら仲が悪いのかもしれない。教師達は柔軟な人もいるがプライドが高そうだったしね。軍の方が硬いイメージがあるのだがこの人が隊長ならそんな事ないなとすぐに思い直した。

まあ私の本気を引き出してジアが私に仕えるのを考えてくれるなら乗らない手はない。王騎士と呼ばれるこの人の実力も気になるし。ルゥイと戦った時も思ったが人災の連中は全体的に強い。アスタールとはまともに戦ってないのでよく分からなかったが彼はアーティファクトを駆使して戦う人物だ。使う前に倒したのだから当たり前か。最後自滅だったし。壊拳と槍聖は弱っていたとは言っても魔族五人を捕まえる腕前だ。相当なものだろう。

「良いですよ?ただ条件があります」

「ん?何かな?」

「私が勝ったらジアを貰っても?」

「ジアの気持ち次第だなそれは。私は構わないよ。お互いがそう思うのなら止めはしない」

何か勘違いされているが別に構わない。特に支障があるわけでもないし。

「ではやりましょう。戦い方はどうしますか?」

「君は魔法も使えると聞いた。全力で来なさい」

にこやかに笑っているがその覇気とでも呼ぶべきそれは濃密だ。ルゥイすら霞みかねないそれに私はゾクっとした。思っていた以上に目の前の存在は強いかもしれない。ちなみにここまでのやりとりを全員聞いていたけど話がいきなりすぎて全く付いていけてなかった。



そして中庭で模擬剣を持って向かい合う。目の前にいるリードさんは自然体だがその見た目からは考えられないほど濃密な剣気に怖気付きそうになる。シャトラと同質のものを感じる。この人は強い。手加減などするものではない。恐らくしたが最後すぐに意識を刈り取られることだろう。

私は自然と笑いそうになるほど打ち込めない。隙が一切見付からないのだ。どこに打ち込みに行っても恐らくカウンターが飛んでくる。仕方ないので私は自分を強化していく。

「魔闘術、限定強化(エクストラ)、竜闘術」

魔闘術で内側から強化を施し限定強化(エクストラ)という魔法で更に強化。竜闘術で外骨格のように更に強化する。三重に掛けた強化術によって限定的ではあるが通常のスイの数倍の力を誇るようになっている。その状態でスイは全力で背後に回ると斬り掛かる。

ガキン!ギュリギャリン!

見えただけでも凄まじいというのにリードは背後からの斬り掛かりに反応した挙句衝撃を逃すように剣を滑らせた。スイはすぐに身を翻したがその後すぐに振り抜かれた剣圧によって当たっていないのに吹き飛ばされる。

「っ!!」

スイは安定した着地を諦め模擬剣を強化すると地面に無理やり突き立て吹き飛ばされた方向から横に進路を曲げる。曲げた直後にいつの間に詰めたのかリードがその大剣型の模擬剣を突きの姿勢で通り過ぎる。

ゴォっと凄まじいまでの風圧が発生する。スイは魔力を練り上げると地面に叩き付けた。

「灰花(アッシュスパーク!)」

舞い上がった砂埃に強烈な火花が発生し一瞬にして膨れ上がると大爆発を起こす。スイはすぐにそれに気付くと模擬剣を縦に構え衝撃に備える。瞬間模擬剣に重い一撃が加えられ軽いスイは耐え切れず再び飛ばされる。

虚撃(ホロウアタック)

追撃を仕掛けようとしたリードは咄嗟に下がるが大剣に薄らと切り傷が出来る。そしてゆっくりズレて大剣の半ば過ぎから刀身が地面に落ちる。

「見事ですな。咄嗟に魔力を纏わせたのですがお構いなく切り捨てるとは」

わざと吹き飛ばされたスイは着地するとちょっとだけ悔しそうに見る。レベルの高い戦いにジアやティモはポカンとしている。アルフ達もスイが全力といいつつもそれなりに加減しているのは分かる。倒したいだけなら獄炎(ゲヘナ)天雷(ケラウノス)で範囲攻撃をすれば良いだけだからだ。だがそれでもやれる限りの本気であることは分かる。だからこそ固唾を飲む。

「次は切り裂く」

そう言ったスイに対してリードは穏やかだった表情から一転し獰猛な笑顔を浮かべる。模擬戦はまだ始まったばかりだ。

スイ「強いね。でも次はしっかり決める」

リード「思ったよりも強いですな。では私も加減は出来ません」

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