134.実技試験?
ジア達と話していたら授業が終わったようでアルフ達が帰ってきた。まあそのすぐ後に担任の先生に呼ばれたので話す時間も無かったのだが。
「実技試験って何をするんですか?」
先生と二人きりになったので気になった事を聞いてみる事にした。先生は少し悩んだ後に口を開く。
「そうだな。ぶっちゃけ特に決まってない」
「決まってない……え、じゃあ何するの?」
「ああ、いや言い方が悪かったな。内容自体は決まってるがその中身はお前自身が決めるものだ。つまり何が言いたいかと言うと」
そこで先生は言葉を途切れさせると厳重に閉められている大きな扉を開く。というか今どうやってここまで来たかを朧げにしか覚えていないので何かの魔法が掛かった通路なのかもしれない。認識阻害と人払い、記憶誤認辺りかな。もしかしたら迷路化もあるかもしれない。それでその扉にもかなり高位の封印が施されている。結界ではなく封印である辺りに本気度が感じられる。
結界は何かを隔絶するものであるが解除方法もあり尚且つ基点となるドアがあったりする。しかし封印には無い。結界が部屋を作る魔法だとしたら封印は中身が空の石を作るものだ。感覚的にはそれが一番近い。そんな単純なものではないが。
つまりこの封印されたドアの内側は絶対に出す気は無いし中に入れるつもりも無いというレベルの厳重体制だということだ。何でそんなところ連れてきたのだろうか。
「中に入って一晩泊まるんだ。食べ物や飲み物は十分な量あるから気にしなくていい」
それだけ言うと封印の解除をし始める。程なくしてドアが開いた。生徒を閉じ込める部屋だったのだろうか。さっぱり分からないがそれが実技試験だというのなら入ろう。私はゆっくりと部屋に入ると後ろでドアが閉まった。封印が再起動したのが分かる。
「で、ここで一晩?どういう実技試験なんだろ」
周りを見渡すとどう見ても牢屋が沢山並んだやばい部屋だ。入って良かったのか今更ながら気になる。実は魔族と気付かれていて捕らえられたと思った方が間違いなさそうである。奥行きは遠過ぎて分からない。空間拡張で広げられているのだろう。
「とりあえず進んでみようか。暇だし」
私はそう決めると歩き始めた。左右には牢屋があり今は誰も入っていない。いや入っていたらいたで驚くのだが。流石にこのタイミングでスイと同じ実技試験を受けた人は居ないだろうし。
牢屋の中はどれもシンプルでベッド、洗面台、カーテンが付いたトイレなどで終了だ。自害を許さないためかベッドは恐らく魔物の毛なのだろうが綿でも詰まってるのかと言わんばかりにふわふわだ。普通に一組貰って帰りたい。
洗面台は恐らく同一の物と見られるもので覆われていてトイレも全面がそれで覆われている。いや一体何の毛なのか凄く気になる。それが牢屋の全てに配備されてあるみたいなのでお願いしたら譲って貰えないだろうか。あれで布団に潜り込んだらきっといつでも快眠出来ることだろう。
通路を通ったら忘れてしまうかもしれないので牢屋の一つに入ってこっそり毛の一部を貰った。指輪に入れておけば忘れていても思い出せるだろう。それでも忘れたままだったら縁が無かったということで諦めることにしよう。やっぱり一組……やめておこう。気付かれたら多分凄い怒られると思う。
悩みながら歩いていたけれど未だ奥が見えない。かれこれ二十分近くは歩いているのだが長過ぎじゃないだろうか。少し飽きてきた。景色がまるで変わらないのだから私が悪いわけではない。
「ん〜ティル、飛ぼうか」
私の背中に黒い羽で出来た翼が出来る。字面にすると不思議この上ない内容だが実際そうなのだから仕方ない。翼をはためかせると一気に加速して奥まで飛ぶ、飛ぶ、飛ぶって長い!ティルを使って飛んでいるので先ほどまでの移動速度より遙かに速い筈なのだが十五分は飛んでまだ見えない。
「迷いの術式は見当たらないしこれ空間拡張だけでこんな長くしてるの?馬鹿じゃないの?」
いくら何でもやりすぎだ。牢屋の数など千は軽く越したよ。こんなにいらないだろうに。飛び続けていたら独房に変わっていった。漸くの変化だが中身を見たら部屋が物凄く小さくなっていただけであるものは変わらなかったのでスルーすることにした。
一時間は経った頃漸く奥に光が見えた。これまで横に付けられた灯りだけだったので正面に灯りが見えるということはあそこが終着点だ。私はティルを急加速させると一気に奥までいった。
奥には一つだけポツンと部屋がある。明らかに離されて置かれた部屋だ。とびらに手を掛ける。心臓が早鐘を打つ。怖い、何故かこの扉の向こうが怖い。入りたくない。今すぐ回れ右して帰りたい。けれど私は意思に反して手を動かす。ギィっと軋んだ音を立てて扉が開く。中は真っ暗で何も見えない。
「はっ……はっ……はっ」
息が荒くなる。どう考えても異常な事この上ない。怖い、死にたくない、そう思う感情とは別にその暗闇を見ているととてつもないほどの愛しさが溢れ出す。涙が止まらない。ここに来るために呼ばれたのだとようやく理解した。
そして私はその暗闇に入って行った。静かに扉が閉まるのを私は何故か抱き締められたのだと思った。
「……………………」
目の前で女生徒が一人封印された扉から中に入っていく。俺はそれを何処か他人事のように感じていた。学園内部に古くからある封印の扉。何の為の封印かも分かってなく近寄る事すら禁止されてここには偶然でも来れないように通路から魔法が掛かっていて俺も来たことはなかった。本当なら止めるべきだったのだろうが俺はそうはしなかった。
そして入った後高位過ぎて解除するはおろか掛け直すことすら出来ない封印をまるで知っているかのように手際良く掛け直す。そして学園の何処の場所にあるかも知らないような扉の前に俺は居た。何でここに居るのかはさっぱり分からないが。
そのまま俺は扉から離れていく。覚えてもいない通路を迷う事なく歩いて行き普段の教室の前にやってきた。さて、早めに授業の準備をしなければいけないな。
それにしてもあの女生徒は何処に行ったんだ?実技試験を受けさせようと教室に来たのに居ない。まあ暫く待って来なければ今日のところは諦めることにしよう。基本的にはこの学園はそういうやる気ない奴は退学していくんだ。俺も不必要に関わる事はない。とりあえず次の授業が終わったら今日は終わりだ。家に帰ったら嫁と息子に家族サービスっつうもんでもやるかね。
「我等の悲願が一歩達成に近付きましたな」
「そうだな。私達だけでやれたら本当は良いのだろうが」
「それが出来たらあの子は生まれてないわよ。あの人は条件達成時にのみ生まれるようにしてたんだから」
「でももし呑み込まれてしまったらどうなるです?」
「呑み込まれ……考えたくはないですな」
「その場合は私がスイ様を遥か遠い地へと誘い出して無理やり引き剥がす」
「そうならない事を祈るしかないわねぇ」
「大丈夫です?お姉ちゃんは発生してまだ一年も経ってないですよ?はっきり言って心配なのです」
「……ま、まぁ、姫様ならば何とかなるはずです」
「そ、うだな。大丈夫な筈だ……」
「今更だけど一年も経ってないのね……」
「お姉ちゃん……無事で居て欲しいのです」
「その願いは少し遅かったのかもしれないですな」
遠くから学園の方を見ていた四人組は学園で巨大な魔力と轟音が響くのを見てしまった。そしてそれは四人組が全力で行動しなければいけないということが良く分かる程の魔力だ。
「……想像以上ですな。爺では荷が重すぎる感じもするのですが」
「見た目だけなのです!それ言い始めたらここの四人全員爺婆になるですよ!」
「あら、後でお話ししましょうか、イルゥ」
「酷いのです!元々爺婆云々はグルムスもデイモスも言ってたのです!私だけじゃないのです!」
「……二人の首は折るだけで済ませておくわ」
「いやそれは勘弁して欲しいのですが」
「というかどうでも良いけど私の改竄手伝って欲しいのです!あの膨大な力の改竄とかどれだけ力使うか知らないです!?ゴリゴリ魔力削られていくのです!」
四人が馬鹿な事をやっている瞬間にイルゥが一気に下がる。それを見て四人が下がった瞬間目の前にはスイがいた。衣服は真っ暗に染まり所々に血のような赤い点が滲む。その表情は愉悦に染まり間違っても同一人物には見えない。
「あはっ、美味しそう。ねぇねぇ、あかーい血、ちょうだい♪」
衝動に塗り潰されたスイと四人はぶつかり合うことになった。
デイモス「私の事忘れ去られている可能性ありませんかな?」
イルゥ「大丈夫です。忘れる以前に私はデイモスの事大して知らないのです」
デイモス「それはそれで悲しいですな……」




