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この夜と、この空腹と、この勇者と

「おう、ダーモン! すっかり日が暮れて、なんか悪かったな。ちょっと、待たせちゃったか」

「おいら退屈しなかったもんよー。このお嬢ちゃんが相手してくれたもんよー」

 

 獣王さんの名前はダーモンのようです。

 鳴き声のまんま、なので覚えやすいですね。


「お嬢ちゃん? あぁ、あの子か……」


 と言うと、その青年は、わたしに向き直ります。


 腰に短剣、革の鎧、特徴あるペンダント。

 そして、清潔感のあるサラサラヘアを夜風になびかせながら、さわやかな笑顔でわたしの方へと近づいてくるのです。


「俺の名はダット。ダーモンが世話になった。礼を言う」


 月がちょうど雲に隠れてしまい、お顔をよく拝見できませんでしたが、そのオーラは強烈で、わたしに右手を差し出し、握手を求めてきました。


 わたしも答えるように手を差し伸べ、握手を交わそうとしました。

 でも、その瞬間――


「おうおうおう、なんだ? てめぇー」


 見知らぬ青年の登場に、あの女戦士が身を乗り出してきました。

 先程、森の茂みに顔から突っ込んだので、顔中は葉っぱだらけ。

 酷く憤慨しているようです。


「パウナ、右手なんか出して、何しようってんだい? 知らない奴に簡単に心許すんじゃねぇーぞ」

「ん? 誰かな? キミの知り合い?」

「あ、すいません……あの、はい、わたしの仲間です」


 わたしはユロロラさんが怖かったので、即座に右手を引っ込めます。

 また一波乱あるのでしょうか。


「言い過ぎですわよ、ユロロラ」


 女戦士を制止したのはエリザさんです。

 わたしではどうすることも出来ないので、そこは頼もしいエリザさんにユロロラさんを説得してもらう予定でした。

 しかし、ここはいつもと様子が違い、エリザさんもユロロラさんに賛同したようで――


「でも、確かにこんな夜中に、ひょっこり現れる男性はあまり信用できませんわ。何者ですの?」


 青年に注目が集まります。

 獣王さんはきょろきょろするだけで、場の空気を読めないようです。


 だから、ここはわたしの出番と思って、


「エリザさん、この人はダットさんです。この獣王さんと知り合いで、まったく悪い人ではないですよ。オーラだって、情熱的な赤色ですし……」

「別にパウナちゃんに聞いてませんわ。その男性の方に聞いているんですのよ」

「ご、ごめんなさい……」


 わたし落ち込みます。

 はぁ、まだまだ仲間の皆さんには信頼されてないようで。

 わたしの放つ一言で、納得してもらえたら、よかったのですが……。


 そうこうしているうちに、雲の切れ間から再び月が顔出し、その青年ダットの容姿が露わになります。


 まじまじと見つめると、その青年のお顔が――


「ワーズ?」

「えっ?」


 きょとんとする青年ダット。


「パウナちゃん、違うわ、違うわよ!」

「はっ!」


 ホント一瞬でしたが、ワーズのお顔が目の前に現れました。

 って言うか、マズイです。


「おい、パウナ! 目がハートだぞ」

「大丈夫ですの? それにしても、パウナちゃん? ワーズって……なんでそのような名前を、突然口にするんですの?」


 ワーズという名前に敏感なエリザさんは、わたしを不振がっていたので、その場で何度も言いわけをしました。


 それでも、わたしは動揺を隠し切れなかったので、あたふたして、その場で転びました。何もない、どんな転ぶ要素もない、その場で……。


 エリザさんもユロロラさんも呆れ顔です。

 

 どこからともなく響き渡る笑い声。

 どうやら、その光景を目の当たりにした、ダットとダーモンのようです。


「キミ、面白い子だね。これなら、ダーモンも退屈しないか」

「そうだもんよー。このお嬢ちゃん、おいら気に入ってるもんよー」


 真っ暗な夜の世界が、笑い声によって和みました。


 わたしもそこは照れます。

 赤髪がさらに赤くなるように。


 勇者様と獣王さんを、エリザさんは何となく認めているようではありましたが、ユロロラさんはまだまだ納得できないようです。


「まだ認められないねぇ。お前、なんでここに来た。どうしてそのジュエル……否、獣王と知り合いなんだ?」

「そりゃ、そうだよな。こんな夜だし……誰でも不審がるか」

「で、誰なんだ? お前」

「威勢のいい人だな。じゃ、改めまして、俺は勇者ダット」

「勇者?」

「魔王討伐に向けて仲間を探してるんだけど、どうも東南にある砦が邪魔をして先へ進めないでいるんだ」

「東南に砦? んなもん、このロングソードで」


 ユロロラさんは剣を翳します。


「いや、剣で斬れるような砦ではなくて、このダーモンのような腕っぷしの強いモンスター級で、ようやく間に合うくらいの鉄壁な守りで出来ているんだ」

「ふーん、だから、その獣王を仲間にしたんですのね。あたしの拳は間に合わないわね」


 エリザさんは拳を見つめます。


「キミたちは、どうして旅をしてるんだい?」


 と、問いかけるダットに、パーティー代表として、エリザさんが根掘り葉掘り話します。


 わたしは緊張してしまい、話せないと言うことで待機です。

 たぶん、エリザさんは「あのこと」については触れないように話しているのでしょう。


「目的は同じようだね。でも、勇者が居ないのか……だったら、俺が途中までキミたちの勇者としてお供しようか、クエストなら任せてよ」

「ダメだね。いきなり、知らねぇ奴をパーティーに入れらんないねぇ」

「ユロロラ、ここはお言葉に甘えて……それに今あたしたちにとって、勇者は必要な人材ですのよ?」

「わ、わたしも、今は受け入れた方が……これでは餓死してしまいます」

「なんだよ、パウナまで……」


 すると、3名の女性が、ほぼ同時にお腹を鳴らしました。


 ユロロラさんは悔しそうに自身のお腹を叩きます。

 わたしとエリザさんはそんな気力もありません。


「この近くに俺とダーモンの寝床があるんだ。答えを急がせるわけではないから、取りあえず今日は、そこへ泊まって行きなよ。返事は明日にでも聞くよ」


 満場一致です。

 わたしたちは、この夜と、この空腹と、この勇者によって、今夜の寝床を確保しました。


 ユロロラさんもいつの間にか、OKモードです。言うまでもありませんが、空腹は限界なのでしょう。同時に獣王さんのジュエルは諦めたようでした。


「だもんよー、だもんよー、だもんよー」


 獣王さんは無邪気に喜びを表現します。まるで子供です。仲間が出来たことが嬉しかったのでしょう。

 

 でも、わたしは大丈夫なんですが、エリザさんとユロロラさんは獣王さんの言葉がわかりません。


 二人に視線を向けるダット。

 わたしの心を読んだのか、わかりませんでしたが、状況を察知したダットは――


「そう言えば……そこのお嬢さんはダーモンの言葉がわかるようだけど、お二人さんはわからないみたいだね。なら、この呪文で!」


 勇者ダットは魔法の呪文を唱えます。

 すると、エリザさんもユロロラさんも、獣王さんの言葉がわかるようになり――


「ホントだ、聞こえるぞ、こんな声で話すんだな」

「あらら、あたしにもわかりますわ。へぇ~、便利な魔法ですのね」


 そうして、一行は勇者ダットと獣王ダーモンに案内され、今夜の寝床へと向かうのでした。


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