クエスト
そこはハンターガイという町です。
ガイは男と街をかけているのでしょうか。
シャレの効いた旅の大道芸人でも訪れたんですかね。
まっ、そんなことよりも……この町の殺気は半端ではないようです。漂っている。それもそのはず、そこは盗賊や山賊、はぐれ戦士や狂戦士が至るところに、ゴロゴロとたむろしていたのです。
男の人ばかりでなく女の人も連中に混じり、わたしたちパーティーを冷たい視線で歓迎します。
「なんだか性に合いませんわ。こういう輩さんたちは、ユロロラみたいなタイプと気が合いそうですわね」
「なんだとエリザ! っても、まあ……満更でもねーな。あたい、わくわくしてくんだよな。こんな血の気の濃い連中とやり合えるんなら……な」
ユロロラさんの舌なめずり。ある一人の盗賊と目が合い、どうやら互いに火花を散らしているようです。
まずい!
彼女のスイッチがオンになりそうな予感です。
だから、わたしは透かさず彼女の前に立ち、行く手を阻んでこう答えました。
「待って下さい、ユロロラさん! ここは情報を集めるべきです。いきなりケンカを売って、パーティーが全滅してしまったら、ここまで辿り着いた意味がありません。だって、それに忘れたんですか?」
「忘れた? 何をだよ?」
「約束。エリザさんとの約束。このパーティーの目指すべき明日を……」
「はっ、パウナちゃん……それって?」
「ごめんなさい、エリザさん……」
必死です!
エリザさんには嫌な思い出を甦らせるみたいで悪いんですが、ここはユロロラさんを止めるための常套手段だと心得て、わたしは血の気の濃い重量級女戦士を制止させました。
「わーったよ、じゃあパブでも行くか? そしたら、情報ぐらい即行で教えてくれるだろ?」
「ありがとうございます! ユロロラさん!」
「パウナちゃん! ありがとう、そうね。誓ったんですものね」
エリザさんはウインクをして、わたしを安心させてくれました。
ホントは一番、王国のことを悔やみ、即座に魔王を討伐して、仇討ちをしたいはずなのに、それでも彼女は愛想を振り撒いてくれた。
連携!
仲間を説得するための補助系魔法。
ぜひ、戦闘時に活用したいと、そんな気分にさせてくれます。
てなわけで、わたしたち一行はパブらしき店へと入り、情報収集をすることにしました。
人当たりがいいのは、この中ではエリザさんです。可愛く美しい彼女なら、どんな男でも簡単に心を開いてくれます。
一方で、わたしとユロロラさんは人見知りが激しいって言うか、その性格が捻じ曲がっているって言うか、どうも人との接触が億劫になりがちで……だから、ここはエリザさんの背中に隠れ、大丈夫そうな人ならわたしたちも乗っかって行こうと、密かに作戦を立てました。
すまし顔でワイングラスを磨く、その男はどうやら店のオーナーらしく。既にエリザさんを見るなり、目がハート状態となりました。わたしたちの作戦は成功し、この町での情報収集に取り掛かります。
「クエストですの?」
「そう、ここはね。賞金稼ぎの町なんだ。そこにある掲示板を見てご覧! 色んなクエストの手配書があるだろ? 君たちもお金に困ってるんなら、やればいいさ」
やはり、興味を示したのはユロロラさんです。血気盛んに、血眼になって、掲示板に張られている手配書を凝視します。
わたしは後方から、ひょこっと顔を出しながら眺め、同時にユロロラさんの様子も窺いました。
「へぇー、ロックン魔神ねー。最高の防御力を誇る相手なら不足はないねー。あたいの大好物だよ、これ」
「本気ですの? だけど、わたくしは御免ですわ。そんな岩の怪人なんて相手してたら、拳の骨がモロモロに砕けてしまいますわ。カイザーナックルでも壊れてしまいそうなのに……」
「なーに、びびってんだよー。エリザ? てめぇーの拳は、そんなに脆かったんか?」
「あいかわらず、下品な物言いをするのですね。気持ちの問題ではありません。これは現実的に、ただお金を稼ぐのでしたら、わざわざ危険を伴う手配書よりも、手ごろな案件を選別すべきということを、おっしゃりたかっただけですのよ」
「あっ、それもそうです。わたしもエリザさんの、その意見賛成です」
「コラ、パウナ! エリザに付くな!」
「はっ、ごめんなさい……」
今、わたしたちは空腹です。
無駄な戦闘は避け、小動物系のモンスターであり、そこそこの賞金がかかっている案件を求めるべきで、チカラ比べをしている場合ではないということ。さっきまで元気だったユロロラさんも、空腹によりお腹の虫が鳴り響くと、わたしたちの意見に賛成してくれました。
「お嬢ちゃんたち? どうやら、決まったみたいだね。で……あれ? そう言えば、連れの勇者さんは外で一服でもしてるのかい?」
「あっ、オーナーさん! 言い忘れてましたけど、わたしたち勇者不在のパーティーなの。だから、今はピッタリの方を探して、ここまで旅をしているんです。まっ、一昔前まではちゃんと同行していたんですけど……」
「いやー、それは残念だ」
「残念? おっさん、何が残念なんだ? あたいらだけじゃ、役不足ってーのか?」
「まっ、そんなとこだな。実はクエストってのは、勇者の存在があって初めて成立するんだ。ほら、その辺にゴロゴロ転がってる奴らいるだろ? そいつらはな、旅の勇者を探して、あーして出待ちしてるんだよ。ほら、縋りついては来なかっただろ?」
確かにそうです。
冷たい視線での歓迎。
道理で不穏な空気が漂っていたわけです。
ってことは、クエスト不成立……。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! あたいじゃダメか? 勇者代理で、ほら力こぶ見てくれよ。そこいらの勇者よりよっぽど頼りになると思うぞ」
「ねーちゃん、そんな筋肉だけじゃ……それに相手のモンスターだって、魔王に勇者の首差し出すのが目的なんだ。ただのお仲間程度の首じゃ、あの連中だってそうそう重い腰を上げないぜ」
「どの世界にもルールがあるんですわ。ほら、わたくしたちだって、結局勇者不在では魔王に顔を合わせることすらできないですもの……ここは周辺にいるモンスターを地道に倒して、小銭稼ぎに専念するしかないわね。もちろん、勇者を探しながらね」
エリザさんの言う通りです。
わたしはただ頷くだけでした。
それでも、ユロロラさんは納得しません。
どうしても、クエストで賞金とチカラ試しをしたいみたいです。
確かに残念な結果ではありますが、空腹も限界に近いということで、わたしたちはそのパブを後にし、この町の周辺にいるモンスターをとりあえず討伐することにしました。