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向かうべき先へ

 ――かくして一行は、パーティーにとって必要不可欠である勇者様を探すべく、その新たな一歩を踏み出し始めたのだった。


 こんな風に言ってみたいものですね。


「おい、パウナ! さっきから何一人でブツブツ語ってんだ? 頭イカレちまったのか?」

「そうですわ。パウナちゃん、らしくありませんことよ」

「ご、ごめんなさい……」


 思わず感情が表に出てしまいました。

 でも、ワーズのことは言いません。


 だって、先日ある宿屋での一夜。

 わたしは寝言でワーズと叫んでしまったみたいで。

 それがユロロラさんなら良かったのですが、エリザさんの耳に入ってしまい。

 実は彼女、突然に失踪したワーズのことをあまりよろしく思っていないようで。


 わたし、それ何度も伝えたんですよ。

 そんな人じゃないって。

 でも、結局その気持ちは通じなかった。説得力がなかったんですね。


 この話を、もしユロロラさんが耳にしたら、たぶん猛烈に憤慨するに違いありません。仲間を見捨てての失踪だなんて、確実に彼女の怒りゲージがMAXしますね。だって、この人って勇者以上に正義感が強いんですもの。


 いっそのこと、あなたが勇者になったら? って何度言いかけたことか。


 それでも占術だけはお許しをもらったんです。

 それは旅をする上での必須アイテムですし、進むべき方向を見い出すのに最適だろうって、そう言ってくれたんです。


「にしてもさ。勇者探すったって当てもねーだろ? この先どうするよ?」

「あら? ユロロラ。あなたらしくないわね」

「テメェーに言われたかねーよ」

「なんですの? その品のない言い草は?」

「おい、やんのか? コラ!」

「まあ、はしたない……ホント、無神経よね」


 プンプンと二人してそっぽを向いてしまいました。言い忘れましたが、西洋占星術によるとエリザさんが火の星座のレオ(獅子座)で、ユロロラさんが水の星座のスコーピオン(蠍座)の相性ですから、なるほど馬が合わないわけですね。火と水の要素。一目瞭然です。


 ちなみにわたしは風の星座のリブラ(天秤座)。バランスを保とうと必死、というわけです。右に傾いたり、左に傾いたり、振り回されることが多いですが……。


それでも、ここはわたしの出番と思って――


「まあまあ、落ち着いて下さい。二人とも……」

「おう、パウナ? なら、何かいい考えでもあんのか?」

「そうですわ、パウナちゃん? わたくしたちに意見するのでしたら、ちゃんと明確に用件をお伝え下さるかしら?」


 こ、怖い……。


 ぬーっと迫りくる二人のしかめっ面に一瞬たじろぎましたが、わたしはそれでも頑張りました。


「とりあえず、わたしたちには資金がありません。なので、まずは勇者を探すよりもモンスターを討伐して、地道にコツコツと金目の物を頂くのが先決かと思います」

「そうだよな。確かに最近ろくなもん食ってねーしな」

「まあ、そうですわね」


 あっさり意見が通るなんて初めてのことです。でも、安心できません。何か落とし穴があるかもしれませんから……被害妄想全開であります。


「あれ? そう言えば、エリザっていいとこのお嬢さんだろ? そこ行ったら、資金ぐらい簡単に借りられるんじゃねーか?」

「えっ、で、でも……わたくし家を飛び出して来た身ですから……気まずいのですわ」

「おいおい、そんなくだらんこと、とっとと水に流してくれるだろうよ。それよりも、あたいらの旅はまだまだ先が見えないんだ。この先に何があんのか、わかったもんじゃねー。だからこそ、ここは大量の武具やアイテムを今のうちに購入して、次の戦闘の準備に取り掛かった方がいいだろ?」

「ユロロラ……あなた」


「わたしもそう思います、エリザさん」

「パウナちゃんまで……」

「じゃ、決まりだな。方角的にはどっちだ?」

「それなら、わたしに任せて下さい」


 ここはダウジングという方法でその指し示す方角を決定します。

 実は今わたしたちがどこをどう歩いているのか。皆目見当がつかない状態なんです。

 地図はワーズが持っていたので、占術と女の勘だけを頼りにここまでやってきたというわけなんですよ。


「エリザさんの故郷……確かコケーラ王国でしたよね」

「ホ、ホントに行きますの?」

「方角わからねーのか?」

「まっ、申し訳ないですけどね……ちょっと、わたくし方向音痴でして……だから、確かな方角はわからないですわ」

「この役立たず! ホントいつも足引っ張って大変なんだから、こんなときぐらい役に立てよな!」

「ユロロラ! 口の聞き方、考えて下さる。じゃあ、あなただけは王国の外で待機してもらいましょうかしら?」

「お、おい……冗談だよ。いちいち、間に受けんなよ」


 珍しくユロロラさんが身を引きました。

 確かにそうです。

 それほど、わたしたちパーティーは貧困状態にあります。

 

 彼女たちのやりとりの最中、わたしはそのダウジングのチューニングを行い、さらに東、西、南、北、北東、南東、北西、南西の八方位を記したシートを用意します。

 その中心点にダウジングを翳し、振り子の要領で指し示す先を決定します。大きな揺れを確認できれば、それがわたしたちの向う先です。


「出ました!」

「おう、どこだよ? パウナ!」

「ここから北東です」


 ダウジングが示した先。

 その方角だけは、なぜか黒雲に覆われていました。

 ホントに大丈夫なんでしょうか。

 それでも、ワーズが教えてくれた占術のチカラです。信じないわけには行きません。


「妙な胸騒ぎがするな……」

「ユロロラ、理不尽な発言しないで下さる?」

「まっ、でもいいや。とっとと行こうぜ! あたい、もうお腹ペコペコで死にそうなんだよ」

「そうですね。向かいましょう」


 こうして、わたしたちはダウジングが示した北東の方角へと歩みを進めることになりました。


 占術の狂信です。


 でも、ふと気になったのは、エリザさん。顔面蒼白でなんだか手足の震えが止まりません。


 そんな彼女を気づかいながら、一行は北東へと向かいます。



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