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プロローグ

 

 それは、よく晴れた午後のことでした。

 ちょうど太陽が頭上から、このスバラシア大陸全域を照らし始めた頃のことです。


 わたしたちはアンデッドが徘徊する不気味な洞窟で、いつものようにモンスター軍との戦闘に明け暮れていました。


 外は快晴の空なのに空洞での戦闘を義務づけられるなんて……なんだか損した気分です。


 空気が淀んで、埃っぽくて……、


 これでは、わたしの赤髪ロングヘアも自慢のフード付きホワイトローブも、真っ黒に穢れてしまいます。

 

 ここはやっぱり、芝生の上で手作りのお弁当を食べながら、桃色恋愛トークでも展開したいものです。


 ホントこんな無意味な戦闘なんて避けて、とっととボスキャラさんを討伐しちゃえばいいのに……。暗くてジメジメして、ホント不気味だと思います。


 でも、経験値を稼がないと、わたしも仲間たちも大敵の魔王軍を成敗できないからホント困ったものです。


 なんて偉そうなことを言っていますが――


 わたしはただ応援というスキルを駆使して、見守っているだけに過ぎないんですけど……。仲間たちの背後に隠れて、とにかく敵さんと目を合わせないように努めているんです。


 こう見えて、わたし賢者なんですよ!!


 賢き者――なんて世間体では聞こえがいい職業なんですけど、やっぱりそれにもピンからキリまであるみたいで。


 言うまでもありませんが、わたしは下から数えた方が早いような、いわゆる落ちこぼれ。呪文のバリエーションもマッチ1本程度の火を起こすことと、猫に引っかかれたような掠り傷を癒すことぐらいしかできなくて。ホント蟻の子一匹ようやく倒せるようなレベルなんです。


「パウナちゃん! 油断は禁物ですわよ」

「おう、パウナ! アンデッド野郎に、取り憑かれないように注意しろよ」


 わたし以外の仲間の皆さんは二人。


 わたしをパウナちゃんと呼ぶのは、頭のてっぺんでおだんごヘアを作り、ピカイチな素早さと紫色の武闘着が特徴的な、お嬢様武闘家のエリザさん。


 もう一人はわたしを呼び捨てにする、長く伸びた金髪ヘアをなびかせ、愛用のロングソードと硬そうな鋼鉄の鎧を装備した、ドS級かつ重量級女戦士のユロロラさんです。


 戦闘中、彼女たちの息はぴったり合っているのですが、たまに仲が拗れて大変なことになってしまうんです。


 そのときはわたしか、もしくは気のいい相手のボスキャラさんの、いずれかが二人の中に入って仲裁するんです。


 よくあるパターンが、どちらが敵の止めを刺すかって言うこと。わたしにとってはそんなの……どちらでもいいと思うんですけどね。


 そんなことより、今晩お泊りする宿屋でも探した方が、疲れ果てた身体を癒せるから、パーティー全体にとっても都合がいいと思うんですよ。


 あなた方、二人がチカラを合わせれば大抵のボスキャラさんは討伐できてしまうんですから……。まっ、そんなこと二人の前で面と向って言えるわけないですけど……。


「ここはあたいが止めを刺すから……エリザ! テメェーはすっこんでな」

「何をおっしゃっているのかしら? ここはわたくしがこのスケルトンファイターに鉄拳制裁をする。それこそが、この場面での最善の策だと思いますけど?」

 

 エリザさんとユロロラさん、両者のにらみ合い。

 こちらの方にも火花が飛び散って来そうな、そんな勢いです。


 もう既にボスキャラのスケルトンファイターさんも覚悟を決め、胡坐を掻いています。きっと降参に近い形で、もう早く止め刺せばモードなのでしょう。


 でも、こんなとき、わたしは先代の勇者様から伝授されたある方法を駆使して、彼女たちに一端の意見を言い放つのです。それで争いを鎮めることができます。


 それが占術。


 星の動きを読む西洋占星術や二十二枚のカードを自在に操って、ひとつの答えを導き出すタロット占い。

 これらが勇者様から伝授された貴重なスキルですが、その他にも多種多様な占術方法があります。


 実行する度にあの方のお顔を思い出してしまい、


 少々ノスタルジックな気分に酔いしれてしまいますが、仲間たちの道標となって、数々の窮地に救いの手を差し延べてきたつもりです。


 それでも、わたしの想いは勇者様のみで、彼のために占術を唱えるようなものです。


 あぁ、勇者様。

 麗しの勇者様。

 溺愛する勇者様。


 はっ! つい呟いてしまいました。


 いきなり取り乱して、ごめんなさい。

 ちょっとだけ、昔を懐かしんでしまいました。

 ホント悪い癖です。



 で、このパーティーのことなんですが――


 一応、わたしが一番の古株なんですけど……今もなお勇者様が不在なのです。

 RPGで最も重要なポジションにある、その職業が空席だなんて、ホント信じられません。これでは希望を託すであろう、王国の主も真っ青です。


 なので、魔王城へ行って魔王を討伐するにしても、その鉄壁の門を警備しているガーゴイルの兵隊さんに、たぶん門前払いを喰らってしまうんでしょうね。


 魔王だって、矛先を向ける勇者の首を、確実に狙っているのですから。


 ホントは先代の勇者様が、わたしたちの元へ再び戻って来られるのが一番嬉しいんです。

 

 まっ、これはわたし個人としての意見なんですけど……。

 だって、それはわたしの初恋なのですから……。


 エリザさんと、ユロロラさん。

 彼女たちにそんな胸のうちを言えるわけもなく、二人の仲に折り合いをつけるため、わたしは今日も最終的に占術のチカラを駆使します。


 そう狂信するのです。


 あの日、あのとき、同じときを過ごした、勇者様のことを想いながら……、

 あるはずのない霊感を駆使します。

 


 で、戦闘の続きですが――


 結局、エリザさんもユロロラさんも、止めを刺すことなく、スケルトンファイターさん自らが自爆して、わたしたちに経験値を差し出して下さいました。


 一生懸命、仲間の二人を説得するために、色んな犠牲を払ってもらったのに……。


 これがホントの骨折り損です。

 骸骨戦士だけに……。


 でも、これが占術通りに事が運んだ結果。

 ワンオラクル。

 タロット一枚引きによって、選び出されたカードは、十三番の死神。


 物事の節目、白黒はっきり。その答えを委ねるのは、まさに死神の風貌をしたボスキャラさんである。


 と、わたしは解釈したのです。


 このカードが、なぜ選び出されたのか。

 ということをインスピレーションで感じる。


 これこそが勇者様の教えでした。


 だから、占術はこのパーティーをコントロールする唯一の方法であります。

 だって、不思議と聞いてもらえるんです。


 そう、それが勇者様の最後の贈り物でもあるのですから……。




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