再会2
久しぶりに見る『封印の地』は10年前と全く変わってなかった。外見は神殿のようになっており、入口付近には警備兵がたっている。中に入るとまず目に入るには『アリーシャ』を封印した勇者の銅像だ。右手に剣を持ち、天に向けて突き出してる姿である。そして、奥に進むと勇者にまつわる遺物―――剣や防具などが展示されている。さらに奥に進むと大広間になっており『不死のアリーシャ』がいる部屋になる。
リサは大広間に入り『アリーシャ』のほうに目を向ける。
大広間の中央に台座で固定され封印のクリスタルに閉じ込められている『不死のアリーシャ』だ。
その姿は10年前と変わらず、穏やかで優しい表情をしている。。
「久しぶりね。アリーシャ」
思わず笑みがこぼれた。
「優しい顔・・・私は昔話は信じていないわ。貴女は悪い人いじゃない・・・私にはわかる」
『アリーシャ』がなぜ封印されたか直接聞きたいがそれは不可能なことだ。もし復活させようとしたら反逆者として捕まり一族郎党打ち首だろう。さすがにそれは無理なことだと思い考えを払拭させる。
リサは一時間ほど「アリーシャ」を見ていた。ふと遠くで鐘の鳴る音が聞こえた。この国では朝6時、昼12時、夕方6時に街の中心にある見張り台の鐘が鳴るようになっている。この鐘の音で人々は生活のリズムをとっているのである。
「そろそろ帰ろうかな」
今鳴ったのは夕方6時の合図だ。ここも6時で閉まってしまう。外はもう薄暗くなっていることだろう。少し長居しすぎたかもしれない。周りを見渡せばリサ以外だれもいなくなっていた。
(また来よう)
そう思って入口兼出口から出ようとしたとき―――不意に目眩に襲われた。
(どうしたのかしら)
だが目眩も一瞬だったようだ。
疲れでもたまってるかなと思ったとき―――
遠くで悲鳴が聞こえた。
思わず、悲鳴のした方向に目を凝らす。誰かが倒れているようだ。
リサが駆け付けようとしたとき―――突如、大地がに魔法陣のようなものが出現し複数のスケルトンが現れた。その手には、錆びた剣を装備していた。切味はほとんどないだろう。黒茶色に刀身が変色していた。スケルトン・ウォーリアだろう。カタカタと顎の骨を上下させながらリサに襲いかかろうとする。
「なんでこんなところに!」
スケルトンに限らずアンデットは墓地で発生する魔物である。街中にある墓地は神殿の聖職者によって、管理されており、アンデットが発生するはずがなかった。
いたるところで悲鳴が聞こえてくる。かなりの広範囲に出現しているようだ。
考えている暇はない。リサは『封印の地』の警備兵たちがいる詰所に駆け込むと同時に叫ぶ。
「アンデットの敵襲よ!」
中にいた4人の警備兵はまだ状況は把握できてなかったようである。リサが事情を説明するとバタバタと防具を装着しはじめた。勤務が終わったことで防具を外していたようだ。
「私は、神殿騎士のリサ・スレインよ!任務外のため装備がないの!予備の装備でいいから貸して!」
「わかった!そこの壁にかけてる剣を使ってくれ!」
リサは壁に掛けられていた剣を掴む、防具も探すが一目見てサイズが合わないと判断する。
借りた剣はどうやら、アンデットに特効の武器ではなく普通の剣だろう。だがスケルトン程度なら十分だ。弱点でもある首を砕けば二度と動かないはずである。
「ここの指揮長は誰!?」
「警備長だが・・・今は王宮に行って不在だ!よければアンタが指揮をしてくれ!」
「わかったわ!いい?魔物は外だけでなく『封印の地』にも出現している可能性もあるわ。『封印の地』の安全を確保したのち外にでるわ。各人気を引き締めて。二人一組で行動すること。何かあれば大声で叫んで」
『了解!』
「まず入り口を閉門して、侵入を阻止。その後『封印の地』内を探索警戒よ。先頭は私が行くわ」
♢♢♢
「ここは一安心ね」
詰所をでてから一度も魔物と会うことなく入口を閉門することができ、ここに警備兵二名を待機させることにした。おそらく『封印の地』内には出現していないのかもしれない。
「もし街の人が助けを求めてきたら門の横にある入口から入れてあげて」
「了解した」
「私と後の二名は中を探索するから。まかせたわよ」
♢♢♢
探索中は魔物との遭遇はなく残るは『アリーシャ』のいる大広間のみとなった―――
リサが先頭にたち、二人の警備兵が背後をついてきながら注意深く辺りを見渡す。
「問題なさそうですね」
警備兵の一人が言った。
「流石に魔物も勇者の遺物がある場所には来ないんじゃないか?」
「そうかもしれないわね」
リサも少し余裕が出来たのだろう、勇者の遺物が展示されてるエリアまで何事もなく、残すは『アリーシャ』のいる部屋のみとなる。
(もう大丈夫ね)
たが突如、空気を切り裂いて一条の矢が飛来する。
警備兵の一人が矢を頭に受けその場に倒れ伏す。
そして柱の陰から弓を装備したスケルトンが現れた。
「スケルトン・アーチャー!」
(油断した!)
「貴様!!」
残った警備兵がスケルトン・アーチャーに向かい猛然とダッシュする。
弓を構えるスケルトン・アーチャー。しかし、遅い―――警備兵が大上段に振り下ろした剣が頭を砕きそのまま真っ二つに両断する。
「ざまぁみろ!雑魚が!」
スケルトン・アーチャーだったものに唾を吐きかける。
「伏せて!」
「なに?」
警備兵の背後から飛来した矢が首を貫通する。噴水のように血が吹き出て首筋を抑えながら息絶える。
カタカタと骨がぶつかり合うような音が聞こえる。まるでリサたちを嘲笑するかのように。柱の陰から現れたのはスケルトン・ウォーリア2体、スケルトン・アーチャー1体、スケルトン・メイジ1体だ。
「厳しいわね・・・」
神殿騎士のフル装備であれば問題ない相手である。しかし、今は防御力の全くない外出着と警備兵に借りた、ただの鉄の剣のみだ。神官に祝福の奇跡を施された剣でなくてはアンデットに決定的なダメージを与えることはできない。スケルトン相手であれば力任せに倒すことは可能ではあるが―――
(先に倒すのはメイジね。そこからアーチャー、ウォーリアの順ね)
瞬時に倒す順番を決める。一般的に攻撃魔法や補助魔法を使うメイジから倒さなければ長期戦になった場合非常に不利なることが多いのである。
先手必勝---
リサは剣を構えるとスケルトン・メイジに向かって走り出す。スクルトン・ウォーリアが2体がリサに向かってくる。そのまま速度を落さず突っ込むリサ。先頭のスケルトン・ウォーリアがリサに突きを放つ。回避は難しいのでリサはその剣を受け流し、流れのまま剣を横一文字に振りぬく。上半身と下半身に分断されるスケルトン・ウォーリア。分断されたスケルトン・ウォーリアにつまずきもう1体スケルトン・ウォーリアがこける。そして、振りぬいた勢いのまま一気にスケルントン・メイジに走りより首を両断する。止まっている暇はない。少し離れた場所にいたスケルトン・アーチャーに向い走り出す。矢が飛んでくるがサイドステップでかわし距離を詰める。次の矢を放とうとするが間に合わない。難なくスケルトン・アーチャーを屠る。残るはスケルトン・ウォーリア1体のみ。こけた体勢か復帰したスケルトン・ウォーリアが剣を振りかざしながらリサに向かってくる。だが突如その動きが止まった。ピクリとも動かなくなった。
「何が?」
リサは何が起きたか分からなかった。
「スケルトン程度では無理か。しかし、警備兵以外にも人がいたとはな」
どこからとも無なく声が聞こえてきた。まるでマスク越しに話してるかのようだ。
「だれ!?」
リサは周囲を見渡すが人の姿は見えない。
「すぐ死ぬ奴に名乗るのもアレだが。奮闘に免じてやろう」
リサの影が動いた―――
何者かが影から浮かび上がるように現れようとしている。それは人―――いや、影から現れるモノが人のはずがない。それが、徐々に人型の形をとる。そして、同時に周囲に瘴気がたちこめる。現れたのは高さ2メートルほどの男だった。その姿は全身黒ずくめであり、両目は真っ赤に光っていた。リサはその姿を見てかつて図書館で調べたあるモノの特徴と一致していることに気づく。
「まさか・・・魔人・・・」
「ご名答」
魔人は不気味な笑いを浮かべる。
「我は魔人ヘイゼル」
魔人とは一般的に魔法を極めんとした者が道を踏み外し、人外へと堕ちた者のことである。
人体実験や魔法の力で不死を得ようとした者が魔の力に取り込まれ魔人となるのである。
魔人の力は強大で過去に魔人一人に攻め込まれ滅びた国もある。
「なぜここに魔人が?」
リサはいつでも動けるようにヘイゼルの動きを警戒する。
「ここには勇者の遺物があるだろう?それを奪いに来たのだよ。ここにある物を我が主に差し出せばきっとお喜びになる」
「主?」
「そこまで言うつもりはない。邪魔だから死んでもらうぞ」
ヘイゼルから負のオーラがたちこめる。
思わず一歩下がるリサ。
「く・・・ここで死ぬわけにはいかないわ」
「恐怖を感じるか?人の恐怖は我が糧でもあり快感でもある。その体に恐怖を刻み込んでやろう」
「人の恐怖に悦びを味わう・・・まさに外道ね」
「フフフ。褒め言葉だな」
強がってみたものの状況的には非常に不利である。対魔人戦においては最低でも3人PTでPT内に魔法使いが絶対条件となる。理由としては「魔法を封じるには魔法である」という言葉があるように、魔法による強化弱体、相殺など魔法にしか出来ないことが多いからである。もし一人で魔人と戦うなら魔力の込められた武器、防具が必要となる。一般的な武器、防具で倒すのは不可能に近い。
だがヘイゼルから感じられる力はたとえ魔法使いがいたとしても、力の差でヘイゼルが上回ってるだろう・・・
「さて。お喋りはここまでだ」
ヘイゼルの目が妖しく輝いた。