プロローグ
こっそり書き始めました。読んでくれると幸いです。
「うおー!奴だ!魔剣姫アリアだ!!」
コロシアム全体が揺れるような大歓声だ。おそらく一万人はいるだろう。歓声だけでなく悲鳴のようなものも聞こえてくる。
彼女の登場で観客のボルテージは一気に跳ね上がる。
それもそのはず、【竜殺し〈ドラゴンスレイヤー〉】、【ソードオブソード】、【魔剣を携える者】―
様々な称号、呼び名でもはや世界では知らない者はいないとされ、最強と名高い「魔剣姫アリア」がコロシアムの決勝に現れたからだ。予選前から、決勝に到るまで全て圧勝してきた力は圧巻であった。まさに生きる伝説。
対戦者の中には、アリアの剣気を受けただけで気絶し戦闘不能となる者もいた。
また、剣気にのまれず対峙したとしても、一撃で勝負が決まってしまうほどの強さだった。
年の頃20歳、剣士の割には、筋肉質に見えずスラットした体つきで、出ているものも出ており、とても女性らしかった。
しかし、グレートソード並の魔剣を背負い、防具は竜鱗で覆われていた。
ただ、頭部と胴周り、肩から肘にかけては肌が露出していた。
彼女は有名人でありとても人気があった。各地で竜を討伐、モンスターの巣窟である迷宮の奥まで行き、迷宮の主を倒し、周辺地域の安全や交易のルートの確保など様々なことに貢献してきた。
また、その美貌も人気に一押ししていただろう。
だが、彼女には重大な秘密があった――――――
「すごい歓声ね・・・騒がしいな・・・」
アリアは他人事のようにつぶやいた。
こういう騒がしいのは嫌いであり、あまり目立つのは好きではなかったのである。宿屋にしてもあまり人が寄りつかないようなところを選び、酒場でも端のほうに座り一人で飲むタイプだった。
しかし、その身に纏うオーラは周りを黙らせてはくれない―――世界中に名が響き、知らないものはいないということになってしまったからだ。
「早く決勝を終わらせて、賞品をもらわなきゃ」
もはや勝つのは当然であった。負けることなど今のアリアにとってはあり得ないことだった。
相手は最近話題となっている男だ。
不思議な力を持っているらしく、アンデット軍団討伐、魔人討伐など成果を上げており世間の評判もいい。
一部の話では勇者の血筋とのことだ。
だがそんなことはどうでもよかった。
今回の賞品は「願いの宝珠」であった。この宝珠はどんなことも一つだけ叶えてくれるという、世界に神々が残した遺産の一つである。
なぜ、そのようなものが今回賞品で出されるかは謎であるが、アリアにとって竜を討伐したのも、迷宮の主を倒したのも全てはこの「宝珠」を探していたからにすぎない。
時は来た―――
審判に呼ばれコロシアムの中央へと進む。歓声がさらに高まる。
相手との距離が縮まってきた。心臓がドクンっとなった気がした。
(らしくないな・・・)
アリアは魔剣を抜き両手に構える。
勇者と呼ばれる男も剣を抜き右手に構えた。
勇者の剣からは聖なる力が感じられる―――おそらく聖剣だろう―――防具からも聖なる力を感じる―――
(なるほど・・・勇者と呼ばれるだけの力はもっていそうね)
アリアは一瞬で相手の力量を見極めた。
だが、相手ではない―――いつも通り一撃で終わらせる―――そう思ったとき勇者が話しかけてきた。
「魔剣姫アリアか・・・大層な名前だな」
この男は何を言っているのだろう―――今から戦うというのにあまりにも場に相応しくないことを言うものだ。何か狙いがあるのか?
いくつかの考えが頭を廻るがどれも自信がなかった。
勇者はそういうと同時に剣を構えた手とは逆―――左手を左腰に下げた革袋に突っ込む―――そして何かを取りだした―――
「なぜそれを持っている!?」
アリアは驚愕した。勇者が持っていたのは本来なら、今回の賞品となる「願いの宝珠」だったからである。見間違えるはずはない。かつて神殿に飾られていた物と全く一緒である。
観客たちからは死角になっていたり、客席から離れているため見えてはいない。
何だ?
どうして戦わないんだ?
と声が聞こえてくる。
「お前の正体を知っている」
「!?」
「50年前に勇者によって滅びた魔王ドール・ブラッド・コードウェルの一人娘。アリーシャ・ブラッド・コードウェル―――ハイアンデットの『不死のアリーシャ』」
「・・・」
言葉はでなかった。
誰にも話したことのない事実だ。
父は魔王だった。悪魔、魔人、アンデット、モンスターと呼ばれるもの達を率いて世界を一つにしようとしていた。その力の前に敵はなく、人間、エルフ、ドワーフ、竜人たちなどの国を次々と征服していった。もはや世界統一は目前だった。
しかし、ある日この地に4人の勇者が現れた。聖なる力を使い魔王軍をことごとく打ち破っていった。そして、ついに魔王を居城である「魔王城」まで追い詰めたのである。父は最後まであがいた。でも勇者には勝てなかった。
父は別れる間際、言った。
「生き延びよ。そして、お前らしく生きよ」
まだ幼かったアリアは数名の従者と共に城を脱出した。
逃亡生活は20年にもわたった。
5人いた従者も全て滅ぼされてしまった。しかし、激しく続いた勇者の追撃も従者の最後の一人がアリアに変身し身代わりとなったことにより、それ以降はなくなった。
残ったのはアリアと生まれてきてからずっと一緒の魔剣だけだった。
復讐は考えてはいなかった。ただ、もし追手が来た場合は戦うと決めていた。なにもせずに滅ぼされるのは嫌だった。
30年前、逃亡生活の中、アリアは人里離れた森で一人の剣士に出会った。その剣士はアリアをかくまい彼女に剣を教えた。もともと我流であったが、その出会いがアリアを変えた。剣の使いかた、間合いの取り方、用兵、兵法、闘いの駆け引き―――剣士は自分の全てをアリアに伝えた。しかし、その剣士も2年前に死んだ。寿命であった。その剣士のために墓を建てた。優しく強い男だった。
アリアは森をでた。ある街で『願いの宝珠』の噂を聞き、数多くのモンスターを倒した。だが『宝珠』は見つからなかった。モンスターを倒し続け、いつの日か彼女は世界で最強と呼ばれるようになった。
「―――何が目的なの?」
「お前の血は穢れている。平和となりつつあるこの時代にお前のような不純物はいらないんだよ!」
勇者は左手に持った「宝珠」に力をこめる。
「私は何も悪いことはしてないわ!」
「フン。そんなことはどうでもいい。俺は勇者の孫になる、アンデットや魔人は倒してきたが、まだお前に勝てるほどの強さはもっていない。だからこの『宝珠』を使いお前を封じて、祖父や父に俺の力を認めさせるのだ!」
こんな人間が勇者なのか―――
もはや言葉はいらなかった。
アリアは一気に踏み込み勇者に向けて魔剣を振り下ろす―――はずだったが体が見えない鎖に何重にも繋がれている感覚に襲われた。
まるで金縛りにあったように指一つ動かせなかった。
「なにを・・・?」
「フフフ。無駄無駄。このコロシアムに俺の配下を忍ばせている。【行動制限】の魔法を何重にもかけているから、いくらお前の馬鹿力でも無理だよ」
アリアは勇者を睨みつけることしかできなかった。
「今回の大会の賞品は、全てお前をおびき寄せるためのエサさ。お前のことを神殿のお偉い方に話したら喜んで協力してくれたよ。各地で竜を倒したり、迷宮にもぐってたのもこの『宝珠』が目当てだったんだろう?お前のことは調べた。うまく人間社会に溶け込んだな。」
そう、アリアは神々の遺産である『願いの宝珠』をずっと探していた。ある目的を達成させるためであった。
しかし、その目的は今閉ざされようとしている・・・
「おしゃべりはここまでだ。でわ、さらばだ。二度と会うことはあるまい!ハッハッハ!!」
勇者の持つ『宝珠』がにわかに光出す。
アリアは魔剣の力を解放し激しく『宝珠』に抵抗しようとする。しかし、力が入らない―――
そして、徐々に意識が遠のく―――なぜこんなことに―――ただ・・・に・・・な・・・―――
そして、アリアは意識を手放した・・・
アリアは闇の中で目覚めた。
まっくら闇だ―――
おそらく意識の目覚めであり体は寝ているのだろう。
これで目覚めるのは何回目だろう―――
勇者に封印されてから、時間の感覚がわからなくなった。
ただ、魔剣が近くにあることだけは感知できた。
アリアが生まれてきたときからずっと一緒だった魔剣―――
アリアの思うように動き、彼女の成長とともに強くなっていく魔剣―――
この剣があれば孤独など問題なかった―――
(よかった・・・)
アリアは魔剣が近くにあるといつも安堵する―――
そして願う―――
(いつか、ここから出られますように・・・)
そして彼女はまた、長い眠りについた―――
ルーブ聖王国という国がある。歴史は古く建国から約500年ほどたっている。建国したのは勇者王として名高いゲイル・ヴァン・ルーブ1世。500年前に魔王を倒した勇者の一人である。そして彼の孫も魔王の娘を封印した勇者として知られている。そういう伝説もありこの地には世界各地から神殿騎士や聖職者が多く集まっている。また、首都であるエンジェルガは、神殿騎士や聖職者の教育に力を注いでおり別名学園都市とも呼ばれている。
この世界最大の都市であり、観光客も多い。その都市に最も有名な観光名所がある。
そこは約500年前にコロシアムとして使われており、今では「封印の地」と呼ばれている。
封印されいるのは、魔王の娘「アリーシャ・ブラッド・コードウェル」―――通称「不死のアリーシャ」―――
当時の書物によると―――
各地で民衆を扇動し国を滅ぼそうとした者―――
人を襲い血を啜る吸血姫―――
コロシアムで大量虐殺をしようとした邪悪なる者―――
勇者に屈服し封印されし者―――
など様々な記録が残っている・・・
彼女を封印した勇者は、コロシアムを閉鎖し、幾重もの結界を張り神殿を建てたとされている。
現在でも彼女の姿を見ることは可能である。
封印のクリスタルに包まれており、目を閉じ剣を優しく包み込むような姿である。
今にでも目を覚まして動き出すのではないかと思われるぐらいだ。
ある少女が「アリーシャ」を見て言った。
「ねーおかあさん」
「なぁに?」
「あの、おねーちゃん生きてるの?」
「500年前に勇者様に封印されて、流石にもう死んでるんじゃないかな。」
「そうなんだぁ・・・でも優しそうな顔をしているね」
「そうかなー?あのお姉ちゃんは、ウソをついたり悪いことをばかりして言うことを聞かない子どもを食べちゃうのよ。あなたもちゃんとお母さんの言うことを聞いていい子になるのよ」
「はーい。またね、おねーちゃん。起きたら私と遊んでね!バイバイ~!」
少女と母親は去って行った。
しかし少女は気付かなかった。
自分の首飾りの先に付いている小さな「宝石」が少し光っていたことに。
そして、おねーちゃんと呼んだ人物の閉じた目から光るものがしたっていたことに・・・
そして少女が『アリーシャ』を最後に見た日から10年が過ぎた・・・