泣いてもいいとも
「う~ん、検査結果ではADHDの傾向があるけど・・・確証はもてないね~、ま、グレーゾーンって考えてもらってもいいかな」
そのまま「いいとも!」とでも言ってほしかったのだろうか、この医者は。
半分ニヤけた顔をした医者の目の前で私の頭は先ほどの「グレーゾーンなADHD」という言葉が反芻していた。
「グレーってなんだい、どっちかはっきりしてくださいな」と言おうと思ったが声が出ない。
ああ、体がいうことを聞かない。
「もしかして」と思っていたことが「もしかするとORなんともなかった」でもなくこんな中途半端な診断が下されるとは。
私は医者から言われた「仕事は軽めにしてもらうように、薬は出しますか」という問いかけにやっと声が出た。
「いえ・・・薬はいりません。グレーゾーンなら薬を飲まないでどうにかする方法を考えます」
ふり絞った声は自分でもわかるくらい震えていた。これは怒りなのか、悲しみなのか、自分に対するおかしさなのか、よくわからなかった。
「あまり無理しないでくださいね、薬を飲まないで生活改善できてる人も知ってますし、薬は副作用もあるかもしれませんが、自分の体に合えば生活も仕事もスムーズになってる人もいます。いったんよく考えてくださいね。まぁそんなに重く考えないでください。」
医者よ、さきほどはニヤけた顔をしやがって・・・と思って申し訳ない。
この方は私なんかと比べ物にならないくらい頭もよく、ADHDの知識も診てきた患者も多いのだ。
私なんぞのインターネットや本でかじった知識とは段違いなのだ。
「・・・はい、わかりました」
と答えると同時に涙が出た。ああ私はこれからどう生きればいいのか。ADHDとして自覚し治療に専念し仕事を続ければいいのか。もしくは、なかったことにすればよいのか。仕事は?これからの人生は?結婚できるの?そもそもグレーゾーンってなんだよ!そんな思いが頭の中を駆け巡る。
その日はどうやって帰ったかあまり覚えていない。1時間ほど歩いて家に帰ったことは覚えている。
どうしよう。どうしよう。
クラリネット壊しちゃった。私の何かも壊れちゃった。
この歌が運動会で流れていた子供のころに戻りたい。
戻ってもう一度人生をやり直せたらいいのに。
私なんかよりも苦しんでる病気や障害、悩みを持っている人がいるのだが、その時は「自分が一番不幸ちゃんですよ~」と言わんばかりに、死んだ顔と死んだ魚の目をして数日過ごした。さて、これからの人生どうしようか。