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犬の愛  作者: 水政
3/3

003 終章

1

 「・・・はい。注射、終わったわよ。」


 「イッツ・・・、なんか由紀子さんの注射って痛い・・・。」


 「嫌なら笹川副班長にやってもらえば?。」


 「いや、それは・・・。」


 「・・・まぁ、良いわ。」


 次の日、俺は由紀子さんに予防接種の注射をうってもらっていた。

 注射が終わった後俺は由紀子さんに、こう聞いた。

 「由紀子さんって・・・、亮司さんと付き合ってたん・・・、ですよね・・・?。」


 少しの沈黙があり、由紀子さんは短く、感情を込めずに、

 「・・・えぇ、そうよ。」

と言った。俺は、由紀子さんに、

 「・・・何で、別れたんですか?。」

と聞く、すると由紀子さんは、

 「・・・苦しくなった、彼と一緒に居ると、自分を責めて・・・、ただ、それだけよ。」

と言った。俺は、

 「教えてください。あの時、何で亮司さんは俊博を撃ったんですか・・・?、信じられないんです、あの亮司さんが俊博の事を撃つなんて・・・。」

そう言った。彼女は俺の方を見た、そして、

 「・・・あなたは、俊博の友達で、同じ被害者・・・。わかった、話すわでもこれは研究者としてではなく、一人の人間としてね。」

と言い、静かに話しはじめた。





2

 「・・・そ、そんな。それじゃあ、亮司さんは悪く無いじゃないですか・・・。」

 真実を聞いた俺は、絶句した。だって、確かに亮司さんは俊博を撃った。けど、そんな理由だったなんて・・・。

 それを聞いた由紀子さんは、

 「・・・それでも、彼は自分の事を許さないわ・・・。私たちはね、結果として俊博に深い傷を負わせた、幸せになってはいけないのよ、私たちは・・・。」

そう言った。





2

 ー「本当にごめんなさいっ!。亮司さんっ!。」

 俺は亮司さんに謝った。亮司さんは、

 「・・・いや、俺が悪いんだ。・・・あいつを撃った事、それは変えようの無い、事実なんだからな・・・。」

そう言って俺の事を許してくれた。


 それからさらに経って、俊博はいつしか亮司さんの事を許したようだった。それだけじゃない。喋れはしなかったが、少しずつ記憶は戻ってきているらしかった。

 そんな時だった。由紀子さんが自分から進んで海外支部への異動を行うことになったのは・・・。







3

 ー「どうして・・・、由紀子さん・・・。」

茉莉はそう呟いた、亮司さんは、

 「・・・これが、あいつが下した結論なんだろうな・・・。」

と言って俺と茉莉に一通のメールを見せた、差出人は、由紀子さんだった・・・。


『笹川君へ

突然居なくなってご免なさい。でも、これが私の罪滅ぼしの形です。

俊博と浩介君の事は、宜しくお願いします。俊博のカルテ、それから研究の情報は全てメモリーディスクに保管してあなたの机の中に入っています。

私は、俊博たちをあんな姿にした研究機関の本部があるマラリア共和国へ向かいます。そこで、私なりの決着をつけるつもりです。

貴方は、私の事を忘れて下さい。

もう、会うことは無いでしょう。


さよなら。俊博の事を、頼みます。


只野由紀子』


 「・・・由紀子、さん・・・。」

茉莉はポツリと言った。俺は、

 「亮司さん、由紀子さんは・・・?。」

と聞く、すると亮司さんは複雑な表情で、

 「・・・研究所では辞令は既に受理されてる。携帯電話も解約済、研究所の方は個人情報って理由で只野の今居る場所は教えてくれない。・・・どうしようも、無いんだよ。」

と言った。俺と茉莉は、

 「・・・由紀子さん、多分、一人で全部抱え込もうとしている。・・・それで、良いんですか?、亮司さんは・・・。」

と聞く、すると亮司さんは、

 「いいわけないだろッ!。」

と叫び、机を叩いた。


 ガン!と言う音が響く。


 亮司さんは、

 「だがな・・・、俺には、幸せになる資格なんて、無いんだ。俊博を、助けられなかったからな・・・。許さないさ、みんな・・・。」

と言った。


 「・・・じゃあ、俺が許します。」


 俺は亮司さんにそう言った。






4

 「・・・亮司さんも、由紀子さんも、充分頑張ったと思います。だからもう、幸せになっても良いと、僕は思います。・・・俊博ならきっと分かってくれるし。僕たちの事は、幸せになっても出来ると思いますし、ね。」

俺はそう言った。すると直ぐに茉莉も、

 「・・・私も、亮司さんは幸せになっても良いと思う!。」

と言った。亮司さんは驚いた顔で俺たちを見る、それからフッ、と笑うと、

 「・・・有り難う、二人共。」

と言った。






5

 ーそれから、一年後。


 「あー、もうっ!。難しいっ!。」

 大学の食堂内で、一匹の犬が机に紙やペンを置き頭を抱えていた。

 「・・・やっほい!、ナニソレ?、宿題?。」

 犬が頭を抱えていると、そこに茉莉がやって来た、犬は、

 「・・・あっ!、茉莉。ほら、手がこんな感じだから、上手くペンが持てなくて・・・。」

と言いながら自分の前足を見る。

 すると茉莉は、

 「ん~。ちょっとまっててねんっ!。」

と言って食堂を出ていき、直ぐに一匹の犬を連れてきた、犬は、

 「ちょっ!?、何だよ茉莉ッ!。」

と慌てた口調で言う、すると茉莉はニヤリと笑いながら、

 「後輩の俊博くんが教えて欲しいんだってさ。浩介君っ!。」

と言った。



 あれから一年後、俊博は記憶の大部分を取り戻すことが出来、夢だったデザイナーになるため俺たちと同じ美術学校に進学した。

 今では亮司さんたちが開発した人工声帯によって、会話も出来る。

 その他の変化は瑠璃と新一が前よりラブラブになったり、賢一に何故かイギリス人の超美女の彼女が出来て賢一が浮かれすぎて階段でコケて右足の骨にヒビ入って松葉杖つく事になったり・・・、とイロイロな事があったが、一番大きかったのは、由紀子さんと亮司さんが結婚したことだ。


 あの後亮司さんは出発しようとしている由紀子さんにプロポーズをした、・・・らしい。


 それから日本に残った由紀子さんと亮司さんは小さな教会で結婚式を挙げた。

 幸せそうな笑顔を浮かべる由紀子さんと亮司さんの顔は、今でも忘れられない。


 二人は、

 「・・・茉莉ちゃん、浩介君、ありがとう。」

と言って俺たち二人にウエディングブーケを手渡してくれた。


 ・・・みんな、幸せに暮らしている。




 ー「・・・浩介?。」

 俊博と茉莉はボーッ、としていた俺に心配そうに声をかけてきた。

 俺は、

 「おおっ!?。・・・ゴメンゴメン、ボーッとしてたよ・・・。」

とわ二人に言うと、二人は、

 「人騒がせだなぁ・・・。」

と呆れたような顔で言った。


 この先、亮司さんと由紀子さんに赤ちゃんが出来たり、新一が浮気したって瑠璃が騒いだり、賢一の彼女が実はモデルだったり、俊博の彼女がいつまでも出来なくって一晩ヤケ酒付き合ったり、茉莉がオンチだった事が判明したりと、色々な事があるんだけど・・・、それはまた、別のお話だ。





Fin

遅くなりました!

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