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犬の愛  作者: 水政
1/3

001 序編

新作ッス!。

感想下さい!

1

 「ぎゃああぁぁぁぁっ!?。」


 俺は悲鳴を上げる、俺の右手は灰色の獣毛に覆われ、人の形では無くなってゆく。

 やがて肉体は完全に変化し、俺は獣へと成り果てた――。




 ――「ハァッ!?。」


 目が覚めた、俺は辺りをキョロキョロと見渡す、隣で寝ていた恋人の草薙茉莉は眠そうに欠伸をすると、


 「ん~、何?、またあの夢見たの?。」


と言った、俺は、


 「あぁ……、俺が……、人じゃなくなる夢……。」


と答える、すると茉莉は笑顔で、


 「ねぇ浩介くん、いい加減忘れろ……、とは言わないけど、気にしない方がいいよ?、こうして今一緒に生きてるんだからさ。」


と言って俺の横腹を優しく撫でた。








2

 俺の名前は加藤浩介、美術大学に通う学生だ。

 そして彼女が俺の幼稚園からの幼なじみであり恋人の草薙茉莉である。


 俺の外見は人とは違う、見た目は二足歩行のシベリアンハスキーだ。

 ……どうしてこうなったか……、それは俺が高校生の頃誘拐され、実験台にされ、こんな姿にされた。



 その後警察に救出された俺は、『俺の身体を定期的に観察させる。』と言う条件の元、ある国立の医療研究機関にお世話になり、二足歩行したり何とか物を掴めるようになった。


 でもまあ俺が人から犬になる時は今もトラウマで時々夢に見る。そのたびに俺は飛び起きている。


 恋人の茉莉には感謝している。


 俺はかなり長い期間、夢でその光景を毎日のように見た。

 それで錯乱し、


 「離せェ!、もう嫌だ!、嫌だッ!。」


 そう泣き叫ぶ俺を彼女は、


 「もう大丈夫だから!、何も酷い事しないから、心配しないで、まず落ち着こう、ね?。」


といった感じで辛抱強く俺の事を落ち着かせてくれた。



 人間不振も彼女のお陰で多少は治った。

 俺はふと、あ


の頃を思い出した、保護された直後の事だ。






2

 「困ったな……。」


 ガラスの中から見える部屋を覗きながら、二人の白衣姿の男女が喋っていた。

 男の方は頭の毛をボリボリとかきむしりながら、


 「何を話しても無視、部屋に入ると興奮状態になって手がつけられずやむを得ずそのたびに鎮静剤を使用……、これじゃあ、手がつけられないな……。」


と言いながら横目でガラスの中の生き物を見る。

 大人の人間ほどの大きさのシベリアンハスキーがそこにはいた、ハスキーはただ虚ろな瞳で壁を眺めている。



 それを見た茶髪の女はため息をつくと、


 「しょうがないわよ……。彼、中学生で誘拐されてあの姿にされて、何度も投薬実験や……、否人道的な実験や扱いを受けたのよ。あんな人間不振になってもおかしくないわ、自殺してもおかしくないくらいよ……。」


と言う、すると男の方は、


 「……だったら、殺してやれば良いんじゃないか?。」


と呟く。それに対し女の方は表情を変えずに、


 「そう言う訳にもいかないわ、彼がもし仮に『殺してくれ。』と言ってきたとしても、私たちは絶対に彼を殺さないわ、何故なら彼は重要な研究サンプルだから。」


と言う、すると男は少し強い口調で、


 「……冗談はさておき、彼の精神年齢は恐らく中学生時代から変わってないと思う。……せめて彼の心のケアくらいはした方が良いのでは?、只野班長?。」


と言う、すると女は少し肩をすくめると、


 「……彼の心のケアについては、もう実施することは決定しています、……まぁ少し、荒療治かもしれないけど。


 ……それにしても、大人の都合に子供を巻き込むのは、気が引けるわね……。」


と最期の言葉は呟くように言った。







3

 「……。」


 暴れるため入れられた隔離病室の中、浩介は死んだようにただぼんやりとしていた。



 自分は何故生かされているんだろう?。

 中学時代の初恋の相手・・・。思いを伝えようとラブレターを下駄箱に入れ、帰る途中に俺は誘拐された。

 それからは俺は人間としてのプライドをズタズタにされ、俺の全ては人を拒絶するようになった。

 ・・・もう、いっそ殺してくれた方が良いんじゃないか?。

 そんな事を考えていると、ガチャリ、と音がして扉が開いた。

 驚いて扉の方を見る、そこには、懐かしい顔がいた。


 「やっほい!、浩介君っ!。」


 ――茉莉、だった。







4

 「……何で、いるんだよ。」



 ――違う、嬉しい。けど、同時に怖かった。



 「何って、ただ浩介君に会いに来ただけだよ。」



 「……どうせ、俺の事を笑いに来たんだろ?。茉莉さんみたいな美人と僕は最初から釣り合わないんだよ。そんな茉莉さんにラブレターを送って、その結果こんな獣に墜ちた俺を……、笑いに来たんだろ?。」


 ――怖いんだ、そう思われるのが……、心の中で笑われるのは、もう沢山だ。



 「ちょっ……、何言ってんの?、浩介君、私は……。」



 「……もういいよ、嘘の慰めの言葉なんかいらない。俺の事を笑ったり、『気持ち悪い。』とか言ってよ!、そっちの方が嘘よりも楽なんだよ!。」



 ――何でなんだよ!、こんな事言いたくないんだよ!。



 「違う、私はっ!。」



 「違わないよ!。」


 俺は、そう叫び、彼女を押し倒した。


 「痛っつゥ!?。」


 床に叩きつけられた彼女はそんな悲鳴を上げる、さらに俺は茉莉に噛みつこうとした。



 こうすれば、茉莉の事を傷つければ、茉莉は俺の事を嫌いになってくれるかと思ったからだ。


 すぐに医者や看護師の人がやって来た、そして俺は麻酔を打たれる。

 視界がグニャリと歪み、俺は何も分からなくなった。









5

 「……。」

 俺はあれ以来猿轡をつけられ、首輪でベッドから離れられないようになっていた。


 ――……本当の動物みたいな扱いだな……。


 もう、何も感じなかった。……いや、感じたくなかった、のかもしれない。




 ――「困ったな……。」


 部屋の中をガラス越しに覗きながらあの男と女が喋っていた。


 「大体なんなんだよ?、あんなの、失敗するリスクの方が高いだろ?。現に失敗し、彼はさらに心を閉ざしただけではなく、彼女も怪我をした、失敗するリスクが高いのに何で、あんな事を……?。」


 そう男は女に言う、すると女はしれっとした顔で、


 「現段階であれが一番確率が高いと思ったのよ。……人の心は論理的じゃないわ、やはりシュミレーション通りにはいかないわね。」


と言った、すると男は、

 「……そんなの、決まってるだろ!、お前がやった事は、被害者の……、彼の心を弄ぶ行為なんだぞ!。」


と強めの口調で言う。すると女は無表情で、


 「そうね。でも、あなたも『殺してやれば良い。』と言ったわ、それはただ面倒くさかった、と言う本音があったからでしょう?、あなたは私と同じよ。……違うのは、実行したか、してないか、よ。」


と言った時、ガラス越しに見える部屋に誰か――、茉莉が入ってくるのが見える。



 「おい!?、どうなってるんだよ!?。」


そう男は女に問い詰める、女は無表情で、


 「実験よ、彼はどんな反応を示すのかのね。……まぁこの結果、彼の心が壊れても構わないわ、必要なのは彼の生きている肉体だもの。」


と言った、すると男は、


 「……お前は悪魔かよ。」


と言う、女は相変わらず無表情で、


 「さぁ?、わからないわね。……でも、あなたは助けることは出来ないわよ、あなたのIDパスではここに入れないようにしたから。」


と言った。すると男は舌打ちし、


 「・・・本当に、悪魔だな・・・。」


と言った。





 ――「・・・!?。」


 目の前に、茉莉がいた。

 茉莉は、自分に近づく、俺は離れようとしたけど、首輪のせいで動けず、猿轡のせいで喋ることも出来なかった。


 「……ねぇ、浩介君、私の事、奴隷みたいに扱ってもいいし、私をいくら傷つけてもいいよ……。それで、浩介君の気が晴れるのなら……、私、なんだってするから……。」


と言った、俺は驚いた、何で?、そう聞きたかった、でもそれは猿轡のせいで言葉に出来ない。


 彼女は、それから、こう言った。


 「ねぇ、浩介君、私ね、中学の時あなたの事、まるで犬みたいだって思ったの。」


 彼女は続ける。


 「理由は、何にでも一途で、決めたことはやりとおして、とにかく大事だと思った人は大事にする……。だから、そう思ったの。」


 ・・・え?、俺はそう思った、彼女はさらに続ける。


 「私はね、そういう浩介君の事が、大好きだったの。……でも、私を押し倒した時の浩介君は、犬じゃなくて狼さん、だったけどね。」


そう言って彼女は苦笑した。

 それから彼女は真面目な顔でこう言った。


 「私はね、あなたの姿がいくら変わろうと、犬でも狼でも、あなたの事が大好きなの、愛しているの。……あなたが、私の事がたとえ好きじゃなくても、良いから……。ただ、私はあなたに何されてもいいし、力になるから……。」


いつの間にか彼女は半泣きになりながら笑っていた。

 急に視界がぼやける。



 ――俺は……、いつの間にか泣いていた。



 ……まだ、泣けたんだ……、でもこれは、悲しくて流す涙じゃない、嬉しいんだ。



 彼女は俺に抱きついた、そして涙声で彼女は、


 「……ゴメンね、私、あなたの事を守ってあげられなかった……。私の力じゃ、あなたの首輪や、猿轡一つ外せないけど……、そんな力なんて何一つない私でも……、あなたのそばにいても良いのかな……?。」


俺は何度も頷く、全身で、彼女の温かみが分かった。


 そのまま俺たちは、ずっと抱き合っていた……。







 「……悪趣味だな、俺たち……。」


 二人の抱き合っている姿をガラス越しに眺めながら研究員の男は女に向かって呟いた。

 女はそれを聞くと、


 「……別に、どうでもいいわ。」


と顔を少しそむけ、言った。すると男はため息をつく、そして、


 「まったく……、お前は変わらないなぁ……。」


と言う。

 女は少しして二つの鍵を男に渡す、そして、


 「……IDの事は、あなたに干渉されない為の、嘘よ。……それ、猿轡と首輪の鍵、外してあげて。」


と言い、部屋を出ていこうとする、すると男は、


 「ん?、こう言うの大体お前じゃねぇか?。」


と聞く、すると女は欠伸をし、


 「この件を上層部に話を通したり、色々忙しくて暫く寝てないのよ……。これから報告書も、書かなきゃいけないし、……少し、寝るわ。」


と言い、部屋を出ていった。



 「……後で、缶コーヒーでも、買ってやるか……。」


男はそう呟き、男はガラスの向こうの浩介と茉莉を見る。

 二人は幸せそうに抱き合ったまま眠っていた。

 男は舌打ちをすると、


 「……あいつ、行きにくいから押し付けやがったな……。」


 と呟き缶コーヒーを買うためにポケットから取り出していた硬貨をポケットに戻した。

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