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ある兄と妹の話  作者: ルートヴィヒ・アイリーン
涙に染められた日々
5/7

開き始める心

母が死んだ知らせを聞いてからはや1ヶ月。

私は兄と共に戦場に出向くようになっていた。

あの時兄がくれたワルサーPPKはすでに傷がついてきた。

慣れてきたのだ。人を撃つことにも抵抗を覚えなくなってきた。

しかしそんなある日、事件は起こった。

朝の4時、兄が私を起こしに来た。

「いつまで寝るんだ、緊急事態だよ?」

「何事ですか...」

私は重いまぶたを持ち上げ、かろうじて返事をする。

「反乱だよ。第1から4小隊がたった今声明を上げたの。」

「えっ!?」

「とりあえず起きる。」

「あ...はい...」

「戦況はそれほど緊迫していないよ?どっちかっていうと簡単。」

「簡単、といいますと?」

「うん、固まってる。だから~、まとめて死んでもらう。」

「え.....?」

私は恐怖を覚えた。

「ん?どうしたの?」

「全員...殺すんですか?」

「うん、そうだよ?」

「それでいいんですか?あなたは。」

「ん?」

そう言って兄は一瞬視線を床に落とした。

「僕は構わない。敵だから。」

「敵...ですか...」

「それは、あなたの意識の中の敵なのですか?」

「へ?」

兄が不思議そうにこっちを見る。

「反旗を翻した時点で敵じゃないか。」

「名義上の敵でも、同じ戦場を共にくぐりぬけてきた仲間じゃないですか...?」

「それはそうだが、だからといって僕は何も出来ない。」

「いいえ、あなたなら出来ます。」

「君は何を言ってるんだ?」

「彼らは何と言っているのですか?」

「聞きたい?」

「当たり前じゃないですか...」

「『総司令官の辞職』を要求してる。」

「何でまたそんな急に...」

「あれ、知らなかったの?」

「え?」

「あの人が戦地に出した人、ほとんど帰ってないよ。」

「何でですかっ....?」

「それが分からないから不思議なんだ....」

「確かにそれは...」

「ほら、反乱軍をとめに行くよ?」

「あなたは、それが正しいと思いますか?」

「う~ん、今日はうるさいね~...独りで行こうかな」

「もしかしてあなた...昔と少し変わりましたか?」

「さて、マガジンに残弾どれだけあったっけ...」

「いえ、変わりました...きっと、目に見えないくらい小さなことかもしれませんが...」

「よしっ、これで準備はいい、かな...」

「お兄さん。」

その瞬間、兄の動きが止まった。

「今、何て....?」

「お兄さん、って。」

「君は...僕を兄として見るのか?」

「うん。あなたは本当は優しい心を持ってる。」

「あはは、君は面白いことを言う...」

「でも、何かがそれを隠してる。それが何かが分からない...」

「それは、僕の過去かな」

「え...?」

「ほら、後で詳しく話す。とりあえず事態の解決を急ぐ。」

「はい...」




「....地上班の工作完了時に降下指示を出す。それまで各員待機していろ。」

「しかし、地上班と言っても7人じゃないですか、そんなにすぐ終わるんですか?」

「あいつらならやってくれる。一人惨殺魔もいるしな。」

「彼がいるのですか...私達の仕事がなくなりそうですね」

「そのときはその時で撤退する。」


....凍てついた大地を踏みしめながら、私達はゆっくりと、着実に、敵の拠点まで向かう。

無線機から聞こえてくる空挺部隊の会話は、兄の話題だった。


「うるさいなぁ、まったく...早く降りてきて欲しいよ。」

「でも対空砲とかで...」

「僕らなんて銃弾がその数百倍飛んでくるって言うの。」

先頭の人が口を挟む。

「お前ら、私語はするな!」

「あはは、隊長、こんな寒いのに死んだように静かに行軍も死にそうなのでね」

「まったくお前というやつは...」

「そろそろです!隊長!」

後ろの隊員が叫ぶ。

「よし、偵察に行け。」

「はいっ!」

そう言って一人の兵が走って数秒後。

吹雪の中で爆音がした。

「何事だ!?」

皆が慌てだす。そんな中。

「君は生きたい?」

兄が聞いてくる。

「それは...生きたいです。」

「うん、じゃあ僕の手をとって。」

「えっ?」

「いいから、ほら。」

私は差し出された手をとった。

「ちょっと冷たいよ。顔カバーして。」

そういって兄は驚くべき速さで走り、30mくらいはなれた雪の丘の中に飛び込んだ。

「冷たっ...!」

「よし、死ね。」

「えっ...?!」

その瞬間、唇に何かが触れた。しかし雪に埋まってあまりの冷たさに目を開けられないでいる今、それが暖かく、そして柔らかいことしか分からなかった。

すぐその後、銃声がしたが、それは60秒と続かなかった。

足音が近づいてくる。

「...2人だ。」

兄が囁いた。

声が聞こえる。

「おい、この山の中に人が残ってると思うか?」

「ははっ、バカな。子供くらいしか入れないぜ?」

「でもよ、もし子供が伏兵として入ってたらどうする?」

「おもちゃの銃でばーんって...」

その瞬間、銃声が耳元で響いた。

2発、雪の中からだった。

声はしなくなった。

「よし、もういいよ。」

「えっ....ええぇっ?!」

兄は音だけで2人の喉元に1発ずつ、確かに弾を撃ち込んでいた。

「サイレンサー、役立ったな...。」

「すごい...」

「ほら、行くよ?」

「行くって...どこに!?」

「設備、壊すよ。」

「それで空挺師団を...?」

その後の言葉は、予想していなかった。

「いいや、亡霊を解放する。」

そういいながら兄は道を歩いていく。

吹雪が止んできて視界も晴れてきた。

そこには5つの、人だったものが転がっていた。

兄はそれには見向きもせず進んでいった。

「正面のゲートから入ろうか?」

「えっと...本気ですか?」

「あはは、そんなわけないじゃないかっ」

そういいながら兄は正面のゲートへと進んでいく。

「ちょっ...危ないですって...!」

そして兄は人のいない見張り所に入り、警報を鳴らした。

「何してるんですかっ!?」

「ほら、横道回るよ。」

そういって悠々と設備のフェンスに沿って大きく横へと進んでいった。

私もそれについていった。

そして広大な設備の周りを回り、600mほど来たところで。

「さ、お邪魔しようか」

フェンスを乗り越えた。

これはそう高くなかったので、私ですら乗り越えられた。

そしてまっすぐ中央に向かって歩く。

「気づかれちゃいますよっ...!」

「さっきので皆あっちに集まって、さらにあの死体を見て周辺を捜索してるよ。」

「えっ...?」

「君、よく驚くね。」

沢山積み上げられたコンテナの1つに手を伸ばしながら言う。

「ここ。離れてて。」

「あっ...はいっ...」

兄はコンテナを開ける。そしてすごい速さでに兄はコンテナの側面にステップを踏む。

その刹那、中から機関銃やらなにやらの弾が無造作に正面に撃ち出される。

10秒はあっただろう。銃声が止む。

「これだから嫌なんだ...」

呆れ顔で兄は私を手招きした。

そして恐る恐る中を覗くと...

内部に設置されたブローニングM2機関銃が5基、こちらを向いて煙を吐いていた。

そしてコンテナの中には階段。

「僕だって1度は来てる。これにお出迎えされたのは2回目だ。まったく...」

そういいながら中へ中へと進んでゆく。

「まっ...待ってくださいよっ!」

私も走って追いかける。

中はもぬけの殻だった。

「バカばっかりだ...」

そういいながらケーブルが沢山繋がった機械に次々と何かを設置していく。

「何してるんですか...?」

「ばーくーだーん。」

兄はそういいながらぐるっと狭い設備を一周すると私のほうに向き直って、

「さ、逃げるよ?30秒以内に。」

「え...」

「走れっ!」

「はっ、はいいっ!?」

必死で走った。

そして基地の外まで来て、兄は止まった。

「嘘。」

「え....?」

「いや、逃げないとあれだからね...」

「そんな心臓に悪い嘘やめてくださいっ!!」

「さて、ミッションコンプリート。帰るか。」

「はい...」

「耳塞いで。」

「えっ?」

私は咄嗟に耳を塞いだ、次の瞬間。

兄が手元のスイッチを押した。

コンテナの中から爆音とともに黒い煙が出てきた。

「よし、これで戦力は消えた。帰ろうか。」

そして無線機に向け一言。

「君達の出番はなかったよ。」

兄はそういい放った。

その後私達は回収ポイントまで歩き、迎えに来た車に乗って帰った。

この日を境に、兄は変わっていったのであった。

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