財閥の元夫に駒として使われた私。離婚した途端、彼は泣いて復縁を迫ってきた
財閥の元夫に駒として使われた私。離婚した途端、彼は泣いて復縁を迫ってきた
プロローグ
姉の林優里は、鷹宮家の御曹司の腕に絡みついたまま、自分の婚約者が二階からホールへ続く十八段の大理石の階段を転げ落ちるのを、冷たい目で見下ろしていた。
神代蓮司は車椅子のそばに倒れ、シャツは乱れ、顔色は青白いというより、どこか凍りついたように見えた。年配の執事はそばで顔をこわばらせ、先に彼を助け起こすべきか、それとも主の顔色をうかがうべきか、判断できずにいた。
その場にいる人間の中で、私だけが知っていた。
車椅子の横に倒れているこの男は、神代家に見捨てられた哀れな廃人などではない。彼は神代ホールディングスの議決権五一%を握っている。
前世でも、彼はこうして何も言わずに耐えていた。そして最後には、彼を侮辱した者たちを、一人ずつ深い奈落へ引きずり落とした。
私はシャツの一番上のボタンを二つ外し、裸足のまま階段を下りた。周囲の忍び笑いがまだ消えないうちに、私は蓮司の前にしゃがみ込み、冷えきった彼の指を取って、自分の胸元にそっと押し当てた。
「床は冷えるわ。私の部屋へ行きましょう。脚、温めてあげる」
蓮司の視線が、私の胸元に落ちた。次の瞬間、彼は私の手首を強くつかんだ。
「怖くないのか」
「怖いわ。あなたが、思ったより悪い人じゃなかったら困るもの」
私はまっすぐ彼の目を見返した。
1.蓮司の試し
私は蓮司をベッドのそばまで押していき、しゃがみ込んで彼の脚を確かめようとした。指先がズボンの裾に触れた瞬間、彼の手が伸び、私の顎を乱暴につかんだ。
見下ろしてくる彼の目には、温度というものがなかった。
「何が目的だ」
私は無理やり顔を上げさせられ、底の見えないその瞳と向き合った。
「言ったでしょう。脚を温めてあげるって」
蓮司は冷たく笑った。車椅子の側面に隠された収納から一本のナイフを取り出し、冷たい刃を私の頬に押し当てる。鋭い冷気が、皮膚からじわじわと染み込んできた。
「お前の家の人間は、全員、俺が死ねばいいと思っている。色仕掛けか。それとも、このまま刺すつもりか」
私は逃げなかった。前世で、私はこの男のもっと恐ろしいやり方を見ている。目の前の試しなど、ただの前菜にすぎない。
私は手を伸ばし、刃を直接握った。
掌が切れた瞬間、鋭い痛みが突き上げる。私は必死に目を見開き、すぐに瞳が潤むようにした。
「本当にあなたを害するつもりなら、今が一番いい機会でしょう」
血が掌から落ちた。一滴、二滴。
蓮司の陰った目に、わずかな揺らぎが走った。
「私は、あの人たちとは違う。ただ……あなたの脚が、かわいそうだっただけ」
声を落とすと、蓮司の手がようやく離れた。ナイフも引っ込められる。彼はポケットからハンカチを取り出し、乱暴に私の傷口へ巻きつけた。
慰めの言葉はなかった。
けれど、それで十分だった。
翌朝、私は蓮司を車椅子に乗せて朝食のために下へ降りた。リビングに入ったところで、派手に着飾った優里と鉢合わせる。私を見た彼女は、すぐに顎を上げた。
「あら、外から引き取られてきた妹じゃない。昨夜はその役立たずの世話で、眠れなかったの?」
優里は車椅子の蓮司をちらりと見て、悪意を隠そうともせずに笑った。
颯真は蓮司を軽蔑するように見やり、優里の腰をさらに引き寄せた。
「優里、こんな連中と話すなよ。品が落ちる」
優里は私の前まで来ると、ラインストーンのついた爪で私の肩をつついた。声を低くしても、その目には挑発しかない。
「栞、あなたって本当に人の世話が似合うわ。愛人の子と車椅子の男。お似合いね」
私は何も言わなかった。ただ、わざと少しだけ体をずらし、寝不足で赤くなった目と、手に巻かれた雑なハンカチを見せた。
蓮司の手が車椅子の肘掛けを握りしめる。手の甲に、青い血管が少しずつ浮かび上がっていた。
2.宴席での宣言
その夜、父の林健吾は鷹宮家に取り入るため、家族だけの食事会で颯真をこれでもかというほど持ち上げた。
酒が何度か注がれ、場が温まったころ、父はようやく隅に座る蓮司を見た。グラスを置いた音が、妙にはっきり響く。
「蓮司君。うちも、この数日は十分に義理を果たした。明日には出ていきなさい。この婚約は、林家として認めない」
颯真は椅子の背にもたれ、気のない笑みを浮かべた。
「林社長の言うとおりですよ。車椅子の男が、いつまでも人の家に居座っているなんて、みっともない」
優里が口元を押さえて笑った。
その場にいる全員の視線が蓮司に集まる。誰もが、彼が惨めに黙り込むのを待っていた。
私は蓮司の車椅子の前に立ち、その視線を遮るように父を見た。
「昔、神代家に婚約を頼み込んだのは、あなたたちでしょう。事故に遭った途端、用済みみたいに切り捨てるの?」
父が激しくテーブルを叩いた。
「恩知らずが。お前が口を出す場面ではない。下がれ!」
「下がりません。今日から、この人のことは私が引き受けます」
ホールが静まり返った。
私は振り返り、車椅子の男を見つめた。一語ずつ、はっきりと口にする。
「コンビニで働いてでも、私が養います」
蓮司がゆっくりと顔を上げた。その冷たい瞳の中に、初めて私の姿がはっきり映った。
私は、父が用意してくれた気楽な仕事を辞めた。林家の関連会社の総務部に名前だけ置かれた、給料は高くないが体裁だけは整った職だった。父は恩を仇で返すのかと怒鳴り、ついでに私のカードも止めたが、こちらとしてはむしろ都合がよかった。
昼間は蓮司をリハビリテーション病院へ連れていった。彼の目には、それが無駄なあがきにしか見えなかっただろう。夜になると、私は高円寺のフリーマーケットに出て、安い手作りアクセサリーを並べた。店を畳んだあと、さらにコンビニの夜勤に入った。
蓮司の部下が遠くから私を見張っていることは、もちろん知っていた。
私は色あせたシャツを着て、数百円のために客と値段交渉をした。夜風に吹かれ、頬は赤くなっていた。
その日、店を片付けたあと、しわくちゃの小銭を握りしめ、街角のドラッグストアと介護用品店に寄った。医療用の保温サポーター、外用湿布、栄養補助食品を買う。
家に戻り、それらを蓮司に差し出した。
彼は私の額に浮かぶ汗を見ていた。
「そこまでする価値があるのか」
私は彼の前にしゃがみ込み、明るく笑った。
「あなたの脚は、私の面子より大事だから」
蓮司の喉仏が小さく動いた。
その日から、彼は二度と同じことを聞かなかった。
3.最初の反撃
林家に引き取られてから、私の暮らしは決して楽ではなかった。優里はいつも、私を排除しようとしていた。
私は、売れ残った安物のブレスレットを、わざとリビングで一番目につくローテーブルに置いた。
優里は通りかかった足を止めた。プラスチックビーズをつないだブレスレットをつまみ上げ、嫌悪を隠さずに目を細める。
「栞、あなたって本当に林家の恥ね。こんなものを宝物みたいに扱うなんて」
ブレスレットが床に落ちた。
彼女は高いヒールをゆっくりその上に乗せる。ビーズの砕ける音は小さかったが、耳障りなほどはっきり響いた。
「あら、ごめんなさい。足が滑ったみたい」
優里は無邪気そうに笑った。
私は何も言わず、しゃがみ込んで砕けたビーズを一粒ずつ拾った。
彼女が私の横を通り過ぎるとき、肩が強くぶつかった。私は絨毯の上に倒れ込み、腕がざらついた縁をこすって、すぐに赤くなった。
「ちゃんと前を見なさいよ」
優里は私を見下ろした。まるで汚れた物を見るような目だった。
私は砕けたビーズを抱えて部屋へ戻った。
夜、いつものように蓮司の脚をマッサージした。彼の脚がもうとっくに回復していることは知っている。それでも何も知らないふりをして、血行を促すように真剣に手を動かした。袖口がずれた瞬間、腕の擦り傷が見えた。
蓮司が私の手首をつかんだ。私は小さく息をのむ。
「誰にやられた」
「大丈夫。少し転んだだけ」
慌てて袖を下ろそうとした。
部屋の空気が一瞬で冷えた。
翌日、鷹宮颯真に異変が起きた。鷹宮家は彼のクレジットカードをすべて止め、関連会社での役職も取り上げた。一夜にして、皆から持ち上げられていた御曹司は、家から見放された厄介者になった。
銀座の商業施設で、颯真は人前で優里に平手打ちをした。金を使うことと面倒を起こすことしかできない女だと怒鳴り、優里は上流階級の笑いものになった。
その夜、私はとても機嫌がよかった。
蓮司に膝掛け代わりのサポーターを編んだ。肘を傷めていたせいで目はひどく歪み、見るに堪えないほど不格好だったが、それでも私は厚かましく彼に差し出した。
「冷える季節だから。脚を冷やしちゃだめよ」
そのまま捨てられると思っていた。
けれど翌日、蓮司は皆の前で、その不格好なサポーターを膝に着けていた。
4.母の赤珊瑚
優里はそれを見た瞬間、顔色を変えた。
颯真に捨てられた彼女と違い、彼女が見下していた愛人の子の私は、蓮司に人前で大事にされている。その事実が、彼女の神経を逆撫でしたのだろう。
優里は半ば狂ったようにこちらへ突進してきた。
「栞! あなたが何かしたんでしょう!」
私は蓮司の後ろへ逃げ、何も知らない顔をした。
「優里お姉さま、何のことを言っているの?」
蓮司の車椅子がわずかに動き、私の前に立ちはだかる。私は椅子の背の後ろから、怒りで顔をゆがめる優里を見つめた。
愚かな人。
これは、まだ始まりにすぎない。
颯真に捨てられてから、優里は私と蓮司を監視するようになった。私は気づかないふりをして、いつもどおり蓮司を例のリハビリテーション病院へ連れていった。
あの病院は、神代家系列のプライベートクリニックだった。蓮司がそこへ行くのはリハビリのためではない。自分の会社に関する処理を進めるためだった。
優里は病院の入口までついてきたが、警備員に止められた。それでも諦めきれず、入口の前で大声を上げた。
その夜、私は父の前で小さくため息をついた。
「お父様、今日も優里お姉さまが病院の前で私たちを待ち伏せしていました」
父は眉をひそめた。
「お姉さまは、蓮司の後ろに大物がいると言い続けています。でも本当にそうなら、林家がこれほど彼を侮って、どうして今まで黙っているのでしょう」
その一言は、父の急所を正確に突いた。
父が一番恐れているのは、蓮司が再び力を取り戻すことだった。だが同時に、自分が本物の権力者を敵に回したとは認めたくない。
父の顔が険しくなる。
「まったく、恥さらしめ」
その夜、優里は外出を禁じられた。
私は蓮司のために、障害を一つ取り除いた。
ただ、それ以来、蓮司が私を見る目には、わずかな探るような色が混じるようになった。
やがて、蓮司の誕生日が近づいた。
前世で、彼の誕生日はいつも冷えきっていた。今世では、彼の心の壁を崩せるだけの誕生日を用意したかった。けれど、私には金がない。父にカードを止められ、フリーマーケットとコンビニで得た収入は、日々の生活費で消えていく。
私はアクセサリーケースの一番下を開けた。そこには、深い赤色の赤珊瑚のブローチが静かに眠っている。母が私に残してくれた、たった一つの形見だった。
その赤を見つめた瞬間、胸が短く痛んだ。
ごめんね、お母さん。
でも、欲しいものを手に入れるためには、手段を選んでいられない。
私はそのブローチを持って銀座近くの質店へ行った。受け取った金は一円も残さず、一本のネクタイを買うために使った。
5.蓮司の利用
誕生日当日、優里の外出禁止はちょうど解かれていた。
彼女はわざと新しい金持ちの恋人を連れて帰ってきた。蓮司を指差し、隣の男に見せるように笑う。
「今日はこの役立たずの誕生日なんですって。今は妹がフリマでガラクタを売って、どうにか養っているのよ」
男は声を上げて笑った。
私は相手にしなかった。蓮司を押して裏庭へ向かう。
家の庭はすっかり荒れていた。枯れた芝生のそばに小さなテーブルを出し、その上に、私が作った一杯の蕎麦だけを置いた。
空が暮れていく。風に揺られ、一本だけの蝋燭の火が頼りなく震えた。私はそれに火をつけ、蓮司を見た。
「誕生日、おめでとう」
彼は私を見て、それから簡素な蕎麦を見た。
私はポケットから丁寧に包まれたネクタイの箱を取り出し、彼に差し出した。指先が少しだけ丸まる。
「ごめんね。これくらいしか買えなかった。本当は時計を買いたかったんだけど、お金が足りなくて」
蓮司の視線が私の手首に落ちた。そこは空っぽだった。子どものころから襟元につけていた赤珊瑚のブローチも、もうない。
彼は長いあいだ私を見ていた。あまりに長くて、私の芝居が見抜かれたのかと思った。
「栞」
彼が初めて、私をそう呼んだ。
突然、蓮司は私を腕の中へ引き寄せた。次の瞬間、唇を奪われる。私は抵抗せず、素直に目を閉じた。
口づけが終わると、彼は額を私の額に押し当てた。呼吸が少し乱れている。
「シャワーを浴びてくる」
胸が跳ねた。
私は彼を部屋の浴室へ押していった。
浴室から水音が聞こえてくる。
彼のスマートフォンは、ベッドサイドテーブルに置かれていた。パスコードはかかっていない。
私は、ずっと狙っていた海外プライベートバンクの口座を開いた。画面に表示された桁数は、心臓が止まりそうになるほど長い。百億円規模の資産だった。
私は賭けに勝った。
巨大な歓喜が喉の奥まで込み上げ、思わず声になりそうになる。だが、まだ足りない。私は無理やり自分を落ち着かせた。
続いて、彼のスマートフォンに保存された暗号化メールを開いた。
その中の一通、件名に「林ホールディングス買収・解体計画書」とあるメールが目に留まった。添付ファイルには、林家への融資を断ち、債権を買い集め、取締役会で責任追及を起こし、林ホールディングスを民事再生手続へ追い込む手順が細かく記されていた。
そして、内部協力者の欄には、私の名前があった。
私はさらに下へ読み進めた。
最後のページに、こう書かれていた。
計画完了後、後患を断つため、林栞を郊外の私立療養施設へ移す。対外的には、林家破綻による精神的失調として説明する。
全身が冷えた。
最初から最後まで、彼は私を利用していたのだ。あの揺らぎも、あの温もりも、すべて偽物だった。彼にとって私は、優里より少し使いやすく、必要がなくなればいつでも切り捨てられる駒にすぎない。
彼の冷血さが憎かった。
それ以上に、さっきの一瞬、本当に彼の心が私へ傾いたのだと思ってしまった自分が憎かった。
6.芝居は終わったか
浴室のドアが開いた。
私は勢いよく振り返り、手の中のスマートフォンを落としかけた。
蓮司は車椅子に乗っていなかった。上半身は裸で、腰にバスタオルを巻いただけの姿でこちらへ歩いてくる。私の前に立つと、彼はスマートフォンを抜き取り、画面に表示された計画書へ目を落とした。
それから、血の気を失った私の顔を見た。
「芝居は、もう済んだか」
全身がこわばった。
その瞬間、彼が私を殺す気でいるのが、はっきりわかった。否定しても無駄だ。許しを乞えば、もっと早く殺される。神代蓮司のような男を相手にするなら、死地へ飛び込んで活路を開くしかない。
私は彼を見つめ、突然笑った。
「ええ。芝居よ。私はあなたのお金が目当てだった。あなたの手を借りて、林家に復讐したかった」
蓮司の目がさらに冷える。
私はその視線を受け止めたまま、目を赤くした。
「あなたに近づいて、気に入られようとして、あんなことまでしたのは、いつかあなたが林家を踏み潰すところを見たかったから。でも蓮司、あなたに何の権利があるの?」
私はベッド脇へ駆け寄り、ネクタイの入った箱をつかむと、床に叩きつけた。包装箱が裂け、ネクタイが転がり出る。私は床に落ちたそれを見つめ、声を少しずつ震わせた。
「お金目当てだったことは認める。でも、私だって人間よ。母が残してくれた唯一の形見を売って、あなたの誕生日プレゼントを買った。フリマで数百円のために値切られて、コンビニで夜勤をして、あなたのリハビリ用品を買った。私たちは同じだと思っていたのに。あなたにとって私は、使い終わったら捨てられる道具だったの?」
蓮司は何も言わなかった。
彼の目にあった殺意は、少しずつもっと複雑なものへ変わっていく。
私はその一瞬を逃さなかった。目尻の涙を拭い、冷たく笑う。
「あなたのお金なんて、もういらない。復讐したいなら一人でやればいい。これから先、私たちは何の貸し借りもない」
私は振り返らず、部屋を出ていこうとした。
7.共同者の席
私は賭けていた。
彼はまだ、私を手放せない。何しろ、私は林家の内部に入り込んだ駒であり、彼にとって十分に使い勝手のいい存在だった。
案の定、私の指がドアノブに触れた瞬間、後ろから手首をつかまれた。
「どこへ行く」
「あなたには関係ない」
私は彼の手を振り払い、冷たく睨んだ。
蓮司は再び私を引き寄せた。力は強く、声はいつものかすれた低さを取り戻していた。
「残れ。金は出す」
「必要ない」
「必要だ。林家を憎んでいるなら、俺の力がいる。俺にも、言うことを聞く内通者が必要だ」
彼はそこで言葉を切った。
「従順な玩具もな」
玩具。
心の中で冷笑した。けれど顔には、侮辱された女の表情を浮かべる。
「どれだけ落ちぶれても、誰かの玩具にはならない。残ってほしいなら条件がある」
私は蓮司を見上げた。
「私は、神代蓮司の妻の座がほしい」
蓮司の目に一瞬、意外そうな色が走った。すぐにそれは、賞賛に変わる。彼は私の野心を、そしてそれを隠さない率直さを、気に入ったのだ。
「ずいぶん大きく出たな」
彼は私を放し、スマートフォンを操作した。
ほどなくして、私のスマートフォンが鳴った。
口座入金通知。
五千万円。
それは、彼が私に渡した手付金だった。
蓮司は私を見た。
「神代の妻の座は、今のお前が座れる場所じゃない。まずは自分の役目を果たせ。すべてが終われば、悪いようにはしない」
私はその数字を見つめ、胸の奥で湧き上がる歓喜を押さえ込んだ。顔だけは、まだ冷えたままにしておく。
「取引成立ね」
この瞬間から、私たちの関係は変わった。
一方的に攻略する側とされる側ではない。互いを利用する、双方向の関係だ。
私はようやく、いつでも捨てられる駒から、彼の共同者になった。
8.黒い招待状
翌日、蓮司は私を六本木で開かれる最上級のプライベートオークションへ連れていった。
彼が用意させたオートクチュールのドレスを身にまとう。タグなどついていなかったが、仕立てと生地だけで、その値段の高さは静かに主張していた。
会場の入口で優里と出くわした。彼女の隣に立っていたのは、数日前に彼女を捨てたばかりの颯真だった。どうやら鷹宮家は、どこかの大物に取り入るため、一度見限った御曹司のカードを一時的に復活させたらしい。
優里は私を見るなり、とんでもない冗談を見つけたように笑った。上から下まで私を眺め、酸味の強い声を出す。
「栞、その役立たずに取り入って、急に成り上がったつもり? 服だけは人並みに見えるけど、隣にいるのは乞食みたいな男じゃない」
颯真も鼻で笑った。
「こういう場所に入っていい人間じゃないだろう。目障りだ」
優里は入口の警備員を呼んだ。
「この二人、紛れ込んだんです。外へ出してください」
私は蓮司がどう出るのかを見ようとした。
彼はまぶたも上げず、ポケットから一枚の純黒の招待状を取り出し、駆け寄ってきた主催者側のマネージャーへ差し出した。
マネージャーはそのカードを見た瞬間、顔色を変えた。
「神代様、大変失礼いたしました」
蓮司は淡々と口を開いた。
「この二人をブラックリストに入れろ」
「承知いたしました。今後、弊社が管理するすべての会場で、お二人のご入場はお断りいたします」
優里と颯真の顔から、みるみる血の気が引いた。
この格のプライベートオークションから締め出されるということは、この社交界そのものから追放されるに等しい。
警備員が二人を外へ連れていく。
優里は憎しみのこもった目で私を睨んだ。
私は勝者の笑みを返した。
9.ネックレス
蓮司の登場は、会場に少なからぬ注目を集めた。
車椅子に乗った男のそばに、華やかな女が立っている。それだけで、十分に目を引いたのだ。
空気の読めない社長が数人、グラスを手に近づいてきた。軽薄な視線が、私の体に落ちる。
「お嬢さん、神代さんはご不自由でしょう。よければ私がお相手しましょうか」
蓮司が口を開く前に、私は彼の腕にしっかり手を絡め、体を寄せた。
「申し訳ありません。私は神代さんの連れですから、彼以外とは飲みません」
その言い方は、ちょうどよかった。
余計な誘いを退けると同時に、蓮司の独占欲を静かに刺激する。彼の表情がわずかに沈み、手が私の腰へ回った。
オークションが始まると、次々に宝石がステージへ運ばれてきた。
最後の目玉商品は、「深海の心」と名づけられたブルーサファイアのネックレスだった。開始価格は八千万円。
優里はいつの間にか会場の端へ戻ってきていた。数人の令嬢たちと並び、私が恥をかくのを待っている。
「何を気取っているのかしら。車椅子の男に、何が買えるっていうの」
蓮司は彼女を見ることすらしなかった。ただ、番号札を上げる。
「一億」
会場が一瞬、静まった。
誰かが続けて競った。
「一億一千万」
蓮司の声は平坦だった。
「二億」
もう誰も追わなかった。
ハンマーが落ち、そのネックレスは彼のものになった。
人々の羨望の視線を浴びる中、秘書がネックレスを持ってくる。蓮司はその場で、私の首にそれをかけた。
冷たいブルーサファイアが肌に触れる。
その瞬間、私の虚栄心は、十分すぎるほど満たされた。
10.会話
その得意な気分は、長くは続かなかった。
化粧直しのために化粧室へ向かい、テラスの前を通りかかったとき、蓮司と腹心の会話が聞こえた。
「神代様。女性一人に二億円は、さすがに高すぎませんか」
私は足を止め、大きな鉢植えの陰に身を隠した。
蓮司が冷たく笑う。
「玩具一つだ。少し金をかけて機嫌を取るくらい、どうということはない」
「林家が潰れたあと、本当に彼女を娶るおつもりですか」
「娶る? 家から正式に認められてもいない愛人の子が、神代家に入れると思うか。遊ぶにはいいが、本気にする相手じゃない」
蓮司の声には、嘲りしかなかった。
その先は、もう聞かなかった。
私は首元の二億円のネックレスに触れた。指先まで冷えるほど、それは冷たかった。
私は必死に駒から玩具へ這い上がったつもりでいた。けれど彼の目には、相変わらず表舞台に上げる価値のないものとして映っている。
神代家の妻。
そんなものは、私の一方的な幻想だった。
この程度の手切れ金で、私を片づけるつもりなのね。
蓮司、ずいぶん甘い計算だわ。
私の欲は、あなたが思っているよりずっと深い。
蓮司による林家への買収戦は、すでに最終局面へ入っていた。
林ホールディングスの株価は下がり続け、メインバンクは融資を絞り始めた。取締役会の内部にも寝返る者が現れ、父は髪の半分が白くなるほど追い詰められていた。
彼は夢にも思っていないだろう。
自分が家から追い出した車椅子の男こそ、すべてを裏で操っている張本人だと。
上流階級から完全に締め出された優里は、ついに蓮司の本当の身分を知った。悔しさで狂ったようになり、電話、メッセージ、音声を次々と送ってくる。どうか蓮司に会わせてほしい、と。
私はすべて無視した。
追い詰められた優里は、とうとう手首を切って病院へ運ばれた。その件は大きく騒がれ、ニュースにも触れられた。
蓮司には、林家の中核株式を正式に押さえるための理由が必要だった。優里の騒動は、まさに好都合な口実になる。
そして、私にも機会が訪れた。
私は鏡に映る平らな腹を見つめ、前から用意していたものを取り出した。
11.妊娠の診断書
その夜、蓮司は仕事を終えて戻ってきた。ひどく疲れた顔をしている。
私は彼に水を注ぎ、一枚の紙をそっと差し出した。産婦人科の診断書だった。
蓮司はそれを手に取り、結果を見た瞬間、眉を寄せた。
「俺の子か」
「他に誰がいるの」
私は静かに彼を見た。
蓮司は私を見据えた。まるで、心の奥まで見透かそうとするように。
「栞、妙な真似をするな」
私は反論しなかった。
彼の手から診断書を抜き取り、スマートフォンを開く。優里から届いた脅迫めいたメッセージを表示し、画面を彼の前に置いた。
「栞、蓮司を奪ったら死んでやる。私こそ彼の婚約者なのに、あなたなんか何様なの」
「蓮司、見て。彼女、あなたのことで壊れかけているわ。会ってあげたら?」
私は少し間を置いた。
「この子は、私が処理する。あなたの負担にはしない」
そう言って立ち上がり、部屋を出ようとした。
一方には、これからも騒ぎを起こし、彼の事業と評判に傷をつける優里がいる。
もう一方には、私の腹の中にいる子どもがいる。神代家の正当な跡継ぎであり、彼が女婿として林家の残余資産を飲み込むための、最高の理由でもある。
蓮司ほど理性的な男が、どちらを取るべきか見誤るはずがない。
「待て」
私は背を向けたまま足を止めた。
蓮司は私の前に回り込み、診断書を取り上げた。その目には温情などなかった。あるのは、商人としての計算と決断だけだ。
「子どもは残せ。明日、区役所へ婚姻届を出す」
彼は短く息を置いた。
「神代の妻として必要なものは、すべて与える」
私は顔を上げた。
彼の声は冷たかった。
「愛以外ならな」
「わかった」
私は素直にうなずいた。
心の中では、ただ可笑しかった。
蓮司、あなたの愛なんて一円の価値もない。
私が欲しかったのは、最初からそれじゃない。欲しいのは神代家の妻という席。そして、あなたの尽きることのない財産。
頂点へ続く入場券を、私はついに手に入れた。
12.式に乱入した姉
結婚式の前日、私の口座に蓮司から二億円の婚前贈与が振り込まれた。
同時に、父は神代ホールディングスに林家を救ってもらうため、林ホールディングスの二〇%の株式を自ら私名義へ移した。
私は、名実ともに富を持つ女になった。
結婚式当日。
東京湾を望む高級ホテルには、政財界の有力者たちが集まっていた。会場は、映画祭のレッドカーペットのように華やかだった。
私は最高級のウェディングドレスをまとい、蓮司の腕に手を添えて、誓いの場へ向かった。
牧師と参列者の視線の中、指輪を交換しようとした、まさにその瞬間だった。
礼拝堂の扉が激しく開いた。
優里が、どこで借りてきたのかわからない安っぽいウェディングドレス姿で、半狂乱になって飛び込んできた。
「認めない! こんな結婚、絶対に認めない! 蓮司、私を見て。私こそ、あなたの婚約者だったのよ!」
髪は乱れ、泣き崩れた化粧で顔はひどいことになっていた。彼女は私を指差し、参列者たちに向かって叫ぶ。
「この女は詐欺師よ! 林家の愛人の子のくせに! お腹の子で蓮司を騙しているの!」
会場がざわめいた。
すべてのカメラと視線が、私たち三人に集中する。
蓮司の顔が、一瞬で沈んだ。
今日の式は、ただの結婚ではない。彼の上流社会での威信と体面に関わる場だった。
蓮司は冷たく口を開いた。
「警備を」
二人の大柄な警備員がすぐに進み出て、優里の腕をつかんだ。彼女はなおも叫んでいる。
「蓮司、私にこんなことをしないで!」
蓮司は優里を見た。その目に、憐れみは一片もなかった。
そして参列者全員の前で、林家の終わりを告げた。
「林ホールディングスの民事再生手続の申立ては、今朝、東京地裁に提出された。今この瞬間から、林家に神代家の式へ立つ資格はない」
優里はその場で崩れ落ちた。
そのまま礼拝堂の外へ引きずり出される。
この騒動は、それで終わった。
13.指輪と嘲笑
式は続けられた。
蓮司は大粒のダイヤモンドリングを取り、ゆっくりと私の薬指にはめた。指輪は冷たかった。私の心も同じだった。
披露宴の挨拶回りでは、自己評価だけは高い令嬢たちが、グラスを手に近づいてきた。声は酸っぱく、顔には作り笑いを貼りつけている。
「林さん……いえ、もう神代夫人とお呼びするべきかしら。大した手腕ですこと」
「愛人の子でも、神代家に嫁げるのね。運がよろしいのね」
私はその言葉を聞いて、笑った。
薬指の大きなダイヤを軽く揺らし、まだ目立たない腹へ手を添える。
「ええ。私は手段でこの場所まで来ました」
彼女たちの顔がこわばる。私はゆっくりと続けた。
「あなたたちも、この席で人生を変えたいなら、まずはここに立てるだけの力を持つことね」
彼女たちは怒りで顔を青くしたが、一言も返せなかった。
私はグラスを掲げ、勝者の笑みを浮かべた。
今日から、私は神代家の女主人だ。
結婚後の生活は、想像どおりだった。
蓮司は民事再生手続に入った林家の資産を飲み込むことで忙しく、私には相変わらず冷淡だった。わざと秘書に、彼と人気女優の噂写真を流させ、私の反応を試すことさえあった。
私は見て見ぬふりをした。
毎日の生活は、銀座で買い物をし、スパに行き、宝石を買うことだった。彼のブラックカードで、エルメスのバッグを壁一面分買っても、まばたき一つしなかった。
彼は私が嫉妬するところを見たがった。取り乱し、彼のために苦しむ私を見たがった。
けれど私は、そんなものに付き合ってやらない。
私が気にしているのは、腹の中の子どもと、増え続ける口座残高だけだった。
14.自ら監獄へ送る
優里の末路は悲惨だった。
林家が倒れたあと、彼女は債権者たちに追い詰められ、さらに投資詐欺事件にも巻き込まれた。事が露見すると、彼女は神代家の邸宅の前にひざまずき、泣きながら私に、そして蓮司に助けを求めた。
私は大きなガラス窓越しに、冷たく彼女を見ていた。
蓮司が上階から降りてくる。顔には、わずかな動揺もなかった。
彼は助けなかった。
警察に通報し、弁護士を通じて、優里が詐欺に関与した証拠まで提出した。
優里がパトカーに乗せられていく瞬間、私は蓮司の冷酷な横顔を見つめ、自分の考えが正しかったことをあらためて確信した。
この男は、骨の髄まで薄情だ。
彼に心を渡した者は、次の優里になる。
最大の厄介者だった優里が消えたせいかもしれない。
蓮司は少しずつ家で過ごす時間を増やした。彼はまるで、かつて旧邸の小さな部屋で、自分に一途に尽くしていた私を懐かしむようになった。
彼は狂ったように私へ贈り物をした。
今日は限定品のジュエリー。明日は港区の高級マンション。明後日は新しいスポーツカー。
それらで私の本心を取り戻せると思っているのだろう。
私はすべて受け取った。そして、彼に合わせて芝居を始めた。
贈り物をもらえば感動したふりをして、自分から彼にキスをした。珍しく早く帰ってきた日には、手料理まで用意した。
蓮司は、私が従順で満たされている姿を見て、目の奥の冷えを少しずつ溶かしていった。
彼は、金と地位で、ついに私の心を再び手に入れたと思い込んでいた。
だが、彼は知らない。
昼間に受け取ったジュエリーは、その日の夜には秘密のルートで現金化されていた。彼が私に移した不動産や会社の株式も、弁護士チームの手配で、少しずつ海外信託へ移されていた。
私の金庫は、驚くほどの速度で満たされていく。
15.神代家の長男
出産を目前にしたある夜、蓮司は私を抱きしめ、耳元で低くささやいた。
「栞。もし俺が何もかも失ったら、それでもそばにいるか」
試しているのだと、すぐにわかった。
私は彼の腕の中で体温を感じながら、柔らかく笑った。
「もちろん。あなたがどんなふうになっても、私はそばにいる」
声はあまりにも真実味を帯びていて、私自身でさえ少し信じそうになった。
けれど心の奥では、はっきりわかっていた。
もし蓮司が本当にすべてを失ったら、私は真っ先に逃げる。
私は無事に男の子を産んだ。
神代家の長男だ。
神代の祖父は非常に満足し、軽井沢の別荘と神代ホールディングス五%の株式を、私への褒美として与えた。
蓮司も約束を果たし、彼名義の財産の半分を、私と子どもの共同信託口座へ移した。
その数字を見たとき、自分の役目がようやく終わったのだと知った。
その子に対して、強い未練はなかった。
彼は、私が経済的自由へたどり着くための踏み台だった。
退院後、私はすぐに最高レベルのベビーシッターと住み込みの育児スタッフを雇った。二十四時間体制で、彼らが子どもの世話をする。
私はジムへ通い、体を戻し、離れる準備を始めた。
時は、もう熟していた。
蓮司は林家の使える資産をすべて飲み込み、事業も頂点に達していた。
16.祝賀会前の離婚協議書
その夜は、蓮司の祝賀会だった。
彼は勝利に満ちた顔で、私に同行を求めた。仕事、財産、そして私。自分が手に入れたすべてを、人々の前に見せつけたいのだろう。
会場へ向かう車の中、穏やかな音楽が流れていた。彼は機嫌よく私の手を握り、唇を寄せる。
「栞、ありがとう」
彼が私に礼を言ったのは、これが初めてだった。
私は笑い、バッグから一部の書類を取り出して彼に渡した。
「これは何だ」
「離婚協議書」
車内の音楽が、ぷつりと切れた。
蓮司の笑顔が固まる。
「どういう意味だ。拗ねているのか」
私は静かに彼を見た。
「違うわ。疲れただけ」
彼は私をじっと睨んだ。まるで初めて私を見るかのように。
「蓮司、あなたの欲しかったものは全部手に入った。林家は潰れ、優里も自業自得の結末を迎えた。だから今度は、あなたを自由にしてあげる。私も自由になる」
蓮司は冷笑した。
ポケットから小切手帳を取り出し、数字を書き込む。一枚の小切手が、私の前に投げられた。
「二億。海外の別荘もつける」
その声には、警告が混じっていた。
「栞。金を受け取って出ていくなら、後悔するな」
彼はたぶん、上に立つ者特有の思い上がりで、私が自分から離れられないと信じていた。自分が与える金から逃れられるはずがない、と。
私は小切手を受け取った。中身を見ることもなく、離婚協議書に署名する。
「ありがとうございます、神代さん」
私は、欲しかった最後の金を手に入れた。
その夜、私は海外へ向かうプライベートジェットに乗った。
あの子は連れていかなかった。
彼が贈った高級品も、一つも持っていかなかった。
私が持っていったのは、口座の中にある、本当に私のものになった資産だけ。百億円を超える財産だった。
東京の夜景が、機窓の外で少しずつ遠ざかる。
私はシャンパンを手に取り、グラスの縁にそっと触れた。
蓮司は、私を買ったつもりでいた。
けれど最初から、私が彼に売ったのは幻想だけだった。
17.最後の勝者
三年後。
モルディブのプライベートアイランドは、よく晴れていた。
私はビキニ姿でビーチチェアに横たわっていた。そばには肌の色も髪の色も違う若い男性モデルたちが何人もいて、甲斐甲斐しくシャンパンを差し出し、果物の皮をむいてくれる。
スマートフォンが震えた。
蓮司から届いた、九百九十九通目のメッセージだった。
「栞、俺が悪かった。戻ってきてくれないか」
「息子がお前に会いたがっている。もう、ママと言えるようになった」
「もう一度、やり直せないか」
それらのメッセージは、最初は怒りと脅しに満ちていた。やがて沈黙になり、最後には卑屈なほど弱くなった。
私は全部見てきた。
彼は子どもを使い、思い出を使い、遅すぎる愛情を使って、私を取り戻そうとしていた。
画面を見つめ、私は軽く口角を上げる。
気まぐれに、一言だけ返した。
「忙しいから、邪魔しないで」
送信完了。
私はスマートフォンを脇へ放り、グラスを掲げた。まぶしい陽光に向かって、軽く乾杯する。
この豪門の駆け引きの中で、誰もが自分こそ狩る側だと思っていた。
優里は、自分の身分が一生の体面を守ってくれると信じていた。
父は、家の力で人の運命を支配できると思っていた。
蓮司は、金と権力と結婚があれば、私を神代家の鳥籠に閉じ込められると思っていた。
けれど、全員が間違っていた。
私は、最初から籠の中の鳥ではない。
彼らの手を利用して、金庫の扉を開けただけ。
このゲームの、ただ一人の最後の勝者は――私だった。




