第4話:夜を支配する光――文明復興の第一歩
「眠らぬ民」の伝説は、一本の細い導線から始まりました。カイがもたらしたのは、魔法ではなく『生活』の変革です。
いいか、これをこの溝に沿わせて固定しろ。絶対に素手で芯を触るなよ」
カイの指示を受け、村の男たちが震える手で「銅の線」を村の広場に張り巡らせていた。
原子力発電所の再稼働から三日。カイはプラント内に残されていた資材と、村で採掘できる魔導鉱石を組み合わせて、簡易的な「変電・配電ユニット」を組み上げていた。
村人たちにとっては、カイがやっていることは魔法儀式にしか見えない。だが、並の魔法使いが使う「光」の魔法とは、その根本的な「密度」が違った。
「カイ様、本当にこんな細い紐で、太陽の欠片を呼べるのですか……?」
不安げに尋ねるミーナに、カイは作業の手を止めずに答える。
「太陽じゃない。これはただの物理現象だ。だが、お前たちが100年間味わってきた『本物の闇』を切り裂くには十分すぎる力だ」
カイの手元には、耐熱ガラスを加工して作った不格好な球体がいくつか転がっている。中にはタングステンの代わりに、魔導伝導率の高い極細の炭素繊維が封入されていた。
「エジソンの模倣か、あるいはそれ以上か。……よし、接続完了だ」
太陽が西の山脈に沈み、村にいつもの「死の静寂」が訪れる。
100年前からこの地を覆う闇は、単なる夜ではない。汚染された大気が星の光を遮り、人々を家の中に閉じ込める「拒絶の闇」だ。
これまでは、獣の脂を燃やした煤だらけのランプが、唯一の、そしてあまりに弱々しい抵抗手段だった。
村人たちが広場に集まり、固唾を呑んで見守る。
カイは広場の中央に設置した制御スイッチ――かつての配電盤を魔改造したもの――に手をかけた。
「システム・オンライン。配電開始」
カチリ、という小さな硬質の音が響く。
その瞬間。
「……っ!?」
誰かが息を呑む音が聞こえた。
張り巡らされた線に沿って、村の至る所に吊るされたガラス球が、一斉に「白銀の輝き」を放ったのだ。
「あ……ああ……!」
ミーナが、思わず両手で口を覆い、その場にへたり込んだ。
オレンジ色の頼りない火ではない。昼間の太陽よりも鋭く、そしてどこまでも透き通った白い光。
それが、泥だらけの広場を、ボロボロの民家を、そして100年間絶望に沈んでいた村人たちの顔を、残酷なまでに鮮明に照らし出した。
「明るい……。お父さん、見て、私、自分の手が見えるよ! こんなにハッキリと!」
「影が……影がこんなに濃いなんて! 魔法じゃない、ずっと光ってる!」
子供たちが歓声を上げ、光の柱の周りで踊り始める。老人はその光の下で、震える手で聖印を切り、涙を流していた。
彼らにとって、夜は「耐えるもの」だった。だが今、この瞬間、カイの手によって夜は「支配するもの」へと書き換えられたのだ。
『通知:村落内の平均照度、目標値を達成。電力供給、安定稼働中』
右目のHUDに表示される無機質なログ。だが、カイの胸にも、かつてエンジニアたちが感じたであろう誇りが微かに宿っていた。
だが、その「光」は、救うべき者だけを呼ぶわけではない。
「……報告にあった通りだな」
暗闇の境界線。光の届かない森の奥から、複数の鋭い視線が村を射抜いていた。
重厚な黒鉄の鎧に身を包み、漆黒の馬に跨った集団。その中心にいる男は、片目に魔導のスカウターを装着し、村を照らす光の出力を測定していた。
「魔法の痕跡がない。純粋なエネルギーの奔流だ。……間違いない。100年前に失われた『原初の遺産』の鍵、これを持てる者が現れたということだ」
男の口元が、冷酷に吊り上がる。
「あの光は、我が帝国の軍旗を照らすのに相応しい。……全軍、進軍準備だ。あの『清掃員』を名乗る男を、生け捕りにせよ」
光が強ければ強いほど、その影もまた深く、濃くなる。
文明の灯火を掲げたカイの前に、初めての「壁」――国家という名の暴力が迫っていた。
第4話をお読みいただきありがとうございます!
ついに村に「電気」が灯りました。このシーンの圧倒的なカタルシスこそが、本作の核となる部分です。
しかし、その光は同時に強欲な者たちを呼び寄せてしまいます。カイの技術は、迫りくる軍隊にどう立ち向かうのか?
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