第六幕:アル中の底力
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第五幕では、ワトソンの嘘か真か分からない話を聴いた。僕は黙って彼を見つめた。
ワトソンは、コイツは、僕のベッドの下を見つめていた。その目は完全に血走り、唇はワナワナ震えていた。
「もう眠るんだ、ワトソン。
明日、こいつを呑ませてやる。
いつ、ヤツらが急に来るか分からない。もう眠れーー」
僕はうつ伏せに倒れ込んだ。
ワトソンは一言も発さなかった。
空いたベッドの上にドスンと座り込んだ。僕はムリしてでも眠った。
あの薬品が欲しかったーー。
今ほど、アレを欲しがったことはない。
厄介なルームメイトを持ったもんだ。
ーー浅い眠りだった。
ベッドがガタガタ揺れていた。
ベチャベチャと舐める音がする。
最悪だ。何もかもが最悪だーー!
次の日の朝、ドクター・ハントリーがボクらの様子を見にきた。
「Case 1472と1481。今日の気分はどうだい?不都合はないか。」とね。
ドクターは僕を見ると、更に微笑んだ。
「おや、目にクマができている。昨晩は、お楽しみのようだったな。」
僕は、きっと引きつった笑いを返しただろう。わからなかった。
「1481。君は、やっていけそうかね」とドクターはワトソンに顔を向けた。
「ええ。彼はボクをデクノボウという愛称をくれました。バッチリです。ボクらはいいルームメイトになる。きっとです。あのーーここではお酒は支給されるんですか?その、好きなだけ呑むにはどうやれば?」とウスノローーワトソンは、たずねた。
頭が痛くなったーー。
「ここでは、酒は飲めん!アル中の君に酒を与える?ありえん!!!」とドクターは怒鳴った。
ワトソンは悲しそうな目を見せた。
「しかし、酒はある。それは、ボクに飲ませないだけであって、この建物のどこかにあるんだーー」と変に鋭い事を言った。
「前に君みたいなヤツがいて、この建物を酒のためにうろついた。
彼が何をしたと思う?
酒に火をつけたんだ。
全部を飲めないからだとーー
だから、酒に関しては厳重に管理させている!忍び込もうと考えん事だ」
「でもーーもし、ボクじゃないヤツが、忍びこんで火をつけたらーー」
「いい加減にしたまえ。酒の話はこれでおしまいだ。」
そういうと、彼は不愉快とでもいうように部屋から出ていった。
「おい、ワトソン。ーー良かった。
あんな怒らせ方は、僕はやった事がないぜ。」と僕はワトソンの肩を叩いた。
「君のように他人をムカつかせるのは、ーーもはや才能だな」
ワトソンは、僕を見て肩をすくめた。
「愛が近くにあるのに、手が伸ばせないんだ。これ以上の悲劇はない。」
そして、彼は深くため息をついた。
「ホームズ、君はどうやって、そいつを得たんだい?ーーそっちが気になってたまらない。君の正体よりもね。」とワトソンは言った。
ワトソンから疑問を投げかけられた僕はしばらく考えた。
どう言ったら、よく見せられるかーーそれを考えたんだ。
「僕はシャーロック・ホームズだ。
だから知性が働いてくれる。
その力でコンサルタントをしてる。
ここのハンウェル精神病院で。」
ワトソンは理解できなかったようだ。
彼は眉を寄せた。
「コンサルタント? こんな場所で?」
僕はうなづいて見せた。
「こんな場所だからこそだ。」と言った。
「相談されるってことーー何の相談なんだい?」とワトソンは更に聴いた。
「ある程度は、なんでも。
僕の鋭い知性が役立つならね。
ただし占いや降霊術、
妖精に関する相談は受け付けない。
あれは知性のない遊びだ。
夢中になるヤツの気が知れない」
ワトソンは、しばらく考えていた。
「お酒が報酬なのか?」
「ーーいいや。そいつが用意したんだ。」
「どうやって?」
「ーー知るかよ。」
「知りたがりの君が知ろうとしなかったのは、ありえないーー」とワトソンは見つめてきた。
「別に目的があるーー」と彼は呟く、
そして、しばらく考えているようだった。ワトソンは、僕の目を見つめた。
「ホームズ。君は患者だけのコンサルタントではないね。
ここにいる全員のコンサルタントになろうとしているーー」
そしてワトソンは囁いた。
「お酒をーーたくさん手に入れるためにーー」
僕は口を大きく開けた。
(こうして、第六幕はお酒により幕を閉じる。)




