第五幕:ワトソンとして語る
ねえ、君。君はホームズだ。そして、ボクはルームメイトのワトソン。
なぜかって?
君がホームズと名乗るからさ。
彼のとなりには、ワトソンがいる。
それが、ボクなんだ。
第四幕では、ルームメイトをデクノボウと言って拒否するホームズがいた。
ボクは彼に自分とは何かを語ることにした。
どこから話せばいいかな。
ボクは自分でアフガン戦争帰りと言ってる。
別に君が信じないでも構わない。
アル中のいう事なんだ。
きっと全ては本当とは限らない。
この物語は、ボクがどんな人間かを知ってもらいたいものだから。
君にはあの爆音と破裂音の繰り返しなど、言っても理解できやしないだろう。あの時の出来事を形にすると、ボクは本当にボクに起きたのか、不安になる。
だから、これも語らない。
酒の旨さを知った時の事を、語るのがいいかもしれない。
ボクは戦争に行く前は、この酒というものを軽蔑していた。
ボクの父は、まさに酒によって滅びたようなものだったーー。
ボクは父が嫌いだった。ーー今も嫌いだ。アイツが生きていたら、ボクは酒を口にすることはなかった。
なぜかって?
アイツを一切理解したくなかったからだ。父の弱さをーー。
ボクは人の身体を勉強をしようと思った。唐突だと思うだろ?
もしも自分がアイツみたいになったら、楽に終わらせるためだ。
それが医師になることだ。
最低限の資格をとった。
周りのヤツらが歌う甘い言葉に乗せられて、ボクは戦場なんかに飛び込む事になった。
軍医として?
あんなの形ばかりだ。
人を治すよりも、壊す方が足りなきゃ、すぐにでも送り出された。
全滅か生存か?
なんども頭をよぎったよ。
ーー役立たずの烙印を押された。
深く考えないで生きてきた結果。
生き延びるべきなヤツが生き、
特に考えないボクが生き残った。
戦場の中で身体を壊して、
お荷物として運ばれた。
意識を失ったわけでも、
身体を欠損したわけでもない。
青白い顔をして、震える肉の塊だ。
仲間たちの目が日に日にボクを、人というよりモノとしてみる。
使えない道具だ。あの目も嫌いだ。
なぜかって?
ボクが父を見る目と同じだ。
君は鏡を見ろと言った。
ボクは彼らの目を通して、ボクを見た。
呑んでも呑まなくても、彼らにはボクは父なんだ。のんだくれの役立たずだ。
ボクは誰かの顔色を伺う、卑怯な人間なのだろう。
そうーーなったんだ。
戦争から戻った後は、
更に考えないで生きてきた。
特に、食べて呑んだ。
ーー呑んだんだ。
金がなければ、家族にも借りた。
ボクには兄がいた。彼にも借りたよ。
彼も浪費家だった。
彼はボクと同じように、金に困った。
ボクに金を返せとまでいう。
返さなかった。
逃げて、兄に会って非難されたら、金はないと誤魔化した。
ーー兄は死ぬまで許さなかったろう。
だけどボクは、
どうすればいいかわからなかった。
ーー悪いのは、ボクじゃない。
フラフラ生きてた。
でも、ポケットにお金があると思った。
ーー足りなかったんだ。
そうなんだーー足りなかった。
アイツらは、ボクを逃がさない。
取り囲んだ。
気がついたら、こんな所まで流れた。
そして、君にデクノボウと呼ばれている。
ーーどうかな?
(こうして、第五幕は語り部が戻る事で幕を閉じる。)




