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シャーロキアンのホームズⅢ〜精神病棟のホームズの物語〜  作者: 語り部ファウスト


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第二幕:医者を怒らせちまった

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第一幕では、僕ことホームズは、ハンウェル精神病院に移送された。

ーーセクショニングだ。

警察には、僕のケースをどうにかできる経験なんてなかった。

人の心は千差万別。精神的な病も、100学ぼうが、1000学ぼうが、

きっとわかりやしない。

もしも理解されたとしたら、

それは別の問題が発生する。

ーー語りすぎはやめておこう。


僕は、そこでエドワード・ハントリーと出会った。

彼は僕に聞いた。

「君は誰だ?」と優しさを込めてね。


僕はドクター・ハントリーを観察した。

彼の頭のテッペンから指先、足の先まで目を通して吟味した。

彼の手首にはインクの跡で白い袖が汚れて、指にはペンだこ、目はこちらのいたる所を観察していた。

結婚はしているが、離婚の可能性が高い。左薬指から、指輪を外している。

詳しくは見えないが、凹みはあった。

少し血走った目と、頬が少しやつれていた。彼の髪は少し脂でテカっていた。ヒゲの手入れは欠かさずやっている。朝、彼は鏡を見るんだーー。


「君が誰かって?僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。」

僕は静かに微笑み、彼を見つめた。

これは僕と彼のボクシングだ。

リングにのぼって、僕の鼻にストレートをかました事を後悔させなきゃいけない。

「ドクター・ハントリー。僕の自己紹介は、まだ終わってないぜ。

ーー君は、ほぼここに住んでいる。

家には居場所がないからだ。

君が目を血走らせて、

僕を見ているのは観察対象として興味があるからだ。

そして、僕なんかに興味を持たなきゃいけないのは、仕事の為だ。

だが仕事に全力を傾けている。

目を血走らせてまでね。

それは君の私生活に問題があるからだ。だから結婚していたとしても離婚するし、離婚していたとしてもーー僕は驚きはしない。

この病院という巣の中で、聖人君子ぶっている君の生活が、破綻している。

狂気を理解しようとしたばかりに。狂気に罠にハマった。君は狂っているんだ、ドクター・ハントリー。

ーー狂気に最も近い男が、狂気の人の治療に関わる喜劇。

ーー僕は面白く見ているよ」


ドクター・ハントリーは、微笑んだ。

僕は彼の微笑みの中に一種の防衛をみた。目が見開かれたからだ。

恐れと怒りが通り過ぎた。

「なるほど。なるほど!ホームズだ。

実にいやらしい男だ。社会の中にいる吸血鬼のような男だ。思い込みが激しい。けしからん」と呟いてた。

彼の背後にいる看護師同士が互いを見つめていた。ドクターが取り乱したと思ったからだ。僕のビンタは彼らの関係を揺らがせた。満足している。

「君は自分の立場を知っている。

だがねーーここでの君の立場は医者ではない。この舞台に医者は一人。

それが私でありーー君はイヤラシい患者でしかない。」


僕は下唇を噛んだ。

その通りだ。まったくもって、同感だった。ここで僕が何を言おうとも、これ以上の進展なんてない。

わめき、宥められ、やがて無抵抗へとなる。何か決定的なものを、僕は持っていない。

「さてさて、君との会話を楽しみたいが、私には他に抱えている問題がある。今回はただの顔見せだが、次回までには、君にふさわしい治療を用意しよう。」

ドクターは、その後でイジワルな笑みを浮かべた。

「だが話したがりな君に、贈り物をせねばいかんな」


彼の白衣の右ポケットから、小さなガラスの小瓶が取り出された。その中の液体は透明。彼が瓶の蓋が開くと、鼻を突く鋭いエーテルの臭いがした。

甘くねばつく匂い。

部屋全体にその臭いが広がった。

ーー不気味にね。

ドクターは、液体を小さなスプーンに注いだ。近くのテーブルに置いてあった小さな水差しの水で薄めて、僕に差し出したんだ。

「飲みなさい。君のためだ。おしゃべりな口を閉ざすだろうよ。少し眠って、ーー休みなさい。ーー休むんだ」

僕は抵抗したかった。

抵抗は無意味だとしても。

二人の看護師が、家畜が暴れないように抑え込んできた。

口をムリヤリ開かされた。


スプーンが口に押しつけられた。

苦くて、不快な味。

そのままーーごくんーーと飲み込むと、液体は食道を滑り落ちていった。

「なんだーー、これはーー」と僕は彼らを振り払った。

「なあに、すぐに分かるーー」

「ドラックか?僕の知性を揺るがすには至らない。アンタは僕を恐れている。だから眠らせようとしてる。

面倒くさいからだ。アンタは逃げようとしてるーー臆病者めーー」


彼らが去った後、僕は一人で薬物の効果を見つめていた。

足先から指先まで、まぶたさえ重くなった。頭を支えていられなかった。

頭がカクカクと揺れて、枕へと沈めた。眠気、だるさ、無力感が上からのしかかった。


僕の、僕の意思よ、意志よ、魂に刻め、ああ、知性よーー論理よーー永遠にーー。


(こうして、第二幕は眠りによって幕を閉じる。)

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