第十五幕:僕らは探偵
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十四幕では、僕の推理をグレグソン警部補は採用してくれた。
きっと、彼は犯人を捕まえるだろう。
元船乗りのダグラスを殺した同僚への調査が始まるんだ。
僕はグレグソン警部補のために推理した。これで、このハンウェル精神病院から脱出できる可能性が高まった。
警部補は、自分の出世のためにドクター・ハントリーに働きかける。きっと、きっとーー。
だけどーー喜びと同時に僕はーー推理というツールに怯えなきゃいけなかった。
推理の先には死があるのに、
僕はためらいもなく、
人が死ぬのを想像して、
実行したんだ。
きっと、これからも推理してーー頭の中で人を傷つけていく。
それが果たして正解の生き方なんだろうか。英国紳士として、僕は正しく探偵として、ホームズとして、生きていけるのだろうか。
でも、ハッキリと言える事がある。
コナン・ドイルのクソジジイが作り出したモリアーティ教授。
犯罪界のナポレオンは、
僕たちのいる現実までも侵食してきた。
ここ1908年に。そして、これから先も彼は蜘蛛の糸を伸ばす。
物語があるところに、必ずヤツはいる。
アイツは人を糸で絡めて、
自分の都合のいい操り人形にする。
操られた者たちは、
それを正しい事だなんて、
思い込んで破滅するんだ。
喜んでね。
僕はアイツを知っている。
本で読んだ。
アイツの落ちくぼんだ奥の目が、
僕を捉えて離さない。
犯罪を芸術にするような、
バカな連中に、
僕の知性は渡さない。
「僕は、僕はーーホームズだ。
シャーロック・ホームズだ。
僕は、僕は光の人となりたい。」
その言葉を聞くと、ワトソンは微笑んだ。
「君はボクの相棒だよ。ホームズ。
記録係として、君を闇に堕とさせはしない。ボクは君に出会えてよかった。本当だ。」
彼は僕の手を握った。
「ーーお酒を絶対に手に入れよう。
きっと、誰かが隠し持っている。」
僕らの探偵としての冒険は、
ここから始まる。
とても、不安だけどね。
まあいいさ。
僕は、シャーロキアンのホームズ。
シャーロック・ホームズだ。
(こうして、物語は探偵と記録係で閉じる。)




